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第二十八話「戦場での再会と奪還作戦について」
招かれざる敵
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一方その頃。空母の護衛を担っていたズムウォルト級駆逐艦の艦橋内は、騒然としていた。高周波ソナーで近辺海域を警戒していた観測員が、自分たちの艦隊が展開している地点から、僅か五キロの水中に、未知の動体を探知したのだ。
データベースを照合しても、何れの艦とも一致しないアンノウン。艦隊の警戒網を潜り抜けて、こんな近海まで近付いて来れる潜水艦の正体について、艦長と副長が議論を重ねていた。
「大きさからして原子力潜水艦かと、テロリストの物でしょうか」
「いや、しかしそれならば何故態々浮上しているのかがわからん。アンノウンに動きは?」
「依然として浮上中……いえ、動きがありました。何かを射出した模様」
「何かではわからん。報告は明確にしろ」
艦長が苛ついた口調で言うと、ソナー員は戸惑った様子で続ける。
「それが、この反応はデータに無く……いや、今照合終わりました……“OFM”です!」
「なんだと?!」
その報告に、ズムウォルト級の艦長は叫び、副長は唸り声を上げた。ここに来て、第三勢力が登場すると、作戦事態に大きな悪影響が及ぶ。上陸部隊の進行が思わしくなく、未だに飛行場から飛び立って来るテロリストの航空部隊を相手しているだけでも、こちらは手一杯だと言うのに。
「アンノウン、再び潜行します。射出されたOFMは十五、一直線に空港へと向かっています!」
「いったい、何が目的なんだ……」
副長が思わず呟いた。突如として現れた第三の敵の目的、推測できる範囲であれば、漁夫の利を狙って、戦力を損耗している自分たちとテロリストを叩きに来たという線が濃厚だ。そのまま、空港施設の占領を行うなども考えられる。しかしそれは、これまでのOFMの行動原理とかけ離れている。
奴らの目的は未だに不明ながらも、その行動原理はある程度パターン化されていた。戦場に突然現れて、無差別攻撃を仕掛け、両戦力を行動不能に陥らせる。それだけだ。施設を占領するわけでも、戦闘員を殲滅するわけでもなく、戦場を荒らして去っていく。双方からしたら、正に邪魔者、迷惑他ならない存在であった。
淳良の目的はわからないが、上陸部隊を狙うことは間違いないだろう。艦長は素早く「アンノウンの痕跡、データを取れるだけ取っておけ」とソナー員に指示してから、通信士にも指示を出す。
「上陸部隊に情報を送れ、招かれざる客が来たと」
「了解」
そうしている間にも、艦の射程にミグもどきが入り込んで来たことを、別のブリッジ要員が知らせた。敵の航空戦力は、まるで無尽蔵のように湧いて出てくる。第三勢力に注力している暇などなかった。
「ここが踏ん張りどころだ。迎撃用意!」
ズムウォルト級に備えられた対空レーザーが、最大出力で光線を連射し、VLSから対空ミサイルを矢継ぎ早に発射して、敵戦闘機を迎撃しようと試みる。戦闘開始から数時間。海上での戦闘は、何とか五分五分の拮抗状態を保っていた。
原子力潜水艦“ジュエリーボックス”から射出された十五機のOFM、編隊を組んで飛行する右翼の先頭に、白、緑、紫の西洋鎧の姿があった。
第三師団の面子なら一眼見たらすぐわかるであろう、一年前、沖縄の第三師団を襲撃した西洋鎧であった。
『無理するこたぁねぇから後ろにすっこんでろよ白鴎、病み上がりなんだからよ』
「緑川こそ、突っ込み過ぎて無茶するなよ」
『へっ、言うじゃねぇか』
『二人共、話はそこまでにしましょう、戦闘空域に入りますよ』
今回の目的は勿論、“米軍とテロリストの無益な戦いを武力を持って停止させること”である。
その為に、自分達は手段を選ばない。選んでいる間に無駄な血が流れているのだから――今、編隊を率いている指導者から、そのように言い含められている十四人の少年少女達は、米軍とテロリストが乱戦を繰り広げている最中に飛び込もうとしていた。
『それでは参るぞ、皆の衆、私に続け!』
戦端を切り開かんとばかりに、編隊の先頭に立っている赤い、他の機体に比べると派手な装飾をした西洋鎧が、銃剣を振り抜いて叫ぶと、一番近くに来たAMWの一機に狙いを定めて、その穂先から光線を発射した。
「な、なんだ?!」
