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第十話「米国の未成年軍人と日本の未成年自衛官について」

忍び寄る影

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 夜の空港近く。十時の最終便に乗って沖縄の地に降り立ったその男は、身に付けていたベージュ色の薄手のコートを脱ぐと、それを腕に抱えた。
 東京でならともかく、この時期でもむわりと来る暑さのここでは、このコートをは目立つし、何より、身に付けておくのも不快だ。

 態々、証拠品をゴミ箱に置いてやる意味もないので、それを抱えたまましばらく待つ。しばらくすると、一台のワゴン車が近づいて来て、男が何かするまでもなく目の前に停車するした。中にいた大学生風の女性が扉を開けて、男に手招きした。

 男はふんと不遜な態度で鼻を鳴らすと、なにも言わずにワゴン車に乗り込んだ。ドアが閉まり、静かなエンジン音を立てながら、車は一通りの少なくなった道路を走り始める。

 車内にいるのは先ほどドアを開けたポニーテールの女と、対面座席になっている席の上座に座っている、短髪の男、そして、運転席の寡黙そうな厳つい男の三人だった。

 その内、短髪の男がにこりと笑い、男に手を差し出して握手を求めた。

「こうして直接お会い出来て光栄です。私は小城(オギ)と申します」

 そう友好的な態度を示す小城と名乗った彼の手を、男は特に返事もせず無言で軽く握って返した。あまり友好的とは言えない態度に、後ろに座って居た女性がむっとした様子で「ちょっと」と声をあげたが、小城は「まぁまぁ」とそれを諌める。

 男はそのやりとりにも大して興味がないように無視すると、ようやく口を開いた。

「それで、私が乗る機体は用意できているんだろうな」

 その言葉は英語だった。男は日本語は判るが、相手のために態々判る言葉で話してやろうという気は更々ないらしい。英語が解らず困り顔の小城を前にしても「どうした?  早く答えろ」と英語で続ける。そこで、女性が少し不慣れな英語で代わりに答えた。

「そちらが指定した通りの機種ではありませんが、代わりの機体を用意しました」

「所詮小規模なテロ組織では、その程度も用意できないか……期待した私の落ち度かな?」

「いえ、我々以外では用意できない、特別な物をご用意しました……万が一、貴方の指定したポンコツで失敗でもされては事ですから」

 ニコラハムが指定した機体、ペーチルの通常型モデルは、確かに些か古いが、そこまで性能が低いわけでもない。しかし、それを使えないという意味を測りかね、それが若干の皮肉が込められた言葉であることを理解すると、男が初めて大きな反応を示した。
 西洋人らしい整った顔が憤怒に染まり、今にも女性に掴みかからん表情を浮かべたのだ。だが、それは一瞬のことで、次の瞬間にはふっと口を嘲笑に歪めた。

「お嬢さん、あまり人を馬鹿にしてはいけないと、親御さんに学ばなかったのかな?  特に我々英国人は、紳士故に、躾の作法という物も嗜んでいる。相手が例え女性であっても……」

 言っている言葉の意味がわからずとも、男が剣呑な空気を漏らしだしたことに機敏に反応した小城が「小谷野(コヤノ)さん、謝って」と促した。小谷野と呼ばれた女性は渋々「……申し訳ありません」と頭を下げて謝罪した。

 この女はあまり賢くないな、男はそう評価して「ふん」と再度、癖のように鼻を鳴らすと、それでも一応は溜飲が下がったらしく、正面に向き直ると腕を組んで黙り込む。

 小城はあわや仲間割れという空気に少し慌てた様子で「い、いやぁしかし、最初に連絡を受けた時は冗談か悪戯かと思いましたが、実際に見て確信が持てました。貴方こそ、我々の用意した“ラブラトライト”を扱うに相応しい方だ」

 男は「ラブラドライト」という名前のAMWがすぐに頭に浮かばなかった。出て来るものとすれば、七色の色彩を持つ宝石のことだけである。文字通り、手で胡麻をするような動きで機嫌を取ろうとする小城を、男は「はっ」と笑って一蹴した。

「お前たちがどんな珍妙な機体を用意したかは知らんが、実際に役に立てばそれでいい」

 男の言葉を小谷野が通訳すると、小城は「ええ、ええ、世界で最も強い、文字通り最強の機体です。貴方にはラブラトライトの力を存分に発揮して、作戦を成功に導いて頂きたい」と、笑みを浮かべたまま言う。

 男が納得したらしいと判断した小城は、懐から作戦概要と書かれた紙を取り出して男に手渡した。男は内心「計画を紙媒体にして印刷するテロリストがどこにいる」と、データ漏洩と計画書その物が漏洩する可能性を全く考えていない、間抜けな相手の評価を更に下げながらも、紙の内容を読み取る。

 そこに書かれていた内容に、男は思わず呆れた顔になり、小城が「ど、どうしました?」と困惑する。
 それもそうだろう、そこに書かれたいた作戦とも呼べない何か、無駄に文章量が多く難解な言葉を無理に使った(一部、西洋人の男には読み取れない物もあった)を簡潔にまとめると

「演習中の基地を襲撃して米軍の最新鋭機を奪取する……寄せ集めのAMWが数機と、名前も聞いたこともない機体が四機でか?」

 頼る相手を間違えたかーーと西洋人の男はこめかみに手をやって皺を寄せるが、小城は自信満々に「大丈夫です。現地の活動団体さんも精一杯協力するとのことですし、何より、我々のOFMは無敵ですから!  万が一にも負けはありません!」と言ってのけていた。

「OFM……なんだそれは」

 聞いたことがない単語に男が反応すると、流石にニュアンスで何が問われているか解った小城は、自慢の玩具を説明するように答えた。

「オーガニックフレームマシン、元は軍が勝手に付けた名前ですけど、それっぽいので我々もそのまま使っている。AMWなんておもちゃにしかならない、完全無敵の新兵器です!  だからそんな顔をしなくても大丈夫ですよーーニコラハムさん」

 四人を乗せた車は、闇の支配する小道を進み、今は使われていない廃倉庫へと入っていく。
 中にあった、否、鎮座していた物を見て、その詳しい仕様を聞いた時、西洋人の男……ニコラハムは笑いを堪えきれなかった。

 それは、このような馬鹿げた兵器に対する嘲笑か、それとも、それに頼らざるを得なくなった自身への失笑か、それはニコラハム本人にも解らなかった。
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