48 / 344
第六話「イベント会場における警備と護衛について」
騎士の戦い
しおりを挟む
一方、ジャックのカーテナは、ニコラハムの赤い機体を完全に補足していた。
当初は光化学迷彩を用いた逃走と奇襲により、ニコラハムが優位を保っていた。しかし、何度目かの奇襲を仕掛けた時、その姿を虚空から滲み出るように晒したのだ。
カーテナは未だ先行量産型、つまりは試験機である。そのため、光化学迷彩を纏ったままの戦闘機動を行うだけのエネルギー容量など積んでいないし、消費電力の削減など以ての外だ。
それを失意していたニコラハムは、先ほど自身が撃破したコンカラーⅡの残骸が転がっている船着場で、ジャックのカーテナを相対するはめになった。
『もう逃げ場はないぞ……なぜ、何故だニコラハム、貴様ほどの腕を持つ近衛が』
言って双剣を抜刀する、対するニコラハムも観念したように同じ型の双剣を手に取る。お互い飛び道具である三十ミリチェーンガンは構えない。
近接戦闘と運動性能を主眼においた、ある意味で日本のTkー7と同じコンセプトを持つカーテナ同士では、射撃で撃ち合うことは長期戦を意味する。片方は王女を救うため、片方はもう長期戦をするエネルギーがないため、それぞれの理由で短期決戦に拘った。
『ふん、王室だ近衛だと、時代錯誤なことを言っているのに着いていくよりも、現実的に高収入を頂ける側に着いた方が得だからだ!』
ニコラハムの赤いカーテナが先に仕掛ける、振り抜かれた双剣二振りが、的確にコクピットを狙って飛ぶように舞う。
『そんな物のために、陛下と殿下を裏切ったのか!』
その二撃をジャックの金色のカーテナは双剣の内片方の一本だけで逸らし、もう片方で袈裟斬りにせんと振り下ろす。だが、ニコラハムも伊達に技量で近衛になった男ではない。
『五百万ドルだぞ! たかが小娘二人を拉致して渡すだけでだ!』
その斬撃を受ける前に、赤色が金色を蹴り飛ばして距離を取り直すことで斬撃を空振りさせる。
互いに構え直し、生身の人間の斬り合いのように隙を伺う。一進一退の攻防。
その合間に外部スピーカー越しに言いたい事を言い合い、罵り合う。
『そのような端金でか!』
『ああそうだ、お前達が名誉と言う下らない物を、俺は高値で売り捨てたんだよ!』
同時に駆け出した二機が激突する。合計四本の剣が、相手の剣を絡め取ろうと、突き刺そうと、斬り伏せようと乱舞する。互いの一撃が相手を弾き飛ばし、同時に振り返る二体の機体。
金色の機体が足元のアスファルトを砕き、赤色の機体が残骸の破片を蹴り飛ばしながら、一度離れた相手に突撃する。
『王女殿下の令にかけて、貴様をここで断罪する!』
『黙れ、ガキのお守りが!』
『貴様ほざいたなぁ!』怒りに叫んだジャックが力任せに振るった横殴りの一撃を、ニコラハムの機体が受け止め切った……かと思った次の瞬間、力負けをして押し切られた。
ここまで光学迷彩を一切使わなかったジャックのカーテナと、少なくとも三回は長時間の光学迷彩を使用したニコラハムのカーテナでは、もはや残量エネルギーが天と地ほど違ったのだ。そこが命運を分けた。
エネルギーが十分に供給にされずに押し負けた腕部モータが、剣の上を滑るよう進んだ刃で断ち切られ、赤い右腕が地面に落ちる。
『っまだだぁ!』
再度、片腕を失ったにも関わらず驚異的なバランス感覚で放たれた蹴りが金色の頭部に直撃し、センサーの半分を破壊した。
そのまま距離を取って、赤い機体が残された左腕のチェーンガンを向け、ニコラハムがトリガーを引いた。
砲弾が銃口から飛び出す直前、金色の機体が高振動ブレードを投擲した。その切っ先と砲弾がぶつかり合い、暴発。赤いカーテナの残った左腕の肘から先が吹き飛んだ。
センサーを潰された不明瞭な視界の中で、ジャックは距離を取ったニコラハムが取るであろう行動を予測し、二振りの内、片方を投げつけたのだ。
『な、なにぃ……?!』
両腕を失った赤い機体の前に、一振りの剣を構えた近衛兵の金色のカーテナが、構える。
『もう終わりだ、ニコラハム!』
そして、目の前の敵が自分を殺そうと駆け出して来た。ニコラハムを支配したのはただただ強い恐怖であった。作戦は完全に失敗したが、それでも死にたくはない。生きてさえいればなんとでもなる。此奴らに復讐してやることだって――
ニコラハムの判断は早かった。駆けてくるカーテナに背を向けると、フェリーへ向けて全力で走り出したのだ。
肘から先がなくなった両腕を振り回し、情けなく、無様なその姿にジャックは一瞬目を閉じ、目の前のあまりに無様な、愛機の同型機に憐れみを覚えた。
『じ、ジャック! お前にも分け前をやる、ぜ、全部でもいいぞ! だ、だから』
往生際悪く情けない命乞いを吐きながら、もうどこへ逃げると言うのか、機体をフェリーに向けて跳躍させたが、明らかに跳躍距離が足りない。
ニコラハムが手元のサブモニターを見やる、そこには『Energy run out』――エネルギー切れの文字。遂に乗機にすら見放されたニコラハムが絶叫する。それをもはや聞いていられないとばかりに、ジャックのカーテナが勢い良く跳躍し。
