110 / 344
第十五話「第八師団と相棒達の活躍について」
テロリストの備え
しおりを挟む
目的地に到着したのか、停止した車から、ステュクスに抱えられて比乃は降ろされた。そこは、先日爆破された倉庫の近くにある、別の倉庫だった。すぐ側には、大型のフェリー船が停泊している。
倉庫の中には埃が薄っすらと積もっていて、人の出入りがほとんどなかったらしいことがわかる。作業途中の物と見られる機材や廃材が並んでいて、見晴らしがいいとは言えない。
そうしていると、黒い目出し帽を被った男たちが数人、フェリーから降りてきた。全員、サブマシンガンなどの小火器で武装している。外にある船は、どうやら迎えの船らしい、これで自分をどこか、他の港にでも連れ去る魂胆なのだろうか。
敵の数が増えただけでも厄介だと言うのに、抱えられた姿勢の比乃は、倉庫の奥に目をやって、驚愕に目を見開いた。
照明も付けられていない暗闇の奥に、巨大な人型のように見える機体が蹲っていた。ペーチルSだ。それも、六機いる。
とても、外にあるフェリーに搭載できる量ではない。いったいどこから、どうやって持ち込んだのか、しかも、ここにいても聞こえる超電動モーターの音から、出撃準備を終えた状態で鎮座していることもわかった。
自衛隊は、相手がこれだけの戦力を揃えていることを想定できているだろうか。比乃は呆然とそれを見上げる。もしも、救助部隊が隠密優先で普通科や警察の機動隊を主力にしていたら、瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。救出作戦を指揮している人物が、対AMW戦闘を想定していることを祈るしかない。
「ステュクス、日比野軍曹を適当に座らせてやれ」
指示を受けて、ステュクスは適当な廃材の上に比乃を座らせると、その手に手錠を嵌めた。これで、両手両足を封じられた比乃が「この脚で僕が抵抗できるとでも?」と、半分しかない腿を上下させて、自嘲気味に聞いた。
「流石にないとは思うが、逃げられでもしたら事なのでな」
「先生は心配性なの」
ステュクスが車から取り出した義足を離れた所に放る。とても手が届く距離ではないが、それでも今は問題ない。救出されてから回収すればいいだけの話である。
「左様ですか」
なので、聞いた本人は興味も無さそうな返事をする。その意図が解らないのか、探るように比乃を見るステュクスと、何を考えているのかわからない、無感情な目を向けて来ているオーケアノスに、比乃は内心「ちょっと余裕を見せすぎてるか」と冷や汗をかいた。
しかし、オーケアノスは特に何も追求せずに鼻を鳴らして「まぁいい、退屈なんだろう」と言って、少し離れた所に座った。少女もその隣に嬉しそうに腰掛けたのを見て、比乃はほっと息を吐いた。まだ怪しまれてはいないようだ。
ここで、こちらが何らかの手札を持っていると思われてはいけない。今できるのは、自分がフェリーに乗せられて海の上に運ばれてしまう前に、救出部隊が来ることを祈るくらいだ。あと、何かあるとすれば、
「しかし、これだけの戦力をどうやって持って来たんですか?」
比乃が唐突に話し出した。少しでも情報を引き出してやろうと言う魂胆と、単純な興味本位であった。
余計なことを聞くなとばかりに、少女がむっとした顔をするが、オーケアノスは「知りたいのか?」と、意外なことに特に隠すこともなく、このペーチルの出所を話し始めた。
とは言っても、そのほとんどは自衛隊や警察が元から予想していた通り、北や大陸からの密輸入によるものだった。特に真新しい情報と言える物はほとんどない。
わかったことと言えば、この男達が所属しているテロ組織が潤沢な資金と広大なパイプ、人員を揃えているということくらいだった。
「それだけの組織力があって、どうしてやることがテロなんです? 慈善活動でもすればいいのに」
「それは我々のトップにでも直接聞くがいい……さて」
