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第十七話「宝石箱と三つ巴の救助作戦について」
保護者の私見
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ミッドウェイ島を上から見て西側。その海岸線に安久と宇佐美は向かっていた。そこから基地への突入、攻撃、そして誘導が、二人の役目だった。
二人が基地の防衛戦力に攻撃を仕掛けて、そちらに敵の注意が向けられている間に、志度達が比乃を救出する作戦である。シンプルな囮作戦だが、この人数では取れる行動も制限される。仕方のないことだ。
それでも、一つの基地に対して行う陽動として、二人でというのは、余りにも少ない人数である。普通であれば無謀とも取れる作戦であったが、この二人だからこそ出来る作戦でもあった。それほど、この二人の技量は突出しているのだ。
安久と宇佐美のTkー7改は、すでに海岸の五百メートル付近まで接近している。静粛性が高いスーパーバッテリーで駆動するAMWだからこそ出来る芸当だ。しかし、これ以上は水深が浅く、物理的に身を隠すことが困難だった。
これより先に進むのは、攻撃準備を終えた時。二人は水面から機体の頭部、ブレードアンテナだけを露出させて、海岸の様子を伺った
そこには、意外なことにAMWどころか、人間の歩哨すら立っていなかった。各種センサーで探っても、完全な無人。すぐそばの森林の隙間から遠目に、背が低い建築物が数件と、ハンガーらしき建物が見えるだけである。
こうも防備が薄いとは……この基地は、テロリストにとってはそれほど重要な拠点ではないのかもしれない。ただの中継地点に過ぎない程度の重要性なのか、好都合でもあるが、別の懸念が浮かぶ。
もし、本当にそうだとしたら、テロリストは別に大規模な拠点を持っているということになる。それが事実だとして、相手はどれだけの規模のテロ組織なのか、PMC上がりのテロ組織であれば、拠点を複数持っていてもおかしくない。しかし、それだけ大きい組織が態々、比乃を選んで拉致したのは何故なのか――
安久がそう考えていると、宇佐美が『ねー剛ー』と呑気な声を上げた。安久がむっとして「なんだ」と短く返す。
『事前の観測じゃ出てく船とか確認できてないって言うから、この島からもう連れていかれてるってことはないと思うんだけどさ』
「? 何が言いたい」
『本当にこの基地に日比野ちゃんいるのかしらって、一瞬思っちゃって。案外、潜水艦その物が囮とかだったりして、実はまだ日本にいますーとか』
「……ありえん話ではないが、どうした。お前らしくもない」
相方の普段とは違う態度に何か感じたのか、気遣うような口調になる。
「気になることがあるなら、今の内に話しておけ」
『いやねぇ、バカンスでもないのにこんなとこまで来て、無駄足だったら嫌ねーと思って』
無駄足かもしれないという発想に、安久は一瞬呆れたような顔になった。普段の宇佐美ならば、こんなことを言い出すことはない。それほど、緊張しているということなのだろう。彼女らしくもない。安久は一つ息を吐くと「宇佐美よ、よく考えてみろ」と切り出す。
「万が一、ここに比乃がいなくとも、この基地にいる奴らが比乃を拉致した連中と関係があるのは確かだろう? だったら」
そこまで言って、安久は普段見せないような、獰猛な笑みを浮かべた。
「ここを壊滅させるついでに、何人か生け捕りにして尋問すれば、比乃の本当の居場所も割れるだろう。次はそこを攻めてやればいいだけのことだ」
同僚の久しぶりに見せる表情に、宇佐美は「あらやだこの人、殺る気満々」と小声で漏らした。基地を一つ落とすには、流石に弾薬武装が足りない。だが、やろうと思えば、壊滅的なダメージを与えることは出来るだろう。
安久はどうも、それをやるつもりらしかった。普段は冷静沈着な彼らしくもない。護衛艦ではいつも通り冷静に見えていたが、こう見えて、比乃が連れ去られて一番憤っているのは、この男なのかもしれない。
(そりゃまぁ、私だって心配でしかたないけど)
逆に、宇佐美は普段のお気楽さを残しつつも、その身、冷静であった。
普段とは全く毛色が違う作戦であるし、何より危険な任務でもあって、そして重要な役割でもある。
どうにも、普段通りの気分になれなかった。それが、胸の辺りに妙なつっかえを作っている。
(難しく考えすぎなのかしらねー)
安久がふと、宇佐美がまだ悩んでいるらしいことに気付いて言った。
「宇佐美、今回の役割だが、深く考える必要はないと思うぞ」
『あら、どうして?』
宇佐美の疑問に、安久は笑みを浮かべたまま答える。
「やることは単純明快、大暴れすることだからだ。違うか?」
「……あら、そう言われてみればそうね」
失念してたわ、と宇佐美は自分の額をぺしりと叩いた。言われてみれば確かにその通り。陽動とは即ち、敵の防衛戦力が、こちらを無視できないほどの攻撃を仕掛けることである。つまり、時間いっぱい大暴れすればいいだけと言っても間違いではないのだ。
そんなことも解らない程に緊張していたのか、らしくない。と宇佐美は自身を内心で笑った。
「予備の弾薬も積めるだけ積んで来たんだ。ありったけ使ってやろうではないか」
宇佐美は相変わらずらしくない相方の言い草に、少し吹き出しそうになりながらも笑みを浮かべた。
