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第十四話「襲来する驚異について」
突然の襲撃
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翌日、週最後の午後に行われた訓練は比乃が言った通り、AMWによる演習だった。
今回は初日に行われた組手のような物ではなく、午前中に行われた座学で、訓練生たちが教わった内容――思考フィードバック、DLSの仕組みについてや、AMW戦におけるTkー7運用のコツなどを実践で学ぶことを目的とした物だった。
志度と比乃は近接格闘戦を、心視はAMWによる狙撃技術についてを講義していた。
比乃が乗っている、相変わらず借りたままの予備のTkー7が、風切り音を鳴らしながら、素早くナイフを突き出すモーションを繰り出す。横に並んだ橙色の訓練機が、それを真似してナイフを振るっている。
「はい、そこでナイフはこう……そうそう、この前のカレー作ってた時よりは上手くなったんじゃないですか」
『もしかして、あの時Tkー7に乗ってたのって、三曹殿?』
「もしかしなくてもそうですよ、あの時は見てて冷や冷やしました」
『ひぇー、道理で動かし方がスマートなんだぁ……』
訓練は順調で、このような茶化しが入るくらいには、教える側も教わる側も余裕があった。これは、昨日までの嫌々やっていた訓練の雰囲気が、若干変わったことと関係していた。
ようやく、あの地獄のような肉体酷使の訓練から解放され、念願とも言えるAMWの訓練に入ったということで、訓練生たちは心理的にも肉体的にも、気が楽になったということがあった。そしてもう一つの理由によって、訓練生たちの比乃ら教官役を見る目が、少し変わったことが、やる気の向上に起因していた。
菊池が、昨晩のことを掻い摘んで……むしろ大袈裟な装飾を加えて、訓練生達に広めたのだ。いわく「あの三人はSEALs(米海軍特殊戦コマンド)並みの訓練をやってのけた化け物」「それをやらされてる自分たちは、エリートになるべく期待されている」「というか十八歳の三曹って何者」などと言った会話が、今朝の着替え中に囁かれていた。
その理由はともかく、訓練のモチベーションが上がっているのは良いことである。比乃としては、話を広められても特別困るものでもないので、咎めることもなかった。
それらによって、昨日までの訓練がただの虐待ではないということには納得したらしく、菊池たち以外の訓練生も、真面目に訓練に取り組んでくれるようになった。比乃も、やり易くなって助かっている。
「はーい、そこ、攻撃の隙が大き過ぎです。そんなんだと反撃食らって死にますよ。もっと脇を締めて脇を」
初日に比べると、かなり穏やかな訓練風景が流れる駐屯地のグラウンド。特に異常もなく過ぎて行く時間。
ただ一つ、異常があるとすれば、普段はほとんど車の往来がない、駐屯地沿いの道路に駐車されている、大型のダンプくらいの物か。
(待て、大型車両だって?)
訓練機に手を添えて指導をしている最中、ふとそれを視界に捉えた比乃は、直感に近い、嫌な予感を感じた。そして、そのダンプカーを注視しようと映像を拡大した、そのとき、動きがあった。荷台のカバーシートが、内側から持ち上がったのだ。何かが、起き上がろうとしている。
「child1よりchild2、3、道路沿いのダンプ!」
ちょうどAMWが一機収まる荷台から、黒色の塊がシートを退かして跳躍。外周のフェンスを踏み潰して、駐屯地の敷地内へと侵入してきた。それと同時にダンプは走り去っていく。そちらの、追跡は困難だ。今は目の前に突然現れた敵機に集中する。
踏み潰したフェンスを、無造作に退かしながら歩き出したのは、Tkー7と同じくらい華奢な胴体、運動性と格闘性能を重視した長い手足。第ニ世代AMW、トレーヴォだった。
『な、なんですかあれ』
「わからないけど、下がって」
戸惑う菊池機に後ろへ下がるように促し、比乃は所属不明のトレーヴォの方へと一歩踏み出す。相手は自分を警戒している自衛隊機など御構い無しに、ゆっくりと、しかし隙の無い動きで、更に近付いて来る。
「どうする……?」
この予備機には、腕部に搭載されたスラッシャーしか武装がない。それだけでも、並大抵の相手ならば鎮圧できる。しかし、相手の目的がわからない。見てわかるのは、武装は最低限しているということだった。右手に軽量小型のAMW用サブマシンガン、武装ラックを腰につけていることから、近接装備もあるだろう。
比乃は、この相手の目的が、自爆テロか何かだったらと考えると、迂闊に動くことができなかった。偶然にも、数日前に起きた事件と似たような状況を想定してしまい、判断が遅れたのだ。志度と心視は、指揮官である比乃が指示を出すまで動けない。比乃と同じく、対応を決めかねていた。
比乃、志度、心視の三人がどう対応した物が逡巡している間に、グラウンドまで入って来たトレーヴォが、無造作に、何気ないとすら言える動きで、右腕に保持していたサブマシンガンを訓練機の群れに向けた。
「――しまった!」
一瞬の対応が遅れた――比乃がTkー7を走らせるよりも相手が発砲する方が早い。まだすぐ後ろに居た菊池機を引き倒して自身も倒れるようにして回避運動に入る。
しかし、他の訓練生達は状況についていけず棒立ちのまま硬直している。自己判断で回避運動が取れるほどまだ場慣れしていない。
「全機散開しろ!」