『そんなもの、端金と言ったぁッー!』
命乞いへの返答と共に、一文字に斬り伏せた。
上半身と下半身に分離した残骸は回転しながら海へと落ち、数瞬後、海水を巻き上げて爆発した。
「……何億、何兆詰まれても、殿下への忠義に比べれば紙切れ同然だ。ニコラハム」
当初は光化学迷彩を用いた逃走と奇襲により、ニコラハムが優位を保っていた。しかし、何度目かの奇襲を仕掛けた時、その姿を虚空から滲み出るように晒したのだ。
カーテナは未だ先行量産型、つまりは試験機である。そのため、光化学迷彩を纏ったままの戦闘機動を行うだけのエネルギー容量など積んでいないし、消費電力の削減など以ての外だ。
それを失意していたニコラハムは、先ほど自身が撃破したコンカラーⅡの残骸が転がっている船着場で、ジャックのカーテナを相対するはめになった。
『もう逃げ場はないぞ……なぜ、何故だニコラハム、貴様ほどの腕を持つ近衛が』
言って双剣を抜刀する、対するニコラハムも観念したように同じ型の双剣を手に取る。お互い飛び道具である三十ミリチェーンガンは構えない。
近接戦闘と運動性能を主眼においた、ある意味で日本のTkー7と同じコンセプトを持つカーテナ同士では、射撃で撃ち合うことは長期戦を意味する。片方は王女を救うため、片方はもう長期戦をするエネルギーがないため、それぞれの理由で短期決戦に拘った。
『ふん、王室だ近衛だと、時代錯誤なことを言っているのに着いていくよりも、現実的に高収入を頂ける側に着いた方が得だからだ!』
ニコラハムの赤いカーテナが先に仕掛ける、振り抜かれた双剣二振りが、的確にコクピットを狙って飛ぶように舞う。
『そんな物のために、陛下と殿下を裏切ったのか!』
その二撃をジャックの金色のカーテナは双剣の内片方の一本だけで逸らし、もう片方で袈裟斬りにせんと振り下ろす。だが、ニコラハムも伊達に技量で近衛になった男ではない。
『五百万ドルだぞ! たかが小娘二人を拉致して渡すだけでだ!』
その斬撃を受ける前に、赤色が金色を蹴り飛ばして距離を取り直すことで斬撃を空振りさせる。
互いに構え直し、生身の人間の斬り合いのように隙を伺う。一進一退の攻防。
その合間に外部スピーカー越しに言いたい事を言い合い、罵り合う。
『そのような端金でか!』
『ああそうだ、お前達が名誉と言う下らない物を、俺は高値で売り捨てたんだよ!』
同時に駆け出した二機が激突する。合計四本の剣が、相手の剣を絡め取ろうと、突き刺そうと、斬り伏せようと乱舞する。互いの一撃が相手を弾き飛ばし、同時に振り返る二体の機体。
金色の機体が足元のアスファルトを砕き、赤色の機体が残骸の破片を蹴り飛ばしながら、一度離れた相手に突撃する。
『王女殿下の令にかけて、貴様をここで断罪する!』
『黙れ、ガキのお守りが!』
『貴様ほざいたなぁ!』怒りに叫んだジャックが力任せに振るった横殴りの一撃を、ニコラハムの機体が受け止め切った……かと思った次の瞬間、力負けをして押し切られた。
ここまで光学迷彩を一切使わなかったジャックのカーテナと、少なくとも三回は長時間の光学迷彩を使用したニコラハムのカーテナでは、もはや残量エネルギーが天と地ほど違ったのだ。そこが命運を分けた。
エネルギーが十分に供給にされずに押し負けた腕部モータが、剣の上を滑るよう進んだ刃で断ち切られ、赤い右腕が地面に落ちる。
『っまだだぁ!』
再度、片腕を失ったにも関わらず驚異的なバランス感覚で放たれた蹴りが金色の頭部に直撃し、センサーの半分を破壊した。
そのまま距離を取って、赤い機体が残された左腕のチェーンガンを向け、ニコラハムがトリガーを引いた。
砲弾が銃口から飛び出す直前、金色の機体が高振動ブレードを投擲した。その切っ先と砲弾がぶつかり合い、暴発。赤いカーテナの残った左腕の肘から先が吹き飛んだ。
センサーを潰された不明瞭な視界の中で、ジャックは距離を取ったニコラハムが取るであろう行動を予測し、二振りの内、片方を投げつけたのだ。
『な、なにぃ……?!』
両腕を失った赤い機体の前に、一振りの剣を構えた近衛兵の金色のカーテナが、構える。
『もう終わりだ、ニコラハム!』
そして、目の前の敵が自分を殺そうと駆け出して来た。ニコラハムを支配したのはただただ強い恐怖であった。作戦は完全に失敗したが、それでも死にたくはない。生きてさえいればなんとでもなる。此奴らに復讐してやることだって――
ニコラハムの判断は早かった。駆けてくるカーテナに背を向けると、フェリーへ向けて全力で走り出したのだ。
肘から先がなくなった両腕を振り回し、情けなく、無様なその姿にジャックは一瞬目を閉じ、目の前のあまりに無様な、愛機の同型機に憐れみを覚えた。
『じ、ジャック! お前にも分け前をやる、ぜ、全部でもいいぞ! だ、だから』
