自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第三十九話「再びの帰郷とそのおまけについて」

仕組まれた模擬戦

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 晃と紫蘭、メアリがわーぎゃー言い始めたのを呆れた様子で眺める比乃とその保護者が、さてどうしたものか、と考え始めたところで、騒ぎに加わっていないアイヴィーが「はいはーい」と挙手して、三人の視線を集めた。

「宇佐美さん、私達をここに連れてきたのって、本当に観光のためだけなんですか?  何か別の目的があったりとかしないんですか?」

「あら、良い質問ねアイヴィーちゃん」

 聞かれた宇佐美は意味ありげな笑みを浮かべると、仰々しく両手を上げて叫んだ。

「そう、ここにみんなを連れてきたのは他でもない。日比野ちゃんの勇姿を見せるためだったのよ!」

「な、なんだってー!」
「な、なんだってー……」

「え、いや本当になんなんですいきなり」

 志度と心視がびっくり仰天とばかりにそれぞれリアクションを取るその横で、急に話題に上げられた比乃が困惑気味に、ついでに言えば迷惑そうに宇佐美の顔を見やる。
 騒ぐのを止めた晃達もそちらを見るが、彼女はそんな周囲のことなどスルーして、にんまりとした笑みを崩さずに更に続ける。

「何を隠そうこの宇佐美一等陸尉。部隊長からみんなが来ることを知らされてから念入りに準備をしておいたのよ……森一曹カモン!」

 と宇佐美が指をパチンと鳴らす。すると、

「はいはい、呼ばれて飛び出た森一等陸曹ですよっと」

 近くに鎮座していた機体の後ろから、作業着を内側から圧迫している鳩胸を揺らしながら森が姿を表した。
 どうやら、ずっとそこで待機していたらしい。

 ぽかんとする一同を更にスルーして、宇佐美がびしっと森に人差し指を突きつける。

「森くん森くん、例の作戦の準備は整っているかしら?!」

「はっ、問題ありません宇佐美一尉、いつでもいけます!」

 森がその無駄に高い彼女のテンションに対し、ノリノリでババっと敬礼すると、宇佐美は上機嫌になる。

「よろしい!  それでは早速、作戦を開始しなさい!」

「了解!」

 そして、森は駆け足でその場から離れ、近くに居た他の整備班にも何やら声をかけて、人を集め始めた。
 彼らがそのまま格納庫から出ていくのを見送った比乃が、怪訝そうに宇佐美の顔を覗き込む。

「宇佐美さん……いったい何をやらかそうっていうんですか?」

「ふふ、すぐにわかるわよ。それより日比野ちゃん、貴方十二時間以内にアルコールの類を摂取してないでしょうね?」

「僕が何歳か忘れたんですか?  というか、アルコール云々が今の話と何か関係あるんですか」

「……宇佐美、貴様まさか」

 宇佐美の目的を察した安久が何か言おうとするが、それよりも早く宇佐美の手がその口を塞いだ。

「おおっとネタバレ厳禁よ剛。何をするかは今から行く場所を見ればわかるわよ。鈍感な日比野ちゃんでもね……さ、みんな着いてきて!  剛もどうせだから来なさいな、解説役としてね!」

 そういうと、安久を強引に引っ張りながら宇佐美はずんずんと歩いて行ってしまう。何がなんやらと言った感じで、一行はその後ろに続いて歩き出す。

「次は何見せてくれるんだろうな、俺、ちょっとワクワクしてきた」

「なんだろうね……でも、僕はなんだか嫌な予感がするよ……」

 ***

 一行が連れて来られたのは、簡素な作りのサブ管制室だった。
 壁にずらりと並んだ大型モニターや素人が見ても用途がわからない機材が鎮座しているが、メインで管制業務を行う部屋とは違い、その部屋には誰もいなかった。

「ここはね、今はある目的の時以外は使われない部屋なの、察しが悪い日比野ちゃんでも、ここまで来れば、私が何をしたいかわかるわよね?」

 宇佐美が電源を入れると、ヴン……と低い音を立てて大型モニターが光り、そして森林と思わしき地形が映し出された。視点の高さから、小型の偵察ドローンによる映像らしい。
 そう、この部屋は、お偉い方やデータ収集班による模擬戦の観戦のための部屋なのである。

「まぁ、大体は……それで、宇佐美さんと誰が戦うんですか?」

「あら、私がやるっていうのはわかったみたいだけど、中途半端ね。さっき言ったでしょ、日比野ちゃんの勇姿を見せるためだって」

「……はて、なんのことだかわかりませんね。もう帰っていいですか?」

「あらやだ、この子ったら現実逃避してるわ……」

 比乃が目からハイライトを消したような表情をして、さっさと後ろのドアを開けて帰ろうとしたが、宇佐美がささっとその前に割り込んだ。

「ちょっとちょっと、貴方が帰っちゃったら、何のために私が今日のシフトを開けたり訓練区域を使えるように根回ししたのかわからなくなっちゃうじゃないのよ」

「宇佐美さんと剛辺りでやればいいんじゃないですか?  お二人の技量ならそれはさぞ素晴らしい戦いが見られるでしょう」

「私と剛じゃ千日手になっちゃって勝負つかないのよ!  ねぇねぇ、みんなも日比野ちゃんの戦うところ見たいわよねぇ?!」

 ひしっと比乃に抱き着いて脱出を食い止めにかかった宇佐美が、高校生達に問いかける。

「そりゃあ……比乃がどれだけ凄いかってのを見れるって話なら、それは見てみたいですけど」

「何だかんだ、私達の中で比乃が戦っている姿を見たことがあるのはアイヴィーだけだしなぁ」

「アイヴィー、日比野さんはどれくらい凄かったんですか?」

「私も遠巻き、というよりレーダー上の情報でしか見てないから、どれくらい凄いかは直接見てみないと」

「ほら、まとめるとみんな日比野ちゃんが戦ってる姿を見たいって言ってるわよ!」

 それぞれが意見を述べると、宇佐美がそれを勝手に総括して比乃を更にぎゅっと抱きしめる。

「はぁ……僕にはとてもそうとは聞こえ……ちょ、宇佐美さん……絞まって、る……」

「宇佐美さん宇佐美さん、首、比乃の首に腕回ってるから」

「比乃が……落ちちゃうから……」

「あら、これは失敬」

 志度と心視の制止を受けて、宇佐美がぱっと比乃を解放した。比乃はゼーゼーと息を吸って、

「断ったら殺されそうな気配を感じたんですけど……そも、僕のパーソナルデータとか無いじゃないですか、十全の用意が整ってないのに模擬戦をやるのはちょっと……」

「それなら大丈夫、ちゃんと第八師団からデータは貰ってるわよ。機体は予備のTkー7改だけど、問題ないでしょ?」

「……なんで僕のデータが第八師団から提供されてるかは、一先ず置いておきます。どうしてそんなに僕と模擬戦がしたいんですか」

 比乃のその問いに、宇佐美は腰に手をやって、胸を張って答えた。

「それは勿論、最近日比野ちゃんと遊べてないからよ!」

「あ、やっぱり帰りますね」

 それから、十数分の宇佐美からのしつこい懇願と、何だかんだで同級生の普段は見えない一面が見たい高校生達、そして宇佐美を哀れんだ安久の説得によって、模擬戦は無事執り行われることになった。

 最後の最後まで、比乃が不満そうな顔をしていたのは、言うまでもない。
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