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第十七話「宝石箱と三つ巴の救助作戦について」
自衛隊の鬼神
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何事かとそちらにセンサーを向けると、動体センサーが飛行する人型を感知した。それは、沖縄で何度か遭遇し、撃退した機体。OFMだった。それらが複数、基地へと攻撃を加えているのように見えた。闇夜に目立つ光線が発射される度に、何かが引火したように爆発を起こしている。
一体何が起こっているのか、安久は逡巡した。そして、状況から行動方針を定め、機体を前進させていた。後ろで様子を伺っていた宇佐美が、思わず声を上げる。
『剛、行くの?』
宇佐美の問いに、安久は「好都合だ」とAIに機体出力の上昇を命じながら答える。
「今の内に上陸して、さっさと敵機を片付ける。あいつらの攻撃に比乃が巻き込まれでもしたら厄介だからな。第一目標は基地の敵対目標、第二目標はあの正体不明機だ。こちらに攻撃して来たら遠慮なく反撃させてもらう」
指示を受けた宇佐美の「了解」の声と同時に、機体出力が戦闘用にまで上昇したことを確認した安久は、操縦桿をぐんと押し倒した。
それに反応して、機体の両脇のモータージェットは出力を上げて、機体をぐんぐんと海岸めがけて推し進め、陸地へと突進して行く。それに少し遅れて宇佐美の機体が続く。
衝撃。海中にあった機体が海面へと飛び出し、そのまま波乗りのように移動し始めた。
そして両方の足が砂浜に着く。両脇の水中用装備を取り外し、砂浜の柔らかい地面へと落とした。帰りにも使うのであまり乱暴には扱えないが、急いでいる今はそうも言っていられない。
装備を取り外して身軽になった二機は、そのまま目の前の森林地帯へと飛び込み、数百メートルと少しのそこを駆け抜ける。そして森を抜けた先は、火の海の一歩手前とまでなっていた。
何故か最優先で攻撃されるはずのハンガー以外の施設が攻撃されている。それ故に、AMWが難を逃れていた為か、迎撃のための機体はすでに出撃した後のようだった。ここから離れた北側の海岸で、ライフルの対空射撃による火線が上がっているのが見えた。
一体奴らの目的は何なのか、それを考え出すよりも早く、増援のAWM――ペーチルが数機、ハンガーから飛び出して来た。流石に拠点の一つとなると、それなりの数がいるらしい。一個小隊の機数が出てきた後から、更にもう二個小隊が出てきた。
それらは安久らに気付くと、少し戸惑った様子を見せたが、それも一瞬のことで、先頭のペーチルが素早くライフルを向けて来た。どうやら、自分たちが襲来することは察知されていたらしい――当然か、護衛艦で堂々とやってきたのだからな。安久は内心で薄ら笑う。
「散開!」
二機のTkー7改が左右に広がるように回避運動を取り、そこをライフル弾が飛び抜けて行った。次の瞬間には、腰から武装――安久は短筒を、宇佐美は刀型の高振動ブレードを引き抜いて、ペーチルの小隊目掛けて突撃した。
安久は一定の距離、短筒を確実に命中させられる射程まで近寄ると、一瞬足を止めて照準、発砲。
一機のペーチルが胴体に風穴を開けて倒れるのを確認するよりも素早く、機体を横に転がす。起き上がり際にもう一度照準、そして発砲。今度は構えたライフルごとペーチルが吹き飛ぶ。
安久が一度の回避運動を取る度に、一機のペーチルが行動不能に陥っていた。回避運動を取りながら射撃していた隊長機らしいペーチルも、ステップして回避運動をしてみせたが、先読みして放たれた弾丸にコクピットを吹き飛ばされて事切れた。
一方で、もう一小隊。別の相手へと突撃した宇佐美は、その勢いのまま、高振動ブレードを構えて、両腰に取り付けられていたスラスターを吹かせた。
機体が地面から僅かに浮き、凄まじい推進力で加速する。まず一番初めに接触した、ライフルを構えたまま驚愕していたペーチルを一機、横薙ぎに切り捨てた。
スラスターを操作、宙に浮いたまま機体を高速で独楽のように回転させる。そして通り過ぎ様に、竜巻のようになった刀身が、もう二機の上半身を斬り飛ばした。
このスラスターは比乃の実験データを元に改良を重ねられた物だ。更なる小型化と燃費の向上、そして操作性は見違える程に良くなった実戦配備直前の代物である。今回の救出作戦のために、部隊長が無理を言って予備を含めてかき集めてきたのだ。
比乃のデータによって操作が簡略化されているとは言っても、とてつもなくピーキーなそれによって生み出される機動力は、既存のAMWに対応できる物ではない。そして、その性能を充分に発揮するだけの力量が、宇佐美にはあった。
瞬く間に一個小隊が全滅し、後続のペーチルがその強さに思わず後ずさる前で、Tkー7は見せつけるように折れたブレードを破棄し、新しい物に取り替える。ふざけた戦い方だが、それについていける者はこの場には居ない。
「ひゃっほー!」
嬌声と共に鬼神となったTkー7改が猛然と飛ぶ。爪先を地面に引っ掛けて火花を散らしながら、疾風と化した機体が両手のブレードを振るうと、まるで無双ゲームのように、次から次へと敵機が斬り捨てられる。
その後ろに控える、もう一機のTkー7改の性格無慈悲な射撃が、宇佐美の死角に入ろうとしたペーチルを人型の鉄屑に変えて行く。敵に反撃の隙を与えない。
