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第二十四話「客人と試験について」
機動テスト
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廃墟となったビル群の中を、純白の機体が背中の羽根を断続的に羽ばたかせながら飛んでいた。飛んでいる。というよりは、“空中で”ジャンプを繰り返して、連続して滞空している。と言った方が正しいだろうか。
時折、ビルの壁面に着地して、周囲を観察するように頭部を巡らせている。その機体はTkー11、ネメスィであった。索敵を終えたTkー11は、再び背中の“羽根”を稼働させ、光の粒子を撒き散らしながら、次の索敵ポイントまで移動する。
「心視、Gきつくない?」
そのコクピットの中、頭にHMDを兼ねたヘッドギアを装着し、前側に座っている比乃が、後ろの心視を気遣うように言った。
「大丈夫、問題ない」
比乃の後ろ、タンデム式コクピットの後部座席に座っている心視は、HMDの下の表情を変えずに答えた。実際、比乃は一人でいるときに比べて、かなり気を使ってスラスターを吹かしていた。なので、心視へかかる負担はほとんど無い。心視としてはむしろ、もっと全力を出して貰っても構わないくらいである。
『日比野三曹、ペース、ペースが先日より落ちているぞ。トラブル、トラブルかね?』
情報集積所にいる楠木博士からの通信。どうも、比乃が加減して飛んでいるのを、何らかのトラブルだと思ったらしい。比乃は慌てて「いえ、機体には異常ありません」と返答した。
「比乃……もっと全力で、飛んでいいよ」
心視から、加減はしなくて良いと言われて、比乃は一瞬悩む。しかし、続けて心視に「これじゃあ……テストにならない」と付け加えられたので、吹っ切れたように「そうだね」と頷いた。
「確かに、これじゃテストに差し障るか……それじゃあ、舌噛まないようにね」
「了解……」
心視が返事をしたのと同時に次のビルへと着地した直後、比乃が強く念じる。搭乗者の意識を正確に汲み取ったTkー11は、思い切り地面を蹴って跳躍し、続けて背中のスラスターが、全力で空中を叩いた。すると、透明の壁を叩いたような音が周囲に鳴り響き、叩いた空中に光の波紋が広がった。次の瞬間、機体はぐんっと加速する。
これが、Tkー11に搭載されているフォトンスラスター、否。スラスターと呼ぶには推進の原理が違いすぎて、正しくはなんと呼称すれば良いのか、まだ正式に決まっていないその装備を、博士たち技術班は便宜上”フォトンウィング“と呼んでいる。
原理としては、空中に展開したフォトン粒子の塊を、同じくフォトン粒子を纏った羽根で叩くことで、空中で再跳躍する。簡単に言えば、空中に見えない床を作り出し、それを踏み台にして飛んでいるのである。アクションゲームにおける、多段ジャンプとでも言えば良いのか。
羽根の内部に粒子をチャージする時間が必要で、連続での使用はできない。それでも、充分な加速力と跳躍力を機体に付与している。画期的な推進装置である。
技術畑ではない比乃らから見ても、とんでもないテクノロジーであった。これの元となった、あの小型大出力のフォトンスラスターを作り上げたのも、楠木博士とその開発チームであると言うのを聞いて、比乃はこのとんでも装備が産まれたのにも、妙に納得してしまったのだった。
「ん……!」
そして今、そのフォトンウィングによって、瞬間的にとは言え、時速三百五十キロ以上の速度が出る急加速に、心視は思わず身を竦めた。まるでジェットコースターのような加速度に、周囲の風景がどんどん後ろへと流れて行く。
逆に比乃は、枷が外れたと言わんばかりに、更に機体を加速させていく。ビルからビルへ、背中の羽根で空中を叩きながら、指定されたポイントまで移動する。
その動きには、未知の機構に対する戸惑いなどは全く見られない。それをカメラで見ていた博士と職員らは、彼がまだTkー11に数回しか乗っていないことが信じられなかった。それ程までに、比乃はTkー11を我が物にしていたのだ。
そして、先程まで加減していた時とは、見違えるような素早さで指定地点へと到達した。五百メートルほど先、ビル群の隙間から、上部にコンパネの的を載せた自走二輪車両が見えた。射撃用の標的だ。
再度跳躍し、それがしっかり見える高いビルの上に降り立つと、背中の羽根が可変し、両肩の上を通って前方に迫り出し、展開した。その先端には大口径の銃口があった。この羽根は、大口径滑腔砲の銃身も兼ねている。
「……私の出番」
そのコントロールを握っている心視が言って、一呼吸。息を止めて、集中。スクリーン上に映し出されたターゲットボックスと照準が即座に重なり、発砲。単発で発射された大口径の徹甲弾は、円が描かれたコンパネのど真ん中を撃ち抜いた。命中を確認した比乃が、口笛を吹いて賞賛する。
「流石は心視、この距離なら余裕だね」
「……倍の距離あっても、いける」
HMDの下で、比乃に褒められえた心視が心なしか嬉しそうに頰を緩める。 と、そこで情報集積所から通信が入る
『見事、見事だ二人共。ターゲットの全破壊を確認した。戻って、戻ってきたまえ……いや、いや、移動から射撃まで本当に見事だった』
楠木博士からのお褒めの言葉に、比乃は「ありがとうございます」と簡潔に返して、比乃が機体に動作を念じる。
