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第二十六話「上官二人と休暇について」

再びのゲームセンター

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 宇佐美のテンションの高さに不安を覚えた比乃であったが、最初の行き先は、至って普通の場所であった。それは、

「で、どうして東京に来てまでゲームセンターなんですか?」

 先ほどの喫茶店から歩いて三十分程の所にある、大型のゲームセンターであった。三階建てのビルが丸々、煌びやかに光る装飾を曝け出している。それを見た志度と心視が「おおー」と、道中で買った鯛焼きを頬張る手を止めて、感嘆の声を上げている。

「ここにちょっとやってみたいゲームがあるのよ。AMW乗りとしては一度はやっておかないと」

「それってもしかして……」

 宇佐美の言い草から、その目当てのゲームが何かを比乃が言い当てる前に、

「さっ、ここからはしばらく自由行動!  私たちと一緒に、ハイスコアを塗り替えに行くも良し、クレーンゲームでもメダルゲームでも好きに遊ぶも良し!  二時間後に入り口に集合よ!」

「ちょっと待て、私たちとは」

「勿論、剛は私と一緒よ!」

 宇佐美は困惑する安久の腕を取って「さぁ、生意気な素人に本物の戦いって物を見せつけに行くわよ!」と、ゲームセンターの奥へとずんずん突き進んで行ってしまった。哀れ、安久は大した抵抗も出来ずに引き摺られて行ってしまう。比乃は安久に向けて小さく合掌してそれを見送る。

「開幕から別行動も、どうかと思うんだけどなぁ……」

 比乃は呟いて、相方二人の様子を見る。鯛焼きを食し終えた二人は、立ち並ぶゲーム筐体に目が釘付けになっていた。どれから遊ぼうかと目を輝かせている。

「とりあえず、お札を両替するかな……」

 同僚二人が勝手にどこかに行かないように目を向けながら、比乃は近くにあった両替機で、持ってきた軍資金の内数千円を硬貨に替える。この二人の好奇心を満たすためにも、弾は多目に用意しておいた方が良いだろうという判断だった。



 今まで来た中で、最も規模が大きいこのゲームセンターは、一階がクレーンゲーム、二階がメダルゲーム、三階がアーケードゲームのコーナー になっていた。その内の一階で、比乃らは大小種別様々なゲーム筐体を前に、悩まし気に話し合いを続けて居た。

「ここは嵩張らない物が景品の奴がいいと思うよ、これからまた歩いたり色々行くだろうし」

「でもよ、ここからなら一旦はんなり荘に戻ってから再出発もできる距離だ。それ考えればどれ選んだって一緒じゃないか?」

「……私、あれがいい……」

「それも一理あるか……けど、だとすると何をすればいいのか定まらないね……お菓子類、特にチョコレートとか、飴が景品の類は避けた方が良さそうだけど、溶けちゃうし」

「溶けたチョコは運びたくねぇなぁ……それじゃあ菓子類は除外して……ぬいぐるみ?」

「って柄でもないよね僕ら」

「……あれが、いい……!」

「わかった、心視わかったから、だから腕を無理に引っ張らないで痛い痛い!」

 腕を割と本気で引っ張り始めた心視に比乃が根を上げて、心視が指差した方向を見る。そこにあったのは、今し方、比乃が「柄でもない」と言った、ぬいぐるみのコーナー があった。しかも、どれもこれも結構大きい。一番小さいのでさえ、比乃の頭ほどある。

「……心視、今僕ら嵩張らない物って話してたんだけど、聞いてた?」

「でも、あれ、可愛い……」

 そう言って、いつもの無感情そうに見える表情を向けているのは、一抱えはありそうな犬のぬいぐるみだった。何らかの大型犬を模したらしい黒い犬。その表情はキリッとしていて、可愛いというよりかは、格好良いと言った方が正しく思える。

 それに早速、志度が食いついて「おお、かっけぇ!」と声をあげた。心視がすかさず「違う……可愛い」と反論する。その隣で、比乃が困ったようにこめかみに手をやった。どうにかして、二人の興味を別の物に惹きつけようと舌を回す。

「いやいや、あんな大きいのどうやって取れば……というか持ち運ぶのにも邪魔だよね。それよりあっちの小さい奴の方が……」

「……ダメ?」

「ダメか?」

「うっ……」

 二人を言いくるめようとした比乃に、無垢な瞳が向けられる。そんな視線を浴びせられた比乃は「じょ、浄化されてしまう」と思わず呟いてから、諦めたように息を吐いた。

「わかったよ。ただし、運ぶのは二人のどちらかね?」

「どっちが運ぶ?」

「二匹取って一匹ずつ運べば……平等」

「それだ!」

「いや、それだ、じゃないから……あんな大きいの二つも部屋に置いたら邪魔でしょうがないでしょ」

 しかし、比乃の抗議を無視して、二人は「二匹ゲットするぞー!」と、比乃が持っていた軍資金の入った小銭入れを奪い取り、元気良くクレーンゲームの筐体へと向かって行ってしまった。

 二人とも、以前、別のゲームセンターで緑髪の少年に教えて貰ったクレーンゲームのノウハウがあるからか、自信満々である。しかし、それが役に立つとは、比乃は到底思えなかった。何せ、対象物の大きさも形も違い過ぎる。

「……そもそも、どうやって取るつもりなんだろう」

 その比乃の呟きは的を得ていて、二人は十分以上粘って軍資金をほとんど使い果たしても、景品のぬいぐるみを取ることはできなかった。

 最終的に、比乃が追加で用意した資金と、携帯端末で検索した「デカいぬいぐるみの取り方」が載っていた、自称プロクレーンゲーマーなる人物が書いたブログに記載されていた方法を使うことで、ようやく、一つゲットした(重要なのは、ぬいぐるみを“掴む”のではなく“投げる”ことだということを知った時、志度と心視は感嘆の声を上げた)。

 比乃からすれば、一つ取れただけでも十分な成果だと思ったのだが、一度取り方を知ってしまえばこちらの物と見た二人は、二つ目を諦めずに再挑戦した。その結果、追加のぬいぐるみを手に入れることは出来ずに、涙目になって財布持ちである比乃のストップを受け入れることになったのだった。

 その様子を眺めていた比乃は「アームの強弱が投入した金額によって変化する」と、記事の下の方に記載されていたことは黙っておこうと、いじける二人を宥めながら思ったのだった。

「さて、この大きくて嵩張るぬいぐるみなんだけど、どっちが持つ?」

「「!!」」

 この後、比乃が手に入れたぬいぐるみを譲ると言って、どちらがそれを貰うかで、揉めるに揉めたのは、言うまでもない。
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