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第十一話「模擬戦と乱入者と保護者の実力について」
脅威襲来
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「おーおー、ブラッドバーン伍長も比乃相手に良く頑張るな」
「私から見たら、改修機とは言え、旧式のTkー7でXM6を相手に善戦してるって感じだけど」
「そこは見解の違いだな」
自衛官や米兵の「いけーそこだー!」「惜しい!」「もっと気合い入れろー!」など、競馬場か何かのような野次と歓声の入り混じっている中、部隊長とメイヴィスは模擬戦のモニター観戦を続けていた。
「しかし例のセンサー、凄まじい性能だな。まるでシューティングゲームからコピーしてきたような性能じゃないか」
「あら、あのスラスターだって凄いじゃない、AMWをあそこまで自在に三次元機動させるなんて、アクションゲームの中から引っ張り出したみたい」
ドローンを介した中継の中で、白と青、二機のAWMは熾烈な近接戦闘を繰り広げていた。青い機体、リアのXM6は自由奔放とも言える動きで、白い機体、Tkー7を追い詰めようとナイフを振るう。それを、比乃は正確に、一定のパターンを織り交ぜたような動きで、攻撃を捌き切っている。見方を変えれば、猛獣と猛獣使いのような構図にも見えた。
観戦していたメイヴィスの「それにしても長いわね」という呟きに、部隊長は「そうだな」と同意する。
機体性能ではリアのXM6が勝り、搭乗者の技能は比乃が優れている形で、戦闘の流れは奇妙な形で拮抗状態が続いていた。
部隊長が腕時計を確認すると、もう五分以上戦闘を続けている。模擬戦とは言え、通常のAMW同士の戦闘の決着はどんなに長くても二、三分であることを考えると、両者共に異常に粘っていると言えるだろう。
(ここから先は――)
相手より先に、集中を切らせた方が負けるだろう。部隊長とメイヴィスは揃ってそう予想していた。
「しっかし、詳細仕様を読めば読むほど思うんだが、何なんだあの出鱈目なセンサーは、現場としては是非欲しいな」
部隊長が懐から取り出した英文の資料。XM6のあまり公にされていないスペックが記されたそれを見ながら、改めてモニターの中の機体を観察する。
米軍の最新鋭機は、近距離とは言えど、バッテリー駆動故の静寂性を持ち、更に森林に身を隠していた機体を、ほんの僅かな動作音だけでその正確な居場所まで探知してみせた。既存のセンサー、レーダーの類ではそう出来ることではない。
高い隠蔽能力に優れた目、なるほど確かに、これらが揃えば少なくとも対AMW戦では一方的に優位に立てるだろう。この機体をからXの試験ナンバーが外れた時、AMW戦の基本は様変わりすることは、想像に難しくなかった。
「あら、日本が欲しいのはステルス機能じゃなかったのかしら?」
「それも欲しがるぞ、今の日本は貪欲だからな」
「あら、それじゃあ少将に頑張ってもらって、気をつけるように大統領に伝えて貰おうかしら」
「それがいい、俺も外交官の友達になんとかして技術を貰ってこいって言っておこう」
そんな、冗談なのか本気なのか分からないことを二人が言い合っていると、先ほど始末書を取りに言った副官が慌てた様子で走って来て、転んだ。
「ぎゃふんっ」
「お前はいつからドジっ娘になったんだ……あいや待て、お前が転ぶ時っていつも非常事態だったな。まさか」
「そ、そのまさかです日野部一佐!」
部隊長の手を借りて立ち上がった副官が、なんとか落ち着こうと一度息を深く吸ってから、手にしていた折れ曲がってしまった紙に書かれた内容を読み上げた。
「本日一〇三五、沖縄本島沖二〇キロ地点に謎の飛行物体を防空網内に観測。出現方法と反応が去年こちらから提供された物とほぼ一致、OFMであると思われるそれらが、高速でこちらに向かって来ているとのこと」
突然現れた謎の飛行物体、それが謎の機動兵器、OFMであるという言葉に、部隊長は一年前を、メイヴィスは友軍が被害を受けた数ヶ月前の状況を思い出し、表情が険しくなる。
