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第四十一話「困った時の親頼みについて」
起動する秘密兵器
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「それで、俺たちはなんでこんな所に突っ立たされてるんだ?」
夜の帳を突き破るように照明灯で明るくされた滑走路スペース……滑走路とは言った物の、敷地の問題で距離が短く、また碌に整備もされていないので隊員の大半はその存在を忘れていたそこに、八機、二個小隊のTkー7改が立っていた。その内の一機に乗る陸尉がぼやいた。その問いに答えられる者はここにはいない。
各々、装備を腰や背中のウェポンラックに装着しており、今すぐにでも戦闘を開始できる状態である。が、本来であれば、今頃沖縄都市部に向かうトレーラーに搭載されていなければならないはずだった。
では彼らが何故、基地の外れにある使われていない滑走路に来ているのかと言えば、部隊長が数分前に発令した「プランB」のせいである。
無論、彼らはそれが何かを知らない。出撃準備をしていた所に、突然、それぞれの上官に呼び止められ、戦闘準備を整えてここに集まるように言われたのだ。
『あーあー、各員、聞こえるか、これよりプランBを実行する』
隊員たちが困惑していると、上官である陸佐が直々に通信を入れてきた。
「三佐、その前に質問があるのですが」
『聞きたいことが山程あるのは解るが、今は時間がない。各位、機体にインストールされているBプログラムを起動せよ』
「はぁ……了解しました」
実際、質問したいことは大量にあったが、時間がないのも事実であるので、それらは一旦飲み込んで、機体のコンソールを操作して、新しく導入されたプログラムを起動した。
すると、大量のログが画面に滝のように流れ始め、AIが《Bプログラム 適応完了》と短く報告する。
『よし、では秘密兵器を起動させる』
堅物で知られる三佐の口から出た単語に、並んでいる内の誰かが「なんだ秘密兵器って」と思わず突っ込んだ。と同時に、目の前の滑走路に異変が起きた。
滑走路の中心、縦に亀裂が入ったかと思うと、それが直立するように持ち上がったのだ。上に乗っていた薄いアスファルトが落下していき、その巨大な長方形は、丁度斜め四十五度辺りまで首をもたげた所で止まった。
その長方形、長さ三十メートル幅五メートルのそれをよく見れば、中央にリニアレールのような装置がずらりと並んでいるのが隊員達から見えた。その装置が、闇夜に紫電を浮かばせ、ばちばちと光っている。
そして、持ち上がっているその矛先は、丁度、市街地の方向を向いていた。
ここまで見て、そして自機にインストールされたプログラムが「フォトンスラスターの制御システム」であることを理解した隊員達は、一斉にこれが何なのか、そしてこれから自分達が何をさせられるかを察した。
「あの、三佐、これってもしかしなくても」
『ああ、今まで隠し通して来ていたし、使うこともないと思われていたが、致し方ない。今こそ明かそう、これこそが第三師団の誇る秘密兵器が一つ、超電磁カタパルトだ』
「……我々にこれを使えと」
『無論だ。数ヶ月前、日比野三曹がフォトンスラスターを使用して現場へ急行するという手段を取ったことから着想を得て、税金の無駄遣いだなんだと叩かれないために秘密裏に建造されたのだ』
隊員の誰かが「あのちびっ子め……」と恨めがましく呟く、同時に、助け出したら絶対に文句を言ってやるとも、
『それでは運用テスト兼プランB、正式名「ぶっ飛び大作戦」を開始する』
十数秒後。暗闇の空を、生まれて初めてジェットコースターに乗った子供のような声を上げる自衛官を乗せたTkー7改が次々と飛んで……いや、“投射”されて行った。
***
「馬鹿者! 今AMWを動かしてどうする! それは最終手段なんだぞ!」
丁度同じ頃、テロリスト達の仮設本部とも言える雑居ビルで、リーダーの怒声が響いていた。
その手に持った通信機から『も、申し訳ありません』と弱々しい男の声が返ってくる。
リーダーは碌に使い物にならない市民団体の落ち度に、盛大に舌打ちすると、現状のリカバー策を講じた。