目の前にいたキャンサーの腕が突然爆発したことに、志度は驚いて声を上げた。相手のキャンサーも、驚愕した様子で攻撃が飛んで来た方を見る。攻撃のチャンスでもあったが、思わず志度もそちらを見やった。
視線の先には、ここで見るはずがないと思っていた敵影があった。色取り取りの西洋鎧、OFMが、編隊を組んで飛来している。それらが各々の武器から光線を乱射しながら、今まさに、乱闘騒ぎをしている滑走路に降り立とうとしていた。
その攻撃は無差別と言った様子で、ブレードとクローで斬り合いを演じていたところに不意打ちを受けたM6とキャンサーが、損傷を受けて距離を取り合った。何故ここにOFMが、いったい何をしに来たのか、戸惑っている間にも、志度の方にも光線が飛んで来た。それを後ろに飛んで危うく避ける。
「おいおい、ここに来て第三勢力登場かよ」
冗談きついぜ、と呟きながら、背後に忍び寄って来ていたキャンサーに向けて、振り向きざまに右腕を振るった。マウントされている超電磁ブレイカーが叩き込まれ、敵を絶命させり。テロリスト側は、第三勢力が現れてもお構い無しらしい。そちらにも被害が出ているというのに、構わずこちらを攻撃してくる。
『こちらAlfa1、パーティに部外者が乱入してきたわ。数は十五。各自、きついとは思うけどこれにも対処するわよ。日本語で言うと漁夫の利って言うのかしら、敵同士で争わせて、弱った所を狙うように立ち回って』
『余裕余裕、M6は対OFM用のAMWなんだから、返り討ちにしてやるわよ!』
『Alfa3……リア、調子に乗ってると痛い目見るわよ。Alfa2、カバーお願いね』
「米軍さんは余裕たっぷりだな全く……」
ぼやきながら、新たに接近して来たキャンサーに向けてファイティングポーズを取る志度。AIが、装備の冷却を終えたことを報告して来たのと同時に、敵機へ目掛けて飛び掛った。
目前のキャンサーは、突撃して来たTkー7改に真正面から立ち向かう。胴体を庇うように左腕を構えた。そこに、全力で振りかぶったブレイカーが接触。構うことなく鉄杭を射出する。爆音と共にキャンサーの左腕が吹き飛んだ。
冷却完了まで数秒。セオリー通りなら、ここで一旦距離を取る所だが、志度は左腕で武装ラックから短筒を引き抜くと、態勢を崩した相手を右腕で掴んだ。至近距離で損傷箇所に銃口を押し付け、
「この距離なら外さねぇ!」
発砲。装甲の内側から飛び込んだ弾丸は、内部をずたずたに破壊し、反対側へと貫徹。キャンサーは力を失って倒れた。
「電磁ブレイカーだって弾数があるんだ。節約しねぇとな」
鉄杭の数は残り五本。OFMの相手もすることを考えれば、出来る限り節約しておきたいところであった。
データベースを照合しても、何れの艦とも一致しないアンノウン。艦隊の警戒網を潜り抜けて、こんな近海まで近付いて来れる潜水艦の正体について、艦長と副長が議論を重ねていた。
「大きさからして原子力潜水艦かと、テロリストの物でしょうか」
「いや、しかしそれならば何故態々浮上しているのかがわからん。アンノウンに動きは?」
「依然として浮上中……いえ、動きがありました。何かを射出した模様」
「何かではわからん。報告は明確にしろ」
艦長が苛ついた口調で言うと、ソナー員は戸惑った様子で続ける。
「それが、この反応はデータに無く……いや、今照合終わりました……“OFM”です!」
「なんだと?!」
その報告に、ズムウォルト級の艦長は叫び、副長は唸り声を上げた。ここに来て、第三勢力が登場すると、作戦事態に大きな悪影響が及ぶ。上陸部隊の進行が思わしくなく、未だに飛行場から飛び立って来るテロリストの航空部隊を相手しているだけでも、こちらは手一杯だと言うのに。
「アンノウン、再び潜行します。射出されたOFMは十五、一直線に空港へと向かっています!」
「いったい、何が目的なんだ……」
副長が思わず呟いた。突如として現れた第三の敵の目的、推測できる範囲であれば、漁夫の利を狙って、戦力を損耗している自分たちとテロリストを叩きに来たという線が濃厚だ。そのまま、空港施設の占領を行うなども考えられる。しかしそれは、これまでのOFMの行動原理とかけ離れている。
奴らの目的は未だに不明ながらも、その行動原理はある程度パターン化されていた。戦場に突然現れて、無差別攻撃を仕掛け、両戦力を行動不能に陥らせる。それだけだ。施設を占領するわけでも、戦闘員を殲滅するわけでもなく、戦場を荒らして去っていく。双方からしたら、正に邪魔者、迷惑他ならない存在であった。
淳良の目的はわからないが、上陸部隊を狙うことは間違いないだろう。艦長は素早く「アンノウンの痕跡、データを取れるだけ取っておけ」とソナー員に指示してから、通信士にも指示を出す。
