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第二十六話「上官二人と休暇について」
食事と世間話
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それから、がっくりと肩を落として筐体から出てきた三人組に「これからはマナーを守って人に迷惑かけないこと、良いわね!」と宇佐美が沙汰を下して、特に揉めることもなく一件落着した。
強機体を使い、強ポジションに篭ったというのに、正面から突破されたことが余程ショックだったらしく、三人組は不平を漏らすことなくそれを了承して、とぼとぼとゲームコーナーから去って行った。
「ふぅ、悪は滅びたわね……!」
「いや、悪って程の相手でもなかったと思うんですけど」
満足気に腰に手をやって胸を張る宇佐美に、比乃が突っ込みを入れていると、周囲にいたギャラリーがわっと比乃ら三人を取り囲んだ。
周囲の外野からの「あんたら何者だ?」「実はランカーだろ?」「サイン、サインくれ!」というざわめきを無視して、悪目立ちが過ぎたと、一向はギャラリーから逃げるように階下に逃げることになった。
その後は、二階のメダルゲームコーナーで各自で自由行動を取り、更に一時間ほど時間を潰した。心視と志度が、持ち前の超人的な動体視力を活かしてスロットで無双したり、宇佐美と安久が競馬を模したゲームにどハマりして比乃に諌められたりしたが、割愛させていただく。
そして、ゲームセンターの前に再集合した五人は、宇佐美先導の元、近くにあったファミレスで昼食を取ることになった。割と空いている中、禁煙席のボックス席に陣取った五人は、メニューを手に取って吟味し始める。
「今日は私と剛の奢りだから、好きなの頼んでいいわよ!」
そう景気良く言う宇佐美に、比乃と安久が「それはちょっと辞めた方が……」と言ったが、時すでに遅し、心視と志度が即座に店員を呼び。「ご注文をどうぞ」と聞かれれば、
「メニューのこれとこれとこれ、あとこれと……」
「私も、同じの……」
と、メニューに書かれている料理を片っ端から注文し始めた。この二人、普段は抑えているが、結構な大食いなのである。比乃と安久が「あーあ」と顔を抑えるが、宇佐美は余裕の笑みを浮かべている。
「大丈夫よ、経費で落とすから」
「いや、それはいかんだろ」
安久が生真面目に言うと、宇佐美は「冗談よ冗談」とけらけら笑う。
「まぁ経費で落ちなくたって、ここ数ヶ月給料使う暇無かったし、特別手当も出てるから余裕があるのよ……いや、ほんと、自衛隊ってここまでブラックだったかしら……ずっと詰所に缶詰かAMW乗ってるかのどちらかって状態だったのよ……」
「それは……ご愁傷様です」
その笑いがどこか乾いた物になったのを見て、比乃は「長期出張しててよかった」と内心で思った。言ったら摑みかかられそうなので、口には出さなかった。
しばらく待つと、注文された物が続々と机に並び、志度と心視が一心不乱にそれを食べ始める。他三人も、それぞれ適量の料理に手をつけ始めた。そして半分ほど食べ終えた所で、安久がふと話し始める。
「そういえば比乃、つい先週、米軍がハワイのテロ組織に対して一転攻勢を仕掛けたのは知っているか」
聞かれた比乃は、先端に肉を刺したフォークを口元に持っていくのを止めて、記憶を辿るように首を傾げる。
数秒して、数日前にテレビのニュースで少しだけ、それに関連する内容が流れていたのを思い出した。扱いはかなり小さく、ただ「米軍がテロリストに対して攻撃を行った」程度しか報道されていなかったので、その顛末がどうなったかは知らなかった。その規模がかなり大きな物だったことだけは、予想がついた。
数ヶ月前にミッドウェイで自衛隊が大暴れしたことが多少なりともテロ組織の戦力に影響を出し、そこを米軍が突いた形になったその作戦は、
「ああ、あの上陸作戦でしょ? ニュースだとちょっとしか流れなかったから結果は知らないけど、どうなったの?」
「うむ……結果は芳しく無い」
