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第四十六話「結末を迎える者たちについて」

少女たちの争い

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 地下倉庫での戦闘は続いていた。
 すでに、メイヴィスやジャックとの通信距離から離脱していたリアとアイヴィーの二人は、たった一人を相手に苦戦を強いられていた。
 M6がライフルを連射し、相手を追い立てたところに、カーテナが高振動ランスを突き立てようと突進する。その連携を、コキュートスは嘲笑うかのようにひらりひらりと避けて見せた。

 反撃の猛射が二機に襲いかかる。即座に左右へと散って回避。敵機の代わりに弾幕を受けたコンテナがぼろ切れのようになり、中身が可燃物だったのか、引火して爆発する。
 その煙の中から、コキュートスが踊るような動きで飛び出し、M6に躍りかかる。片手には大振りの高振動ナイフ。気付いたときには、もう振りかぶられていた。

「うっ!」

 リアは反射的に後方に上体を逸らすことで、斬撃を避けようとした。胸部装甲の表面が僅かに抉られて、横一文字に傷がつく。あと数瞬、反応が遅かったら、コクピットブロックごと真二つにされていただろう。

 続けて、体勢が崩れたM6に至近距離で銃口を突き付けられる。これは避けようがない。リアが目を見開く中、敵機が引鉄を絞ろうとするのがスローに見える。

『でやぁぁぁ!』

 そこに間一髪、アイヴィーがランスを片手に突っ込んで来た。ステュクスは流石に身を引いて穂先から逃れる。さらに追いかけるように横に振るわれた穂先から逃れるように後ろに飛んだ。ライフルで撃ってくるが、牽制射撃だった。ランスを弾除け代わりに構え、M6の前にカーテナが出る。

『大丈夫?!』

「ありがと、なんとかね……」

 礼を言ってから、リアはM6に四十ミリライフルを油断なく構えさせる。敵の機体は、すでにコンテナの裏に姿を消していた。背中を合わせて、どの方向からの攻撃にも対応できるように備える。この少女二人、初めて会ったにしては、悪くない連携をしていた。

「あなた、先輩といちゃついてた女だよね。先輩とどういう関係?」

『え、今この状況で聞くこと、それ?』

 リアの突然の場違いな問いに、後ろのカーテナが戸惑うように首を向ける。だが、リアからすればこれは大問題だ。今、相手にしてるのが片付いたら、次はこの女と決着を付けなければならない。そんな気がしているのだ。

 通信機の向こうで、英国の女が「ええっと……」と言葉を選んでる間に、センサーが敵機の接近を捉えた。三時方向。右から、動作反応をセンサーが辛うじて拾い上げてくれた。

『あははっ、雑魚雑魚、あのへなちょこ軍曹より雑魚!』

 嬌声をあげながら、細いシルエットの機体がコンテナの上に飛び乗り、ライフルを立射してきた。一発の弾丸がリア機のライフルを貫き、破壊する。真ん中で砕け散ったそれを破棄して、即座に散開、遮蔽物の裏に隠れる。どんどん対抗手段を失っていく焦りを感じながら、高振動ブレードを武装ラックから引き抜く。腰にあったレールガンは、最初の撃ち合いで使用不能にされている。

『反応はおっそい、対応も鈍チン、これが精鋭? 笑わせてくれるじゃない』

 罵声を飛ばしながら、ステュクスのコキュートスが遮蔽物越しにライフルを撃ってきた。先にリアをやるつもりらしい。コンテナをいくつかの弾が貫通し、内の一発が、M6の左腕に命中した。もげこそしなかったが、大幅に機能がダウンする。

「くっ……!」

 このままここに居てはやられる。そう判断したリアがコンテナから飛び出すと、すでに敵が先回りして跳躍していた。こちらがこう動くのを、まるで予知していたかのような立ち回りに、リアが当惑する。

「なっ」

『素直すぎて笑えてきちゃう、間抜け』

 驚愕するリアの前で、ステュクスがナイフを投擲してきた。高振動ナイフではない、炸薬ダガーだ。命中したら戦車だろうが爆砕できる凶器が、正確な軌道で飛んでくる。

「!」

 一瞬の判断で、リアは高振動ブレードを前方に放り投げた。ブレードとダガーが激突し、炸薬が起爆。衝撃でリア機が地面に叩き付けられた。悲鳴を堪えて、動かせない四肢の代わりに念じる。それだけで、機体を背筋と脚力だけで跳ね起きさせて、後方に転がる。地面を弾が貫いていた。あと一歩遅れれば、仰向けのまま胴体を撃ち抜かれていた。

『こっちを無視しないでよ!』

 自身へのマークが完全に外れたタイミングを見計らって、アイヴィー機が遮蔽物から身を乗り出し、右腕のチェーンガンを空中のステュクスに向けた。空中では回避できまい。もらった。とトリガーを引くより早く、敵の左腕が鞭のように撓った。

 それが何なのか理解するよりも早く、衝撃が来た。外付けのチェーンガンが、飛んできた物体――高振動ナイフによって切断されていた。

 彼女がそれを理解するのに一秒。その間に、コキュートスは照準を終えている。発砲。

 反射的な思考を拾ったカーテナが、辛うじてランスを盾に銃弾の直撃を防ぐ。しかし、三発目でランスは完全に破壊されてしまった。使い物にならなくなった柄から手を放し、転がるように側のコンテナ裏へと身を潜める。

 この間に、リアのM6も再びコンテナの裏へと隠れていた。その二機を探すように、コンテナの高所からステュクスのコキュートスが、頭部の双眼センサーをぐるりと巡らせる。

『貴方たちの相手、つまんないけど、軍曹の知り合いだからもうちょっと遊んであげる。嬲り殺してあげる。無残に殺してあげる。そうすれば、あの軍曹、絶対怒るよね? 悲しむよね? その顔を踏みつけたら、どんなに気持ち良いか、想像できる?』

 遮蔽物の裏にいる二人に対し、外部音声でそう話すステュクス。そのあまりな言い草に対して、リアもアイヴィーも、心中に怒りの炎とでも呼ぶべきものが産まれたのを感じた。

『まぁ、できないよね。貴方たち劣等種じゃ……そんなのにあの軍曹はあげないよ』

「それは、あんたが決めることじゃない!」

 コンテナに隠れたまま、リアが言い返す。位置がばれるかもしれなかったが、構わなかった。この狂人が、自分の尊敬し目標とする人物に、酷いことをしようとしている。それが許せなかった。

『そうだよ、比乃はお前たちみたいなテロリストなんかにやらない、ここで私が、私たちが倒す!』

 アイヴィーも叫んだ。そして遮蔽物から飛び出す。腕には二振りの高振動ブレードを握っている。接近戦を仕掛けるつもりだろう。リアも釣られて、腕に残った最後の武装である予備の高振動ナイフを起動させた。左腕が上手く動かないが、ナイフは展開できたので良しとして、そのまま敵機に突っ込む。
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