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第二十八話「戦場での再会と奪還作戦について」

指揮官の戦い

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 こちらは元より退路などない。それでもなお、退路を塞ぐように挟み撃ちを仕掛け、そして即座にレールガンの斉射を封じる策として、二方向から部隊を突入させて、得意の乱戦に持ち込む。奇策らしい奇策でもない。正面から、正々堂々と、機体性能と技術を持って、こちらを殲滅するつもりらしい。

 メイヴィスは、オーケアノスの大胆不敵さに舌を巻いた。乱戦の状況は良くない。こちらが包囲される形で始まった乱闘。何より不利な近接戦闘によって、レーダー上の味方機を示すマーカーが一つ、また一つと減って行く。

「各機、お互いの位置に注意しつつ連携を取って、レールガンの使用を許可するわ、ただし射線に注意!」

 生き残っている各機から「了解」と返事が返ってくる。皮肉なことに、射線上の友軍機が少なくなったことで、レールガンを使用する隙が生まれた。早速、自分がいる方とは別方向から、レールガンの轟音が鳴り響いた。

 これで少しでも巻き返せれば良いが、相手を押し返すことが出来なければ、残っているのは自分たちの死と作戦の失敗だ。

 そうならないためにも、今は目の前の相手――オーケアノスをなんとかしなければならない。ライフルを構えたメイヴィスのM6が、自然体で立ってこちらを見ているオーケアノス機を睨みつける。

『気丈だなマダム、この状況下であればこちらの有利は揺るがないというのに』

「お生憎様、うちの部下はそんなに柔じゃないのよ」

『そうか、だが、俺の部下もちょっとやそっとでは破れんぞ……さて、始めよう』

 外部スピーカーでの応酬の後、棒立ちで立っていたオーケアノスのスティンレイが残像を残すかのような速度でM6に迫った。

 鋭い、ただひたすらに鋭い攻撃。はっとした時には、すでに相手は懐に入り込んで来ていた。M6は右足を引くことで、わざと姿勢を崩し、辛うじてクローの一撃をかわした。胸部装甲の表面を、鋭い刃が掠めて火花を上げる。

(強い……!)

 メイヴィスが指揮官としてではなく、一人の操縦兵として、直接オーケアノスと交戦するのはこれが初めてだが、今のだけでもわかる。この敵は、これまで相手にしてきたどんな敵よりも、強いかもしれない。

「だけどっ」

 自分の腕が相手に劣っているなどとは、微塵も思ってはいない。それを認めた時、勝敗は決してしまう。メイヴィス機が崩れた姿勢のまま後方に飛び、一回転して着地すると、猛然とオーケアノス機に足刀を放った。

 頭部に当たる位置に蹴りを受けた衝撃で、敵機がよろめいた。その隙にライフルを腰にマウントすると、代わりに大振りのナイフ、いや、太刀と呼んだ方が近い物を引き抜いた。
 M6に標準装備されている大型ブレード。唸りを上げて起動したそれを、メイヴィスは順手に構える。

 そこに更に刺突が迫る。右へ左へ、それを避けながら、反撃の糸口を探る。相手の攻撃は驚くほど俊敏だが、M6の機動性を持ってすれば、避けることもできる。

 機動力はともかく、装甲の分こちらが不利だが、M6が装備している大型の高振動ブレードであれば、関節部などに攻撃を加えれば大幅な機能低下が見込める。そうやって機動力を削いでいき、レールガンを直撃させる。悠長かつ単純な作戦だが、目の前の難敵に対して、残念なことに他に手はない。

 何度目かの攻撃の時、オーケアノスが左足を一歩分引いた。これまで観察してわかった。相手の足癖だ。予想通り、鋭い突きが襲いかかってきた。
 メイヴィスはそれを左腕で、横から打ち払うようにして逸らすと、もう片方の腕で保持したブレードを、相手の関節に突き立てんと振り上げた。だが、それが振り下ろされるよりも早く、敵機は突撃と同等の素早さで後退していた。

 三十メートルほどの距離を置いて、お互いに相手の出方を伺うようにジリジリと間合いを詰め合う。

 硬さもそうだが、俊敏さも、この敵機を難敵と言わしめる点であった。出来ることならば、他の友軍機と連携して相手取りたいところだった。しかし、他のM6も目前のキャンサーを相手に一対一、あるいは二対二か、同数同士での戦闘を強いられていた。

 そこでふと、自衛隊機はと一瞬視界を向けた。その先で、一番戦力として懸念していたTkー7改が、文字通り大暴れしていた。
 すでに三機のキャンサーに損傷を負わせている。持ち込んだという最新の武装の力か、それとも操縦兵の技量か、その両方か。

(頼もしい限りね、まったく)

 あちらは任せて置いて問題なさそうだ。であるならば、自分は自分の役目を果たすのみ。メイヴィスは機体を思い切り前進させ、オーケアノスの操るスティンレイに斬りかかった。



『あーもーこいつら硬い!  速い!  おまけにしぶとい、めんどくさい!』

 乱戦状態の中、背中合わせに立ったTkー7改の内片方が、今し方屠った敵機の残骸を蹴り飛ばして言った。宇佐美の機体の手には、薄緑色に発光する細長い刀身の剣があった。

 これはTkー11の装備と同じ、光分子カッターである。腰に括り付けたコンデンサから、フォトン粒子の供給を受けて光り輝く。それは、スティンレイの相転移装甲を物ともせずに斬り伏せていた。自分たちが持つ最大のアドバンテージを無に帰すその刀を前に、他のスティンレイは、自衛隊機への攻撃を躊躇せざるを得なかった。

「文句を言うな、戦闘中だぞ」

 そのもう片方、短筒を油断なく構えている機体は安久のTkー7改だ。腰に宇佐美機と同じ光分子カッターを帯刀しているが、まだ鞘から抜いていなかった。

『こちらchild2、右見ても左見ても敵機と味方機がごっちゃなんだけど、これどうすればいいんだ?!』

 乱戦に持ち込まれて、目の前に現れたキャンサーを処理している間に、志度と逸れてしまっていた。特に心配することもないが、三機で連携が取れていれば、もっと楽に敵を殲滅できるはずだった。安久は志度の状況説明に舌打ちすると、指示とも言えないような指示を出す。

「米軍機を支援しつつこちらに合流しろ、さっさと殲滅するぞ」

 言った側から、米軍のM6を始末し終えた別のスティンレイが三機、安久の前に躍り出て来た。その腕部に備えられたグレネードランチャーが、こちらに向けられる前に。

「ふんっ」

 手にしていた短筒を三点射。一機目は、向けようとしていた腕の肩関節から先が捥げて、二機目は胴体に直撃を食らって仰け反り、三機目は頭部のカメラを撃ち抜かれていた。そこに、宇佐美が嬌声を上げながら飛び込んだ。斬撃が舞い、あっと言う間に三機のスティンレイを斬り伏せた。

『剛が下処理してくれると楽ねー、これからもその調子でよろしく』

「あまり調子に乗っていると足元を掬われるぞ。child2、志度、合流まだか」

『今二機のキャンサーに食いつかれてる!  こいつら硬いし速いしめんどくさい!』

「宇佐美と同じことを言うんじゃない……仕方がない、こちらから合流しに行くぞ」

『あいあいさー』

 宇佐美の適当な返事に対する苦言を漏らし、安久は二機から挟み撃ちを受けている志度の救援に向かったのだった。
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