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第二十四話「客人と試験について」
志度の分析
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情報集積場と言っても、プレハブ小屋に観測機器の受信装置や電子機器を設置しただけの簡素なものであった。
その中、パイプ椅子に腰掛けた楠木博士は、観測ドローンから送られてきた情報を見て、ほくそ笑んでいた。市街地を縦横無尽に飛び回るTkー11が様々な角度から映された映像と、Tkー11本体から送られてくる搭乗者のデータを見て、上機嫌だった。
「素晴らしい、素晴らしいな彼らは、特に日比野三曹。彼の操縦適正は特に素晴らしい」
「確かに、初回のテストの時もそうでしたが、彼は頭の中に機体が飛行するイメージを、正確に描けている節が見られます。確か、フォトンスラスターを一番多く運用していたのも彼だったはずです」
「その、その経験が生きたか……良い、良い傾向だ」
興奮気味に会話している博士と職員の横で、志度はその映像をじっと眺めていた。
「比乃、まだ加減してんなぁ」
ぼそっと志度が呟いたその言葉に、博士が「む? 」と反応した。
「あれで、あれで加減しているのかね」
データと映像を交互に見比べて、信じられないという顔をする博士。しかし、志度は確信めいた表情で続ける。
「いつもの比乃だったら、もっとがっーと行って、ぎゅいんぎゅいん曲がって、ぐるんぐるんするんだけど、この前のテストからやってないなって思って」
「……抽象的でよくわからないですが、日比野三曹はまだ力をセーブしていると?」
職員の問いに、志度は「ああ」と頷いた。
「多分、人を後ろに乗っけてるからだな。無意識の内に加減してるんだぜきっと」
「むぅ……それは、それは困るな。彼にはネメスィの性能をフルに発揮して貰わなければならない、それこそ、それこそ限界を突破するほどに……」
「俺だったらあんくらいのG、余裕で耐えれられるけど、心視じゃなぁ」
そう言ってのける志度は、確かに、今も映像の中で飛び回っているTkー11の、それ以上の動きにも余裕で耐えることが出来るだろう。三人の中で一番身体が頑丈なのだから。
だが、心視も決してGに弱い訳ではない。それに、機体に常人が耐えられないGがかかっているわけでもないのだ。その証拠に、二人に比べれば身体が弱い比乃本人は、普通に対応して見せている。
要は、対Gの経験が違うのだ。突撃担当の比乃と志度に比べると、狙撃担当の心視は、急制動に対する経験が天と地ほども違う。志度がその旨を出来るだけわかりやすく、端的に話すと、博士と職員達は顔を見合わせた。
「これは盲点でしたね博士……フォトンスラスターを搭載したTkー7改の搭乗経験があると言っても、彼女の使用頻度は日比野三曹に比べれば無いも当然です。」
「むむ、むむむ……しかし、彼女の射撃の腕と日比野三曹との相性は無視できん……慣熟、慣熟してもらう他あるまい」
「それか対Gの基礎訓練を受けてもらうかですね……それにしても、流石は同僚。あれで本気を出せていないなど、我々では気付けませんでしたよ」
「いやぁ、それほどでも……」
職員があげた感嘆の言葉に、志度は照れ臭そうに後頭部を掻く。
「これで射撃の腕が良ければ、問題なくテストパイロットに抜擢できたのですが……」
「残念、残念だが、あの機体の長所の一つを潰すわけにもいかんからな」
「……射撃が下手ですんませんした」
少し拗ねた様子でぼやく志度に、博士と職員が気不味そうにまた顔を見合わせ、博士が誤魔化すように話を逸らした。
「代わりと、代わりと言ってはなんだが、白間三曹には電磁ブレイカーを搭載したTkー7改二のテストをしてもらいたい。Tkー7改二も現状では、現状ではまだまだ現役だしな。その強化プロジェクトも並行して進めねれば、進めねばならんのだ。大事な仕事だが、頼めんかね、白間三曹?」
電磁ブレイカーとは、Tkー9にも搭載されていた対特殊装甲用の近接火器だ。フォトンバッテリーによる大出力の電磁出力によって、鉄杭を高速で射出し、対象物を運動エネルギーで粉砕する兵器である。これを、Tkー7改にも搭載する計画が立てられているのだ。
