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第三十五話「極寒の地での任務について」
日露戦、開始
しおりを挟む「それじゃあ……」
頓挫しそうになる会議の雰囲気を変えようと茜が口を開いた時、不意に会議室の扉が開いた。
「まだ終わんないの?」
扉が開き顔を出したのは嵯峨だった。
「お父様、今は会議中ですよ!」
「そうカリカリしなさんな。それにこいつ等だって馬鹿じゃないんだ。俺達が『廃帝』についてはつかんでいる情報がほとんど無いことぐらい察しはついてるよ。そんなのに会議したって時間の無駄じゃん」
実も蓋も無いことを言われて娘の茜は口ごもるしかなかった。
「まあ、会議なんて言うものは寝るものだからな。情報がわかり次第、それぞれに交換すれば事が足りるだろ?」
「まあ、お父様の場合はその通りなんですけど……」
それだけ言って茜は黙り込んだ。
「じゃあ解散か?」
「そうは言っていません!」
席を立とうとするかなめを茜がぴしゃりと制する。
「でも、もう島田達はコンロがいい具合になってきたって言ってるぜ。まあ、堅苦しいことは後にしようや」
「そう言う風に問題を先延ばしにするのはお父様の悪い癖ですよ!だから『駄目人間』と言われるんです!」
刺すような視線を嵯峨に送った後、あきらめたように茜は端末を閉じた。解放されたというようにかなめは伸びをして、退屈な時間が終わったことを告げる。
「バーベキューっすか。いいっすよね」
ラーナはそう言うとそのまま会議室から出て行く。かなめ、アメリア、カウラもまたその後に続く。
「神前!早く来いよ!」
かなめが廊下で叫ぶ。誠は座ったまま片付けをしている茜を見ていた。
「よろしくてよ、別に私を待たなくても」
不承不承言葉をひねり出した茜のやるせない表情を見ながら、誠はかなめ達を追った。
「良いんですか?こんなので」
誠はかなめに駆け寄ってみたものの、どうにも我慢しきれずにそう尋ねた。
「良いの良いの!叔父貴が責任取るって言うんだから」
「俺のせいかよ」
そう言うと情けない顔をして嵯峨はタバコを口にくわえる。
「まあこれが我々の流儀だ。そのくらい慣れてもらわなくては困る」
いつものように表情も変えずにカウラはハンガーへ続く階段を降り始めた。ハンガーでは整備班員がバーベキューの下ごしらえに余念が無い。
「ちょっと!ちゃんと肉は平等に分けろよ!そこ、もたもたしてないで野菜を運べ!」
仮眠をとるはずだった島田はすっかり復活して自分の兵隊達を大声で叱り飛ばす。
「よう、歓迎される気分はどうだい」
嵯峨が走り回るブリッジクルーや整備員、そして警備部隊の面々をぼんやりと眺めている茜に声をかける。
「まあ……悪い気分はしないですけど」
口元は笑っているが目が呆れていた。隣に立つラーナもただ何も出来ずに立ち尽くしている。
「それじゃあ私も手伝いますわね」
そう言いながら茜は野菜を切り分けている管理部の面々に合流する。
「私に何か出来ませんか?」
ついさっきまで会議を遂行するように叫びかねない茜だったが手のひらを返したように歓迎会の準備に入ろうとしている。
「良いんだよ。茜。お前も歓迎される側なんだから黙って見てれば。さてと」
嵯峨はタバコに火をつけて座り込んだ。
「神前!手を貸せ」
いつの間にか復活していた島田が、クーラーボックスに入れる氷を砕いている。
「わかりました!」
「アタシも行くぞ」
「私も!」
かなめとアメリアが誠と一緒に駆け出す。遅れてカウラも後に続いた。
「いいねえ、若いってのは」
そう言いながら嵯峨はタバコの煙を吐いた。秋の風も吹き始めた八月の終わりの風は彼等をやさしく包んでいた。誠は空を見上げながらこれから始まる乱痴気騒ぎを想像して背筋に寒いものが走った。