いくら相手を叱責しようとも、起きてしまったことは仕方がない。それよりも、今は目的を確実に遂行する手を打つべきだと考えたのである。
「……AMWが露見してしまったのは致し方ない。そのままホテルまで迎え、同時にこちらから歩兵部隊を出して、直接目標を拉致する」
言いながら、リーダーが手振りで近くにいた部下に合図を出す。すると、待機していた黒尽くめの男たちが、武器、サブマシンガンや、どうやって入手したのかアサルトライフルまで持って立ち上がった。
その数は十数名、非武装の施設から子供一人を拉致するのならば、十分すぎる戦力だった。
「他の班にも伝えろ、いいか、くれぐれも発砲はするなよ。目標に何かあっては困るからな」
『あの、その後我々はどうすれば……?』
「……それくらい自分達で考えろ、この間抜けが!」
最後にそう言い放ってから、リーダーは通信機の電源を乱暴に切った。
「まったく……まともに訓練もしてない連中はこれだからな……」
「しかし、そろそろ予定していた時間も過ぎますし、どちらにせよ強硬策に出るしかなかったのでは?」
部下が諌めるようにそう言うが、
「あれは自衛隊が出てきた時のための保険、そして我々が安全に離脱するための囮だったろうが、それをこちらが動くよりも先に出してしまった。これで自衛隊に我々の動きを知られたら、任務に支障が出る……いや、流石にあいつらが平和ボケしているとしても、流石に察知するか」
そう、AMWの操縦という、如何にも重要な役割を自分の部下にさせなかったのは、それに囮以上の価値を見出さなかったからである。それに、白兵戦が発生する可能性がある歩兵に素人を使うのは論外だが、AMWというそれだけで大きな戦力になる物であれば、素人が操縦していても、相手にとっては大きな脅威となる。そう考えていたのだ。
しかし、リーダーはそこまで焦ってもいなかった。
目標がいるのは精々警備員がいる程度のホテル、武装した自分達ならば、何の障害も無く拉致して脱出することができるだろう。身体能力の高い護衛が二人いるとも聞いたが、それでも丸腰であるならば、何の障害にもならない。
「時間との勝負になるな……準備を急がせろ、三分以内に出発するぞ」
「了解」
致命的なミスがあったが、それでも、まだ優位は自分達にある。テロリスト達は、そう信じて疑っていなかった。
夜の帳を突き破るように照明灯で明るくされた滑走路スペース……滑走路とは言った物の、敷地の問題で距離が短く、また碌に整備もされていないので隊員の大半はその存在を忘れていたそこに、八機、二個小隊のTkー7改が立っていた。その内の一機に乗る陸尉がぼやいた。その問いに答えられる者はここにはいない。
各々、装備を腰や背中のウェポンラックに装着しており、今すぐにでも戦闘を開始できる状態である。が、本来であれば、今頃沖縄都市部に向かうトレーラーに搭載されていなければならないはずだった。
では彼らが何故、基地の外れにある使われていない滑走路に来ているのかと言えば、部隊長が数分前に発令した「プランB」のせいである。
無論、彼らはそれが何かを知らない。出撃準備をしていた所に、突然、それぞれの上官に呼び止められ、戦闘準備を整えてここに集まるように言われたのだ。
『あーあー、各員、聞こえるか、これよりプランBを実行する』
隊員たちが困惑していると、上官である陸佐が直々に通信を入れてきた。
「三佐、その前に質問があるのですが」
『聞きたいことが山程あるのは解るが、今は時間がない。各位、機体にインストールされているBプログラムを起動せよ』
「はぁ……了解しました」
実際、質問したいことは大量にあったが、時間がないのも事実であるので、それらは一旦飲み込んで、機体のコンソールを操作して、新しく導入されたプログラムを起動した。
すると、大量のログが画面に滝のように流れ始め、AIが《Bプログラム 適応完了》と短く報告する。
『よし、では秘密兵器を起動させる』
堅物で知られる三佐の口から出た単語に、並んでいる内の誰かが「なんだ秘密兵器って」と思わず突っ込んだ。と同時に、目の前の滑走路に異変が起きた。
滑走路の中心、縦に亀裂が入ったかと思うと、それが直立するように持ち上がったのだ。上に乗っていた薄いアスファルトが落下していき、その巨大な長方形は、丁度斜め四十五度辺りまで首をもたげた所で止まった。
