自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第三十一話「英国の決戦について」

市街地での戦闘

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『それではパーティと行きましょうか、ハハッ!』

 笑い声と共に、黄色いAMWが、対戦車ミサイルの着弾によって生じた土煙を切り裂くように、猛然と突っ込んできた。手にしているのは小振りの装備だけだが、それでも油断ならない。そして今、その小さな拳銃が、安久機に向けられた。

『まずは景気付けと行きましょうか!』

 発砲。それと同時に、拳銃の前方の空間がぐにゃりと歪んだ。安久は防楯による防御など考えず、即座に横っ飛びでその射線から逃れる。そのすぐ後に着弾。安久が居た地点の後ろにあったビルに、大穴が空き、建造物が倒壊する。

 まるで、空間ごと消しとばしたかのような攻撃に、安久は仰天しながらも、機体の動きを止めない。相手に距離を詰められないように、回避運動を取り続けながら、味方に指示を飛ばす。

『どういう手品だっ、各機、距離を取りつつ応戦しろ!  直撃を貰ったらひとたまりも無いぞ!』

『『了解!』』

 言いながら、安久機が、宇佐美機が、志度機が、それぞれ相手のそれよりも倍近く大型の拳銃、短筒を構えて撃った。安久と宇佐美の正確無比な射撃が、黄色いボディを粉砕するかに思えた。しかし、

『はっはぁ!  こそばゆいですねぇ!』

 相手が嬌声と同時に腕を振るうと、それらの徹甲弾は、なんの苦もなく弾かれた。周囲に飛び散った弾丸の欠片が、建造物に突き刺さる。明らかに、自分たちが知っているOFMの防御障壁よりも、強力な代物であった。対抗策もなくは無いが――

『正に化け物か、くそったれ!』

 悪態を吐きながら、安久が腰の光分子カッターに手をかける。接近戦は危険だが、フォトン粒子由来の防御手段に対抗できるのは、同じフォトン粒子由来の攻撃手段に他ならないはずだ。

 安久がそれを抜くよりも早く、同じことを考えていたらしい宇佐美のTkー7改と、近接格闘戦仕様であるジャックのカーテナが、ビルの陰から飛び出していた。腰から光り輝く刀身を抜き出した宇佐美と、大型の超振動ブレード“カーテナ”を背中から振り抜いたジャックが、同時に跳躍。

『knight1、合わせて!』

『了解した!』

 言うが早いか、一斉に相手の左右から斬りかかる二機のAMW。回避するのも、防ぐのも不可能に思えるタイミングでの挟み撃ち。それに対し、敵機は慌てた様子も見せず、ただ両手を左右に広げた。それだけで、

『――きゃあっ!』

『なんとっ』

 斬りかかった側の二人が、見えない壁に弾き飛ばされるようにして、吹っ飛ばされた。予想だにしなかった反撃に、二人は上手く着地できずに、建物に叩き付けられてしまう。ジャックは倒れた機体を、馬力に物を言わせて強引に素早く起き上がらせ、すぐに別の建物の裏へと身を隠す。

『さぁて、まずは一機――』

 しかし、カーテナほど馬力も反応も良くないがために、まだ姿勢を立て直せていないTkー7改に、黄色い機体が、拳銃を向ける。無慈悲に放たれる不可視の弾丸。回避は出来ない。ならばと、不完全な姿勢ながらも、なんとか左腕に付けた小型防楯を相手に向けて、システムを作動。

 その直後、間一髪のところで、光り輝く盾と見えない弾丸が衝突した。人の知る物理法則を超えたもの同士による力の押し合い。勝ったのは、不可視の弾丸だった。

 僅かに逸れた弾丸は、Tkー7改の防楯と左肩を吹き飛ばすと、その余波で後ろの建造物にまた穴を開けた。倒壊し、落ちてくる瓦礫から逃れるように、片腕を失ったTkー7改は転がるようにそこから逃げる。

『今のは流石に死んだと思ったわ!  男だったらタマヒュンってやつね!』

『言ってる場合か阿保!  しかしあいつめ、フォトンシールドを貫通させたぞ』

『あんまりあてにしない方がいいかもね。技本には悪いけど、光分子カッターも効果薄そうだったし、今回は技本の株下げ回かしら?』

 そんなやり取りをしている間にも、銃口を向けられ、衝撃音と共に見えない何かが飛来する。それを避けようと動き続ける四機に、まるで狩りでもしているかのように、黄色い機体は時折楽しげに笑いながら、銃撃を続ける。

 そうしている間に、四機は距離を取って、身近な建造物の裏へと身を隠す。相手はこちらを見失った様子で、頭部を巡らせながら、自身が破壊した市街地を、不意打ちを警戒する様子もなく悠然と歩いている。

『おやおやー、隠れんぼですか?  私は別に構いませんが、そちらにはタイムリミットがあるのではないのですかー?』

 拡声器越しに挑発しながら、街の中を散策するように動く敵機。その隠す気が全くない動きをセンサーで探知し続け、身を隠した場所を悟られないように注意しながら、作戦会議を行なっていた。

『志度のフォトンバンカーならいけると思うか』

『しょーじき怪しいかも、触れる前に吹っ飛ばされるのがオチっぽい』

『必要なら俺はやるぜ、俺はやるぜ!』

『……それなら私に案があるのだが、良いだろうか、teacher1』

『言ってくれ、knight1』

『うむ、私が思うにあの防御壁は――』

 僅か一分足らずの議論の末、安久と宇佐美の二機は一斉に物陰から飛び出した。獲物を見つけた敵機が喜びの声をあげて、拳銃を一番近くに居た安久機に向ける。適当に照準して、発砲。
 安久のTkー7改が一瞬いた場所を、見えない弾が穿つ。
 続いて、距離を詰めようとした宇佐美機に標的を変えて撃つ。これを宇佐美は危なげなく回避する。

(そうだ、もっと撃ってこい!)

 安久機と宇佐美機は攻撃を誘うように、ビル群から姿を晒しながら反撃、弾丸は相手が腕を振るうだけで叩き落とされる。しかし、それでも反撃は辞めない、いくら攻撃を無効化されても、構わず撃ち続ける。

『鬱陶しいですねぇ、小細工か何か知りませんが……』

 数発目を叩き落とした相手の、いらついた声。その背後で、ゆらりと空間から滲み出る機影があった。光学迷彩で姿を消して、相手の背後に忍び寄っていたジャックのカーテナ。それが高振動ブレードを腰だめに構えて出現したのだ。

『――獲った!』

 そのまま刺突を繰り出すカーテナ。相手は反応仕切れていない。そして、あの不可視の障壁も生じていなかった。
 ジャックの目論見は正しかった。あの防御壁は、操縦者が意識した方向にしか発動できないのだ。その隙を突いた作戦。相手はあまりにも容易く策に引っかかった。

 その鋭い切っ先が、黄色い胴体に今度こそ到達する。
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