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第四十五話「敵地での激闘について」

勘付いた小隊

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『あらら、海岸は大乱闘状態ね。いいの? 放っておいて』

「相手の時間稼ぎに付き合ってやる道理はない。出てくる敵機を全滅させてからでは遅いかもしれん」

 激戦区から離れ、島の海岸側を迂回するように森林地帯を進む自衛隊の四機。先頭のTk-7改、安久機が、最後尾のTk-11に頭部を向けた。

「そうなのだろう、比乃」

 敵集団を避けて、いち早く敵の中枢を叩くことを提案したのは比乃だった。その比乃は、HMDの下、先ほどから脳に走る不可解な感覚に眉を顰めていた。

『うん、原因はわからないけど、頭の中で何か、感覚的な言い方で悪いんだけど、変な感覚が強くなってるんだ。島に近づいてから、時間が経つにつれて、それがどんどん増してきてる』

 比乃は、不可解な感覚。空間に散らばる物質が、自分の脳神経に訴えかけているような、何かの始まりを予感するのに近いものを感じていると、戦闘の最中、安久に話したのだ。

 それを説明された安久は、少し考えてから、中枢を叩くことを優先することを了承した。
 隊員一人の『嫌な予感』で小隊を動かすなど、普通であればナンセンスだ。しかし、安久は作戦前に部隊長から告げられた『比乃の秘密』と、その比乃が感じている感覚の二つが、どうも思考に引っ掛かる。

 また、それを補強するように、心視と志度も違和感を訴える。

『比乃が言うほどじゃないけど、俺も変な感じがするんだよなぁ、神経がむずむずしてるっつうのかな』

『私も、変な感じ……する』

『日比野ちゃんだけじゃなくて二人も? 何なのかしらねぇ』

 機体を歩かせながら、安久は二人の出自を思い返す。志度と心視は、今攻撃しているテロ組織によって産み出された試験管ベビーだ。そして、部隊長の言った比乃の秘密。脳にマイクロチップを埋め込んだのが、同じ組織だったら、その目的が同じものだったとしたら……今、自分の部下である三人が感じている感覚は、ただの第六感的なものではなく、必然的なものかもしれない。

「とにかく急ぐぞ。敵にはすでに探知されていると考えれば、迎撃が来るのも時間の問題だ」

 そう言って、周囲を探るように頭部を巡らせた安久のTk-7が、人型のシルエットを捉えた。同時に照準警報――

「散開!」

 指示が飛ぶよりも速く、四機は二つずつになって左右に飛んだ。元いた場所に爆炎が上がる。大型榴弾による攻撃。ここまで近づかれるまで気付けなかったということは、ステルス機だ。
 それはつまり、テロリスト製の特殊機体。

『あらぁ、ざんねぇん。一発で楽にしてあげられると思ったのにぃ』

 その人型が、木々の間から姿を現す。黒に金の装飾が入った、全体的に丸っこく曲線が多い、人間的なシルエットの機体。右手には大型の砲らしき武器。その機体の外部スピーカーから響く声は、艶がある女性のものだった。

 着地した安久機が短筒を構え、発砲する。正確に胴体を狙った徹甲弾は、避けようとする素振りも見せない敵機に命中。だが、少し仰け反っただけで、貫徹には至らなかった。

「相転移装甲持ち……!」

 安久が呻く。徹甲弾では有効打が与えられないと判断し、別の弾薬が入った弾倉を、腰のウェポンラックから取り出そうとするが、

『無粋ねぇ、そういう人、嫌いよぉ』

 その動作より早く、黒い機体がノーモーションで急接近してきた。歩行による加速ではない、何か見えない手によって機体が押し出されたかのような動きだった。

『オーケアノスみたいで、だから死んでぇ』

 素手の左腕が振りかぶられる。安久はそれに確かな攻撃性を感じて、機体を後ろに倒れるように転がした。間一髪で、敵機の手刀が空振る。

 取り出しかけていたフォトンバレット入りの弾倉が、空中で真二つになって地面に落下した。

「ちっ、これは英国で見た奴と同じか!」

 不可解な移動と、不可視の攻撃。英国で戦った、あの黄色いAMWと同型と見て間違いなかった。ゆっくりとした動きで体勢を戻す難敵を前に、安久は思考する。

『嫌なのが出てきたわねぇ、無視したら、後ろからざっくりね。どうする?』

 宇佐美機が光分子カッターを腰から抜いた。ここでなんとかするべきだと、行動で語っている。安久は、それに賛同するように短筒を構えた。そして、同じく戦闘態勢を取ったTk-7改二とTk-11に「お前たちは行け」と告げる。

「こいつは俺と宇佐美だけで十分だ。お前たちは先行して、敵地下基地の入り口を確保しろ」

『だけど……!』

「良いから行け! 時間がない!」

 黒い機体が手にした榴弾砲を向けてきて、適当な構えで発砲。安久と宇佐美が爆発範囲から逃げるように跳躍。着地した宇佐美が直角的な挙動で駆け抜けて、敵に斬り掛かり、安久が短筒を連射した。

 フォトン粒子由来の一撃は受けられないのか、敵は後ろに飛んで斬撃から逃れた。そこを、追撃の銃撃が襲う。空中で踏ん張りが効かない機体は、大口径の砲弾を連続で受けて、バランスを崩して地面に落下する。

「今だ、行け!」

『……了解、負けないでよ?』

 再三の指示を受け、比乃と志度の機体は少し戸惑ったが、跳躍してその場から離脱した。比乃が去り際に言った言葉に、小さく呟き返す。

「この程度の敵に、俺が負けるものか」

『さて、どうしましょうか剛。ここでやっちゃう?』

「ああ、砂浜に突っ込まれたら味方に大損害が出るからな。それに」

 ようやく起き上がった敵機が、先ほどまでの余裕を持った態度を捨てて、榴弾砲を構えた。引き金が動くのが見える。

「ふんっ」

 相手が発砲するのと同時に、安久も短筒を発砲。徹甲弾は、手品のように敵の持つ榴弾砲の銃口に飛び込み、発射寸前だった弾頭と接触。誘爆して大爆発を起こす。
 その爆風を突き抜けるように、宇佐美機がスラスターを吹かして突進。煙の中で緑の軌跡が一筋走ったかと思うと、黒い塗装の左肘から先が宙に舞った。

『あら残念、一撃で楽にしてあげようと思ったのに』

 煙から飛び出して、残心の構えて振り向いた宇佐美機が、態々スピーカーをオンにして言った。その言葉に怒り狂ったのか、黒い機体が黒煙から猛然と飛び出してきた。

 心に余裕が無さ過ぎる。動きも直情的。機体は幹部級かもしれないが、戦士としては三流以下だ。ミッドウェイで相対したオーケアノスの方が、圧倒的に強い。

「安心しろ、比乃」

 この程度の相手に後れを取るほど、自分も宇佐美も弱くはない。
 手刀による突きを宇佐美に簡単にいなされた、隙だらけの丸っこい頭部に照準して、安久はトリガーを引いた。
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