その長方形、長さ三十メートル幅五メートルのそれをよく見れば、中央にリニアレールのような装置がずらりと並んでいるのが隊員達から見えた。その装置が、闇夜に紫電を浮かばせ、ばちばちと光っている。
そして、持ち上がっているその矛先は、丁度、市街地の方向を向いていた。
ここまで見て、そして自機にインストールされたプログラムが「フォトンスラスターの制御システム」であることを理解した隊員達は、一斉にこれが何なのか、そしてこれから自分達が何をさせられるかを察した。
「あの、三佐、これってもしかしなくても」
『ああ、今まで隠し通して来ていたし、使うこともないと思われていたが、致し方ない。今こそ明かそう、これこそが第三師団の誇る秘密兵器が一つ、超電磁カタパルトだ』
「……我々にこれを使えと」
『無論だ。数ヶ月前、日比野三曹がフォトンスラスターを使用して現場へ急行するという手段を取ったことから着想を得て、税金の無駄遣いだなんだと叩かれないために秘密裏に建造されたのだ』
隊員の誰かが「あのちびっ子め……」と恨めがましく呟く、同時に、助け出したら絶対に文句を言ってやるとも、
『それでは運用テスト兼プランB、正式名「ぶっ飛び大作戦」を開始する』
十数秒後。暗闇の空を、生まれて初めてジェットコースターに乗った子供のような声を上げる自衛官を乗せたTkー7改が次々と飛んで……いや、“投射”されて行った。
***
「馬鹿者! 今AMWを動かしてどうする! それは最終手段なんだぞ!」
丁度同じ頃、テロリスト達の仮設本部とも言える雑居ビルで、リーダーの怒声が響いていた。
その手に持った通信機から『も、申し訳ありません』と弱々しい男の声が返ってくる。
リーダーは碌に使い物にならない市民団体の落ち度に、盛大に舌打ちすると、現状のリカバー策を講じた。
いくら相手を叱責しようとも、起きてしまったことは仕方がない。それよりも、今は目的を確実に遂行する手を打つべきだと考えたのである。
「……AMWが露見してしまったのは致し方ない。そのままホテルまで迎え、同時にこちらから歩兵部隊を出して、直接目標を拉致する」
言いながら、リーダーが手振りで近くにいた部下に合図を出す。すると、待機していた黒尽くめの男たちが、武器、サブマシンガンや、どうやって入手したのかアサルトライフルまで持って立ち上がった。
その数は十数名、非武装の施設から子供一人を拉致するのならば、十分すぎる戦力だった。
「他の班にも伝えろ、いいか、くれぐれも発砲はするなよ。目標に何かあっては困るからな」
『あの、その後我々はどうすれば……?』
「……それくらい自分達で考えろ、この間抜けが!」
最後にそう言い放ってから、リーダーは通信機の電源を乱暴に切った。
「まったく……まともに訓練もしてない連中はこれだからな……」
「しかし、そろそろ予定していた時間も過ぎますし、どちらにせよ強硬策に出るしかなかったのでは?」
部下が諌めるようにそう言うが、
「あれは自衛隊が出てきた時のための保険、そして我々が安全に離脱するための囮だったろうが、それをこちらが動くよりも先に出してしまった。これで自衛隊に我々の動きを知られたら、任務に支障が出る……いや、流石にあいつらが平和ボケしているとしても、流石に察知するか」
そう、AMWの操縦という、如何にも重要な役割を自分の部下にさせなかったのは、それに囮以上の価値を見出さなかったからである。それに、白兵戦が発生する可能性がある歩兵に素人を使うのは論外だが、AMWというそれだけで大きな戦力になる物であれば、素人が操縦していても、相手にとっては大きな脅威となる。そう考えていたのだ。
しかし、リーダーはそこまで焦ってもいなかった。
目標がいるのは精々警備員がいる程度のホテル、武装した自分達ならば、何の障害も無く拉致して脱出することができるだろう。身体能力の高い護衛が二人いるとも聞いたが、それでも丸腰であるならば、何の障害にもならない。
「時間との勝負になるな……準備を急がせろ、三分以内に出発するぞ」
「了解」
致命的なミスがあったが、それでも、まだ優位は自分達にある。テロリスト達は、そう信じて疑っていなかった。
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