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第四十四話「終末に向かう前の出来事について」

集う戦士たち

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 それから二週間後、南太平洋の海上。大海原を、艦隊が進んでいた。
 詳しい人がそれを見れば、それが「空母打撃群」と呼ばれる艦隊であることがわかっただろう。だが、それは普通の編成、空母が一に対して、護衛艦が五から十、補給艦が二という構成ではなかった。

 まず、群れの中央に鎮座する空母は三隻いた。その周囲に展開する護衛艦も、それに比例したかの如く数がいる。見渡す限りの船、船、船……この大艦隊の目的は、世界中で猛威を振るっているテロリストの大本を叩き潰すこと。言い方を変えれば、世界の平和を守るためとも表現できた。そのフィクション染みた目的を達成するためだけに、これだけの戦力が集められた。

 もしも、これを俯瞰する、現実主義の第三者がいたならば、嘲笑するような皮肉の笑みを浮かべていたかもしれない。
 だが、そこに集まった人々は全員、本気で世界平和のために戦おうとしていた。

 空母の一隻、米海軍の空母。AMW戦力の投射を役割としたその艦船の中、椅子が並ぶ、教室数個分といった広いミーティングルームに、錚々たるメンバーが揃っていた。

 米軍からはM6を有している部隊。ハワイ奪還作戦を成功に導き、南アメリカのテロ組織を次々と殲滅している精鋭中の精鋭、彼らが今回の上陸部隊の主戦力だ。

 その他に、ドイツ陸軍から、ここ数年で形になったKSK(陸軍特殊作戦コマンド)のAMWパイロットが十数名。イタリア陸軍の落下傘強襲連隊のAMW部隊。フランスからはGIGNと空挺連隊に少数所属していたAMWパイロットが数名。そして、イギリス近衛と義勇軍。その他にも、数名から十数名単位で、AMW戦力を保有する主要国から派遣された人員が固まっていた。

 その内の、ここにいる何人かが、部屋の隅を見て声を潜めていた。そちらにはなんと、ロシアのスペツナズまでいた。これを見たら、世界情勢に詳しい人間が驚くだろうか。それほどまでに、各国の事情や立場を無視して組まれた、過去に類を見ないチームだった。

 彼ら彼女らは、国籍も着ている制服もバラバラだが、目的も参加動機も同じである。全員、自国をテロリストに散々荒らされた国からやってきている。アメリカ主導とは言えども、その根源を叩き潰せる機会が来たということで、揃って士気は高かった。

 そして、その中に混ざるようにして、日本から派遣された陸上自衛隊第三師団のパイロット五名は並んで座っていた。

「なんとも壮観だな。これだけの精鋭が集まっているとは……」

 五人の中で一番各国の軍事に詳しい安久が、周囲にいる兵士の制服を見て言った。隣の、後頭部に手をやって背もたれに体重をかけている宇佐美は、興味がなさそうに、視線を泳がせている。

「役に立てばそれでいいでしょうよ。ま、顔を見れば使えそうな奴しかないっていうのは、わかるけどね」

 言って、近くにいた士官の横顔を眺める。精悍な、正に屈強な戦士という感じの男が、視線を感じたのか談笑を中断して、宇佐美の方を見る。目が合ったので、宇佐美がウインクしてみせると、その男もにっと笑みを返した。どちらともなく視線を外す。

「ああいうのは余裕があって良いわねぇ、自分たちがやられるなんて、微塵も思ってないし、任務を確実に達成できるって自信に満ち溢れてる。ま、そういう人から死ぬんだけどね」

「……お前、なんだか」

「機嫌が悪いって? そりゃあ、大事な大事な弟分が、自殺するために作戦に参加しますって聞かされてたら、機嫌も悪くなるわよ」

 宇佐美が逆の隣に座る、件の弟分こと比乃の首に腕を回して「ねぇ、日比野ちゃんもわかるわよねぇ?」と、頬を吊り上げる。絡まれた方は、抵抗もできず、両手を膝に乗せて背筋を伸ばしたまま、動けないでいた。

 周囲の兵士たちが、その女パイロットから漏れ出ている殺気に反応して、身を逸らすように距離を取ろうとした。日本語はわからないが、関わり合いたくないという思いが伝わる顔をしていた。

「いえ、それはもう……考えを改めたといいますか……」

「あら、そうなの、それならよかった。私も血を見なくて済んで嬉しいわ」

 えっ、血……? とおののく比乃の頬に顔を寄せて、宇佐美は頬擦りするようにくっついた。比乃の横にいる心視がむっとするが、それは完全に無視。すりすりと、男の割にきめ細かい肌を堪能しながら、姉貴分は囁くように話し出す。

「いいこと、日比野ちゃん。貴方が心視と志度を守りたいように、私たちも貴方のことを守りたいのよ。部隊長だってそう、学校の友達だってそう、みんな、貴方という人を大切に思ってる。だから、貴方自身も、自分を大切にしなさいな。自愛もできない人に、他人を愛することなんて、できないんだからね」

 これまで、自分のことを何年も見守ってきてくれた上司の話は、心にすんなりと入ったように比乃は感じられた。

「了解しました。みんなで一緒に帰れるように、頑張ります。勿論、宇佐美さんと剛もですよ」

「あら、この子ったら、これは迂闊に殉職できないわよ剛」

「ふん、言われなくとも、俺は日本に帰って処理しなければならない書類が溜まっているのだ。死んでたまるものか」

「小隊長さんは大変ね。日比野ちゃんも生真面目だから将来こうなりそうね……今の内に仕事を押し付ける術を身につけておくのよ? それが、人生を生き抜くコツなんだから」

「……貴様も書類仕事はあるだろうが」

 始まった二人の漫才に、比乃は安堵の息を漏らした。この二人は、どこだろうといつも通りだ。困難な任務を前にしても自分のペースを乱さない。強者の余裕とでも言うのだろうか。それが心強かった。自分は弱者であるが、見習いたいものである。

 比乃がそんなことを思っていると、周囲を落ち着き無くきょろきょろしていた志度が「あっ」と声をあげた。むすっとしていた心視がつられてそちらを見て、同じく「……あっ」と小さく漏らす。

「ん? どうしたの二人とも」

 志度が指を指した方向。人混みの向こう側を見て、比乃は「ええっ?!」と驚愕の声を発した。
 そこにいたのは、英国陸軍の近衛軍と義勇兵と、それに自然に混ざっている、赤髪に長身の少女だった。

「なんで、こんなところに……」

 比乃は、ここに彼女がいる理由を思い浮かべて、頭を抱えた。
 二週間前、あそこにいなかったのは、そういうことだったらしい。

 どうしようと悩み始めた比乃だったが、声をかけるかを悩んでいる内に、将校が部屋に入って来て、作戦の説明が始まった。
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