上 下
324 / 344
第四十五話「敵地での激闘について」

橋頭保

しおりを挟む
 比乃は機体を跪かせ、短筒を正面、森林地帯にいるペーチルSの一機に向ける。対空砲を優先して狙ったので、敵AMWはミサイルで半分も撃破仕切れなかった。けれども、相手の一団は爆発と衝撃のあおりを受けて、体勢を崩している。隙だらけだった。

 照準、発砲。徹甲弾は狙い違わず敵機の胴体を貫いた。倒れた機体の両サイドにいた二機が、反撃しようとライフルを構えた、直後、その二機も胴体に大穴を開けて吹っ飛ぶ。

 いくらペーチル系列が、AMWにしては重装甲と言っても、戦車に比べれば大したことはない。そして、こちらのメイン火器は全て、戦車を破壊できる火力を持っているのだ。

 瞬く間に三機を撃破。しかし、敵は味方の損害など気にしていないかのように、狼狽えもしない。それに、たった三機を倒した程度では、まだ奥の森林から湧いて出てくる敵の全体数に比べれば、ほんの一割にも満たない。

 一斉にこちらに照準が向けられる。比乃も防盾を構え、心視は翼の砲塔を敵に向ける。自分たち一機だけでは、いくら奮闘して大暴れても、いつかは蜂の巣にされるだろう。だが、比乃は少しも慌てなかった。
 相手が射撃する前に、海の方角から轟音が鳴り響く。次の瞬間、前方に展開していたペーチルの群れが、比喩でもなんでもなく粉々に砕け散った。

『隊長! 流石に飛行中にレールガンの発砲は無茶苦茶ですよ!』

『何言ってるの少尉、ちゃんとできたんだから、結果オーライよ!』

 無線から、英語の会話が聞こえきたかと思うと、Tk-11の横に、海水を大量に舞い上げて米軍のM6が次々とスラスターを切り離して着地していく。橋頭堡確保のために、先陣を切った自衛隊のすぐ後に発艦した部隊だった。
 近くに着地した何機かが、マニピュレータで比乃たちにサムズアップしていた。ハワイで共闘した顔見知りがいるのかもしれない。

 比乃はそれに敬礼で返し、無線の周波数を合わせて、駆けつけてくれた米軍機、メイヴィス機に礼を言う。

「援護感謝します、メイヴィス少佐。命拾いしました」

『お礼は良いわよ軍曹、どうせ、貴方は無理に突撃するだろうって思ってたのよ……むしろ、放っておいたら私たちの出番が無くなるところだった』

『はは、少佐の言う通りだな』

『自衛隊にばかり活躍されたんじゃ、合衆国の面目が立たねぇぜ』

『その通りーー各機、全兵装使用自由(オールウェポンフリー)。新手が来るわよ! こちらの第二陣が来るまで約五分、それまでにパーティ会場の入り口を確保する!』

 メイヴィスが号令し、米軍機が並んでライフルを構える。同時に森林の奥から、新手のペーチルSが向かってきていた。どちらともなく射撃が始まり、遮蔽物の無い海岸で弾幕の張り合いが始まった。

 敵は弾幕を恐れていないかのように、目標目掛けて真っ直ぐ接近しながら、ライフルを乱射する。対して、米軍は片膝を立てるか、伏せ撃ちの体勢を取る。被弾面積をできる限り抑え、正確な射撃が行える状態で迎え撃った。

 その差は歴然で、ペーチルは次々と被弾、物言わぬ鉄くずに成り下がって行く。米軍側の被害は小さくなかったが、第一射で撃破された機体はいなかった。けれども、敵の勢いは全く衰えない。次から次へと、森林から海岸まで飛び出してくる。

『くそっ、こいつら何機いるんだ!』

『撃て撃て! 弾薬を惜しむな!』

 米軍が弾幕を張る中、Tk-11も全身の銃火器を展開し、敵機を着実に葬り続けていた。それでも、先ほど米兵の一人が言った通り、敵の群れは途切れる様子を見せない。

 遂に、ペーチルの一機が、最前列で射撃していた小隊に向かって跳躍した。無防備に急接近してくる敵機に即座に四十ミリ弾を叩き込む。
 ペーチルは瞬く間に蜂の巣になるが、それでも原型を留めていた胴体部分が、小隊のすぐ目の前に落下。砂を巻き上げた。

 閃光と爆発、猛烈な衝撃波と高熱、鋭利な破片がM6四機に襲いかかった。

 ペーチルの胴体部分が大爆発を起こしたのだ。巻き込まれた四機が、メイヴィス機のレーダーからロストする。おそらくは即死だろう。友軍機が一瞬、状況が理解できずに、呆然とするように停止してしまうが、

『ぼけっとするな! やられるぞ!』

 メイヴィスが叫んで、部下に戦闘を再開させる。警告のためにメイヴィスが続けて簡単な指示を出す。

『各機、敵機は特攻を仕掛けてくるわ、近づけさせないように、弾幕を絶やさないことを優先しなさい!』

『りょ、了解! 小隊各機、ローテションで射撃するぞ、リロードの隙を突かれるな!』

 指示してから、メイヴィスは唇を噛む。まさか、敵が特攻を仕掛けてくるとは、自分も考えていなかった。それ故に、部下を四人も失ってしまったのだ。このような作戦を行ってくる指揮官など、一人しか思い浮かばない。その相手がまたしても、自分の部下を殺したのだ。

 比乃も、薄々と勘付いていることがあった。敵のペーチルは爆薬を満載して、こちらに捨て身で突っ込んでくる。物量的にも、その作戦を考えても、これに人間が乗っているとは思えない。つまり、この敵機は、

「爆発する無人機か、厄介なことだね……!」

 言いながら、比乃も短筒を撃ちまくる。迫ってくる敵機が徹甲弾で貫かれ、崩れ落ちるが、その亡骸を踏み越えて、更に敵機が押し寄せてくる。
 弾を撃ち切った円形の弾倉を短筒から放り捨てて、新しい弾倉を押し込む。その間に、心視の射撃によって四機のペーチルを屠った。

「このままだと……弾が、先に尽きる……」

「けど、接近戦をしたら爆破される……嫌な手を使ってくるよ!」

 流石は本拠地、容赦なく物量を活かした攻撃をしてくる。比乃は、これを仕掛けてきた相手の指揮官は、相当のやり手だと確信を持った。そして、敵の組織で優秀な指揮官と言えば、自分が知ってる中には一人しかいない。

(オーケアノス、奴も出てくるのか?)

 この状況で、あの男が指揮する部隊が襲ってきたら、自分たちは壊滅するかもしれない。その嫌な予感が、比乃の脳裏をかすめる。そして、その予感は、非情にも的中することになる。

《AMWらしき反応  六時方向  距離三〇〇〇》

 センサーが、自分たちの後方、“海側”から接近する多数の機影をキャッチしたことをAIが告げた。Tk-11でわかるならば、M6にも察知できるだろう。何機かのM6が思わず振り向いた。海中を移動可能で、しかも、この距離まで隠れられるステルス性を持ったAMWを運用している部隊は、一つしかない。

(本当に嫌なタイミングで……!)

 ここで挟撃されたら、流石に持ち堪えられない。その場の全員が危機感を覚えた。が、比乃だけは違った。振り向いた先、海の上に広がる空に、こちらにぐんぐんと近づいてくる複数の機影を見つけたのだ。
 それらが帯びている光の線は二つ。つまり双発機、米軍のM6のスラスターは単発だ。

 ならば、接近してきているのは――

『こちら陸上自衛隊第三師団第一小隊、パーティへ乱入させてもらう』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...