241 / 344
第三十四話「それぞれの思惑と動向について」
指導者の思惑
しおりを挟む
その頃、同艦内の作戦司令室では、戦闘部隊の隊長格である川口やジェローム、その他にも数人の服装も役職もばらばらな大人たちが、点や区画ごとに色分けされた世界地図が敷かれた机を中心にして、席に着いていた。
「それでは、当面の攻撃目標はロシアに絞ると?」
席に座っている一人の男性、厳つい顔に伸びた顎髭を撫でている目が青い西洋人が言った。その言葉に、上座に着いている女性が「ええ」と肯定の意を示した。
「ロシアの対テロ作戦は余りに過激過ぎます。民間人を巻き込むことも厭わない行動を、これ以上見過ごすことはできません。人的被害を最小限に抑える為にも、ここで一度叩いておくか、我々へ目を向けさせるべきです」
そう言う彼女は、年は二十代半頃、東洋系の顔立ちに黒髪をロングに伸ばした、艶やかな印象を受ける女性だった。とても、厳つい男たちやここにいる戦闘部隊のメンバーを纏めるような人物には見えない。だが、彼女こそが、この場に集まって席に着いている全員が認める、この艦と組織の長であった。
だが、その長の言葉を受けて髭面の男は少し唸ってから、恐縮そうに意見を述べる。
「しかしなぁ、あそこは攻めるにはちょっとばかし警戒が厳重過ぎる。OFMのステルス性能すら見破る厳重な防空網に、数だけは一丁前に揃えた対空兵器……」
「それに、第四世代AMWもいる。内陸部に進出したとしても、そこでの戦闘の被害は看過できる物ではないかと……前回のミッドウェイ、ハワイでの被害の補填も、まだ出来ているとは言い難い」
髭面の男に続けるように、その反対側に座っていた眼鏡を掛けた線の細い、優男風の男性が言った。その二人に同意するように、席に着いている他のメンバーも、無言で頷いたり、相槌を打ったりしている。
彼らが言う通り、ロシアの防空網を超えるのはOFMであっても困難極まり無い。さらに、いざ戦闘になったとしても、相手をすることになるのは、ロシアの精鋭部隊と最新鋭のAMWである。未だに練度不足が目立つ現OFM部隊では、被害が出ることは必須であると見えた。
その上、ここ数ヶ月の間に行われた作戦でも、とても作戦成功と呼べるような成果は挙げられておらず、多数のOFMとパイロットが失われる結果となっていた。新しい人員を補充するにしても、OFMを操るにはある特殊な才能──相性と言っても良いものが必要で、そう簡単には集まらないのだ。
今、こうしている間にも、その才がある人員を集めようと担当部署が躍起になっているが、それでも、十分な人数が調達されるには、あと数ヶ月は掛かるだろう。そういう計算になっている。
「防空網を超える手段は有ります。OFMの輸送手段は馬鹿正直に飛んでいくだけではないでしょう。伝手を使えば、陸路を使って侵入することも、撤収することも可能です。幸いなことに、私たちにはそう言ったことが得意な知り合いが何人も居ます」
「しかし、実際の戦闘になった場合の損害はどうするのです。いくらOFMとは言えど、東南アジアで相手をしたような第二、第三世代機と第四世代機では驚異度が桁違い……万が一にもOFMが稼動状態で鹵獲されるようなことにもなれば、この組織の存続にも関わる……水守さん。このタイミングでのロシア攻撃は、私としては反対せざるを得ません」
優男がやや早口になって、上座の女性、水守と呼んだ女性にそう問い掛ける。彼女は少し考えるように目を伏してから、
「……その辺り、戦闘部隊としてはどう思いますか」
唐突に、川口とジェロームの方へと話題を投げた。投げられた方、川口は無言で端末からデータを集め初め、ジェロームは「ふーむ」と腕を組んで唸る。先に口を開いたのは川口だった。
「……こちらの部隊は、東南アジアでそれなりに実戦経験を積んだし、作戦中も被害はそんなに受けてない。けど、ロシアを攻撃するとなると話は別ね。あそこと渡り合える程の技量は、残念だけど持ち合わせてるとは言えないわ」
「我が部隊は、ハワイの戦いで被害を被ったが、練度は着々と上がってきている。かの大国を相手取っても不足はあるまいと考えている」
ここで、戦闘部隊担当の二人の意見が真っ向から対立することになった。互いに一瞥し合った二人を見て、水守は一息吐いて、
「そうですか……ジェロームさんは攻撃に賛成なのですね? そして川口さんは反対であると」
「正直に言って、無謀としか言いようがないわ」
「そんなことはない、我が精鋭とOFMがあれば、攻撃任務でも何でもこなして見せるぞ」
「戦闘担当のお二人の考えは解りました。では、本土攻撃は一先ず置いて、威力偵察をしてみると言うのは」
眼鏡の男が提案した言葉に、水守が「ふむ……」と一考する素振りを見せる。それを脈ありと見た彼は続ける。
