自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第十話「米国の未成年軍人と日本の未成年自衛官について」

ファーストコンタクト

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 思わぬ言葉に「えっ」と固まった比乃と、唖然とする周囲を無視して、リアは人差し指を立てて一方的に捲し立てる。

「先輩の戦い方を見てましたけど、すっごい力任せーって感じ!  センスがないっていうのかなぁ、綺麗じゃないよ。とにかく腕を振り回してるだけでリズムが取れてない。戦いはもっとテンポよくやらなきゃ駄目だってメイ少佐も言ってた!  それに最後の攻撃だって私なら防御できへぶっ!?」

 と、そこまで言った辺りで、メイヴィスの拳骨がリアの言葉を遮った。

「いったーい!  何するのよメイ少佐!」

「それはこっちの台詞よ!  あーもう!」

 依然としてぽかんとしている比乃に、自分の子供が悪さをしてしまった親のように、メイヴィスは申し訳なさそうに頭を下げた。頭をさすって痛そうにしているリアの髪を、むんずと掴んで下げさせる。

「ごめんなさい日比野軍曹。この子ったら操縦の腕は確かなんだけど、素行が悪いというかマナーがなってなくて……ほら、リアもごめんなさいしなさい!」

「申し訳ありませんでしたメイ少佐!」

「私じゃなくて日比野軍曹に!」

「イエッサぁぁぁ痛い痛いメイ少佐ごめんなさい離してぇ!」

 メイヴィスに髪を鷲掴みにされ、強制的に頭を下げさせらた結果、彼女の頭頂部から「ぶちぶちっ」という音が聞こえたのは、彼女の尊厳とかのために黙っておこうと、比乃は思った。

 そんなことよりも、大物に頭を下げられて、気まずそうに頬を掻く。比乃からしてみれば、先ほどの模擬戦はお世辞にも、善戦したとは言い難い物だと自覚している。なので、一つ年下の少女にダメ出しされても、それで気分を害したりはしない。

 なお、比乃の代わりに、後ろで志度と心視が殺気立っていた。それを部隊長が「どうどう」と宥めているのは、背中に目がついていない比乃は知らない。

「いえ、実際さっきの模擬戦は僕の惨敗でしたし、僕もまだまだ未熟でした。伍長の言う通りですから、離してあげてください」

 そう言って逆に頭を下げた比乃に、メイヴィスは「まぁ!」と空いている手で口元を抑え、部隊長の方に向き直る、掴んだリアの髪を引っ張りながら。

「痛い痛い痛い!」

「この子ったらとっても紳士じゃない!  日野部さん、あなたいい息子さんを持ったわね~、それに比べてうちのリアは全くもう!」

「あー、うん」

 髪を引っ張られて悲鳴をあげると少女と、それを全く気にしていない旧友を目の前に、部隊長は、いい加減髪を離してやれと言ってやるべきか、比乃が褒められたことにリアクションを取るかを一瞬迷った。

「自慢の息子だ」

 とりあえず、後者を取ってドヤることにした。自慢げに髭を撫でて悦に浸る。

 代わりに比乃が「スミス少佐、その……見ていて居た堪れないので」と率直な心情を伝えると、メイヴィスは「あら」と思い出したようにリアを解放した。

「うぅ……何よ、本当のこと言っただけじゃない……」

「リア!  この子はほんとに……貴方よりも日比野軍曹の方が」

「あの、僕は気にしてませんので、力不足は事実ですし」

 それでもなお、そういって自分を卑下する比乃に、メイヴィスは少し困ったように目尻を下げた。そして、優しく諭すように比乃の肩に手を置いた。

「軍曹、あんまり謙遜が過ぎると嫌味になるわよ?  もっと胸を張りなさいな……格上の相手にも引かずに果敢に攻める勇気。勝ちを諦めない姿勢。どちらも戦士としてとても大切な物よ。けれど、貴方にちょっぴりの臆病さもあったら、さっきの模擬戦は百点満点だったんだけどね」

「そこが、僕の足りないところです」

「もう、頑固ねぇ……そう言うところは親に似なくていいのに」

 にこりと、柔らかく微笑むメイヴィスを前に、比乃はなんだかむず痒くなってまた頬を掻いた。年の差だけみればギリギリ親と子か、年の離れた姉弟にも見えるその状況に、志度と心視はひそひそと、

「なんかアメリカの女軍人っていうから、ムキムキマッチョの女ゴリラかと思ったのにけど」

「……お母さんみたい……私、お母さんいないけど」

「俺も俺も、なんかこう、柔らかいよな」

「比乃が子供で……部隊長がお父さんで……スミス少佐がお母さん?」

「それだ」

 そんな二人の会話が聞こえたのか、メイヴィスは顔を赤らめる。部隊長の方をチラチラ見ながら、

「あ、あら、私がお母さんだなんて……これでもまだ未婚なのよ?」

「それにしては包容力があるよなぁお前、あだ名グランマだし、ぴったりすぎて笑えてくるぜ」

 彼女の心がわかっていないのか「はっはっはっ」と笑う部隊長を、比乃は冷ややかな目で見て「鈍感……」と呟く。そんな比乃を志度と心視が全く同じ目で見ているのには気づいていない。

「ああそうそう、紹介が遅れたがこの二人は白間 志度三等陸曹と浅野 心視三等陸曹、比乃の同期にして、肉弾戦と狙撃のスペシャリストだ」

「あらあら、こんなに小さいのにスペシャリスト?  日野部さん、あなた超人の子供をコレクションしてるの?」

「……それも面白そうだ、いっそ養子百人でも目指してみるかな?」

「あらやだ、日野部さんったら」

 どこか微笑ましげにやり取りしている五人を、リアはまだ痛む頭を撫りながら見やる。

「……むむむ」

 この状況でただ一人、つまらなそうに頬を膨らませているのはリアだ。彼女からしてみれば今の状況は、明らかに自分よりも劣る男子に、自分の上官にして、幼い頃に母を失った自分にとって母親代わりとも言えるメイヴィスを取られているようなものだ。つまらないし、不愉快だった。

「ちょっと少佐!  提案があるんだけど!」

「なにかしらリア、くだらないことだったらちょっとお仕置きするわよ?」

 こちらも少し怒っているらしい声音だったが、それでも不機嫌具合で勝るリアは止まらない。比乃をびしっと指差して、提案した。

「私が乗ってきたXM6のテスト、ここでやるんでしょ?  それなら、お相手をそこの大佐殿ご自慢のパイロットさんにお願いするってどう?  一対一で」

 その提案に真っ先に反応したのは、部隊長だった。面白そうにだと不敵に笑い「よかろう」とそれを快諾する。

「ちょうど、そっちがデータ欲しがってるフォトンスラスター搭載機は比乃の乗機だ。ここは、お互いに欲しがってる技術が確かかどうか確認してみようじゃないか」

「そうね……それに、リアも自分が足りない物に気づく良い機会になりそうだし、やりましょうか」

 メイヴィスも同意し、リアは高校生とは思えない被虐的な笑みを浮かべて、比乃を睨みつけた。

「楽しみね、日本のパイロットがどの程度なのか、見せて貰うんだから……!」
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