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第十七話「宝石箱と三つ巴の救助作戦について」
真打登場
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久々に履いた義足の調子はばっちりであった。全力疾走しながら、比乃は感動した。
先ほどまで杖をついてのそのそ歩き、衝撃で倒れては地を這ったりしたのはなんだったのかと、比乃は一種の爽快感さえ感じながら、目的のコンテナまで走り続けた。
砂浜に近づくにつれて、見えてくる物があった、遠目には正方形の箱に見える。更に走ると、それが何なのかはっきりと認識することができる距離まで来た。
正方形の運搬用コンテナ、それもただのコンテナではない。これはAMWを運搬するのに使うタイプだった。人の手が届く下側に、開閉用のパネルがついている。そこにあるレバーを引くことで炸薬ボルトが作動し、中の機体が姿を現わすという仕組みだ。
比乃は砂の感触を義足越しに感じながらそれに駆け寄ると、すぐさまレバーを引っ張り出し、勢い良く下側に回した。すると、ばんっと炸裂音がして、コンテナの側面がパージされる。上部が跳ね上がって、びっくり箱のように開かれた。周囲の砂が巻き上がる。
土煙が晴れたそこには、比乃の見覚えのない姿となったTkー7があった。
「新型……?」
一回り太く逞しくなった脚部と腕部、胴体に大量に括り付けられた鞘、比乃は怪訝に思いながらも蹲った姿勢で搭乗者を待つそれの上に軽快な身のこなしで登り、コクピットハッチを開いた。
中のレイアウトは既存の物と変わらない。それどころか、細々とした所が、第八師団駐屯地に置いてあるはずの、比乃が乗っていた機体と同じに見えた。どうやら、中身は比乃の搭乗機をそのまま流用したらしい。
というのも、五日前に駐屯地に納入された試験用のTkー7は、テロリストに奪われた挙句に訓練生達の手によって損傷させられてしまった。なので、苦肉の策で別ハンガーで破壊をま逃れていた比乃のTkー7改に、装備だけを剥ぎ取って移し替えたのだ。
(なるほど、外のこれは例の新しいオプションか)
拉致される前に資料で読んだ物の現物ってわけだ。と装甲表面につけられたそれらを見て合点がいった比乃は、コクピットに滑り込んで、キーが差しっぱなしになっている機体を起動させた。
夜の砂浜に、鋼鉄の巨人が立ち上がった。
***
二対一と数の上では優勢のはずなのに、自衛隊側の形勢は良くなかった。敵のAMWは、数日前に埠頭で見たものと同型に見えたが、パイロットは狙撃手の少女らしい。
しかし、相手は狙撃専門とは言い難い程に、近接戦闘の腕が立った。その上、機体の性能面では、こちらを完全に凌駕している。
初手で飛び道具を失った二機は連携し、挟み込むように攻撃を仕掛ける。
左右から同時に繰り出された斬撃を、後ろに飛ぶことで回避した敵機は、ずしゃりと砂を巻き上げて着地する。折った膝をすぐさま稼働させて、地面を蹴立てながら、凄まじい速度で突進して来た。
その鈍重そうな図体からは考えられないほどの俊敏さ。Tkー7と同等かそれ以上だ。
(あの時、始末しておけばよかった……!)
思わず悔やまずにはいられない。これほどの難敵だったとは――内心で毒付きながら、腕毎振り上げて来た攻撃を、心視は高振動ナイフで受け止めようとして、失敗した。
単純な質量差も、パワーの差もあった。クローを受け止めたナイフは、弾かれるように刃先を飛ばした。その斬撃は、心視の機体に届き、右肩から先を削ぎ取った。
『心視!』
更なる横薙ぎが心視毎コクピットを切り裂く前に、横から飛び込んだ志度が心視を突き飛ばした。もつれ合う二機。距離を取った所で即座に立ち上がり、心視を庇うように志度が前に出た。
しかし、状況は悪いにも程がある。相手はまだ、あの埠頭で見せた謎の攻撃も使って来ていないというのに、格闘戦だけでこちらは追い詰められている。
その無様な様子を見て、ステュクスは「あはは、狙撃しか取り柄がないんだ。しょうもな。死んじゃえ」と笑って、これまで使わずに取っておいた左腕のグレネードランチャーを構え、トリガーを絞ろうとした。その瞬間。
「……?!」
強い衝撃、何かが装甲にぶつかって爆ぜた音。目の前の死にかけではない。別の何かからの攻撃――
『二人はやらせないよ』
聞き覚えのある声がした。そちらに頭部を向ける。夜の海を背にして白いAMW、目の前の機体と似ているが、細かい部分が決定的に違う機体が、そこに立っていた。
手に持っているのは大型のハンドガンだ、恐らくそれで撃ったのだろう。ステュクスの機体の装甲は少し凹んだだけであった。そのとんでもない堅牢さを見せつけられても、比乃は驚く素ぶりも見せず、外部スピーカーから少女に話しかけた。
『昨日言ってたじゃないか、模擬戦でも何でも僕の実力が見てみたいって。見せてあげるよ、実戦で』
拳銃を構えた姿勢のAMW――Tkー7改二、徹底的に近接戦の仕様へと改良された機体が、指を立ててステュクスに手招きしてみせた。挑発するように、
『おいで、お嬢ちゃん?』
その一言で、少女の頭の中にあった一つの枷が外れた。
「……上等じゃないの」