「ある程度ちょっかいを出していれば、向こうもこちらへ注目せざるを得なくなるでしょうし、無駄な損害を出さずに済みます。無論、偵察の結果が良ければ、本土攻撃も目処に入れるということにすれば」
「そりゃあ名案だ。俺はそっちに賛成するぜ」
話を聞いていた髭面も話に賛同し、話の成り行きを見守っていた他のメンバーも、口々に賛成の意を述べる。それを見た水守は「解りました」と頷いて、その案を受け入れた。
「では、威力偵察にはジェロームさんの部隊に担当して貰いましょう。川口さんの部隊には引き続き訓練を重ねて頂き、然る後にロシアを攻撃する準備を整えて貰います」
「……訓練の件は了解。けれど、本土攻撃に関してはあまり期待しない方が良いと思うわよ」
そう言って、彼女は一足先に資料を手に会議室から出て行った。扉が閉まるのを確認してから、ジェロームが「臆病者め、部隊を纏める者が怯えてどうする」とぼやき、彼もまた会議室から立ち去った。
それから、水守が会議の解散を告げ、各幹部はそれぞれの部署に戻って行った。
全員が会議室から退室したのを待ってから、水守は背もたれに身体を委ねて、独り言のように呟く。
「ロシア攻撃、そんなに無茶かしら……けど、OFMの性能なら……成功するのではなくて?」
誰かに向けて語り掛けるように言ったその声に対する答えは返って来なかった。しんとした静寂が、彼女一人だけの会議室を支配していた。
「それでは、当面の攻撃目標はロシアに絞ると?」
席に座っている一人の男性、厳つい顔に伸びた顎髭を撫でている目が青い西洋人が言った。その言葉に、上座に着いている女性が「ええ」と肯定の意を示した。
「ロシアの対テロ作戦は余りに過激過ぎます。民間人を巻き込むことも厭わない行動を、これ以上見過ごすことはできません。人的被害を最小限に抑える為にも、ここで一度叩いておくか、我々へ目を向けさせるべきです」
そう言う彼女は、年は二十代半頃、東洋系の顔立ちに黒髪をロングに伸ばした、艶やかな印象を受ける女性だった。とても、厳つい男たちやここにいる戦闘部隊のメンバーを纏めるような人物には見えない。だが、彼女こそが、この場に集まって席に着いている全員が認める、この艦と組織の長であった。
だが、その長の言葉を受けて髭面の男は少し唸ってから、恐縮そうに意見を述べる。
「しかしなぁ、あそこは攻めるにはちょっとばかし警戒が厳重過ぎる。OFMのステルス性能すら見破る厳重な防空網に、数だけは一丁前に揃えた対空兵器……」
「それに、第四世代AMWもいる。内陸部に進出したとしても、そこでの戦闘の被害は看過できる物ではないかと……前回のミッドウェイ、ハワイでの被害の補填も、まだ出来ているとは言い難い」
髭面の男に続けるように、その反対側に座っていた眼鏡を掛けた線の細い、優男風の男性が言った。その二人に同意するように、席に着いている他のメンバーも、無言で頷いたり、相槌を打ったりしている。
彼らが言う通り、ロシアの防空網を超えるのはOFMであっても困難極まり無い。さらに、いざ戦闘になったとしても、相手をすることになるのは、ロシアの精鋭部隊と最新鋭のAMWである。未だに練度不足が目立つ現OFM部隊では、被害が出ることは必須であると見えた。
その上、ここ数ヶ月の間に行われた作戦でも、とても作戦成功と呼べるような成果は挙げられておらず、多数のOFMとパイロットが失われる結果となっていた。新しい人員を補充するにしても、OFMを操るにはある特殊な才能──相性と言っても良いものが必要で、そう簡単には集まらないのだ。
今、こうしている間にも、その才がある人員を集めようと担当部署が躍起になっているが、それでも、十分な人数が調達されるには、あと数ヶ月は掛かるだろう。そういう計算になっている。
「防空網を超える手段は有ります。OFMの輸送手段は馬鹿正直に飛んでいくだけではないでしょう。伝手を使えば、陸路を使って侵入することも、撤収することも可能です。幸いなことに、私たちにはそう言ったことが得意な知り合いが何人も居ます」
「しかし、実際の戦闘になった場合の損害はどうするのです。いくらOFMとは言えど、東南アジアで相手をしたような第二、第三世代機と第四世代機では驚異度が桁違い……万が一にもOFMが稼動状態で鹵獲されるようなことにもなれば、この組織の存続にも関わる……水守さん。このタイミングでのロシア攻撃は、私としては反対せざるを得ません」
優男がやや早口になって、上座の女性、水守と呼んだ女性にそう問い掛ける。彼女は少し考えるように目を伏してから、
「……その辺り、戦闘部隊としてはどう思いますか」
唐突に、川口とジェロームの方へと話題を投げた。投げられた方、川口は無言で端末からデータを集め初め、ジェロームは「ふーむ」と腕を組んで唸る。先に口を開いたのは川口だった。
