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第三十三話「文化祭の大騒ぎについて」

開会式

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 比乃たちが英国での作戦を無事に終えて帰国してから、一ヶ月程経った。

 その間、戻ってきた比乃たちは、学校行事である文化祭の準備に参加したり、紫蘭が騒ぎを起こした後始末をしたり、メアリが騒ぎを起こした後始末をしたり、小規模なテロ騒ぎがあって出動したりしたが、比較的平穏に時は過ぎていき、文化祭の準備も特に滞り無く進んで行った。

 そして、文化祭当日。

「えー本日は晴天なり、本日は晴天なり。皆、今日まで準備ご苦労だった」

 校庭のグラウンドの特設ステージで、文化祭の開会式が執り行われた。そのステージは、煌びやかな飾りが施されたかなり豪華なもので、わざわざ、外部の業者に発注して造らせた代物であった。さらに、校庭の上には横断幕まで掲げられ、万国旗やテープリボン、金箔などなど、様々な飾り付けが校舎を飾り立てている。

 その壇上で、衆目の中、有頂天校長が開会の挨拶をしていた。ツルッとした頭に、何故かちょんまげを乗せ、手にした金色の扇子をぱたぱたさせながら、グラウンドに居並ぶ生徒たちへ向けて、慰労の言葉をかけている。

 一ヶ月前、比乃は部隊長に、文化祭は大した規模ではないと言ったが、それは大きな間違いであった。
 文化祭ということで、校長は他校では中々見られない采配を行ったのだ。授業をいくつか潰して準備時間に当て、予算は学校持ちでどばどばと出され、校外への宣伝活動も、学校主導で大規模に行われた。これらによって、とても一ヶ月と少しで用意されたとは思えない規模になっていた。

「それでは三日間と短いが、各位、思う存分に楽しむが良い!」

 扇子から紙吹雪を撒き散らしながら「だーっはっはっはっ」と大笑いして、壇上から降りた校長に続いて、実行委員や保健委員から細かい注意事項が告げらる。それらが終わると、司会の放送委員が言った。

『それでは生徒会長、荒山 猛アラヤマ タケルさんからのお言葉です』

 紹介を受けて壇上に現れたのは、パンチパーマに黒い肌、何故かグラサンをかけており、制服の前は全開に開けている人物だった。ズボンは勿論腰パンの位置で、チェーンをじゃらじゃらつけている。その後ろに「?!」のテロップが出て来そうな、見事なヤンキースタイルの生徒であった。

「えっ、あれが生徒会長?」

「な、なんというか」

「凄い……ロックな格好……」

 この学校の生徒会長を始めて見た三人が驚きの声を上げる中、周囲の生徒たちは「よっ、番長!」「待ってました!」などと、テンション高めに拍手や口笛で彼の登場を盛り上げた。

 ゆったりとした動作で壇上に上がった彼が、すっと手を上げると、盛り上がって居た生徒たちが一瞬で静かになる。それを確認した荒山会長は、マイクを手に取り、年齢に合っていないダミ声で話し始めた。

「あーてめぇら、準備ご苦労だった……センコーから授業の時間を貰ってまで用意した文化祭だ……てめぇら、全力で楽しめ。ただし、羽目を外し過ぎてセンコーに迷惑だけはかけるんじゃねぇぞ。わかったか」

 その言葉に、未だに戸惑い気味の比乃らと英国組以外の生徒が、一斉に「押忍!!」と返事をした。それを見て、満足げに頰を釣り上げた会長は「それじゃあ、文化祭の開幕を宣言する」と、そのまま壇上から降りていった。

