自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第五話「長期的出張と長期的逃亡生活の始まりについて」

英国

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諸元
・二十三式人型歩行戦車
分類:第二世代AMW
所属:日本陸上自衛隊
製造:五つ星重工
生産形態:量産機
全高:六.五メートル
全備重量:約十トン
動力源:ディーゼルエンジン
武装:腕部内蔵対装甲車速射砲
   高振動ナイフ
   スモークディスチャージャー
乗員:1名

日本で初めて正式採用されたAMW。
しかし元は工事現場などで使用されていた半人型重機が基礎になっており、戦闘兵器としてはかなり心許ない性能である。
東京事変まで陸上自衛隊の主力兵器であったが、その多くが非正規軍によって撃破され、即座に三○式人型歩行戦車に主力の座を明け渡すことになった。
現在では、一部の駐屯地や自衛隊関連施設などでの哨戒任務で使用されることがほとんどである。

『pekepediaより』

 ***

 この地球上において、テロやそれが起因となった内戦に苦しむ国は、日本だけではなかった。

 そんな国の一つである、グレートブリテン、北アイルランド連合王国――通称名、英国イギリス
 欧州の大陸から少し離れた場所に位置するその島国は、そこを長く収めた王朝の存亡を危ぶまれる状況に陥っていた。

 バッキンガム宮殿の王室。この国の象徴として国民から厚い支持を受けている国王“ジョージ七世”は、その大柄な体躯の倍以上はある巨大な窓から、市街地から立ち上る煙と炎を見ていた。
 国民が悲惨な状況に陥っていることを再認識し、尊厳を漂わせる至極真面目そうな顔を、苦面に歪ませる。

 街から上がる幾つもの黒煙、薄暗くなった空を爆発が照らし、戦闘音は絶え間なく響いている……この宮殿の中にまで硝煙の香りが届きそうだ。

「もはや、一刻の猶予もあるまいか」

 国王は苦々しく呟く。軍部のクーデター、外敵テロリストに唆された陸軍の将校数名と、それに従った兵。数にして全体の半数近くが、一斉に政府へ反旗を翻したのだ。

 そのほとんどは寝返った正規兵と、外部から入り込んだテロリストで構成されていた。英国陸軍の主力ANW『コンカラーⅡ』に混ざって、テロリストが好んで使う露製の機体が、政府関連施設を襲撃しているのだ。いや、それだけでなく、市民が暮らす市街地にまで攻撃を加えていた。

 しかも、敵は未だに民間人が残る市街地に居座っているために、海軍による海からの遠距離攻撃が迂闊に行えなかった。その上、一体どこから持ち込んだのか、少なくない航空・対空戦力まで有していて、制空権を確保できていない。相手に空を取られたら、今度は宮殿や市街地が爆撃を受けることになる。空軍も必死に対抗しているが、戦況は芳しくない。

 海軍や空軍の他に、敵と相対しているのは、クーデターに参加しなかった将兵と国防義勇兵。そして、この宮殿を中心に防衛網を展開している近衛軍だった。
 今も、この宮殿を占拠せんとする不届き者を、国防産業企業である“BMGシステムズ”から最新鋭機を供給されている精鋭部隊、衛兵任務部隊がそれらを駆除する為に、戦闘を行っているはずだ。

 だか、彼らが奮闘していても、この国が反逆者に奪われるのも時間の問題と思えた。もはや内戦に近い規模となったこの状況下で、国王は選択を迫られている。

「……致し方ないか」

 そして今、国王は決断した。この王朝の血を絶やさないためにも、愛する者を守るためにも、自分の友人を頼ることにしたのだ。

 部屋を着飾る調度品の中、その内の一つである、有名な画家の油絵の額縁を、国王が掴んで引く。すると中から、秘匿用の電話回線が現れる。英国の優秀な諜報機関が用意した、緊急時用の秘匿回線である。

 国王はそれを取り出し、海岸沿いに待機させていた、ある部隊に連絡を取った。すでに用意は済ませていたのだ。あとは指示を出すだけ、国王は一瞬、迷ったように難しい顔をしたが、すぐに命令を下した。

「私だ……ああ、手はず通りに頼む。後のことは先方に従って行動せよ……心配するな、こちらは何とかする……頼むぞ、我が騎士よ」

 そう言って、国王は受話器を戻す。これで、自分の娘と、親友の娘の安全は保証された。無事に目的地に辿り着ければだが、護衛を任せた海軍と近衛騎士は信頼に十分足り得る実力を持っている。そのことは、主である国王が一番知っていた。彼らはきっと、娘とその友人を送り届けるだろう。後は――

「我が友よ。娘を頼んだぞ」

 豪華な調度机の上に開かれた、国王の数少ない私物であるノートPCには、趣味であるオンラインチェスの画面が映っていた――先ほど、チョックメイトを掛けたところだった。その状態で止まっている画面のチャット欄には、一言、日本語でこう書かれていた。

『任せておけ』

 プライベートの友人にして、世界で一番頼りになる外国人だと信じて疑わない男の一言が、国王に決断を促したのだった。
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