自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字

文字の大きさ
上 下
237 / 344
第三十三話「文化祭の大騒ぎについて」

閑古鳥の対策

しおりを挟む
 一悶着あったものの、パイロットスーツ喫茶は好評で、中々の売り上げを出した。主に扇情的な様相の女性陣と、比乃の料理の腕が功を奏した結果となった。これには実行委員の晃も、いつの間にかスタッフのまとめ役になっていた紫蘭もにっこりである。

 そして二日目。ミス歓天喜地高校コンテストと言う、女子生徒ナンバーワンを投票と審査で決めるイベントがあり、それにメアリやアイヴィー、紫蘭に心視までもが参加して、白熱したアピール勝負をして大いに盛り上がった。

 その他にも、並行して開催された料理自慢対決では、決勝戦にて、調理部の鉄血の料理人を名乗るゴツい男子生徒と、持ち前の女子力で勝ち進んだ比乃が対決した。結果、ほんの僅差で鉄血の料理人が勝利。最後は、健闘を称え合って、両者が涙を流しながら抱き締め合う暑苦しい出来事もあった。

 また、その裏で行われた男子腕相撲大会では、おおよその予想通り、志度がその圧倒的身体能力を持って無双した為にまともな大会にならず。名誉チャンピオンに任命という名の“来年から出場禁止“を言い渡されたりと、各々は企画されていたイベントを存分に満喫していた。

 そうしてやってきた文化祭最終日。二年A組の教室は――

「……客が来ない!」

「来ないね」

「来ませんねぇ……」

 紫蘭、アイヴィー、メアリが暇そうに手に持ったメニュー表をパタパタする。そう、パイロットスーツ喫茶は、三日目にして、まさかの閑古鳥が鳴く状況に陥っていたのだ。

 単純に飽きられたのか、それとも他の要因があるのか、定かではないが、あまりよろしくない状況なのは、厨房で暇そうに待機している比乃から見ても確かだった。

「ううむ……このままでは打ち上げコンパの予算に影響が出てしまうぞ……」

「そうなの?」

「ああ、打ち上げコンパだけは、学校からの予算ではなく模擬店の売り上げで予算を組んで行われる。つまり、売り上げが悪いとその分だけ規模がしょぼくなってしまうのだ」

「その、打ち上げコンパと言うのは何なんでしょう?  何か打ち上げるのですか?」

「端的に言えばパーティみたいな物だ。今年はお前たちも、ひびのんたちもいるし、盛大な物にしようと思っていたのだ。というか、会場の予約はすでに済ませてある。コンパ会場を決めるのは私の担当だしな」

「へぇ、初耳だなそれ……もし、売り上げが足りないとどうなるんだ?」

「うむ、ざっと売り上げ予想を組んで、それに合わせたランクの店を予約しておいたからな。予想よりも売り上げが下回った場合は、足りない分をクラスで自腹切ることに――」

「阿保かお前は!」

「あいたーっ?!」

 途中から会話に混ざっていた晃が、持っていたメニュー表で紫蘭の後頭部を引っ叩いた。すぱーんっと良い音が教室に響き渡るが、それと同時に、話を聞いていたクラスメイトたちがざわつき始める。

「おいおい、打ち上げで自腹ってマジかよ」
「えー、私今月財布ピンチなんだけど……」
「というか、何故、誰にも相談せず勝手に店を予約してんだ」
「森羅だからだろうなぁ……」

「静まれぃ、静まれーい!  売り上げさえ予想に到たちすれば問題ない!  だからそんな目で私を見るな!」

 段々と視線が痛くなって来たのか、紫蘭が慌てて場を制しようとする。そこへ、教室へと一人の男子生徒が飛び込んで来た。富田である。肩で息をしながら「報告!」と声を上げる。

「他のクラスの仮装喫茶、すげぇ盛り上がってるぞ!」

「なにぃ?  二番煎じ三番煎じが何か策を企てたというのか?」

「ああ……すっげぇ過激な水着で接客してた。エプロンすら着けてねぇ」

 その報告に、男子生徒たちが「おおっ?!」と、一斉に声を上げて、我先にと教室を飛び出そうとする。が、その前に紫蘭が腕を組んだまま、脚で扉をばんっと閉めて制止した。

「なるほど、遂にPTA判定ギリギリの策に出たわけか……余程焦ったと見える。余裕の無さが丸見えだ」

「け、けどよ森羅、それでもあれは余りにも有効過ぎる作戦だぜ。どうやって対抗するんだよ」

 富田たちが、何か対抗策はないのかと、紫蘭に問うように視線を向ける。数秒、考えるように俯いて、唐突に顔を上げて「ふっ」と息を吐くと、思いついた対抗策を告げた。それは、

「ならばこちらも露出度を上げるしかあるまい!  鋏を持てぃ!」

「いや駄目だからね」

 どこからか取り出した鋏で、スーツに切れ込みを入れようとした彼女の後頭部を、厨房から事を見守っていた比乃が素早く引っ叩いて止めた。もっとも、耐刃繊維のスーツは、鋏などでは切れないのだが、乱暴に扱うと比乃が怒られるのである。

「スーツは乱暴に扱わないって約束で貸し出してるんだから、そういうのは禁止だよ」

「うう……脳細胞が死んでいく……では、半脱ぎはどうだ?」

「ふむ、半脱ぎ……」

 今、紫蘭や他の生徒たちが着ているパイロットスーツは、前に首元から股にかけてファスナーが付いていた。それを上げ下げする事で、着脱する仕組みになっている。それを下ろせば、確かに扇情的な姿にはなるだろう。しかし、

「……それ、下手したら丸見えにならない?」

 比乃のもっともな意見に、しかし紫蘭は躊躇する様子もなく、

「ぎりぎりで止めておけば平気だろう!  私は売り上げの為ならその程度、造作もなく出来る!」

 彼女の男らしい宣言に、男子生徒の二度目の「おおっ?!」という声と、女子生徒たちの「ええー?!」という困惑と抗議の声が上がった。

「私、そこまで露出するのはちょっと……」
「森羅と違って芸人枠じゃないし……」
「そこんとこ一緒にしてほしくないって言うか……」

「おいそこ!  私は芸人でもなんでもないぞ!  お前たちと同じ普通の女子高生だからな!」

「というか、模擬店の内容だけじゃなくてそこまで二番煎じなのもなぁ」

 晃の一言に、またしてもうーんと悩み始める一同、そこで、心視がはたと閃いた。

「だったら……料理の味で、勝負すれば?」

「それも無くはないが、うちのメイン料理長。昨日の料理自慢対決で負けてるからな……」

「いやぁ、面目無い」

 参加チーム十数の内、一応は二位を勝ち取っている比乃が、申し訳なさそうに頭を下げた。ちなみに、件の調理部の模擬店は、行列が並ぶ人気店となっている。そこと客を取り合うのも、中々難しいだろう。

「うーむ……それでは最後の手段だが、致し方ない」

 紫蘭はエプロンのポケットから携帯端末を取り出して、クラス全員に見えるように掲げて見せて言った。

「サクラを呼ぶぞ!  今日は日曜日だし、今からでも家族とか呼べるだろ!」

 彼女の提案に、クラスメイトたちは仕方がないと、携帯端末を取り出して、各々誰かしらに連絡を取り始めた。流れ的に、比乃たちも呼んだ方が良いのだろうが、自分たちの知り合いの大半は沖縄か国外である。少し悩んでから、

「あ、そうだ」

 比乃は一つ、心当たりを思い出して、携帯端末を操作し始めた。それを見た志度と心視も、習うようにして連絡を取り始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...