往生際悪く情けない命乞いを吐きながら、もうどこへ逃げると言うのか、機体をフェリーに向けて跳躍させたが、明らかに跳躍距離が足りない。
ニコラハムが手元のサブモニターを見やる、そこには『Energy run out』――エネルギー切れの文字。遂に乗機にすら見放されたニコラハムが絶叫する。それをもはや聞いていられないとばかりに、ジャックのカーテナが勢い良く跳躍し。
『そんなもの、端金と言ったぁッー!』
命乞いへの返答と共に、一文字に斬り伏せた。
上半身と下半身に分離した残骸は回転しながら海へと落ち、数瞬後、海水を巻き上げて爆発した。
「……何億、何兆詰まれても、殿下への忠義に比べれば紙切れ同然だ。ニコラハム」
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
【完結】バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~
山須ぶじん
SF
異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。
彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。
そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。
ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。
だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。
それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。
※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。
※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
静寂の星
naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】
深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。
そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。
漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。
だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。
そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。
足跡も争った形跡もない。
ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。
「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」
音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。
この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。
それは、惑星そのものの意志 だったのだ。
音を立てれば、存在を奪われる。
完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか?
そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。
極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―
EPIC
ファンタジー
建設隊――陸上自衛隊にて編制運用される、鉄道運用部隊。
そしてその世界の陸上自衛隊 建設隊は、旧式ながらも装甲列車を保有運用していた。
そんな建設隊は、何の因果か巡り合わせか――異世界の地を新たな任務作戦先とすることになる――
陸上自衛隊が装甲列車で異世界を旅する作戦記録――開始。
注意)「どんと来い超常現象」な方針で、自衛隊側も超技術の恩恵を受けてたり、めっちゃ強い隊員の人とか出てきます。まじめな現代軍隊inファンタジーを期待すると盛大に肩透かしを食らいます。ハジケる覚悟をしろ。
・「異世界を――装甲列車で冒険したいですッ!」、そんな欲望のままに開始した作品です。
・現実的な多々の問題点とかぶん投げて、勢いと雰囲気で乗り切ります。
・作者は鉄道関係に関しては完全な素人です。
・自衛隊の名称をお借りしていますが、装甲列車が出てくる時点で現実とは異なる組織です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる