自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字

文字の大きさ
上 下
38 / 344
第五話「長期的出張と長期的逃亡生活の始まりについて」

第八師団

しおりを挟む
 第八師団。そこは、首都東京都に点在する、治安維持を任とした駐屯地の一つである。
 東京事変発生以前は十五しかなかった駐屯地は、今や三十を超える数になっている。米軍の撤退による戦力の低下は、それだけ、日本の自力による国防を求めた。

 しかし、駐屯地の数が増えても、人も機材も足りないので、規模は据え置きとはいかなかった。むしろ、機士や自衛官の不足から、名前と置いてある装備ばかりが師団規模で、人員の実質的な人数は旅団規模という、師団もどきな駐屯地も多い。兵器の量産は容易でも、人材の育成は時間と予算がかかるのだ。

 それ故に、東京にある駐屯地はほぼ全て、東部方面隊中央即応集団であると同時に、とにかく人員補給を迅速に行おうという思惑を持った。それを達成するために、実働部隊の基地であると同時に、機士養成学校も兼ねているという、かなりあべこべな状態となってしまったのだった。

 この第八師団も、その一つである。それでも、中央即応集団としての特性を残したこの駐屯地には、市街地での迅速な活動のため、AMWと高機動戦闘車両が多数配備されている。

 それを証明するかのように、ずらりとそれらの兵器群が並ぶ格納庫の中。

 訓練用のTk-7がランニングしている間を縫うようにして入って来た三両のトレーラーに積まれたAMWが三機、運び込まれていた。

 新しく搬入されてきた、その風変わりなTk-7を見て、この駐屯地の司令である高橋タカハシ一等陸佐が、大柄な体格を揺らして「ううむ」と唸り声をあげた。

「なぁ清水一尉、どーして最新鋭のTk-7改がうちに運び込まれたか解るか」

「はぁ……今のところ解りかねますが」

 問われた自衛官が「まだ資料を読んでいる所でして」と答える。隣の一佐に比べ、相対的に線が細く、気が弱そうな印象を周囲に与えるのは、清水キヨミズ一等陸尉である。この駐屯地に設置されている機士養成学校の総責任者でもある。
 並ぶと凸凹コンビという言い方がしっくり来る二人は、沖縄から送りつけられてきた資料を読み終えて、揃って首を傾げる。

「うちを選んだ理由は保有訓練場の面積、ハンガーのでかさ、東京技研からの近さ……それと、通学路に一番近いからだそうだ……これ、どこの方式の暗号だろうな」

「……恐らく、そのままの意味ではないかと」

 清水が視線を向けた先では、整備士とTk-7のセッティングについて話している機士用のパイロットジャケットを着た。どう見ても中学生かそこらにしか見えない三人の機士がいた。比乃、心視、志度の陸曹三人組である。

 東京にある駐屯地で最も敷地面積が広く、AMW用の格納庫が大きく、更には比乃らの通学路から近いという理由でここを選んだ部隊長が、あの手この手で、第八師団の格納庫の一角と演習場の利用権を引っ張り出したのだった。

 どのような交渉や脅迫が上層部と部隊長の間で行われたかは、ここでは省略させていただく。

 高橋が観察すると、三人は慣れた様子でテキパキと自機を指差しながら整備士に指示を出していて、かなり経験豊富な機士であるということが解る。
 聞けば、あの真ん中に立っている日比野三曹とやらは、まだ技本のシミュレータでしか、あの機体に触れていないという。若いのに大した物だと、高橋が再度唸る。

 ちなみに、このシミュレータとは『Tk-7改に対する人間のシミュレート』と言われていた。つまり機体の基本的な戦闘動作に人間側がついてこられるかを試す物である。比乃はこれを、顔色も変えずにすんなりとパスしていた。
 これを無事に突破できたテストパイロットは比乃一人であるので、実際、大した物なのである。

「あの出で立ちと年齢でここにいる機士の誰よりもスコアが上か。第三師団、噂以上の場所のようだな」

「……一佐、これはひょっとすると使えるかもしれませんよ」

「何にだ」

 部下の閃きに、高橋は「言ってみろ」と発言を促して、にやりと笑う。

 こいつの言う「使える」は外れた例がない……ただし、今こいつが直接対応している訓練生共に関して以外で、という言葉が付くが、それ以外なら非常に優秀だ。
 だから、無理やり教育責任者なんて物を押し付けて異動を回避させて手元に置いているのだ。

 言われた清水もにやっと笑う。見た目はともかく、中身は似た者同士の二人なのである。
 利用できるものは利用する――それが稼働機の半分しか機士がいない万年人手不足の駐屯地における常識だった。

「うちの“女子”が最近口煩く言うセクハラというしごき回避の言い訳も、まさか未成年には言うまいと思いましてね。それに、競馬の騎手と機士は小柄な方が有利とか言って調子乗ってるあいつらに、同じ条件でも経験が段違いの機士の実力。見せつけてやるいいチャンスだとは思いませんか」

「――よしわかった。日野部にはこっちから通しておこう。ここハンガーを貸す借しを返せとでも言っとけば少しくらい協力してくれるだろ」

「ご理解が早い、流石は一佐殿」

「お前もな、教育責任者殿」

 言って、二人は「ふははははぁ」と悪そうに笑った。
 それを遠巻きに見ていた比乃に「なんですあれ」と聞かれた整備士が「いつものことですので、お気になさらず」などと返すやりとりがあったりしたが、この日は特に問題もなく、スムーズに三人の専用機となったTk-7改の搬入作業が行われたのだった。

 作業を終えてからハンガーを離れた三人は、第八師団中枢の企てなど露知らず、電話で呼び出したタクシーに乗り込んだ。比乃が同僚二人の肩をぱんぱんと叩いて、少しはしゃぎ気味に言った。

 「さぁ、僕らの新しい家を見に行こう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

EPIC
ファンタジー
建設隊――陸上自衛隊にて編制運用される、鉄道運用部隊。 そしてその世界の陸上自衛隊 建設隊は、旧式ながらも装甲列車を保有運用していた。 そんな建設隊は、何の因果か巡り合わせか――異世界の地を新たな任務作戦先とすることになる―― 陸上自衛隊が装甲列車で異世界を旅する作戦記録――開始。 注意)「どんと来い超常現象」な方針で、自衛隊側も超技術の恩恵を受けてたり、めっちゃ強い隊員の人とか出てきます。まじめな現代軍隊inファンタジーを期待すると盛大に肩透かしを食らいます。ハジケる覚悟をしろ。 ・「異世界を――装甲列車で冒険したいですッ!」、そんな欲望のままに開始した作品です。 ・現実的な多々の問題点とかぶん投げて、勢いと雰囲気で乗り切ります。 ・作者は鉄道関係に関しては完全な素人です。 ・自衛隊の名称をお借りしていますが、装甲列車が出てくる時点で現実とは異なる組織です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...