良いだろう、そのつまらなそうな玩具から引き摺り出して、泣いても喚いても脳味噌を弄ってでも、私たちの仲間に、いや、奴隷にしてやる。少女は胸にどす黒い思いを抱きながら、機体を比乃の方へ向けて、突進の構えを取った。
先ほどまで杖をついてのそのそ歩き、衝撃で倒れては地を這ったりしたのはなんだったのかと、比乃は一種の爽快感さえ感じながら、目的のコンテナまで走り続けた。
砂浜に近づくにつれて、見えてくる物があった、遠目には正方形の箱に見える。更に走ると、それが何なのかはっきりと認識することができる距離まで来た。
正方形の運搬用コンテナ、それもただのコンテナではない。これはAMWを運搬するのに使うタイプだった。人の手が届く下側に、開閉用のパネルがついている。そこにあるレバーを引くことで炸薬ボルトが作動し、中の機体が姿を現わすという仕組みだ。
比乃は砂の感触を義足越しに感じながらそれに駆け寄ると、すぐさまレバーを引っ張り出し、勢い良く下側に回した。すると、ばんっと炸裂音がして、コンテナの側面がパージされる。上部が跳ね上がって、びっくり箱のように開かれた。周囲の砂が巻き上がる。
土煙が晴れたそこには、比乃の見覚えのない姿となったTkー7があった。
「新型……?」
一回り太く逞しくなった脚部と腕部、胴体に大量に括り付けられた鞘、比乃は怪訝に思いながらも蹲った姿勢で搭乗者を待つそれの上に軽快な身のこなしで登り、コクピットハッチを開いた。
中のレイアウトは既存の物と変わらない。それどころか、細々とした所が、第八師団駐屯地に置いてあるはずの、比乃が乗っていた機体と同じに見えた。どうやら、中身は比乃の搭乗機をそのまま流用したらしい。
というのも、五日前に駐屯地に納入された試験用のTkー7は、テロリストに奪われた挙句に訓練生達の手によって損傷させられてしまった。なので、苦肉の策で別ハンガーで破壊をま逃れていた比乃のTkー7改に、装備だけを剥ぎ取って移し替えたのだ。
(なるほど、外のこれは例の新しいオプションか)
拉致される前に資料で読んだ物の現物ってわけだ。と装甲表面につけられたそれらを見て合点がいった比乃は、コクピットに滑り込んで、キーが差しっぱなしになっている機体を起動させた。
夜の砂浜に、鋼鉄の巨人が立ち上がった。
***
二対一と数の上では優勢のはずなのに、自衛隊側の形勢は良くなかった。敵のAMWは、数日前に埠頭で見たものと同型に見えたが、パイロットは狙撃手の少女らしい。
しかし、相手は狙撃専門とは言い難い程に、近接戦闘の腕が立った。その上、機体の性能面では、こちらを完全に凌駕している。
初手で飛び道具を失った二機は連携し、挟み込むように攻撃を仕掛ける。
左右から同時に繰り出された斬撃を、後ろに飛ぶことで回避した敵機は、ずしゃりと砂を巻き上げて着地する。折った膝をすぐさま稼働させて、地面を蹴立てながら、凄まじい速度で突進して来た。
その鈍重そうな図体からは考えられないほどの俊敏さ。Tkー7と同等かそれ以上だ。
(あの時、始末しておけばよかった……!)
思わず悔やまずにはいられない。これほどの難敵だったとは――内心で毒付きながら、腕毎振り上げて来た攻撃を、心視は高振動ナイフで受け止めようとして、失敗した。
単純な質量差も、パワーの差もあった。クローを受け止めたナイフは、弾かれるように刃先を飛ばした。その斬撃は、心視の機体に届き、右肩から先を削ぎ取った。
『心視!』
更なる横薙ぎが心視毎コクピットを切り裂く前に、横から飛び込んだ志度が心視を突き飛ばした。もつれ合う二機。距離を取った所で即座に立ち上がり、心視を庇うように志度が前に出た。
しかし、状況は悪いにも程がある。相手はまだ、あの埠頭で見せた謎の攻撃も使って来ていないというのに、格闘戦だけでこちらは追い詰められている。
その無様な様子を見て、ステュクスは「あはは、狙撃しか取り柄がないんだ。しょうもな。死んじゃえ」と笑って、これまで使わずに取っておいた左腕のグレネードランチャーを構え、トリガーを絞ろうとした。その瞬間。
「……?!」
強い衝撃、何かが装甲にぶつかって爆ぜた音。目の前の死にかけではない。別の何かからの攻撃――
『二人はやらせないよ』
聞き覚えのある声がした。そちらに頭部を向ける。夜の海を背にして白いAMW、目の前の機体と似ているが、細かい部分が決定的に違う機体が、そこに立っていた。
手に持っているのは大型のハンドガンだ、恐らくそれで撃ったのだろう。ステュクスの機体の装甲は少し凹んだだけであった。そのとんでもない堅牢さを見せつけられても、比乃は驚く素ぶりも見せず、外部スピーカーから少女に話しかけた。
『昨日言ってたじゃないか、模擬戦でも何でも僕の実力が見てみたいって。見せてあげるよ、実戦で』
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『おいで、お嬢ちゃん?』
その一言で、少女の頭の中にあった一つの枷が外れた。
「……上等じゃないの」
良いだろう、そのつまらなそうな玩具から引き摺り出して、泣いても喚いても脳味噌を弄ってでも、私たちの仲間に、いや、奴隷にしてやる。少女は胸にどす黒い思いを抱きながら、機体を比乃の方へ向けて、突進の構えを取った。
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