自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第二十七話「唐突な再会と長距離出張について」

求められる覚悟

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「おさらいになるけど、今回はこれ、日本からの技術提供を受けて開発した新装備、フォトンスラスターを使用するわ。空母から文字通り“発艦”して、敵の防空網を低空から強引に潜り抜ける。その後、空港に展開しているであろう敵航空戦力を殲滅、橋頭堡を築くと共に、制空権の確保を支援する。後詰の本隊は制空権の確保が出来次第、輸送機で駆け付けてくれる手筈になってる」

 そんな無茶な作戦内容を、メイヴィスは淡々と言った。事前にその内容を知らされていて、訓練も積んで来た米兵はもはや何も言わないが、自衛隊組は口々に「力技だね」「……強引」「面白そう!」「楽しそう!」「むぅ……」とそれぞれ感想を漏らした。

 そんな小声も耳に入ったのか、ハンスがぎょろりとこちらを睨んだので、余裕の表情の宇佐美以外は気まずそうに目線を逸らした。それを見ていたメイヴィスは、目付きを少し和らげて、自衛隊組がいる方へ向いて、説明し始めた。

「確かに、力技だし、強引だけど、もうこれ以外に戦力を上陸させる方法がないのよ。制空権を確保できなければ、エアボーンなんて不可能だし、水中を悠長に進んでたらいい的だった」

 その「だった」という言葉が、前回、前々回の攻略戦での結果を言い表していた。特殊装備によって水中を移動可能にしたシュワルツコフは、それは悲惨な運命にあっただろうことは、想像に容易かった。

「それに、敵の航空戦力は空港を叩かない限り嫌というほど沸いて出てくる。それこそ、空母一隻くらいとなら、互角に渡り合えるくらいにはね」

 説明を受けて、表情に出さない安久と、それでも余裕の笑みを浮かべる宇佐美以外の三人、比乃と志度と心視は「うへぇ」と嫌そうなな顔をした。それだけの戦力を有している敵に対して、一番槍となって、攻撃を仕掛けれなければならないとは、とても困難な役回りである。三人は揃って、日本に帰りたいと思った。流石に、口には出さなかった。

「したがって、私たち先遣隊が、どれだけ早く空港を確保できるか、どれだけ多く離陸前の航空機を破壊できるかで、作戦が成否が変わる。作戦がどうなるかは、私たちの頑張り次第ってことね。そして、当然だけど、防衛のためのAMWも出てくると予想されるわ」

 再び説明に戻ったメイヴィスが投影機を操作すると、今度は一機のAMWの画像が表示された。丸っこい胴体に腕についた一対のクロー、そして青い塗装。それを見た比乃はミッドウェイの戦いを思い出して、顔を更に歪めた。他四人も、この機体には苦戦させられている。宇佐美も今度ばかりは、柳眉をぴくりと動かした。

「この詳細不明の青いAMW……仮称はキャンサー。現状でわかっていることは、水陸両用で、すばしっこくて、とにかくタフで、数が多くて、乗り手がどれもこれも只者じゃないってことだけ。こいつらに何機もシュワルツコフが撃破されているわ」

「それだけ解ってれば十分じゃないかな……」

 比乃がぼそりと呟き、両側の二人もうんうんと頷く。その間も、そのAMWに関する説明は続く。

「こいつと正面からやり合うなら、M6のレールガンか、近接戦闘で関節部分に高振動ブレードを叩き込むのが有効ね。ただし、近接戦闘は極力避けたいところね。それで、こっちは嫌という程痛い目を見ているから、出来る限りはレールガンの一斉射で仕留める。自衛隊のTkー7は……」

 そのまま「何か対抗手段はある?」と言いかけて、正直に、それが無ければ戦力外だとは言えず、、言い淀んだメイヴィスだった。それを察して、挙手してから立ち上がった安久が説明する。周囲の視線が一斉に向けられる中、緊張もせずに、安久は自分達の装備について説明を始めた。

「我々は対相転移装甲用の兵装を、いくつか輸送して来ております。どれも試作品ですが、実戦での使用は問題ないと、上は判断している代物です。そのキャンサーを相手にしても、問題ないかと」

 それを聞いて、メイヴィスと、隣にいたホリスも安堵の顔を見せた。呼んだ助っ人がここに来て役に立たないとなっては、作戦の成功も危うい。

「なるほど、それじゃあ自衛隊の皆さんにも期待させてもらいましょう。ありがとう安久大尉」

 説明を終えて安久が席に着くと、メイヴィスは「さて」と画面を再びハワイ島周辺図に写し変えた。そして、小悪魔のように微笑んで、恐ろしいことを口走った。

「ちなみにだけど、もしも上陸に失敗した場合、あるいは橋頭堡の確保に失敗した場合。私達は帰りのチケットがないわ。理由は、わかってるわね?」

 帰りの足がない。その理由は単純で、先程、画面に映っていたフォトンスラスターは使い捨てなのである。それも、比乃が見た限りでは、そんなに機動力に優れた代物とは言えない。高速でAMWを輸送するためだけの物だ。

 作戦で示された距離を往復するほどの粒子容量はmTkー7改にもない。片道切符なのはこちらも同じだった。それが解っているのか、米兵たちは表情を硬くして、指揮官であるメイヴィス少佐を不安気に見上げた。

 注目を集めた少佐は、そんな部下達とは対照的に、楽しそうに頰ジリを持ち上げて、三日月のように笑った。

「ハワイから生きて帰れるのは、星条旗を再びホノルルに上げた時だけ……最高に楽しいと思わない?」

 その言葉に、その場にいた米兵達も、自衛官も……宇佐美を除いてだが、ほぼ全員がごくりと唾を飲んだ。途中の撤退は許されない。生きて帰りたければ、作戦を成功させるしかない。

 本当に、とんでもない所に送ってくれたものだと、比乃は心の中で部隊長を呪った。
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