オーケアノスは片手を挙げて見せた。すると、すぐ側にあったペーチルが次々と立ち上がった。操縦者はあらかじめ乗り込んでいたらしい。それらの機体は、重たい足音を立てて、倉庫から外へ出て行く。
何故、態々隠していた機体を倉庫から出すのか、怪訝そうにする比乃に、立ち上がったオーケアノスがゆっくりと振り向いた。その手には、いつの間にか通信機らしき物が握られていた。そこから、比之の聞いたことのない若い男性の『わりーオーケアノス、一足遅かった』という声が漏れた。
「さっきステュクスが言ったが、俺は心配性でな……例えば」
少しの間の後、遠くで爆発音が鳴った。思わず比乃がそちらを見る、大型火器の発砲音。この音は、Tkー7の短筒独特のものだ。救出部隊が来てくれた、それも、ちゃんと対AMW戦を想定している。
「たかが一人の自衛官を助けるのに、自衛隊が即座にAMWを投入してくるのではないかと考えてしまうくらいにはな」
そう言って、オーケアノスは周囲にいる兵士達に「敵がくるぞ、備えろ」と指示を出した。武器を持った男達は即座に散開して行く。それを見たオーケアノスは、フェリーの方へと歩いて行く。
「奴らは頼りにならん。ステュクス、念のために私も用意しておく、いざという時は、解っているな?」
「勿論です。先生」
少女は満面の笑みで答えると、ケースから部品を取り出して、愛銃を組み立て始めた。倉庫の入り口で自分の生徒を見てから、近くにいた兵士の一人に、オーケアノスが何かと指示を出す。
「さて、軍曹には少し静かにしていて貰おうか」
「もう充分に静かにしてると思うんですけど、あまり手荒いことはしてほしくないですね」
「そうはいかんな、俺はお前を過小評価しない。今も何らかの切り札……まぁ、大体の予想はつくが、それを使って脱出の手段を講じていると言った所だろう? だが残念だったな、次に目が覚めた頃には新天地だ。何、不安がることはないぞ」
オーケアノスが話す間に、命令を受けた兵士が来て、身動きの取れない比乃の脇腹に高圧スタンガンを押し当てた。比乃の意識は、そこで途切れた。
倉庫の中には埃が薄っすらと積もっていて、人の出入りがほとんどなかったらしいことがわかる。作業途中の物と見られる機材や廃材が並んでいて、見晴らしがいいとは言えない。
そうしていると、黒い目出し帽を被った男たちが数人、フェリーから降りてきた。全員、サブマシンガンなどの小火器で武装している。外にある船は、どうやら迎えの船らしい、これで自分をどこか、他の港にでも連れ去る魂胆なのだろうか。
敵の数が増えただけでも厄介だと言うのに、抱えられた姿勢の比乃は、倉庫の奥に目をやって、驚愕に目を見開いた。
照明も付けられていない暗闇の奥に、巨大な人型のように見える機体が蹲っていた。ペーチルSだ。それも、六機いる。
とても、外にあるフェリーに搭載できる量ではない。いったいどこから、どうやって持ち込んだのか、しかも、ここにいても聞こえる超電動モーターの音から、出撃準備を終えた状態で鎮座していることもわかった。
自衛隊は、相手がこれだけの戦力を揃えていることを想定できているだろうか。比乃は呆然とそれを見上げる。もしも、救助部隊が隠密優先で普通科や警察の機動隊を主力にしていたら、瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。救出作戦を指揮している人物が、対AMW戦闘を想定していることを祈るしかない。
「ステュクス、日比野軍曹を適当に座らせてやれ」
指示を受けて、ステュクスは適当な廃材の上に比乃を座らせると、その手に手錠を嵌めた。これで、両手両足を封じられた比乃が「この脚で僕が抵抗できるとでも?」と、半分しかない腿を上下させて、自嘲気味に聞いた。
「流石にないとは思うが、逃げられでもしたら事なのでな」
「先生は心配性なの」
ステュクスが車から取り出した義足を離れた所に放る。とても手が届く距離ではないが、それでも今は問題ない。救出されてから回収すればいいだけの話である。