「どうにか橋頭堡を確保できそうって所で、AMWの性能差で押し負けて後退って話よ。航空戦は互角だったみたいだけど」
言い淀んだ安久に代わって、宇佐美がフォークに巻いたパスタをくるくる回しながら答える。そう、米軍による何度目かのハワイ奪還作戦は、今回も失敗に終わっていたのだ。それを聞いた比乃は「うへぇ」と嫌そうな顔をした。
AMWの性能差もそうだが、あの米空軍と米海軍を相手にして、航空戦力が互角という点が、最も強くテロ組織の強大さを表していた。航空戦力の保有数世界一位と同格と言えば、その凄まじさが良く伝わるだろうか。
もしも、その戦力が日本に向けられたら、東京など文字通り火の海になっていただろう。もしかしたら、アメリカの次は日本なのかもしれない、そう考えるとぞっとする。
「米軍と航空戦力で互角って時点で、テロリストの規模がとんでもないってことがよくわかるね。どういう組織力してんだか」
「下手な小国や、下手をすると空自よりも高い戦力を有しているということだからな……それで、数ヶ月後に先行量産したXM6を部隊に加えて再度攻撃を行うらしいんだが、これに日野部一佐が関与しているらしい」
「部隊長が? それまたどうして」
ここに来て突然部隊長の名前が出てきたことに、比乃は怪訝そうに首を傾げた。
あの人脈パイプのオバケのことだから、また裏で何かしら動いているのだろうが、アメリカに対して何をしているというのだろうか。というより、何に関わっているというのか、不可解極まりない。
「詳しいことはわかんないけどねー、人脈使ってどうのこうの裏工作するんじゃない? そうでもなければ」
宇佐美がパスタを巻いたフォークの先端で、席に着いている自分達をぐるりと指し示して、パクリとそれを口に運んだ。
「……自衛隊の派遣とか? はは、無い無い、そんな余裕、自衛隊になんてないのに」
宇佐美が言わんとしたことを自分で言って笑った比乃に、安久も同意するように頷く。
「そうだな、沖縄だけでも手一杯だと言うのに、他国に増援を出す余裕など、我々にはないからな」
「対岸の火事より自分家の火事よねぇ」
宇佐美がそう言って締めると、三人揃って「ははは」と笑い、食事を再開した。
強機体を使い、強ポジションに篭ったというのに、正面から突破されたことが余程ショックだったらしく、三人組は不平を漏らすことなくそれを了承して、とぼとぼとゲームコーナーから去って行った。
「ふぅ、悪は滅びたわね……!」
「いや、悪って程の相手でもなかったと思うんですけど」
満足気に腰に手をやって胸を張る宇佐美に、比乃が突っ込みを入れていると、周囲にいたギャラリーがわっと比乃ら三人を取り囲んだ。
周囲の外野からの「あんたら何者だ?」「実はランカーだろ?」「サイン、サインくれ!」というざわめきを無視して、悪目立ちが過ぎたと、一向はギャラリーから逃げるように階下に逃げることになった。
その後は、二階のメダルゲームコーナーで各自で自由行動を取り、更に一時間ほど時間を潰した。心視と志度が、持ち前の超人的な動体視力を活かしてスロットで無双したり、宇佐美と安久が競馬を模したゲームにどハマりして比乃に諌められたりしたが、割愛させていただく。
そして、ゲームセンターの前に再集合した五人は、宇佐美先導の元、近くにあったファミレスで昼食を取ることになった。割と空いている中、禁煙席のボックス席に陣取った五人は、メニューを手に取って吟味し始める。
「今日は私と剛の奢りだから、好きなの頼んでいいわよ!」
そう景気良く言う宇佐美に、比乃と安久が「それはちょっと辞めた方が……」と言ったが、時すでに遅し、心視と志度が即座に店員を呼び。「ご注文をどうぞ」と聞かれれば、
「メニューのこれとこれとこれ、あとこれと……」
「私も、同じの……」
と、メニューに書かれている料理を片っ端から注文し始めた。この二人、普段は抑えているが、結構な大食いなのである。比乃と安久が「あーあ」と顔を抑えるが、宇佐美は余裕の笑みを浮かべている。
「大丈夫よ、経費で落とすから」