「数は」
「四機です。全ての反応がこちらに直線で向かって来ていると」
「どこから沸いて出たんだか……非常呼集だ。そこで騒いでる馬鹿どもに迎撃用意をさせろ、今回は万全の状態で叩きのめしてくれる。メイヴィス、お前は……っておおい!」
部隊長が今、待機してろと言おうとした矢先に、メイヴィスは自分達の機材を運び込んだハンガーに駆けて言ってしまった。その意図を察した部隊長が「それは流石に不味いだろおい!」と叫ぶが、メイヴィスは立ち止まりもせず。
「大丈夫よ、万が一って時は動いていいってお墨付きがあるの!」
走りながら叫び返し、あっという間にハンガーの中に消えていった。
「おいそれ初耳だぞぉ!」
もう追い掛けても仕方があるまいと、半ば諦めて「にしても年の割には元気な奴め……」と本人には絶対聞かせてはいけないようなことを呟く。
「まぁあいつのことだから余計なことはせんだろう……それよりも」
「ぶぶぶぶ部隊長大変です!」
「今度はなんだぁ!」
部隊長が鬱陶しげに叫んで振り返ると、今し方、部隊長の後ろで無線機で指揮所と連絡を取っていた副官が、更に慌てた様子で報告する。
「那覇空港、県立病院、沖縄警察署で大規模なテロが発生したと通報が、数はバラバラですが旧世代型のAMWまで持ち出されているとのことで……」
「け、警察は何をしてるんだ……!」
「みんな東京に引っ張ってかれちゃいましたよ!」
東京事変以来の人手不足が災いしたかぁ……! 部隊長は思わず唸る。このタイミングでの同時多発テロ、それもAMWまで出して来た。沖縄本島において、対AMW戦力を捻出できるのはこの第三師団のみである。OFMも含めて、戦力を分散配置して対処しなければならない。
タイミングからして、このテロがOFMの出現と繋がっていることは明確だった。AMWの出現は、明らかな陽動作戦だ。
(しかし何故だ……なんの目的があってここを……)
一瞬の思考の後、部隊長は今正に無防備に近い状態になっている最新鋭機の存在を、今やっと思い出した。
「比乃と伍長がまずい!」
「私から見たら、改修機とは言え、旧式のTkー7でXM6を相手に善戦してるって感じだけど」
「そこは見解の違いだな」
自衛官や米兵の「いけーそこだー!」「惜しい!」「もっと気合い入れろー!」など、競馬場か何かのような野次と歓声の入り混じっている中、部隊長とメイヴィスは模擬戦のモニター観戦を続けていた。
「しかし例のセンサー、凄まじい性能だな。まるでシューティングゲームからコピーしてきたような性能じゃないか」
「あら、あのスラスターだって凄いじゃない、AMWをあそこまで自在に三次元機動させるなんて、アクションゲームの中から引っ張り出したみたい」
ドローンを介した中継の中で、白と青、二機のAWMは熾烈な近接戦闘を繰り広げていた。青い機体、リアのXM6は自由奔放とも言える動きで、白い機体、Tkー7を追い詰めようとナイフを振るう。それを、比乃は正確に、一定のパターンを織り交ぜたような動きで、攻撃を捌き切っている。見方を変えれば、猛獣と猛獣使いのような構図にも見えた。
観戦していたメイヴィスの「それにしても長いわね」という呟きに、部隊長は「そうだな」と同意する。
機体性能ではリアのXM6が勝り、搭乗者の技能は比乃が優れている形で、戦闘の流れは奇妙な形で拮抗状態が続いていた。
部隊長が腕時計を確認すると、もう五分以上戦闘を続けている。模擬戦とは言え、通常のAMW同士の戦闘の決着はどんなに長くても二、三分であることを考えると、両者共に異常に粘っていると言えるだろう。
(ここから先は――)
相手より先に、集中を切らせた方が負けるだろう。部隊長とメイヴィスは揃ってそう予想していた。
「しっかし、詳細仕様を読めば読むほど思うんだが、何なんだあの出鱈目なセンサーは、現場としては是非欲しいな」
部隊長が懐から取り出した英文の資料。XM6のあまり公にされていないスペックが記されたそれを見ながら、改めてモニターの中の機体を観察する。