「これから帰投します……心視、行くよ」
「了解……」
展開していた羽根を背中に戻したTkー11が、ビルから飛び降りる。背中の羽根で空中を叩いて、格納庫代わりの廃工場へと向けて跳躍した。
時折、ビルの壁面に着地して、周囲を観察するように頭部を巡らせている。その機体はTkー11、ネメスィであった。索敵を終えたTkー11は、再び背中の“羽根”を稼働させ、光の粒子を撒き散らしながら、次の索敵ポイントまで移動する。
「心視、Gきつくない?」
そのコクピットの中、頭にHMDを兼ねたヘッドギアを装着し、前側に座っている比乃が、後ろの心視を気遣うように言った。
「大丈夫、問題ない」
比乃の後ろ、タンデム式コクピットの後部座席に座っている心視は、HMDの下の表情を変えずに答えた。実際、比乃は一人でいるときに比べて、かなり気を使ってスラスターを吹かしていた。なので、心視へかかる負担はほとんど無い。心視としてはむしろ、もっと全力を出して貰っても構わないくらいである。
『日比野三曹、ペース、ペースが先日より落ちているぞ。トラブル、トラブルかね?』
情報集積所にいる楠木博士からの通信。どうも、比乃が加減して飛んでいるのを、何らかのトラブルだと思ったらしい。比乃は慌てて「いえ、機体には異常ありません」と返答した。
「比乃……もっと全力で、飛んでいいよ」
心視から、加減はしなくて良いと言われて、比乃は一瞬悩む。しかし、続けて心視に「これじゃあ……テストにならない」と付け加えられたので、吹っ切れたように「そうだね」と頷いた。
「確かに、これじゃテストに差し障るか……それじゃあ、舌噛まないようにね」
「了解……」
心視が返事をしたのと同時に次のビルへと着地した直後、比乃が強く念じる。搭乗者の意識を正確に汲み取ったTkー11は、思い切り地面を蹴って跳躍し、続けて背中のスラスターが、全力で空中を叩いた。すると、透明の壁を叩いたような音が周囲に鳴り響き、叩いた空中に光の波紋が広がった。次の瞬間、機体はぐんっと加速する。
これが、Tkー11に搭載されているフォトンスラスター、否。スラスターと呼ぶには推進の原理が違いすぎて、正しくはなんと呼称すれば良いのか、まだ正式に決まっていないその装備を、博士たち技術班は便宜上”フォトンウィング“と呼んでいる。
原理としては、空中に展開したフォトン粒子の塊を、同じくフォトン粒子を纏った羽根で叩くことで、空中で再跳躍する。簡単に言えば、空中に見えない床を作り出し、それを踏み台にして飛んでいるのである。アクションゲームにおける、多段ジャンプとでも言えば良いのか。
羽根の内部に粒子をチャージする時間が必要で、連続での使用はできない。それでも、充分な加速力と跳躍力を機体に付与している。画期的な推進装置である。
技術畑ではない比乃らから見ても、とんでもないテクノロジーであった。これの元となった、あの小型大出力のフォトンスラスターを作り上げたのも、楠木博士とその開発チームであると言うのを聞いて、比乃はこのとんでも装備が産まれたのにも、妙に納得してしまったのだった。
「ん……!」
そして今、そのフォトンウィングによって、瞬間的にとは言え、時速三百五十キロ以上の速度が出る急加速に、心視は思わず身を竦めた。まるでジェットコースターのような加速度に、周囲の風景がどんどん後ろへと流れて行く。
逆に比乃は、枷が外れたと言わんばかりに、更に機体を加速させていく。ビルからビルへ、背中の羽根で空中を叩きながら、指定されたポイントまで移動する。
その動きには、未知の機構に対する戸惑いなどは全く見られない。それをカメラで見ていた博士と職員らは、彼がまだTkー11に数回しか乗っていないことが信じられなかった。それ程までに、比乃はTkー11を我が物にしていたのだ。
そして、先程まで加減していた時とは、見違えるような素早さで指定地点へと到達した。五百メートルほど先、ビル群の隙間から、上部にコンパネの的を載せた自走二輪車両が見えた。射撃用の標的だ。
再度跳躍し、それがしっかり見える高いビルの上に降り立つと、背中の羽根が可変し、両肩の上を通って前方に迫り出し、展開した。その先端には大口径の銃口があった。この羽根は、大口径滑腔砲の銃身も兼ねている。
「……私の出番」
そのコントロールを握っている心視が言って、一呼吸。息を止めて、集中。スクリーン上に映し出されたターゲットボックスと照準が即座に重なり、発砲。単発で発射された大口径の徹甲弾は、円が描かれたコンパネのど真ん中を撃ち抜いた。命中を確認した比乃が、口笛を吹いて賞賛する。
「流石は心視、この距離なら余裕だね」
「……倍の距離あっても、いける」
HMDの下で、比乃に褒められえた心視が心なしか嬉しそうに頰を緩める。 と、そこで情報集積所から通信が入る
『見事、見事だ二人共。ターゲットの全破壊を確認した。戻って、戻ってきたまえ……いや、いや、移動から射撃まで本当に見事だった』
楠木博士からのお褒めの言葉に、比乃は「ありがとうございます」と簡潔に返して、比乃が機体に動作を念じる。
「これから帰投します……心視、行くよ」
「了解……」
展開していた羽根を背中に戻したTkー11が、ビルから飛び降りる。背中の羽根で空中を叩いて、格納庫代わりの廃工場へと向けて跳躍した。
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