「いや、それはいかんだろ」
安久が生真面目に言うと、宇佐美は「冗談よ冗談」とけらけら笑う。
「まぁ経費で落ちなくたって、ここ数ヶ月給料使う暇無かったし、特別手当も出てるから余裕があるのよ……いや、ほんと、自衛隊ってここまでブラックだったかしら……ずっと詰所に缶詰かAMW乗ってるかのどちらかって状態だったのよ……」
「それは……ご愁傷様です」
その笑いがどこか乾いた物になったのを見て、比乃は「長期出張しててよかった」と内心で思った。言ったら摑みかかられそうなので、口には出さなかった。
しばらく待つと、注文された物が続々と机に並び、志度と心視が一心不乱にそれを食べ始める。他三人も、それぞれ適量の料理に手をつけ始めた。そして半分ほど食べ終えた所で、安久がふと話し始める。
「そういえば比乃、つい先週、米軍がハワイのテロ組織に対して一転攻勢を仕掛けたのは知っているか」
聞かれた比乃は、先端に肉を刺したフォークを口元に持っていくのを止めて、記憶を辿るように首を傾げる。
数秒して、数日前にテレビのニュースで少しだけ、それに関連する内容が流れていたのを思い出した。扱いはかなり小さく、ただ「米軍がテロリストに対して攻撃を行った」程度しか報道されていなかったので、その顛末がどうなったかは知らなかった。その規模がかなり大きな物だったことだけは、予想がついた。
数ヶ月前にミッドウェイで自衛隊が大暴れしたことが多少なりともテロ組織の戦力に影響を出し、そこを米軍が突いた形になったその作戦は、
「ああ、あの上陸作戦でしょ? ニュースだとちょっとしか流れなかったから結果は知らないけど、どうなったの?」
「うむ……結果は芳しく無い」
「どうにか橋頭堡を確保できそうって所で、AMWの性能差で押し負けて後退って話よ。航空戦は互角だったみたいだけど」
言い淀んだ安久に代わって、宇佐美がフォークに巻いたパスタをくるくる回しながら答える。そう、米軍による何度目かのハワイ奪還作戦は、今回も失敗に終わっていたのだ。それを聞いた比乃は「うへぇ」と嫌そうな顔をした。
AMWの性能差もそうだが、あの米空軍と米海軍を相手にして、航空戦力が互角という点が、最も強くテロ組織の強大さを表していた。航空戦力の保有数世界一位と同格と言えば、その凄まじさが良く伝わるだろうか。
もしも、その戦力が日本に向けられたら、東京など文字通り火の海になっていただろう。もしかしたら、アメリカの次は日本なのかもしれない、そう考えるとぞっとする。
「米軍と航空戦力で互角って時点で、テロリストの規模がとんでもないってことがよくわかるね。どういう組織力してんだか」
「下手な小国や、下手をすると空自よりも高い戦力を有しているということだからな……それで、数ヶ月後に先行量産したXM6を部隊に加えて再度攻撃を行うらしいんだが、これに日野部一佐が関与しているらしい」
「部隊長が? それまたどうして」
ここに来て突然部隊長の名前が出てきたことに、比乃は怪訝そうに首を傾げた。
あの人脈パイプのオバケのことだから、また裏で何かしら動いているのだろうが、アメリカに対して何をしているというのだろうか。というより、何に関わっているというのか、不可解極まりない。
「詳しいことはわかんないけどねー、人脈使ってどうのこうの裏工作するんじゃない? そうでもなければ」
宇佐美がパスタを巻いたフォークの先端で、席に着いている自分達をぐるりと指し示して、パクリとそれを口に運んだ。
「……自衛隊の派遣とか? はは、無い無い、そんな余裕、自衛隊になんてないのに」
宇佐美が言わんとしたことを自分で言って笑った比乃に、安久も同意するように頷く。
「そうだな、沖縄だけでも手一杯だと言うのに、他国に増援を出す余裕など、我々にはないからな」
「対岸の火事より自分家の火事よねぇ」
宇佐美がそう言って締めると、三人揃って「ははは」と笑い、食事を再開した。
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