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第七話「初めての学校生活と護衛対象について」

学生の朝

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諸元
・コンカラーⅡ(FW271 ConquerorⅡ)
形式番号:FW271
分類:第三世代
所属:英国陸軍
製造:ブリティッシュ・マッドグラウンド・システムズ
生産形態:量産機
全高:八メートル
全備重量:約十五トン
動力源:スーパーバッテリー
武装:高振動ランス
   M1603単砲身三十ミリチェーンガン
乗員:1名

英国のBMGシステムズが開発した英国陸軍主力AMW。
市街地防衛での近接格闘戦運用を主にしており、相手の動力源、コクピットをピンポイントで攻撃するための槍、高振動ランスと、驚異から市街地を防衛するために何重もの複合装甲による重装甲を採用している。
他国のAMWと比較すると動作はかなり鈍重ではあるが、防衛用第三世代AMWとしての一つの完成形と称されるほど、他国からの評価は高い。

『pekepediaより』

***

 その日の朝、私立歓天喜地高等学校の二年A組の教室。
 新学期ということもあり、ホームルームよりもかなり早めに登校してきた生徒達は、黒板に張り出された座席表を見て揃って首を傾げていた。

 どうも、空席が多いのである。
 それも廊下側の後ろ側の一箇所に集中して。

 これが一箇所や、多くても二箇所であれば、勘のいい生徒でなくとも、転校生が来るのではと騒ぎ出す物だが、さすがに空欄が五個もなると、ただのプリントミスだと思うだろう。流石に、一クラスに五人も転校生が来るなんて、普通では考え難いからだ。

 そういうことで納得した生徒達は「あの空欄になってる奴らは席どーすんだろうな」などと言いながら各々の席に着いたり、雑談を始めたりして、徐々にその空欄から興味を失っていった。
 後から来た生徒も、先に来ていた生徒に話を聞くと、納得して席に着く。

 この時、誰か一人でも教師に質問しに行くか、プリントミスを指摘しに行くような殊勝な生徒がいれば、この後やって来る“普通ではない転校生達”に驚くこともなかったのだが。

 彼ら彼女らにとっては、新しい学年というだけで特別感や新鮮味に溢れていて、そういう所にまで気が回らなかったのだった。

    *   *   *

 時は遡って一時間と少し前。

 はんなり荘二〇三号室の玄関では、現職自衛官三人が物々しい雰囲気で装備の確認をしていた。
 まだ窓の外は薄ら明るく、鳩がくるっぽーなどと鳴いている時間である。だが、三人はキビキビとした動きで装備入れ……即ち学生鞄のを開いた状態で地面に置いて、休めの姿勢で微動だにしない。

「装備点呼!」

 そう叫んだのは、暫定的指揮官である日比野 比乃陸曹だった。
 叫ぶ、と言っても今の時刻は朝の六時。沖縄の駐屯地でしていたような大声を張り上げていたら近所迷惑になってしまうので、声量は控えめである。それでも、ハキハキとした声だ。
 それに反応して、比乃の前に立っていた二人が足元の鞄に手を突っ込んだ。それを確認した比乃も鞄に手を入れる。

「学生証!」

「「学生証、良し!」」

 点呼を受けた二人、浅野 心視三曹と白間 志度三曹が、学生鞄からそれを取り出す。先日届けられた身分証明証、幸運の青い鳥がプリントされた学生証だ。それを取り出して、同じく鞄から出して掲げた比乃と見せ合うと、再び鞄に入れ直す。

 私立ならではなのか、これから行くことになる学校のセキリュティシステムはかなり厳しい。例え生徒と言えど、この学生証か、もしくは入校許可書などと言った書類がなければ校内に立ち入ることは出来ないのだと言う。この辺りも、部隊長の友人が娘、比乃らにとっての護衛対象を通わせている理由でもあった。

「筆記用具!」

「「筆記用具、良し!」」

「ノート!」

「「ノート、良し!」」

 これらは昨日、近くの文房具店に買いに行った物である。

 見慣れない街並みに心を浮かれた志度と心視と、それを保護者ぶった比乃が先導していたのは、なんとも微笑ましい買い物風景であったと言うのは、一緒について行ったメアリとアイヴィー、ジャックの談である。

「お弁当!」

「「お弁当、良し!」」

これは比乃の自家製である。心視と志度の家事能力が予想以上に壊滅的であったので、すっかり家事担当になってしまっている。

「その他ぁ!」

 そしてここからは、それぞれが必要であると判断した装備についてである。
 主に護衛という意味合いで、そういう危ない物……と言っても、比乃が想定しているのは精々スタンガンや催涙スプレーか、一番過激な装備でも閃光手榴弾(威力調整済み)だった。

 ちなみに、それよりも物騒な物――狙撃銃だとかPWD、自動拳銃にナイフなどと言った危険物は、初日に運び込まれた三人分のハードロッカーで厳重に管理されている。
 普通の自衛官でも駐屯地外での装備運用は基本的に違法であるので、特別な任務を遂行する場合か、あるいは余程強いコネがない限りは、決して真似してはいけない。

 その言葉に反応してまず鞄から何かを取り出したのは心視だった。鞄から出したそれをがしゃこんと素早く組み立てると、なんとそこには全長一メートルほどの、

「……対物ライフル」

「没収!    何に使う気なんだ屋内だよ!」

「でも」

「でももへちまもないの!    そもそも一般人に見られたらアウトでしょうが!」

声量を抑えながらも怒鳴り「ここは駐屯地の敷地内じゃないないんだから」と、少ししょぼくれた様子の心視からそれを奪い取りってハードロッカーに戻す。

「まったく、志度をご覧よ。私服護衛にそんなものはいらないってことをしっかり解って」

「そうだぜ時代はコンパクトに短機関銃!」

「ないじゃないか! 没収!!」

 志度が取り出した物々しい装備を比乃が素早く取り上げてそれもロッカーに戻す。比乃は、全然わかっていない同僚二人の頭にごつんとゲンコツを一つずつ落とした。

「あのね二人とも、僕達がやるのはテロリストの殲滅とかじゃないの、護衛だよ護衛。しかも敵が来るどうかも解らない状態で、民間人に紛れ込みながらやるの。それなのにこんな物いらないでしょ」

 早口で言って、しょぼくれている二人に説明する。

「ともかく、二人はちょっと過激すぎるよ……駐屯地を出るときにそういうことは教えるって部隊長言ってたのに……全然解ってないじゃないか」

 なお、その情操教育とは会議室を貸し切って行われた青春アニメ上映会であり、その内容の殆どが二人には理解できなかったこと、むしろ余計な知識を中途半端に身につけていることを、比乃はまだ知らない。

 比乃に怒られてしょぼーんとしている二人を前に「ああ、もう」と軽く悪態をつく。
 これは、上手くコントロールしないとこちらが警察のお世話になってしまう。先行きが不安になった。

「とりあえず二人とも僕が言うまでは戦闘とか暴れるのは厳禁、いいね?」

「「了解……」」

「それじゃあ、モーニングコールに出ない王女様達を迎えに行こうか」

 校長室に挨拶に行くから早めに行かないといけないのに、朝からこんなんで大丈夫だろうか……一抹の不安を覚えながらも、鞄を持ち、二人を連れ添って比乃は二〇三号室を出たのだった。
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