「上陸部隊に情報を送れ、招かれざる客が来たと」
「了解」
そうしている間にも、艦の射程にミグもどきが入り込んで来たことを、別のブリッジ要員が知らせた。敵の航空戦力は、まるで無尽蔵のように湧いて出てくる。第三勢力に注力している暇などなかった。
「ここが踏ん張りどころだ。迎撃用意!」
ズムウォルト級に備えられた対空レーザーが、最大出力で光線を連射し、VLSから対空ミサイルを矢継ぎ早に発射して、敵戦闘機を迎撃しようと試みる。戦闘開始から数時間。海上での戦闘は、何とか五分五分の拮抗状態を保っていた。
原子力潜水艦“ジュエリーボックス”から射出された十五機のOFM、編隊を組んで飛行する右翼の先頭に、白、緑、紫の西洋鎧の姿があった。
第三師団の面子なら一眼見たらすぐわかるであろう、一年前、沖縄の第三師団を襲撃した西洋鎧であった。
『無理するこたぁねぇから後ろにすっこんでろよ白鴎、病み上がりなんだからよ』
「緑川こそ、突っ込み過ぎて無茶するなよ」
『へっ、言うじゃねぇか』
『二人共、話はそこまでにしましょう、戦闘空域に入りますよ』
今回の目的は勿論、“米軍とテロリストの無益な戦いを武力を持って停止させること”である。
その為に、自分達は手段を選ばない。選んでいる間に無駄な血が流れているのだから――今、編隊を率いている指導者から、そのように言い含められている十四人の少年少女達は、米軍とテロリストが乱戦を繰り広げている最中に飛び込もうとしていた。
『それでは参るぞ、皆の衆、私に続け!』
戦端を切り開かんとばかりに、編隊の先頭に立っている赤い、他の機体に比べると派手な装飾をした西洋鎧が、銃剣を振り抜いて叫ぶと、一番近くに来たAMWの一機に狙いを定めて、その穂先から光線を発射した。
「な、なんだ?!」
目の前にいたキャンサーの腕が突然爆発したことに、志度は驚いて声を上げた。相手のキャンサーも、驚愕した様子で攻撃が飛んで来た方を見る。攻撃のチャンスでもあったが、思わず志度もそちらを見やった。
視線の先には、ここで見るはずがないと思っていた敵影があった。色取り取りの西洋鎧、OFMが、編隊を組んで飛来している。それらが各々の武器から光線を乱射しながら、今まさに、乱闘騒ぎをしている滑走路に降り立とうとしていた。
その攻撃は無差別と言った様子で、ブレードとクローで斬り合いを演じていたところに不意打ちを受けたM6とキャンサーが、損傷を受けて距離を取り合った。何故ここにOFMが、いったい何をしに来たのか、戸惑っている間にも、志度の方にも光線が飛んで来た。それを後ろに飛んで危うく避ける。
「おいおい、ここに来て第三勢力登場かよ」
冗談きついぜ、と呟きながら、背後に忍び寄って来ていたキャンサーに向けて、振り向きざまに右腕を振るった。マウントされている超電磁ブレイカーが叩き込まれ、敵を絶命させり。テロリスト側は、第三勢力が現れてもお構い無しらしい。そちらにも被害が出ているというのに、構わずこちらを攻撃してくる。
『こちらAlfa1、パーティに部外者が乱入してきたわ。数は十五。各自、きついとは思うけどこれにも対処するわよ。日本語で言うと漁夫の利って言うのかしら、敵同士で争わせて、弱った所を狙うように立ち回って』
『余裕余裕、M6は対OFM用のAMWなんだから、返り討ちにしてやるわよ!』
『Alfa3……リア、調子に乗ってると痛い目見るわよ。Alfa2、カバーお願いね』
「米軍さんは余裕たっぷりだな全く……」
ぼやきながら、新たに接近して来たキャンサーに向けてファイティングポーズを取る志度。AIが、装備の冷却を終えたことを報告して来たのと同時に、敵機へ目掛けて飛び掛った。
目前のキャンサーは、突撃して来たTkー7改に真正面から立ち向かう。胴体を庇うように左腕を構えた。そこに、全力で振りかぶったブレイカーが接触。構うことなく鉄杭を射出する。爆音と共にキャンサーの左腕が吹き飛んだ。
冷却完了まで数秒。セオリー通りなら、ここで一旦距離を取る所だが、志度は左腕で武装ラックから短筒を引き抜くと、態勢を崩した相手を右腕で掴んだ。至近距離で損傷箇所に銃口を押し付け、
「この距離なら外さねぇ!」
発砲。装甲の内側から飛び込んだ弾丸は、内部をずたずたに破壊し、反対側へと貫徹。キャンサーは力を失って倒れた。
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