米軍の最新鋭機は、近距離とは言えど、バッテリー駆動故の静寂性を持ち、更に森林に身を隠していた機体を、ほんの僅かな動作音だけでその正確な居場所まで探知してみせた。既存のセンサー、レーダーの類ではそう出来ることではない。
高い隠蔽能力に優れた目、なるほど確かに、これらが揃えば少なくとも対AMW戦では一方的に優位に立てるだろう。この機体をからXの試験ナンバーが外れた時、AMW戦の基本は様変わりすることは、想像に難しくなかった。
「あら、日本が欲しいのはステルス機能じゃなかったのかしら?」
「それも欲しがるぞ、今の日本は貪欲だからな」
「あら、それじゃあ少将に頑張ってもらって、気をつけるように大統領に伝えて貰おうかしら」
「それがいい、俺も外交官の友達になんとかして技術を貰ってこいって言っておこう」
そんな、冗談なのか本気なのか分からないことを二人が言い合っていると、先ほど始末書を取りに言った副官が慌てた様子で走って来て、転んだ。
「ぎゃふんっ」
「お前はいつからドジっ娘になったんだ……あいや待て、お前が転ぶ時っていつも非常事態だったな。まさか」
「そ、そのまさかです日野部一佐!」
部隊長の手を借りて立ち上がった副官が、なんとか落ち着こうと一度息を深く吸ってから、手にしていた折れ曲がってしまった紙に書かれた内容を読み上げた。
「本日一〇三五、沖縄本島沖二〇キロ地点に謎の飛行物体を防空網内に観測。出現方法と反応が去年こちらから提供された物とほぼ一致、OFMであると思われるそれらが、高速でこちらに向かって来ているとのこと」
突然現れた謎の飛行物体、それが謎の機動兵器、OFMであるという言葉に、部隊長は一年前を、メイヴィスは友軍が被害を受けた数ヶ月前の状況を思い出し、表情が険しくなる。
「数は」
「四機です。全ての反応がこちらに直線で向かって来ていると」
「どこから沸いて出たんだか……非常呼集だ。そこで騒いでる馬鹿どもに迎撃用意をさせろ、今回は万全の状態で叩きのめしてくれる。メイヴィス、お前は……っておおい!」
部隊長が今、待機してろと言おうとした矢先に、メイヴィスは自分達の機材を運び込んだハンガーに駆けて言ってしまった。その意図を察した部隊長が「それは流石に不味いだろおい!」と叫ぶが、メイヴィスは立ち止まりもせず。
「大丈夫よ、万が一って時は動いていいってお墨付きがあるの!」
走りながら叫び返し、あっという間にハンガーの中に消えていった。
「おいそれ初耳だぞぉ!」
もう追い掛けても仕方があるまいと、半ば諦めて「にしても年の割には元気な奴め……」と本人には絶対聞かせてはいけないようなことを呟く。
「まぁあいつのことだから余計なことはせんだろう……それよりも」
「ぶぶぶぶ部隊長大変です!」
「今度はなんだぁ!」
部隊長が鬱陶しげに叫んで振り返ると、今し方、部隊長の後ろで無線機で指揮所と連絡を取っていた副官が、更に慌てた様子で報告する。
「那覇空港、県立病院、沖縄警察署で大規模なテロが発生したと通報が、数はバラバラですが旧世代型のAMWまで持ち出されているとのことで……」
「け、警察は何をしてるんだ……!」
「みんな東京に引っ張ってかれちゃいましたよ!」
東京事変以来の人手不足が災いしたかぁ……! 部隊長は思わず唸る。このタイミングでの同時多発テロ、それもAMWまで出して来た。沖縄本島において、対AMW戦力を捻出できるのはこの第三師団のみである。OFMも含めて、戦力を分散配置して対処しなければならない。
タイミングからして、このテロがOFMの出現と繋がっていることは明確だった。AMWの出現は、明らかな陽動作戦だ。
(しかし何故だ……なんの目的があってここを……)
一瞬の思考の後、部隊長は今正に無防備に近い状態になっている最新鋭機の存在を、今やっと思い出した。
「比乃と伍長がまずい!」
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