その破壊力は、相転移装甲やOFMの強固な装甲を貫く程で、対第四世代AMWや、対OFM戦闘における近接戦闘で、主兵装候補に上がる代物である。しかし欠点もあった。その威力の分、癖も非常に強い。あまり万人受けする武装ではないがために、正式採用の目はほぼ無いに等しい。そこまで言うと、また彼が拗ねる気がしたので、博士も空気を読んで、そこは伏せることにした。
最後の「大事な仕事」という部分に反応した志度は、態度を一変する。「俺にぴったりの仕事か博士?!」と目を輝かせた。そのテンションに博士は珍しいことに気圧されながらも、笑顔を浮かべて答えた。
「ああ、ああ、確か君はTkー9でもTkー7でも運用経験があったはずだな、正にぴったりの逸材だ」
「へへ、このまま二人のテスト見てるだけだと思ってたから、安心したぜ……でもあれ、Tkー7で使った時にも思ったけど、でかいし嵩張るし、一発毎に使い捨てだから、すっげぇ使い難かったんだけど、そこら辺は大丈夫なのかよ博士」
過去に扱った時の経験から、一抹の不安を覚える志度であったが、博士は不敵な笑みを浮かべて「心配、心配ご無用」と、笑みを崩さない。
「安心、安心したまえ。以前のものは、Tkー9から強引に転用したその場凌ぎの代物だったが、今回の電磁ブレイカーは、しっかりTkー7用に調整されたものだ。君なら、君なら使いこなせよう。早速、明日にでも運び込ませようじゃないか」
「楠木博士、そんな急には……」
職員が困り顔で言うが、博士は一度言ったら聞かぬと言った風で、懐から携帯端末を取り出して、機材を置くの場所をに間借りしている第八師団駐屯地へと連絡を入れようとする。
「なぁに、なぁに、なんとかなる。善は急げと言うしな、こういうのは早めに済ませておいた方が良い。明日からでもテストをして貰おう。頼んだぞ、白間三曹」
「了解! 全力でテストに励みます!!」
ビシッと敬礼してから、小躍りして喜ぶ志度を尻目に、博士と職員は「ちょろい」「ちょろいな」などと小声で言っていたが、幸いなことに、志度の耳にその言葉は入らなかった。
その中、パイプ椅子に腰掛けた楠木博士は、観測ドローンから送られてきた情報を見て、ほくそ笑んでいた。市街地を縦横無尽に飛び回るTkー11が様々な角度から映された映像と、Tkー11本体から送られてくる搭乗者のデータを見て、上機嫌だった。
「素晴らしい、素晴らしいな彼らは、特に日比野三曹。彼の操縦適正は特に素晴らしい」
「確かに、初回のテストの時もそうでしたが、彼は頭の中に機体が飛行するイメージを、正確に描けている節が見られます。確か、フォトンスラスターを一番多く運用していたのも彼だったはずです」
「その、その経験が生きたか……良い、良い傾向だ」
興奮気味に会話している博士と職員の横で、志度はその映像をじっと眺めていた。
「比乃、まだ加減してんなぁ」
ぼそっと志度が呟いたその言葉に、博士が「む? 」と反応した。
「あれで、あれで加減しているのかね」
データと映像を交互に見比べて、信じられないという顔をする博士。しかし、志度は確信めいた表情で続ける。
「いつもの比乃だったら、もっとがっーと行って、ぎゅいんぎゅいん曲がって、ぐるんぐるんするんだけど、この前のテストからやってないなって思って」
「……抽象的でよくわからないですが、日比野三曹はまだ力をセーブしていると?」
職員の問いに、志度は「ああ」と頷いた。
「多分、人を後ろに乗っけてるからだな。無意識の内に加減してるんだぜきっと」
「むぅ……それは、それは困るな。彼にはネメスィの性能をフルに発揮して貰わなければならない、それこそ、それこそ限界を突破するほどに……」
「俺だったらあんくらいのG、余裕で耐えれられるけど、心視じゃなぁ」
そう言ってのける志度は、確かに、今も映像の中で飛び回っているTkー11の、それ以上の動きにも余裕で耐えることが出来るだろう。三人の中で一番身体が頑丈なのだから。