『えー、ばんちょ……生徒会長からのお言葉でした。それでは全生徒は各自の教室に集まってください』

「今、番長って言いかけたよね……?」

「番長ってなんだ?  偉いのか?」

「まぁ、偉い人と言えばそうだけど……」

 どういう基準で生徒会長が決まったんだろう――この高校の七不思議に首を傾げている比乃たちの周囲で、わっと盛り上がった生徒たちが自分たちの教室に移動し始めた。

 歓天喜地高校文化祭、開幕である。

 ***

「いらっしゃいませー、コスプレパイロット喫茶、略してコスパイ喫茶へようこそー」

 そう言って来店した客を席へ案内しているのは、自衛隊機士科が採用しているパイロットスーツを着て、その上からエプロンを装着した女生徒であった。

 ぴっちりとした、一見すると格好良い模様が入った、全身タイツのようなデザインのそれを着た女子高生と言うのは、なんとも艶やかで、どこか健康的ないやらしさを感じさせる。そんな雰囲気を醸し出していた。客引きには効果覿面である。

 一方で、男子生徒も負けてはいない。体育会系の体型と筋肉に自信有りの男子が「らっしゃませー!」と大声を張り上げながら、無駄に爽やかな笑みを浮かべて女性客を出迎えている。

「……いらっしゃい、ませ」

「らっしゃいらっしゃい!  安いよ美味いよ!  お客さん寄っといで!」

 接客に回された、いつもの無表情のまま客を席に案内する心視と、どこで覚えたのか、商店街のおっさんみたいな客引きをしている志度の二人も、客を呼び寄せるのに一役買っていた。
 何せ、金髪ツインテールと白髪赤目、そして美少女と美少年のコンビである。その容姿に釣られる客は少なくなかった。

 しかし、客引きにおいて、特に男性客に対して、更に上の存在がいた。それは、

「い、いらっしゃいませー、ようこそコスパイ喫茶へー」

「アイヴィー、もっと堂々としないと駄目ですよ?」

「そうだぞ!  もじもじスタイルも良いがもっとスタイルを前面に押し出していくんだ!」

 恥ずかしそうにもじもじするアイヴィーを、同じ姿なのに恥じらいを一切見せないメアリと、羞恥心皆無の紫蘭が煽る。

 赤毛のロングヘアに碧眼。そしてクラスでも随一のナイスバディを誇るアイヴィーと、金髪碧眼に、神によって創造されたかのようなスタイルを持ったメアリ、そして、正に二人を足して割ったような肢体を持つ紫蘭であった。

 全身タイツのような服装で表された、その三人の破壊力は半端ではなかった。特に、アイヴィーのエプロン越しでも分かる豊かな胸と尻が、男性客を魅了していた。
 なお、それを見ていた心視が、自分の胸を撫で下ろして落ち込んでいるのには、誰も気付いていない。

 一方、教室の奥の厨房では、

「三番席のオムライス出来たよ!  持ってって!」

「一番席にホットドックとアイスコーヒー!   二番席タラコパスタ、五番席カレーライス!」

「よろこんでぇ!」

 教室に作られた仕切り板の向こう側、調理担当の女子生徒に混ざった比乃が、ガスコンロの上で熱を帯びているフライパンを揺らしながら答える。そう、今回のコスプレ喫茶で、比乃は厨房担当になっているのだ。

 当初、比乃に接客をさせるか、裏方をさせるかでクラスが割れたのだが、心視と志度の「比乃の料理は上手い、そして早い」という鶴の一声によって、本人の意思と無関係に厨房係に任命されたのだ。
 任命されたからには全力で、というのが比乃の信条。先程から、どんどん舞い込んでくるオーダーをプロ顔負けの動きで、ほぼ一人で捌き切っていた。

「す、凄いわ日比野君。まるで阿修羅像みたいな手の動きしてる……!」
「私たち、いらなくない?」
「ふっ、流石は俺の比乃だ……やってくれるぜ」

「言ってないでこっち手伝って、流石に一人じゃ限界だから!」

 比乃の声に女生徒たちが「はーい」と調理の補助に入って行き、見物していた男子生徒も接客に戻る。
 客足も上々、料理の味も評判になりつつあり、コスパイ喫茶は成功と言える盛況を見せていた。
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