ハンガーから出て行く機体が次々と破壊されて行く惨状に、テロリストは恐怖し、そして絶命していった。
この二人を止められる者など、この場には存在しない。それが出来うる機体とパイロットは、空飛ぶ化け物の対処に出向いてしまっていたのだから――
一体何が起こっているのか、安久は逡巡した。そして、状況から行動方針を定め、機体を前進させていた。後ろで様子を伺っていた宇佐美が、思わず声を上げる。
『剛、行くの?』
宇佐美の問いに、安久は「好都合だ」とAIに機体出力の上昇を命じながら答える。
「今の内に上陸して、さっさと敵機を片付ける。あいつらの攻撃に比乃が巻き込まれでもしたら厄介だからな。第一目標は基地の敵対目標、第二目標はあの正体不明機だ。こちらに攻撃して来たら遠慮なく反撃させてもらう」
指示を受けた宇佐美の「了解」の声と同時に、機体出力が戦闘用にまで上昇したことを確認した安久は、操縦桿をぐんと押し倒した。
それに反応して、機体の両脇のモータージェットは出力を上げて、機体をぐんぐんと海岸めがけて推し進め、陸地へと突進して行く。それに少し遅れて宇佐美の機体が続く。
衝撃。海中にあった機体が海面へと飛び出し、そのまま波乗りのように移動し始めた。
そして両方の足が砂浜に着く。両脇の水中用装備を取り外し、砂浜の柔らかい地面へと落とした。帰りにも使うのであまり乱暴には扱えないが、急いでいる今はそうも言っていられない。
装備を取り外して身軽になった二機は、そのまま目の前の森林地帯へと飛び込み、数百メートルと少しのそこを駆け抜ける。そして森を抜けた先は、火の海の一歩手前とまでなっていた。
何故か最優先で攻撃されるはずのハンガー以外の施設が攻撃されている。それ故に、AMWが難を逃れていた為か、迎撃のための機体はすでに出撃した後のようだった。ここから離れた北側の海岸で、ライフルの対空射撃による火線が上がっているのが見えた。
一体奴らの目的は何なのか、それを考え出すよりも早く、増援のAWM――ペーチルが数機、ハンガーから飛び出して来た。流石に拠点の一つとなると、それなりの数がいるらしい。一個小隊の機数が出てきた後から、更にもう二個小隊が出てきた。
それらは安久らに気付くと、少し戸惑った様子を見せたが、それも一瞬のことで、先頭のペーチルが素早くライフルを向けて来た。どうやら、自分たちが襲来することは察知されていたらしい――当然か、護衛艦で堂々とやってきたのだからな。安久は内心で薄ら笑う。
「散開!」
二機のTkー7改が左右に広がるように回避運動を取り、そこをライフル弾が飛び抜けて行った。次の瞬間には、腰から武装――安久は短筒を、宇佐美は刀型の高振動ブレードを引き抜いて、ペーチルの小隊目掛けて突撃した。
安久は一定の距離、短筒を確実に命中させられる射程まで近寄ると、一瞬足を止めて照準、発砲。
一機のペーチルが胴体に風穴を開けて倒れるのを確認するよりも素早く、機体を横に転がす。起き上がり際にもう一度照準、そして発砲。今度は構えたライフルごとペーチルが吹き飛ぶ。
安久が一度の回避運動を取る度に、一機のペーチルが行動不能に陥っていた。回避運動を取りながら射撃していた隊長機らしいペーチルも、ステップして回避運動をしてみせたが、先読みして放たれた弾丸にコクピットを吹き飛ばされて事切れた。
一方で、もう一小隊。別の相手へと突撃した宇佐美は、その勢いのまま、高振動ブレードを構えて、両腰に取り付けられていたスラスターを吹かせた。
機体が地面から僅かに浮き、凄まじい推進力で加速する。まず一番初めに接触した、ライフルを構えたまま驚愕していたペーチルを一機、横薙ぎに切り捨てた。
スラスターを操作、宙に浮いたまま機体を高速で独楽のように回転させる。そして通り過ぎ様に、竜巻のようになった刀身が、もう二機の上半身を斬り飛ばした。
このスラスターは比乃の実験データを元に改良を重ねられた物だ。更なる小型化と燃費の向上、そして操作性は見違える程に良くなった実戦配備直前の代物である。今回の救出作戦のために、部隊長が無理を言って予備を含めてかき集めてきたのだ。
比乃のデータによって操作が簡略化されているとは言っても、とてつもなくピーキーなそれによって生み出される機動力は、既存のAMWに対応できる物ではない。そして、その性能を充分に発揮するだけの力量が、宇佐美にはあった。
瞬く間に一個小隊が全滅し、後続のペーチルがその強さに思わず後ずさる前で、Tkー7は見せつけるように折れたブレードを破棄し、新しい物に取り替える。ふざけた戦い方だが、それについていける者はこの場には居ない。
「ひゃっほー!」
嬌声と共に鬼神となったTkー7改が猛然と飛ぶ。爪先を地面に引っ掛けて火花を散らしながら、疾風と化した機体が両手のブレードを振るうと、まるで無双ゲームのように、次から次へと敵機が斬り捨てられる。
その後ろに控える、もう一機のTkー7改の性格無慈悲な射撃が、宇佐美の死角に入ろうとしたペーチルを人型の鉄屑に変えて行く。敵に反撃の隙を与えない。
ハンガーから出て行く機体が次々と破壊されて行く惨状に、テロリストは恐怖し、そして絶命していった。
この二人を止められる者など、この場には存在しない。それが出来うる機体とパイロットは、空飛ぶ化け物の対処に出向いてしまっていたのだから――
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