だが、心視も決してGに弱い訳ではない。それに、機体に常人が耐えられないGがかかっているわけでもないのだ。その証拠に、二人に比べれば身体が弱い比乃本人は、普通に対応して見せている。
要は、対Gの経験が違うのだ。突撃担当の比乃と志度に比べると、狙撃担当の心視は、急制動に対する経験が天と地ほども違う。志度がその旨を出来るだけわかりやすく、端的に話すと、博士と職員達は顔を見合わせた。
「これは盲点でしたね博士……フォトンスラスターを搭載したTkー7改の搭乗経験があると言っても、彼女の使用頻度は日比野三曹に比べれば無いも当然です。」
「むむ、むむむ……しかし、彼女の射撃の腕と日比野三曹との相性は無視できん……慣熟、慣熟してもらう他あるまい」
「それか対Gの基礎訓練を受けてもらうかですね……それにしても、流石は同僚。あれで本気を出せていないなど、我々では気付けませんでしたよ」
「いやぁ、それほどでも……」
職員があげた感嘆の言葉に、志度は照れ臭そうに後頭部を掻く。
「これで射撃の腕が良ければ、問題なくテストパイロットに抜擢できたのですが……」
「残念、残念だが、あの機体の長所の一つを潰すわけにもいかんからな」
「……射撃が下手ですんませんした」
少し拗ねた様子でぼやく志度に、博士と職員が気不味そうにまた顔を見合わせ、博士が誤魔化すように話を逸らした。
「代わりと、代わりと言ってはなんだが、白間三曹には電磁ブレイカーを搭載したTkー7改二のテストをしてもらいたい。Tkー7改二も現状では、現状ではまだまだ現役だしな。その強化プロジェクトも並行して進めねれば、進めねばならんのだ。大事な仕事だが、頼めんかね、白間三曹?」
電磁ブレイカーとは、Tkー9にも搭載されていた対特殊装甲用の近接火器だ。フォトンバッテリーによる大出力の電磁出力によって、鉄杭を高速で射出し、対象物を運動エネルギーで粉砕する兵器である。これを、Tkー7改にも搭載する計画が立てられているのだ。
その破壊力は、相転移装甲やOFMの強固な装甲を貫く程で、対第四世代AMWや、対OFM戦闘における近接戦闘で、主兵装候補に上がる代物である。しかし欠点もあった。その威力の分、癖も非常に強い。あまり万人受けする武装ではないがために、正式採用の目はほぼ無いに等しい。そこまで言うと、また彼が拗ねる気がしたので、博士も空気を読んで、そこは伏せることにした。
最後の「大事な仕事」という部分に反応した志度は、態度を一変する。「俺にぴったりの仕事か博士?!」と目を輝かせた。そのテンションに博士は珍しいことに気圧されながらも、笑顔を浮かべて答えた。
「ああ、ああ、確か君はTkー9でもTkー7でも運用経験があったはずだな、正にぴったりの逸材だ」
「へへ、このまま二人のテスト見てるだけだと思ってたから、安心したぜ……でもあれ、Tkー7で使った時にも思ったけど、でかいし嵩張るし、一発毎に使い捨てだから、すっげぇ使い難かったんだけど、そこら辺は大丈夫なのかよ博士」
過去に扱った時の経験から、一抹の不安を覚える志度であったが、博士は不敵な笑みを浮かべて「心配、心配ご無用」と、笑みを崩さない。
「安心、安心したまえ。以前のものは、Tkー9から強引に転用したその場凌ぎの代物だったが、今回の電磁ブレイカーは、しっかりTkー7用に調整されたものだ。君なら、君なら使いこなせよう。早速、明日にでも運び込ませようじゃないか」
「楠木博士、そんな急には……」
職員が困り顔で言うが、博士は一度言ったら聞かぬと言った風で、懐から携帯端末を取り出して、機材を置くの場所をに間借りしている第八師団駐屯地へと連絡を入れようとする。
「なぁに、なぁに、なんとかなる。善は急げと言うしな、こういうのは早めに済ませておいた方が良い。明日からでもテストをして貰おう。頼んだぞ、白間三曹」
「了解! 全力でテストに励みます!!」
ビシッと敬礼してから、小躍りして喜ぶ志度を尻目に、博士と職員は「ちょろい」「ちょろいな」などと小声で言っていたが、幸いなことに、志度の耳にその言葉は入らなかった。
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