了
頓挫しそうになる会議の雰囲気を変えようと茜が口を開いた時、不意に会議室の扉が開いた。
「まだ終わんないの?」
扉が開き顔を出したのは嵯峨だった。
「お父様、今は会議中ですよ!」
「そうカリカリしなさんな。それにこいつ等だって馬鹿じゃないんだ。俺達が『廃帝』についてはつかんでいる情報がほとんど無いことぐらい察しはついてるよ。そんなのに会議したって時間の無駄じゃん」
実も蓋も無いことを言われて娘の茜は口ごもるしかなかった。
「まあ、会議なんて言うものは寝るものだからな。情報がわかり次第、それぞれに交換すれば事が足りるだろ?」
「まあ、お父様の場合はその通りなんですけど……」
それだけ言って茜は黙り込んだ。
「じゃあ解散か?」
「そうは言っていません!」
席を立とうとするかなめを茜がぴしゃりと制する。
「でも、もう島田達はコンロがいい具合になってきたって言ってるぜ。まあ、堅苦しいことは後にしようや」
「そう言う風に問題を先延ばしにするのはお父様の悪い癖ですよ!だから『駄目人間』と言われるんです!」
刺すような視線を嵯峨に送った後、あきらめたように茜は端末を閉じた。解放されたというようにかなめは伸びをして、退屈な時間が終わったことを告げる。
「バーベキューっすか。いいっすよね」
ラーナはそう言うとそのまま会議室から出て行く。かなめ、アメリア、カウラもまたその後に続く。
「神前!早く来いよ!」
かなめが廊下で叫ぶ。誠は座ったまま片付けをしている茜を見ていた。
「よろしくてよ、別に私を待たなくても」
不承不承言葉をひねり出した茜のやるせない表情を見ながら、誠はかなめ達を追った。
「良いんですか?こんなので」
誠はかなめに駆け寄ってみたものの、どうにも我慢しきれずにそう尋ねた。
「良いの良いの!叔父貴が責任取るって言うんだから」
「俺のせいかよ」
そう言うと情けない顔をして嵯峨はタバコを口にくわえる。
「まあこれが我々の流儀だ。そのくらい慣れてもらわなくては困る」
いつものように表情も変えずにカウラはハンガーへ続く階段を降り始めた。ハンガーでは整備班員がバーベキューの下ごしらえに余念が無い。
「ちょっと!ちゃんと肉は平等に分けろよ!そこ、もたもたしてないで野菜を運べ!」
仮眠をとるはずだった島田はすっかり復活して自分の兵隊達を大声で叱り飛ばす。
「よう、歓迎される気分はどうだい」
嵯峨が走り回るブリッジクルーや整備員、そして警備部隊の面々をぼんやりと眺めている茜に声をかける。
「まあ……悪い気分はしないですけど」
口元は笑っているが目が呆れていた。隣に立つラーナもただ何も出来ずに立ち尽くしている。
「それじゃあ私も手伝いますわね」
そう言いながら茜は野菜を切り分けている管理部の面々に合流する。
「私に何か出来ませんか?」
ついさっきまで会議を遂行するように叫びかねない茜だったが手のひらを返したように歓迎会の準備に入ろうとしている。
「良いんだよ。茜。お前も歓迎される側なんだから黙って見てれば。さてと」
嵯峨はタバコに火をつけて座り込んだ。
「神前!手を貸せ」
いつの間にか復活していた島田が、クーラーボックスに入れる氷を砕いている。
「わかりました!」
「アタシも行くぞ」
「私も!」
かなめとアメリアが誠と一緒に駆け出す。遅れてカウラも後に続いた。
「いいねえ、若いってのは」
そう言いながら嵯峨はタバコの煙を吐いた。秋の風も吹き始めた八月の終わりの風は彼等をやさしく包んでいた。誠は空を見上げながらこれから始まる乱痴気騒ぎを想像して背筋に寒いものが走った。
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