自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字

文字の大きさ
上 下
122 / 344
第十六話「テロリストについて」

作戦開始

しおりを挟む
 横須賀基地を出航して一週間後。ミッドウェイ沖二十キロ、時刻は二十三時。空は雲一つなく、星空が満天に広がっていた。

 その夜空の下、海上自衛隊所属、いずも型護衛艦は、波を弾きながら夜の海を進む。すでに島へと近寄れる距離としては限界であったが、Tk-7のオプション装備では、これ以上遠くへは移動できない。そのため、これだけぎりぎりの距離まで近づいていた。

 もしも、敵に迎撃の備えがあったとしたら、大変危険な状況である。敵に何か動きがあったら、即座に転進しこの海域から離脱しなければならなかっがが、事前の調査通り、それらの心配は無用のようであった。

 ミッドウェイ島に対して横腹を向けた所で、甲板に設置されているエレベータがせり上がった。その上には、水中推進用のオプションを取り付けたTkー7改が四機と、ちょうどAMWが一機入る大きさのコンテナが一つ鎮座している。

 オプションをつけた四機とコンテナ一つが、飛行甲板に並ぶ。甲板要員は居ない。真っ暗闇の中、暗視装置を頼りにTkー7が甲板の端へと歩いて行く。

 誘導のための人員がいないのは、万が一にもテロリスト側に作戦行動を行おうとしているのを察知されないようにという配慮と、今回のようなヘリ空母の運用は始めてで、何もかもが手探り状態なためであった。

 水中行動用のオプション装備――胴体の両脇に括り付けられた酸素ポンプと、前後から挟むように取り付けられた高圧ジェット推進装置。それとバラストからなる水中用装備。これらが実際の作戦で使用されるのは、今回が初めてとなる。

 本来、陸上兵器であるAMWはこれだけの装備を施しても、水中を三十キロメートルも進めないし、潜れる深度も数十メートルが限界である。

 万が一にも、甲板で転んで変な体勢から水没したら事である。僅かに揺れる甲板の上を八メートルの人型が一歩進む毎に、艦橋内の全員に緊張が走った。

 彼らの心配も他所に、全機が何事もなく甲板の縁へ辿り着いて、艦橋に向けて敬礼した。艦橋の中でほっと胸を撫で下ろした艦長らクルーも返礼する。そして、Tkー7各機と一基のコンテナは、スキューバダイビングのように、順番に夜の海へと降りて行った。

 小さな抵抗感、それもすぐに無くなり、機体はゆっくりと静かに潜って行く。着水して波を掻き分け、数トンもある機体が水中へと没して行く。くぐもった音と海流が機体にぶつかる音。

 機体の暗視センサー越しに、深緑色の海がやや不鮮明に、それでも照明を付けられない中では何もなしよりはずっと良い視界の中を、コンテナを曳航しながら深度二十メートル程まで沈む。そこでバラストを調整、水中推進の姿勢に移った。

『各機、最短距離で持ち場へ移動するぞ。酸素は往復分だからな、少しでも余裕を持たせておく』

 先行する安久の声に、残りの三人が「了解」と返すと、ジェットの推力を上げて、護衛艦から離れるように進路を取る。

 護衛艦の方も、万が一に備えて一度島を離れるように進路を変えてその場を離れた。次に合流するのは最速で一時間半後だ。それまでは何があっても撤退できないし、逆に二時間以上は待ってくれないことになっている。

 中々にハードな条件だが、ここは敵の制圧圏内である。こうして潜入作戦を執り行うこと自体、無謀に等しいのだ。それでも、危険を侵して海を突き進む。ただ一人の同僚を救い出すために。

 三十分ほど泳ぐと、眼下に海底の岩肌がぼんやりと見えてきた。陸地がそれだけ近付いているということだ。そろそろ、敵の警戒網が敷いてあってもおかしくはない距離に入る。安久、志度、心視が警戒度を引き上げた。

『それにしても、一週間近く敵地で大人しくしてるなんて、比乃ちゃんもまだまだねぇ』

 宇佐美は続けて「私だったら棒切れ一本で基地制圧チャレンジとかやっちゃうわね、百人斬りやってもいいかも」と冗談っぽく言う。冗談っぽく言ったのだが、そうは聞こえず、志度と心視は沈黙する。安久はため息をついた。

『あら、面白くなかった?』

『面白いも何も、貴様の場合は冗談に聞こえんのだ……!』

『流石にそこまで野蛮人じゃないわよ、やるにしても百人斬りとかじゃなくて、ちょっと偉い人の指を一、二本……』

『野蛮人ではないか!  もう敵地なのだから、真面目にやれ!』

 安久に怒られたが『私はいつだって真面目よー』と、器用にくるりとロールして見せる宇佐美機。『ふざけるのも大概にしろ!』と怒鳴る安久の、この状況下にも関わらずあまりにもいつも通りのやり取りを聞いて、志度と心視は思わず吹き出してしまった。

『あ、やっと笑った』

「笑わせるために……やってたの?」

『そういうわけではないが、お前たち二人はここ数日、ずっと思い詰め過ぎていたからな。責任を感じるのは大いに結構だが、そんなことでは成功する作戦も成功しない。正直に言えば、心配すらしていたぞ』

『それは、手間をお掛けしました。もう大丈夫です』

『日比野ちゃんもそうだけど、志度ちゃんも心視ちゃんも、もうちょっと大人にならなくちゃねー』

「大人……?」

 首を傾げた心視に、モニターの向こうで宇佐美はにっと笑った。

『どんな任務でも、どんな状況でもゆとりを持つ、大人の余裕って奴よ』

『そんなもの持てるのは貴様くらいだろうが……適度の緊張感という物もないのか』

 またもや口論を始めた二人を回線から切り離し、心視は志度に直通回線を繋げる。

「絶対……助け出そうね」

『おう、汚名返上名誉挽回してやろうぜ』

 モニター越しにサムズアップして見せた志度に、心視も珍しく、同じようにやる気を示して見せた。

Teacher1安久より各機へ、予定地点まで残り五〇〇。ここで二手に別れる、いいな?』

 安久が、この人員で使われるネームでそう告げる。ここから先は、敵格納庫付近へと強襲を掛ける安久、宇佐美組と、施設を制圧して比乃を捜索、救出し、コンテナの中身を開封する志度、心視組に別れて行動する。

Teacher2宇佐美、了解!』

Child2志度、了解!!』

Child3心視……了解』

 全員が応答し、二機ずつ、それとコンテナを曳航する組になって目的地点へと散開していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...