「左様ですか」
なので、聞いた本人は興味も無さそうな返事をする。その意図が解らないのか、探るように比乃を見るステュクスと、何を考えているのかわからない、無感情な目を向けて来ているオーケアノスに、比乃は内心「ちょっと余裕を見せすぎてるか」と冷や汗をかいた。
しかし、オーケアノスは特に何も追求せずに鼻を鳴らして「まぁいい、退屈なんだろう」と言って、少し離れた所に座った。少女もその隣に嬉しそうに腰掛けたのを見て、比乃はほっと息を吐いた。まだ怪しまれてはいないようだ。
ここで、こちらが何らかの手札を持っていると思われてはいけない。今できるのは、自分がフェリーに乗せられて海の上に運ばれてしまう前に、救出部隊が来ることを祈るくらいだ。あと、何かあるとすれば、
「しかし、これだけの戦力をどうやって持って来たんですか?」
比乃が唐突に話し出した。少しでも情報を引き出してやろうと言う魂胆と、単純な興味本位であった。
余計なことを聞くなとばかりに、少女がむっとした顔をするが、オーケアノスは「知りたいのか?」と、意外なことに特に隠すこともなく、このペーチルの出所を話し始めた。
とは言っても、そのほとんどは自衛隊や警察が元から予想していた通り、北や大陸からの密輸入によるものだった。特に真新しい情報と言える物はほとんどない。
わかったことと言えば、この男達が所属しているテロ組織が潤沢な資金と広大なパイプ、人員を揃えているということくらいだった。
「それだけの組織力があって、どうしてやることがテロなんです? 慈善活動でもすればいいのに」
「それは我々のトップにでも直接聞くがいい……さて」
オーケアノスは片手を挙げて見せた。すると、すぐ側にあったペーチルが次々と立ち上がった。操縦者はあらかじめ乗り込んでいたらしい。それらの機体は、重たい足音を立てて、倉庫から外へ出て行く。
何故、態々隠していた機体を倉庫から出すのか、怪訝そうにする比乃に、立ち上がったオーケアノスがゆっくりと振り向いた。その手には、いつの間にか通信機らしき物が握られていた。そこから、比之の聞いたことのない若い男性の『わりーオーケアノス、一足遅かった』という声が漏れた。
「さっきステュクスが言ったが、俺は心配性でな……例えば」
少しの間の後、遠くで爆発音が鳴った。思わず比乃がそちらを見る、大型火器の発砲音。この音は、Tkー7の短筒独特のものだ。救出部隊が来てくれた、それも、ちゃんと対AMW戦を想定している。
「たかが一人の自衛官を助けるのに、自衛隊が即座にAMWを投入してくるのではないかと考えてしまうくらいにはな」
そう言って、オーケアノスは周囲にいる兵士達に「敵がくるぞ、備えろ」と指示を出した。武器を持った男達は即座に散開して行く。それを見たオーケアノスは、フェリーの方へと歩いて行く。
「奴らは頼りにならん。ステュクス、念のために私も用意しておく、いざという時は、解っているな?」
「勿論です。先生」
少女は満面の笑みで答えると、ケースから部品を取り出して、愛銃を組み立て始めた。倉庫の入り口で自分の生徒を見てから、近くにいた兵士の一人に、オーケアノスが何かと指示を出す。
「さて、軍曹には少し静かにしていて貰おうか」
「もう充分に静かにしてると思うんですけど、あまり手荒いことはしてほしくないですね」
「そうはいかんな、俺はお前を過小評価しない。今も何らかの切り札……まぁ、大体の予想はつくが、それを使って脱出の手段を講じていると言った所だろう? だが残念だったな、次に目が覚めた頃には新天地だ。何、不安がることはないぞ」
オーケアノスが話す間に、命令を受けた兵士が来て、身動きの取れない比乃の脇腹に高圧スタンガンを押し当てた。比乃の意識は、そこで途切れた。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる