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第四話「起死回生の方法とその代償について」

事の顛末

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 こうして、正体不明の人型兵器。後に『有機的基礎を持つ機体(OrganicFoundationMachinery)』、略称を『OFM』とされた兵器による事件は一旦、幕を閉じることになる。

 あれがなんであったのか、どこの勢力の戦力だったのか、そして、その目的はなんだったのか……それらの謎を多く残したまま、一切の活動が見られなくなったからだ。

 今後の脅威となることを考えた部隊長は、個人的調査ルートを使って探りをいれた。
 結果、件のOFMが駐屯地襲撃の数ヶ月前、東南アジアなどの紛争地帯でそれらしき姿が目撃されていた。という情報は手に入れられたが、新たに戦場に出没しているという情報は、出てこなかったのである。

 回収された破片なども、満足に調査を終える前に風化――まるで砂細工のように崩れ去ってしまい、その正体を暴くには至らなかったことも大きい。

『たかが駐屯地と研究施設を襲撃するのに、あれだけの被害を受けた影響もあるのだろうが』と部隊長は推測していたが、その真実は闇の中である。

 また、部隊長から直接、今回の件を報告された上層部こと国防省は、その対策と処理について延々と会議を積み重ねて、頭を悩ませることになった。

 とりあえず決まったのは、この駐屯地襲撃の実行犯についてのメディアなどへの露出は一切封じられることだった。

 現状、“ただのテロリスト”だけでも一般市民は強い不安を覚えているのに、それを封じる自衛隊ですら手に余る敵が現れたなどと世間に知れたら、それこそパニックを起こしかねない……という判断だった。

 その上、それを機に国外から戦力を引き込もうとする一部野党に格好の餌を与えてしまうからである。

 前政権によって導入されてしまったPMC雇用法案の遂行を声高く叫ぶ野党に対し、与党側は国防の手前、そこがテロリストにとって有効な進入手段に成りうるとして、反対しなければならない。

 この話題がテレビに上がる度、未だに外患誘致の適用がされたことはないが、それも時間の問題なのでは、とネット界隈ではしめやかに話題になったりしている。

 また、政治的なこと以外。AMWの開発関係に今回の件は大きく影響することになった。

 次期主力機Tk-9が、機能的欠陥部分が原因で撃破された……となっては、そのまま正式採用するわけにはいかなくなったからである。無論、改良を加えれば問題ないという関係者もいたが、それでも欠陥兵器を国防に使うわけにはいかないのだ。

 これにより、現主力機であるTk-7からその座を譲り受ける予定であった。正式量産版Tk-9のロールアウトは、白紙に戻ってしまった。そして、国防白書には新しく『既存主力人型歩行戦車である三〇式の近代化改修、並びに強化の必要性有』と記されることになった。

 このように、世間の裏側が大なり小なりと揺れ動いていた。だが、リハビリに取り組む比乃の周囲、第三師団は、これまでとあまり変わりなく活動を続けていた。

 空港を乗っ取ろうとした不届き物がいれば飛んでいって叩き潰し。製品工場に爆発物を仕掛けられたとなれば、大急ぎで駆けつけてAMWで物理的に排除する。武装したデモ隊が暴れだせば武力を持って制圧する。

 いつも通り、世も末だと言わんばかりの忙しさであった。

 しかし、その忙しい合間にも、比乃の見舞いには同僚や駐屯地所属の機士、整備員などの顔見知りの自衛官たちが、ほぼ毎日、病室に訪れていた。

 心視や志度に至っては、泊まり込みの看病を慣行しようとして、看護士と格闘したりした。
 上司である安久や宇佐美は、任務の隙間に暇を見つけては訪れて、リハビリ中にできる上半身の訓練法を伝授したり。

 その他にも、Tk-9担当の整備班とその長である整備班長が勢揃いで病室に訪れたかと思うと、一斉に土下座をして比乃を困らせて謝罪合戦になったり。

 同じ防衛戦で軽症を負っていた筋肉コンビがプロテインと『寝たきりでもできるエクササイズ指南書』なる本を置いていったり。

 部隊長の副官とパシられた森が定期的に差し入れのお菓子を持ち込むついでに愚痴を話したり。

     あまり顔を合わせない他小隊の機士ですらやってきたり。

 その騒がしさは、怪我をする以前よりも増していて、比乃はてんてこ舞いになりそうであった。

 こうした騒ぎの中でも、懸命にリハビリを続けた比乃は、白崎による送受信装置埋設手術を受けて装着した義足の性能もあって、無事に歩行能力を取り戻すに至った。

 それを聞きつけた自衛官達によって駐屯地の一角で、その祝いを称してどんちゃん騒ぎが行われたりしたが……今回は割愛する。

 そして、駐屯地襲撃からほぼ一年経った頃。比乃の現場復帰とほぼ同じくして、事態は再び動き出す。
 この国を脅かす存在は『OFM』だけではないということを、自衛隊に警告するように――

 〈第一章 了〉
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