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第二十五話「動き出す闇と新型の優劣について」

城壁破りの戦神

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 赤いAMWに誘い出される形で、廃墟群の中に飛び出した志度だったが、その相手を見失ってしまっていた。
 後を追ったは良いが、ビルとビルの間を利用して、敵は姿を眩ませてしまったのだ。センサーを使おうにも、そのセンサーに対象らしき影は映らない。

 《対象をロスト》

「あんな形してステルスかよ……」

 志度はぼやきながらもセンサーをフル活用して周囲を探る。音、動体、熱。あらゆる反応を探るようにモニターに目配せする。相手がステルス機だとして、どういう理屈で隠密性を獲得しているのか、何よりどうやって造られたのか……Tkー7改二のデータベースにもない、どこのメーカー製かも解らない正体不明の機体。

 志度はその正体不明さに覚えがあった。数ヶ月前、比乃を攫い太平洋のど真ん中で戦った、あのAMWと同じだ。あれも、どのメーカーの機種とも一致しなかった。
 もしも、自分の考えが正しければ、あのテロ組織の機体と同じ輩と見るべきだ。そして、その機体性能と乗り手の技量は、きっと並みではない。

 気付かぬ内に冷や汗をかいていた志度が、それを片手で拭った。そのとき──

 《五時方向 接近警報》

「後ろをっ」

 取られた──志度は機体を全力で左へと横転させた。その一瞬後、巨大な槍による刺突がTkー7改二を襲った。掠めた衝撃で機体が揺れる。とんでもない馬力だ。もし直撃を受けていたら、串刺しにされていただろう。

 横転の姿勢で片手を地面について、そのまま更に横へと飛んだ機体に、更なる刺突が加えられる。が、これは何とか避け切った。地着地した志度が、正面に映った赤い機体を睨みつける。

 全長は推定で九メートル。Tkー7改二よりも一回り長身で逞しい、西洋の戦鎧のような機体だった。その両手に持った巨大な、Tkー7の全長より大きい槍を、なんと片手で保持して振り回している。真っ赤な全身に金色が入ったそのカラーリングから、相手がただの量産機でないことは明白だった。

「とんでもないのを引き受けちまったな……」

 志度は悪態を吐きながら、腰のウェポンラックから高振動ナイフを取り出し、左手に構えた。右腕に装備された電磁ブレイカーが「がしゃり」と音を立てて鉄杭を装填する。

 腰にぶら下がっている短筒は、ペイント弾が入った玩具だ。志度の射撃の腕では頭部カメラに当てるなどという曲芸は出来ない。何より、こちらを品定めするように見ているこの相手に、そんな物が通用しそうな隙が見られなかった。

 見るからに、近接戦闘仕様の未知のAMWに対して、同じ近接戦闘用の装備で挑まなければならないという状況に、志度は思わず舌打ちした。

「でも、やるっきゃないよなぁ!」

 叫んで、志度から仕掛けた。闇雲に見える突進。対して赤い機体は片方の槍をぐるりと一回転させて、その進路上を狙うように突きを放って来た。

 突きが当たると思われた直前、光の粒子を放ちながら志度の機体が直角に曲がった。腰のフォトンスラスターによる強引な方向転換。並みの機士であれば脳震盪でも起こしていそうな挙動だったが、志度はなんてことないように、今度は前方へと加速。

 槍を振るった赤い機体の側面を通り抜けて後方に着くと、その場で急旋回、そのがら空きに見える背中に高振動ナイフを突き刺さんと飛び込んだ。刺突が装甲に達する。しかし、甲高い音と共に弾かれた。確かに背面装甲に入った一撃は、その装甲の表面に弾かれたのだ。

「かってぇ!」

 思わず叫びながら、スラスターを逆噴射させて機体を後退させる。そのすぐ後を、振り向き様の薙ぎが通り過ぎる。振り返った赤い機体が「その程度か?」と言わんばかりに肩を竦ませた。

(ステルスだけじゃなくて相転移装甲か何かまで……あの時のと同じだな)

 ミッドウェイで戦った水陸両用のAMWを思い出す、これで、あの時と同じ組織の機体であることは確信に変わった。ならば、その狙いは比乃だろうか、益々、こいつを向こうにやる訳には行かなくなった。それに、あの時は決定打が無く、どうしようもなかったが、今回は違う。

「今は、こいつがある!」

 《電磁ブレイカー充填完了》

 コンデンサへの充填を終え、帯電し始めた電磁ブレイカーが紫電を纏う。それを構えて、志度は再度突撃を敢行する。今度は最初からスラスターを後方へ向けて吹かし、前方への莫大な推進力を得て、猛然と距離を詰める。相手は槍を振り、今度は真上から叩くようにその巨体を振り下ろした。

「いっけぇ!」

 志度はそれを、下からアッパーカットのように突き上げて立ち向かった。電磁ブレイカーの電力が解放され、超加速を受けた鉄杭が、爆音を立てて槍の巨大な穂先を穿いた。それだけでなく、その衝撃で槍の持ち手から先をバラバラに吹き飛ばした。東京技本の誇る、相転移装甲すら貫くと評判の突貫兵器が、本領発揮した。

「まずは一本!」

 《電磁ブレイカー、再装填開始》

 加速と受けた電磁力の熱で真っ赤に染まった鉄杭が排出され、次の鉄杭が装填される。その間に、志度は再度スラスターを吹かし、驚愕に固まる相手の背後に一瞬で回る。

 《再装填完了》

 AIの報告と同時に、必殺の一撃を背面から叩き込んだ──対し、赤い機体は背中に目でも付いてるような正確さで、もう一本の槍を背面、電磁ブレイカーの進路上に起き、その一撃を防いだ。その槍が吹き飛び、衝撃で赤い機体がたたらを踏む。

「これで二本!」

 目に見える相手の主兵装はこれで奪った。後はその硬い胴体に一撃をくれてやるだけ。余裕の笑みを浮かべた志度だったが、その前で、ゆっくりと振り返った赤い機体が、仰け反るように笑った。そう、笑っているのだ。この状況に陥って尚、楽しそうに。

(なんだ……?)

 怪訝そうにする志度の目の前で、赤い機体が太腿に備え付けられていたウェポンラックから、二振りの高振動ナイフを取り出した。いや、ナイフと呼ぶには大柄で、太刀と呼んだ方がしっくり来る、大型のモデルだ。
 肉厚なその刃を、赤い機体は順手に構えると、先程までの鈍重な動きからは想像も付かない瞬発力で、Tkー7改二に受かって飛び掛った。

「なっ!」

 志度がそれに反応できたのは、相変わらずも超人的な反応速度のおかげだった。辛うじて身を逸らした肩にナイフの切っ先がぶつかり、甲高い音を立てて寸断された。

「槍よりそっちの方が得意ってわけかよ!」

 やけくそ気味に叫んで、志度は機体を躍らせる。赤い機体と白い機体の、狂ったような速さの斬り合いが始まった。
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