比乃が思わず叫ぶが、咄嗟に回避運動が取れたのは数機だけで、ほとんどは棒立ちのままだ。そして、容赦なく彼女らに向けられたマシンガンの引き金が引かれる――その直前に、志度と心視のTkー7が反射的に訓練生達の機体の前に飛び出た。
今回は初日に行われた組手のような物ではなく、午前中に行われた座学で、訓練生たちが教わった内容――思考フィードバック、DLSの仕組みについてや、AMW戦におけるTkー7運用のコツなどを実践で学ぶことを目的とした物だった。
志度と比乃は近接格闘戦を、心視はAMWによる狙撃技術についてを講義していた。
比乃が乗っている、相変わらず借りたままの予備のTkー7が、風切り音を鳴らしながら、素早くナイフを突き出すモーションを繰り出す。横に並んだ橙色の訓練機が、それを真似してナイフを振るっている。
「はい、そこでナイフはこう……そうそう、この前のカレー作ってた時よりは上手くなったんじゃないですか」
『もしかして、あの時Tkー7に乗ってたのって、三曹殿?』
「もしかしなくてもそうですよ、あの時は見てて冷や冷やしました」
『ひぇー、道理で動かし方がスマートなんだぁ……』
訓練は順調で、このような茶化しが入るくらいには、教える側も教わる側も余裕があった。これは、昨日までの嫌々やっていた訓練の雰囲気が、若干変わったことと関係していた。
ようやく、あの地獄のような肉体酷使の訓練から解放され、念願とも言えるAMWの訓練に入ったということで、訓練生たちは心理的にも肉体的にも、気が楽になったということがあった。そしてもう一つの理由によって、訓練生たちの比乃ら教官役を見る目が、少し変わったことが、やる気の向上に起因していた。
菊池が、昨晩のことを掻い摘んで……むしろ大袈裟な装飾を加えて、訓練生達に広めたのだ。いわく「あの三人はSEALs(米海軍特殊戦コマンド)並みの訓練をやってのけた化け物」「それをやらされてる自分たちは、エリートになるべく期待されている」「というか十八歳の三曹って何者」などと言った会話が、今朝の着替え中に囁かれていた。
その理由はともかく、訓練のモチベーションが上がっているのは良いことである。比乃としては、話を広められても特別困るものでもないので、咎めることもなかった。
それらによって、昨日までの訓練がただの虐待ではないということには納得したらしく、菊池たち以外の訓練生も、真面目に訓練に取り組んでくれるようになった。比乃も、やり易くなって助かっている。
「はーい、そこ、攻撃の隙が大き過ぎです。そんなんだと反撃食らって死にますよ。もっと脇を締めて脇を」
初日に比べると、かなり穏やかな訓練風景が流れる駐屯地のグラウンド。特に異常もなく過ぎて行く時間。
ただ一つ、異常があるとすれば、普段はほとんど車の往来がない、駐屯地沿いの道路に駐車されている、大型のダンプくらいの物か。
(待て、大型車両だって?)
訓練機に手を添えて指導をしている最中、ふとそれを視界に捉えた比乃は、直感に近い、嫌な予感を感じた。そして、そのダンプカーを注視しようと映像を拡大した、そのとき、動きがあった。荷台のカバーシートが、内側から持ち上がったのだ。何かが、起き上がろうとしている。
「child1よりchild2、3、道路沿いのダンプ!」
ちょうどAMWが一機収まる荷台から、黒色の塊がシートを退かして跳躍。外周のフェンスを踏み潰して、駐屯地の敷地内へと侵入してきた。それと同時にダンプは走り去っていく。そちらの、追跡は困難だ。今は目の前に突然現れた敵機に集中する。
踏み潰したフェンスを、無造作に退かしながら歩き出したのは、Tkー7と同じくらい華奢な胴体、運動性と格闘性能を重視した長い手足。第ニ世代AMW、トレーヴォだった。
『な、なんですかあれ』
「わからないけど、下がって」
戸惑う菊池機に後ろへ下がるように促し、比乃は所属不明のトレーヴォの方へと一歩踏み出す。相手は自分を警戒している自衛隊機など御構い無しに、ゆっくりと、しかし隙の無い動きで、更に近付いて来る。
「どうする……?」
この予備機には、腕部に搭載されたスラッシャーしか武装がない。それだけでも、並大抵の相手ならば鎮圧できる。しかし、相手の目的がわからない。見てわかるのは、武装は最低限しているということだった。右手に軽量小型のAMW用サブマシンガン、武装ラックを腰につけていることから、近接装備もあるだろう。
比乃は、この相手の目的が、自爆テロか何かだったらと考えると、迂闊に動くことができなかった。偶然にも、数日前に起きた事件と似たような状況を想定してしまい、判断が遅れたのだ。志度と心視は、指揮官である比乃が指示を出すまで動けない。比乃と同じく、対応を決めかねていた。
比乃、志度、心視の三人がどう対応した物が逡巡している間に、グラウンドまで入って来たトレーヴォが、無造作に、何気ないとすら言える動きで、右腕に保持していたサブマシンガンを訓練機の群れに向けた。
「――しまった!」
一瞬の対応が遅れた――比乃がTkー7を走らせるよりも相手が発砲する方が早い。まだすぐ後ろに居た菊池機を引き倒して自身も倒れるようにして回避運動に入る。
しかし、他の訓練生達は状況についていけず棒立ちのまま硬直している。自己判断で回避運動が取れるほどまだ場慣れしていない。
「全機散開しろ!」
比乃が思わず叫ぶが、咄嗟に回避運動が取れたのは数機だけで、ほとんどは棒立ちのままだ。そして、容赦なく彼女らに向けられたマシンガンの引き金が引かれる――その直前に、志度と心視のTkー7が反射的に訓練生達の機体の前に飛び出た。
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