上 下
123 / 344
第十七話「宝石箱と三つ巴の救助作戦について」

未知の来訪者

しおりを挟む
 比乃がこの基地に拉致されてから十日が経った。今夜も決まった時間に出される食事を平らげて、比乃はここ数日の拉致監禁生活を振り返る。

 ほぼ毎日この部屋にやって来ては、自身の師である先生、オーケアノスについて、一方的に話して来るステュクスとドーリスのペア。数日に一度は顔を見せに来て「気は変わったか」と聞いてくるオーケアノス(毎回、ノーの返事を聞くと「そうか」と言ってすぐに出て行ってしまうので、対して会話はしない)、そして時折よくわからない注射と血液採取を行う女医。

 案外、話し相手には恵まれている環境に、比乃は退屈しないことが唯一の救いに感じていた。そう自身に言い聞かせて、己を慰めていた。そうでもしないと、物理的に救援が絶望的な現状に、心が負けてしまいそうになる。強がりは、時に重要なメンタル維持の方法となる。

 そうしていると、扉に二度のノック。その返事を待たずにオーケアノスが部屋に入ってきた。今日は二度目となる来訪に「いよいよ移動させられるかな」と、内心で救助が間に合わなかったことに肩を落とした。

 しかし、それを顔には出さず、あくまで強気な態度を見せようと「こんばんは、二回も来るなんて珍しいですね」オーケアノスが何か言うより先に声をかける。その態度に、オーケアノスは苦笑した。だが、サングラスの奥の目は笑っていない。

「そのはずだったんだがな、それとは別のお迎えが先に来た」

「別のお迎え……それってまさか」

「そのまさかだ。我々としても、こんな太平洋の真ん中の、それも他国領まで来るとは予想外だ。余程、お前という才能を手放したくないらしい」

 こんなところ――アメリカ領土であるミッドウェイで作戦を行える部隊なんて言ったら、自身の所属する第三師団しか思い浮かばなかった。同時に、あのちょび髭の自慢げな「やってやったぞ」という顔が、頭に浮かぶ。

 比乃は、自分の知る中でも最強の味方が助けに来てくれたことを確信して、笑みすら浮かべた。

「もし本当に来たんだとしたら、貴方たちの相手はm僕なんかよりもずっと強い戦士ですよ。今の内に白旗をあげるか、大人しく僕を引き渡してお引き取り願った方が良いのでは?」

 挑発的に口角を上げる比乃に、オーケアノスは「あまり調子に乗るなよ」と真顔で言い返す。

「残念だが、感動の再会をさせてやるつもりはない。俺も迎撃に出る。戦闘になったら、大なり小なり施設にも被害が出るだろう。怪我をしたくなければ、この部屋から出ないことだ」

 そう忠告して、オーケアノスは部屋を後にしようとする。その時、大きな爆発音と衝撃で、窓が激しく揺れた。

「随分派手なお迎えだな、いつもああなのか、自衛隊は」

「いえ……流石に今回だけだと思いますけど」

 否定する比乃の言葉は、さっきとは違って、少し弱々しかった。自分の上司は爆発物コレクターで、この島に直接乗り込んできて爆破騒ぎを起こしているかもしれない。とは、流石に言えなかった。「上司が自ら島に乗り込んで来て、施設を爆破して回ってるかもしれない」なんて言っても、頭の検査にかけられるだけだろう。

 そんな比乃を怪訝そうに見るオーケアノスに「先生!」と声がかけられた。彼を呼ぶ少女の声と、廊下を駆ける音が近付いて来る。ドーリスだ。彼女がこのように慌てる様子というのは、ここに来て初めて見る。

「敵襲です!」

「わかっている、数は……どうせ通常型の機体に水中具をつけたのが数機だろうが、何をそんなに慌てている」

「違います、敵は自衛隊じゃありません!」

 オーケアノスが「何?」と眉を顰めたところで、もう一度爆発音が鳴った。遠く、格納庫でも何でもない施設が攻撃されている。

 彼は眉を顰める。相手が自衛隊であれば、間違いなく最初に攻撃するであろう場所を、完全に無視している。相手の意図を、そして正体を図り兼ねて、オーケアノスは思案顔になるが、それよりも先に敵の正体をドーリスが告げる。

「敵はステルスでこの基地に接近してきました。飛行型が確認できただけでも五機、奴らです」

 ドーリスの言った「奴ら」という言葉を聞いて、攻撃を仕掛けて来ている相手が何処の誰かなのかを理解した。そして、見境がない攻撃にも合点がいったのか、オーケアノスは舌打ちした。

「このタイミングで、か」

 まさか、あいつらが自衛隊と手を組むわけがない。しかし、他にここを攻撃して来る理由など――数瞬間思案して、何事かまだ解っていない顔の比乃を見る。一つの可能性が頭に浮かんだが、オーケアノスはかぶりを振ってその可能性を自身で否定した。

「……まさかな」

「先生?」

「なんでもない、相手が自衛隊だろうがそうでなかろうが変わらん。迎撃する、俺も出るぞ」

 言われ、了解と言って先に格納庫へと駆けて言ったドーリスを見送って、扉に手をかけたところで立ち止まる。振り向かずに、比乃に向かって再度。

「繰り返しになるが、戦闘中は外に出るな。相手が自衛隊からどっかの馬鹿に変わったからな、本当に身の安全が保証できん。死にたくなかったら部屋で大人しくしていることだ」

 最後に「わかったな」と念を押してから、オーケアノスは乱暴に扉を閉めた。そのまま、部下と同様に走り去って行く。
 一人置いていかれた比乃は、未だに爆発音が続く中。今の会話から拾えた情報から、現在の状況を整理する。

(自衛隊、第三師団が助けに来たのは恐らく本当。しかし、それに便乗する形で、どこか別の勢力が攻撃を仕掛けて来た……自力でそんなことをができる戦力を持った、空を飛ぶステルス性能を持つ敵……)

 比乃の頭に浮かんだのは、去年沖縄で戦い、数週間前にも遭遇した、あの西洋鎧の姿。目的は一切わからないが、あの通常兵器では対処にてこずる兵器が、それも聞いた限りでは複数、この基地に攻撃を仕掛けて来ている。それはつまり、

「……チャンスと見るべきか、ピンチと嘆くべきか」

 どっちかな――比乃は、ベットの脇に立て掛けてあった松葉杖を手に取った。敵に大人しくしていろと言われて大人しくしている義理は、比乃には無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。 戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。 そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。 親友が起こしたキャスター強奪事件。 そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。 それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。 新たな歴史が始まる。 ************************************************ 小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。 投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。

水の失われた神々

主道 学
キャラ文芸
竜宮城は実在していた。 そう宇宙にあったのだ。 浦島太郎は海にではなく。遥か彼方の惑星にある竜宮城へと行ったのだった。 水のなくなった惑星 滅亡の危機と浦島太郎への情愛を感じていた乙姫の決断は、龍神の住まう竜宮城での地球への侵略だった。 一方、日本では日本全土が沈没してきた頃に、大人顔負けの的中率の占い師の高取 里奈は山門 武に不吉な運命を言い渡した。 存在しないはずの神社の巫女の社までいかなければ、世界は滅びる。 幼馴染の麻生 弥生を残しての未知なる旅が始まった。 果たして、宇宙にある大海の龍神の住まう竜宮城の侵略を武は阻止できるのか? 竜宮城伝説の悲恋の物語。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...