「……こちらの部隊は、東南アジアでそれなりに実戦経験を積んだし、作戦中も被害はそんなに受けてない。けど、ロシアを攻撃するとなると話は別ね。あそこと渡り合える程の技量は、残念だけど持ち合わせてるとは言えないわ」
「我が部隊は、ハワイの戦いで被害を被ったが、練度は着々と上がってきている。かの大国を相手取っても不足はあるまいと考えている」
ここで、戦闘部隊担当の二人の意見が真っ向から対立することになった。互いに一瞥し合った二人を見て、水守は一息吐いて、
「そうですか……ジェロームさんは攻撃に賛成なのですね? そして川口さんは反対であると」
「正直に言って、無謀としか言いようがないわ」
「そんなことはない、我が精鋭とOFMがあれば、攻撃任務でも何でもこなして見せるぞ」
「戦闘担当のお二人の考えは解りました。では、本土攻撃は一先ず置いて、威力偵察をしてみると言うのは」
眼鏡の男が提案した言葉に、水守が「ふむ……」と一考する素振りを見せる。それを脈ありと見た彼は続ける。
「ある程度ちょっかいを出していれば、向こうもこちらへ注目せざるを得なくなるでしょうし、無駄な損害を出さずに済みます。無論、偵察の結果が良ければ、本土攻撃も目処に入れるということにすれば」
「そりゃあ名案だ。俺はそっちに賛成するぜ」
話を聞いていた髭面も話に賛同し、話の成り行きを見守っていた他のメンバーも、口々に賛成の意を述べる。それを見た水守は「解りました」と頷いて、その案を受け入れた。
「では、威力偵察にはジェロームさんの部隊に担当して貰いましょう。川口さんの部隊には引き続き訓練を重ねて頂き、然る後にロシアを攻撃する準備を整えて貰います」
「……訓練の件は了解。けれど、本土攻撃に関してはあまり期待しない方が良いと思うわよ」
そう言って、彼女は一足先に資料を手に会議室から出て行った。扉が閉まるのを確認してから、ジェロームが「臆病者め、部隊を纏める者が怯えてどうする」とぼやき、彼もまた会議室から立ち去った。
それから、水守が会議の解散を告げ、各幹部はそれぞれの部署に戻って行った。
全員が会議室から退室したのを待ってから、水守は背もたれに身体を委ねて、独り言のように呟く。
「ロシア攻撃、そんなに無茶かしら……けど、OFMの性能なら……成功するのではなくて?」
誰かに向けて語り掛けるように言ったその声に対する答えは返って来なかった。しんとした静寂が、彼女一人だけの会議室を支配していた。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
美少女アンドロイドが空から落ちてきたので家族になりました。
きのせ
SF
通学の途中で、空から落ちて来た美少女。彼女は、宇宙人に作られたアンドロイドだった。そんな彼女と一つ屋根の下で暮らすことになったから、さあ大変。様々な事件に巻き込まれていく事に。最悪のアンドロイド・バトルが開幕する
❤️レムールアーナ人の遺産❤️
apusuking
SF
アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。
神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。
時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。
レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。
宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。
3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~
MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。
戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。
そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。
親友が起こしたキャスター強奪事件。
そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。
それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。
新たな歴史が始まる。
************************************************
小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。
投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる