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第六話「イベント会場における警備と護衛について」

機士の戦い

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 ビックサイトの方でテロリストの鎮圧を行なっていた清水一尉から通信が入った。展開したAMWは排除が終わったらしく、もう数分すれば、埠頭側に戦力を回せるとのことだった。

 これで、脱出作戦の達成が少し楽になった。敵の歩兵部隊を誘き出した護衛たちから連絡を受け、タイミングを見計らってから、比乃らを乗せたTkー7は倉庫から駆け出した。

「少し無理な動きをしますが、我慢してください」

 比乃の言葉に、メアリは頷いて答える。
 Tkー7はすぐ道なりに曲がって行き、北東方向の孤島の出口へと向かう。出口の橋までは僅か三キロ程だ。AMW、それこそTkー7なら数分も掛からない。

 しかし、曲がり角を曲がったところで早速、一機の敵AMWが待ち構えていた。
 露製のAMW、ペーチルS――比乃が一年前に戦闘した時から装甲はそのまま、火器装備とアビオニクスを強化した、ペーチルの改良型である。
 正規の手続きではどうやっても日本への持ち込みが許されない程の重装備を持つそれが、全身の機銃や機関砲をこちらに向けている。照準警報。

 こちらが想定していたよりも早く包囲を始めていたのだろうか――そのペーチルが発した『大人しく投降しろ』という訛った日本語に「冗談!」とコクピットの中で返事をして、跳躍。王女の喉から「くぅっ……!」と声が洩れた。訓練を受けて居ない一般人には相当な衝撃のはずだ。

 比乃は出力調整に細心の注意を払いながら、腰のスラスタを吹かし、空中で加速する。警告を無視したTkー7に向かって、ペーチルの持つライフルから弾幕が張られる。だが、比乃はすでに敵機の頭上、人型の死角を取っている。

 正面からでも破壊できる威力の徹甲弾を、装甲厚が薄い上面装甲へ向けて発砲。脳天から股下にかけて火線に貫かれた機体が、どうっと音を立てて倒れた時には、Tkー7は背を向けて着地して駆け出している。

(やっぱりというか、もう王女の命がどうのこうのは考えていないか)

 手加減はして貰えそうにない。それでもTkー7は走り続ける。そして更に道を曲がった所で、橋が見えた。
 大型車両が何台も通れるようになっている六車線の道橋だ、しかし――

 《十二時方向 距離一 AMW四機 戦闘車両四両 確認》

「見えてる!」

 真っ正面、戦闘距離ではほぼ至近距離と言える所に厳重な要撃態勢が敷かれていた。ペーチルSが四機と
 その周りに装甲車両が四両。更にその後ろには道を塞ぐように大型のトレーラーが横付けされている。物理的にも道路を封鎖して唯一の出口を通すまいとしていた。

 比乃の隣で王女が覚悟したように身を固めた。護衛たちによる誘導作戦も、流石に対AMW戦力を動かさせる程にはならなかったようだった。

 だからと言って、ここで諦めるわけにはいかない。比乃は「舌を噛まないように」とだけメアリとアイヴィーに向けて言う。
 同乗者二人のことを一旦脳裏の片隅に蹴飛ばして、機体を戦闘速度まで加速させた。

 先に撃破した機体から連絡を受けていたのか、前に居たペーチルがすぐさま射撃を開始。左右を建築物に塞がれているので、上方向へ跳躍して火線から逃れた。

 飛んだ機体に対して、後ろに控えて居たもう二機のペーチルと、装甲車両から身を乗り出した兵士までもが対戦車ミサイルを構えて、空中で無防備に見えるTkー7を狙う。
 比乃はそれよりも早く、跳躍した時点で照準していた短筒を構えて、連続で発砲。それと同時に片腕のアンカーを真下に射出。

 空中でも正確に放った射撃が、装甲車一両とペーチル一機を貫いて爆散。他は全て外れた。
 直後に反撃が来る――今度は地面に穂先を噛ませたワイヤーアンカーを巻き上げ、自由落下以上の速度で降下することで敵弾を回避。

 短筒の再装填(リロード)――間に合わない。
 着地と同時に前転、姿勢を正すのももどかしく短筒を握ったままの腕だけをとにかく相手に向けて、右のアンカーを射出。対戦車ミサイルを構えていた兵士がアンカーの穂先の向こうに搔き消えた、隣から洩れた「ひっ」という声に「目を閉じてて!」と返す。

 そしてこちらに向き直った残りの脅威は、ペーチルが三機。彼我距離はもうキロもない、正真正銘の至近距離、だがTkー7はまだ前のめりに姿勢を崩したままだった。比乃の視界がスローモーションになる。相手のペーチルの銃口の中身が火薬の化学反応で白く発光するのが見えた。

 もしも、こちらが通常型のTkー7であったならば、ここで比乃と同乗者二人の命運は尽きていただろう。だが、この機体、三○式人型歩行戦車“改”の両腰には、未だ僅かな燃料を内包したスラスタが残っていた。

 それの動きをイメージしながら、比乃の口が「な・め・ん・なぁ!」と動く。それは、確かに殺ったと思った敵に向けてか、それとも、後部座席から伸びて比乃の肩を思わず掴んできたアイヴィーに、もうこれまでと比乃の胴にしがみ付いたメアリーに対してか。

 誰に対してかはともかく、比乃の脳波を受信した機体は、両腰の長方形を稼働させた。そして噴射口を閃かせ、Tkー7は眼前に迫った火線から逃れるように宙へと飛び上がった。

 それは飛行などという上等な物ではなく、ただフォトン粒子を吹かしたことで吹っ飛んでいるだけである。しかし、それでも確実に、フォトンスラスターは比乃の思った通りの方向へと機体を動かし、なおも追従する弾幕からTkー7を回避させ続けた。

 ペーチルが銃口を向けた先から、Tkー7の白く細い機体をが燐光を放って消える。そうしている間にも、スラスタに直結されているコンデンサの残り容量を示すメーターが、冗談のような速さで無くなっていき、それが尽きた。

 機体が落下していく、すかさず照準するペーチル。しかし、Tkー7を追っていた照準に、白い壁が映った。パイロットが「なんだ?!」と確認すると、それは、自分たちが障害物として設置していた大型のトレーラーの壁面だった。

 すでに比乃の機体はトレーラーの向こう側へと着地して橋の上を駆け抜けていた。その先から、二機のTkー7、大型のグルカナイフを持った機体とパイルバンカーを装備した機体。搭乗者は通信回線を開かなくても解る、心視と志度だ。

 その二機が比乃のTkー7とすれ違いざまにハイタッチをして、トレーラーの向こうへと跳躍した。
 後のことは、言うまでもないだろう。
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