上 下
108 / 344
第十五話「第八師団と相棒達の活躍について」

ミーティング

しおりを挟む
 事の発覚は比乃とオーケアノスの接触から二時間後と、意外にも早かった。

 先週から、オーケアノスとAMWの密輸入現場を血眼で追っていた県警の捜査部が、組み立て前の機体の部品らしきものを積み下ろしている現場を発見。監視を続けた結果、なんと、そこにオーケアノスと手配にあった少女が現れたのだ。そして、情報にない十代前半に見える少年の姿もそこにはあった。

 県警は当初の方針通り、速やかに陸自に情報提供を行った。第一師団に送られた情報は精査され、そこがオーケアノス一味のアジトであると想定するに至る。この時、報告を受けた柴野陸将と部下である陸佐達の間で、その少年という存在が大きく引っ掛かった。

 奴らが人質を取る必要性などない。少女を部下として連れているのだから、その少年も仲間なのではと主張する陸佐達を窘め、陸将は一つの心当たりから、沖縄の駐屯地へと連絡を取った。

 受話器に向かって「お前の部下の、そう、小さいのの一人だが、身体的特徴を教えろ……そうだ……接触があった?  何故言わなかった……何?」次第に受話器に向かう柴野の表情が険しくなり「馬鹿野郎!」と怒鳴り声を上げた。

「確かに俺はお前に嫌という程借りがあるし、言ってしまえば弱みの一つも握られてる。だがな、同時に恩もあるんだぞ、そんな奴の部下を易々と見捨てる将校がいるか!」

 受話器の向こうからの、第三師団師団長――部隊長の「すまん」という呟くような謝罪に、陸将は「これは一つ貸しだぞ。また連絡する」と返して、受話器を置いた。

 そして、通話を見守っていた部下達に、深刻そうな顔で告げる。

「緊急事態だ。自衛官が一名、拉致された。これより救出作戦を開始する」

 聞いた陸佐が「まさか」と呻く。先日送られてきた手紙、そこに書かれていた“目的”とは――

「どうも、そういうことらしいな」

 部下が言わんとしたことを察した柴野が言うと、陸佐は無言で通信室へと走って行った。

 事を大きくしてテロリストを刺激するわけにはいかないという、陸将ら幹部たちの見解の一致から、情報が伝えられるのは一部の師団に限られた。その中には、現場に近く、同時に拉致された比乃がいた第八師団もあった。

 テロリスト捕縛並びに、自衛官救出のためにオンライン会議が開かれる手筈が進む。各分担毎に指示を受けて、慌ただしくテーブルに投影機器やマイクなどが設置されていく。喧噪の会議室の中、柴野陸将は組んだ手の内で呟いた。

「日野部め、今度の飲み会はお前の奢りだぞ」

 ***

 第八師団の駐屯地で、部隊長からの連絡を受けた志度と心視は頭を抱えた。普段は過保護なくらい比乃にくっ付いている二人だが、今回は不運な事に、二人揃ってデスクワークを行なっていて、比乃の外出を知らされていなかった。恐らく、本人もすぐ戻るつもりだったのだろう。

「どうしよう……どうしよう……」

 心視がうわ言のように繰り返しながら廊下を行ったり来たりし、志度は爪を噛んで何か考え込んでいる。
 これでは一年前と同じだ。いや、今度は怪我なんかでは済まない、比乃が殺されてしまうかもしれない――焦燥感に苛まれ、いっそ今からでも徒歩で捜索にと立ち上がった。

 二人が外へ向けて走り出す前に、駆け寄ってきた人物がいた。第八師団の師団長、高橋一佐と、部下の清水一尉である。

「二人共ここに居たか」

 どうやら志度たちを直接自分の足で探していたらしい。動揺しながらも敬礼する二人に、一佐は告げる。

「大筋の流れは聞いた。それで先程、日比野三曹の救出作戦が先程決まった。二人にも参加してもらいたい」

「お二人には作戦の要になってもらいます。ミーティングルームに急いでください」

 言って、身を翻した一佐と一尉に、二人は早足で付いて行く。この状況ではっきりしていることはただ一つ。一刻も早く、比乃を救い出さなければ、彼の命が危ないということだけだった。救出作戦への参加を断る理由はなかった。



 駐屯地のミーティングルームと呼ばれる部屋。会議室を改装した簡易的な作戦室では、ホワイトボードに貼られた地図の前に設置された椅子が並んでいる。それに、この駐屯地所属の機士達が続々と着席する。その中には、志度と心視の姿もある。

 二人の内心には不安があった。相手は、あのオーケアノスという大物テロリスト。その部下には自分が手も足も出ない少女もいる。そんな相手に、規模が大きいとはとても言えないこの駐屯地の部隊で、太刀打ちできるだろうか。

 そんな二人の不安を他所に、集まった隊員達の前に立った高橋一佐が、大きく咳払いをしてから、作戦概要を説明し始める。

 敵の潜伏場所、想定される規模、周囲の状況、そして第一、第三、第八師団の上層部で話し合われて立案された具体的な作戦内容を、図を使って順番に説明する。そして、一通り説明を終えた一佐は、くるりと座っている隊員達に向き直った。

「諸君、先程説明した通りだが、この駐屯地に間借りしていた機士が一名、凶悪な国際テロリストに拉致された。その目的は不明だが、我々はなんとしてもテロリストの手から彼を救出しなければならない。彼は教育隊の面倒を見てくれている恩人であると同時に、問題児を矯正してくれた恩人だからな。また、テロリストの確保も成し遂げなければならない。相手のこれまでの手口から言って、自爆攻撃を仕掛けてくる可能性が高く、事は慎重に運ばなければならない」

 困難な作戦だ。誰かが「簡単に言うよなぁ」とぼやく。しかし、高橋はなんて事なしに「だが我々には強力な助っ人、第三師団の機士が二人もいる。それにだ」と言って、にやっと笑った。周囲の視線が、心視と志度に集まる。

「周りからは場末部隊だとか、寄せ集めだか、養育専門部隊だなんだと言われているが、これは我々の力を発揮する大きなチャンスだ。助けを求めているのは王女様じゃなくて王子様だが……どうだお前たち、心踊らないか?」

 高橋の状況とは場違いな軽薄な問いに、駐屯地所属の機士達は無言で、しかし目には確かな闘志を滾らせて、己の指揮官の目を見返す。それに高橋は「気合充分で結構」と大仰に頷いた。

 志度と心視はその周囲の妙な空気に飲まれそうになったが、同時に、先程までの不安はすっかりなくなっていた。この部隊は頼りになるかもしれない。自分たちの経験と勘がそう告げていた。

「よし、それじゃあお姫様……じゃなかった。王子様を助けに行くぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。 戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。 そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。 親友が起こしたキャスター強奪事件。 そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。 それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。 新たな歴史が始まる。 ************************************************ 小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。 投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

美少女アンドロイドが空から落ちてきたので家族になりました。

きのせ
SF
通学の途中で、空から落ちて来た美少女。彼女は、宇宙人に作られたアンドロイドだった。そんな彼女と一つ屋根の下で暮らすことになったから、さあ大変。様々な事件に巻き込まれていく事に。最悪のアンドロイド・バトルが開幕する

処理中です...