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第四十五話「敵地での激闘について」

続く人々

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 地下施設への入り口は複数あった。メイヴィスは、その内の一つが森林地帯を抜けた先の湖の畔にあることを発見した。彼女の機体が頭部センサーを振り向かせて、あの激戦を突破できた友軍機を見る。

 同じ米軍機はリアのM6が一機のみ、それに英国のカーテナと呼ばれているAMWが二機。金色と銀色の機体だった。前者は腰に光分子カッター、それと背中に双剣、後者は大型のランスを携えている。ド派手だが、資料によれば、この機体は不可視迷彩が使えるという。高いステルス性を持つM6と同様、潜入にはもってこいの機体特性だ。

「イギリスの、えー、なんて呼べばいいかしら」

 乱戦を抜けてきて、この英国機が何者かわからなかったので聞いた。すると、その金色のAMWから、男優のような美声の通信が入った。

『私はKnight1、こちらはGuest1です、マダム。貴方の武功は我が国にも伝わっております。これも何かの縁、共に敵の首魁の首を取りに参りましょう。微力ながらお力添えさせていただきます』

 その口振りがどうにもおかしく思えて、メイヴィスは状況にも関わらず、小さく笑った。
 あの乱戦を抜けてきたということは、腕は立つだろうし、頼りになりそうだ――砂浜の方では、まだ戦闘が続いている。信用できる副官のアッカー大尉を残してきたので、自分の部下が早々やられるとは思っていないが、少し心配だった。けれども、今更部下たちの心配をしても仕方がない。メイヴィスは思考を切り替えた。

「あら、ご丁寧にどうも。こちらはAlpha1とAlpha3よ、よろしくね、イギリスの紳士さん……さてと、それじゃあ行きましょうか。リア、お願い」

『了解』

 海岸での戦闘でライフルを損失したメイヴィスの代わりに、リア機が前に出て、ゲートに一マガジン分射撃を加えた。穴だらけになったゲートを、メイヴィスが強引に蹴り開けた。衝撃で扉が音を立て地面に転がる。それを踏み潰すようにして、彼女の機体は中に踏み込んだ。

 内部の全容が明らかになる。そこは元々、搬入路か何かだったらしい。地下に向けて傾斜しているその通路は、AMWでも難なく入れるし、何なら最低限の戦闘機動が取れそうな横幅があった。照明も設置されており、視界も悪くない。

「AMW用の搬入口……ってところかしら」

 メイヴィスは、自分たちが突破してきた海岸の方へ目を向ける。乱戦を抜けてからここまで、敵の追撃は一切なかった。まるで自分たちが中に入るためのお膳立てがされている、そんな錯覚を覚えるような、侵入に好都合な状況。
 メイヴィスは一瞬、突入を躊躇した。だが、自分の予想が的中していれば、迷っている暇などない。意を決した彼女の機体が先頭になって、米国、英国の混合小隊は、小走りで地下へと続く通路を進んで行く。


 ***


「各機、状況報告」

 同じく、乱戦を切り抜けてきたロシア軍のスペツナズ、本国仕様の黒いペーチルが八機。森林を突っ切るように駆けていた。集団の先頭をきっている機体を操るアバルキンが点呼を取る。

 全機がそれぞれ機体の状態を伝える。しかし、損傷を受けているペーチルは一機もいなかった。弾薬の損耗率のみを報告されたアバルキンは、それに対して何か言うこともなく、センサーに目をやる。

 ここからもう少し進んだ先。島にある唯一の山岳の麓に、人工物があることを知らせる反応を、機体のレーダーが示していた。

『しかし、我々がこんなドンパチに派遣されるとは思ってもみませんでしたよ。少佐殿は何か聞いてます?』

 部下の一人、軽口で聞いてきたのはカラシンだった。いつも通りの態度の部下に、アバルキンはそれを諌めず「多くは聞いていない。上層部で大きな動きがあったくらいしかな」とだけ答えた。代わりに、カラシンの同僚が、

『中尉、貴様、今は作戦中だぞ。私語は慎め』

『おーこえーこえー、こんな南の島でもいつも通りだなぁエリツィナ中尉は、なぁグレコフ?』

『は? いきなり話を振られても困るのですが……』

 長い付き合いの部下三人の会話に、更に他の部下四名が口々に混ざって、通信機の向こうが騒がしくなる。作戦遂行中の特殊部隊としてはあり得ない状態だが、アバルキンは、頬を少し緩めた。本当に、どこでもいつも通り、変わらない部下たちだ。それが心強く思える。

「お喋りはそろそろお終いだ。我が部隊の訓示を思い出せ。我々は、戦場がどこだろうと、上が求めた戦果を持ち帰る猟犬。どんな敵だろうとその喉笛を掻き切る魔犬。我々は――」

 その続きを、彼と部下たちが揃って口にする。

 ――いかなる場所でも、いかなる時でも、いかなる任務でも――

「よし、正面に目標を確認。こじ開け次第、突入する」

 木々を抜け、開けた平原に出た。その先に山岳が見え、大型の搬入口らしきゲートも見えた。アバルキンの黒いペーチルが、ライフルに懸架されているグレネードランチャーの照準を敵基地の玄関口に向けて、発射した。

 その直後、黒煙の向こうから、鋭い射撃がお見舞いされた。部下の一機が被弾した。


 ***


 海岸での戦闘は終息を見せていた。最後のキャンサーを撃破したM6が、光分子カッターを鞘に戻す。その機体のパイロット、アッカ―大尉は、部下に聞こえないように安堵の息を漏らした。

(損害は出たが、なんとか突破できそうか)

 周囲の味方機を確認する。自分たちの隊は、自爆や待ち伏せを受けた者以外は、なんとか生き延びていた。被害が出たのは砲撃仕様のAMWを持ってきていたイタリア軍とドイツ軍の部隊だ。敵は足が遅い彼らの機体を優先して攻撃してきた。それを守るように戦うしかなかったので、かなりの時間と弾薬を消費してしまった。それでも撃破された機体が皆無なのは、光分子カッターを貸し出された英国のAMW部隊と連携して戦えたからだ。

(だが、少佐の言い付けは守った)

 自身の上官、メイヴィスからの命令を遵守したM6各機は、予備弾倉に装填された。日本からの譲渡品を未使用のままで戦闘を終えた。手抜きをしたと、被害を受けた国の連中からは恨まれそうだが……しかし、恨みを買う結果にはならなそうだった。センサーに反応。

 レーダーに、未知の飛行物体が映った。一瞬、洋上で戦闘しているはずのミグもどきが、自分たちを攻撃するか、あるいは補給をしに戻ってきたのかと思ったが、それならば識別に反応が出ないのはおかしい。そもそも、方角が艦隊がいる方向とは別方向だ。

 こういう時、いつも武力介入をしてくる厄介者がいることを、アッカ―は思い出した。

「各小隊、新手が来るぞ! 呼ばれてない客を会場に招き入れるわけにはいかん、迎撃する!」

 もし、自分の上官がこれを予期して、とっておきの弾丸を残しておけと言ったのだとしたら、彼女は予言者か何かだな。アッカ―は頬尻を上げて、予備弾倉――フォトンバレットが装填されたそれを、ライフルに突っ込んだ。

 あのインチキ兵器の面を拝むのも、これで最後にしたいものだ。アッカーは心の内で呟いて、ライフルを上空から飛来する対象に向けた。
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