『それじゃあ、敵さんには日比野ちゃんを誘拐した罪の重さ、思い知ってもらわなきゃね』
「ああ、嫌と言うほどにな」
そんな会話から暫くあって、基地の方から爆発音が立て続けに響いた。
二人が基地の防衛戦力に攻撃を仕掛けて、そちらに敵の注意が向けられている間に、志度達が比乃を救出する作戦である。シンプルな囮作戦だが、この人数では取れる行動も制限される。仕方のないことだ。
それでも、一つの基地に対して行う陽動として、二人でというのは、余りにも少ない人数である。普通であれば無謀とも取れる作戦であったが、この二人だからこそ出来る作戦でもあった。それほど、この二人の技量は突出しているのだ。
安久と宇佐美のTkー7改は、すでに海岸の五百メートル付近まで接近している。静粛性が高いスーパーバッテリーで駆動するAMWだからこそ出来る芸当だ。しかし、これ以上は水深が浅く、物理的に身を隠すことが困難だった。
これより先に進むのは、攻撃準備を終えた時。二人は水面から機体の頭部、ブレードアンテナだけを露出させて、海岸の様子を伺った
そこには、意外なことにAMWどころか、人間の歩哨すら立っていなかった。各種センサーで探っても、完全な無人。すぐそばの森林の隙間から遠目に、背が低い建築物が数件と、ハンガーらしき建物が見えるだけである。
こうも防備が薄いとは……この基地は、テロリストにとってはそれほど重要な拠点ではないのかもしれない。ただの中継地点に過ぎない程度の重要性なのか、好都合でもあるが、別の懸念が浮かぶ。
もし、本当にそうだとしたら、テロリストは別に大規模な拠点を持っているということになる。それが事実だとして、相手はどれだけの規模のテロ組織なのか、PMC上がりのテロ組織であれば、拠点を複数持っていてもおかしくない。しかし、それだけ大きい組織が態々、比乃を選んで拉致したのは何故なのか――
安久がそう考えていると、宇佐美が『ねー剛ー』と呑気な声を上げた。安久がむっとして「なんだ」と短く返す。
『事前の観測じゃ出てく船とか確認できてないって言うから、この島からもう連れていかれてるってことはないと思うんだけどさ』
「? 何が言いたい」
『本当にこの基地に日比野ちゃんいるのかしらって、一瞬思っちゃって。案外、潜水艦その物が囮とかだったりして、実はまだ日本にいますーとか』
「……ありえん話ではないが、どうした。お前らしくもない」
相方の普段とは違う態度に何か感じたのか、気遣うような口調になる。
「気になることがあるなら、今の内に話しておけ」
『いやねぇ、バカンスでもないのにこんなとこまで来て、無駄足だったら嫌ねーと思って』
無駄足かもしれないという発想に、安久は一瞬呆れたような顔になった。普段の宇佐美ならば、こんなことを言い出すことはない。それほど、緊張しているということなのだろう。彼女らしくもない。安久は一つ息を吐くと「宇佐美よ、よく考えてみろ」と切り出す。
「万が一、ここに比乃がいなくとも、この基地にいる奴らが比乃を拉致した連中と関係があるのは確かだろう? だったら」
そこまで言って、安久は普段見せないような、獰猛な笑みを浮かべた。
「ここを壊滅させるついでに、何人か生け捕りにして尋問すれば、比乃の本当の居場所も割れるだろう。次はそこを攻めてやればいいだけのことだ」
同僚の久しぶりに見せる表情に、宇佐美は「あらやだこの人、殺る気満々」と小声で漏らした。基地を一つ落とすには、流石に弾薬武装が足りない。だが、やろうと思えば、壊滅的なダメージを与えることは出来るだろう。
安久はどうも、それをやるつもりらしかった。普段は冷静沈着な彼らしくもない。護衛艦ではいつも通り冷静に見えていたが、こう見えて、比乃が連れ去られて一番憤っているのは、この男なのかもしれない。
(そりゃまぁ、私だって心配でしかたないけど)
逆に、宇佐美は普段のお気楽さを残しつつも、その身、冷静であった。
普段とは全く毛色が違う作戦であるし、何より危険な任務でもあって、そして重要な役割でもある。
どうにも、普段通りの気分になれなかった。それが、胸の辺りに妙なつっかえを作っている。
(難しく考えすぎなのかしらねー)
安久がふと、宇佐美がまだ悩んでいるらしいことに気付いて言った。
「宇佐美、今回の役割だが、深く考える必要はないと思うぞ」
『あら、どうして?』
宇佐美の疑問に、安久は笑みを浮かべたまま答える。
「やることは単純明快、大暴れすることだからだ。違うか?」
「……あら、そう言われてみればそうね」
失念してたわ、と宇佐美は自分の額をぺしりと叩いた。言われてみれば確かにその通り。陽動とは即ち、敵の防衛戦力が、こちらを無視できないほどの攻撃を仕掛けることである。つまり、時間いっぱい大暴れすればいいだけと言っても間違いではないのだ。
そんなことも解らない程に緊張していたのか、らしくない。と宇佐美は自身を内心で笑った。
「予備の弾薬も積めるだけ積んで来たんだ。ありったけ使ってやろうではないか」
宇佐美は相変わらずらしくない相方の言い草に、少し吹き出しそうになりながらも笑みを浮かべた。
『それじゃあ、敵さんには日比野ちゃんを誘拐した罪の重さ、思い知ってもらわなきゃね』
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