自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字

文字の大きさ
上 下
34 / 344
第四話「起死回生の方法とその代償について」

事の顛末

しおりを挟む
 こうして、正体不明の人型兵器。後に『有機的基礎を持つ機体(OrganicFoundationMachinery)』、略称を『OFM』とされた兵器による事件は一旦、幕を閉じることになる。

 あれがなんであったのか、どこの勢力の戦力だったのか、そして、その目的はなんだったのか……それらの謎を多く残したまま、一切の活動が見られなくなったからだ。

 今後の脅威となることを考えた部隊長は、個人的調査ルートを使って探りをいれた。
 結果、件のOFMが駐屯地襲撃の数ヶ月前、東南アジアなどの紛争地帯でそれらしき姿が目撃されていた。という情報は手に入れられたが、新たに戦場に出没しているという情報は、出てこなかったのである。

 回収された破片なども、満足に調査を終える前に風化――まるで砂細工のように崩れ去ってしまい、その正体を暴くには至らなかったことも大きい。

『たかが駐屯地と研究施設を襲撃するのに、あれだけの被害を受けた影響もあるのだろうが』と部隊長は推測していたが、その真実は闇の中である。

 また、部隊長から直接、今回の件を報告された上層部こと国防省は、その対策と処理について延々と会議を積み重ねて、頭を悩ませることになった。

 とりあえず決まったのは、この駐屯地襲撃の実行犯についてのメディアなどへの露出は一切封じられることだった。

 現状、“ただのテロリスト”だけでも一般市民は強い不安を覚えているのに、それを封じる自衛隊ですら手に余る敵が現れたなどと世間に知れたら、それこそパニックを起こしかねない……という判断だった。

 その上、それを機に国外から戦力を引き込もうとする一部野党に格好の餌を与えてしまうからである。

 前政権によって導入されてしまったPMC雇用法案の遂行を声高く叫ぶ野党に対し、与党側は国防の手前、そこがテロリストにとって有効な進入手段に成りうるとして、反対しなければならない。

 この話題がテレビに上がる度、未だに外患誘致の適用がされたことはないが、それも時間の問題なのでは、とネット界隈ではしめやかに話題になったりしている。

 また、政治的なこと以外。AMWの開発関係に今回の件は大きく影響することになった。

 次期主力機Tk-9が、機能的欠陥部分が原因で撃破された……となっては、そのまま正式採用するわけにはいかなくなったからである。無論、改良を加えれば問題ないという関係者もいたが、それでも欠陥兵器を国防に使うわけにはいかないのだ。

 これにより、現主力機であるTk-7からその座を譲り受ける予定であった。正式量産版Tk-9のロールアウトは、白紙に戻ってしまった。そして、国防白書には新しく『既存主力人型歩行戦車である三〇式の近代化改修、並びに強化の必要性有』と記されることになった。

 このように、世間の裏側が大なり小なりと揺れ動いていた。だが、リハビリに取り組む比乃の周囲、第三師団は、これまでとあまり変わりなく活動を続けていた。

 空港を乗っ取ろうとした不届き物がいれば飛んでいって叩き潰し。製品工場に爆発物を仕掛けられたとなれば、大急ぎで駆けつけてAMWで物理的に排除する。武装したデモ隊が暴れだせば武力を持って制圧する。

 いつも通り、世も末だと言わんばかりの忙しさであった。

 しかし、その忙しい合間にも、比乃の見舞いには同僚や駐屯地所属の機士、整備員などの顔見知りの自衛官たちが、ほぼ毎日、病室に訪れていた。

 心視や志度に至っては、泊まり込みの看病を慣行しようとして、看護士と格闘したりした。
 上司である安久や宇佐美は、任務の隙間に暇を見つけては訪れて、リハビリ中にできる上半身の訓練法を伝授したり。

 その他にも、Tk-9担当の整備班とその長である整備班長が勢揃いで病室に訪れたかと思うと、一斉に土下座をして比乃を困らせて謝罪合戦になったり。

 同じ防衛戦で軽症を負っていた筋肉コンビがプロテインと『寝たきりでもできるエクササイズ指南書』なる本を置いていったり。

 部隊長の副官とパシられた森が定期的に差し入れのお菓子を持ち込むついでに愚痴を話したり。

     あまり顔を合わせない他小隊の機士ですらやってきたり。

 その騒がしさは、怪我をする以前よりも増していて、比乃はてんてこ舞いになりそうであった。

 こうした騒ぎの中でも、懸命にリハビリを続けた比乃は、白崎による送受信装置埋設手術を受けて装着した義足の性能もあって、無事に歩行能力を取り戻すに至った。

 それを聞きつけた自衛官達によって駐屯地の一角で、その祝いを称してどんちゃん騒ぎが行われたりしたが……今回は割愛する。

 そして、駐屯地襲撃からほぼ一年経った頃。比乃の現場復帰とほぼ同じくして、事態は再び動き出す。
 この国を脅かす存在は『OFM』だけではないということを、自衛隊に警告するように――

 〈第一章 了〉
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのにスキルも貰えずに吸血鬼に拉致されてロボットを修理しろってどういうことなのか

ピモラス
ファンタジー
自動車工場で働くケンはいつも通りに仕事を終えて、帰りのバスのなかでうたた寝をしていた。 目を覚ますと、見知らぬ草原の真っ只中だった。 なんとか民家を見つけ、助けを求めたのだが、兵士を呼ばれて投獄されてしまう。 そこへ返り血に染まった吸血鬼が襲撃に現れ、ケンを誘拐する。 その目的は「ロボットを修理しろ」とのことだった・・・

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

EPIC
ファンタジー
建設隊――陸上自衛隊にて編制運用される、鉄道運用部隊。 そしてその世界の陸上自衛隊 建設隊は、旧式ながらも装甲列車を保有運用していた。 そんな建設隊は、何の因果か巡り合わせか――異世界の地を新たな任務作戦先とすることになる―― 陸上自衛隊が装甲列車で異世界を旅する作戦記録――開始。 注意)「どんと来い超常現象」な方針で、自衛隊側も超技術の恩恵を受けてたり、めっちゃ強い隊員の人とか出てきます。まじめな現代軍隊inファンタジーを期待すると盛大に肩透かしを食らいます。ハジケる覚悟をしろ。 ・「異世界を――装甲列車で冒険したいですッ!」、そんな欲望のままに開始した作品です。 ・現実的な多々の問題点とかぶん投げて、勢いと雰囲気で乗り切ります。 ・作者は鉄道関係に関しては完全な素人です。 ・自衛隊の名称をお借りしていますが、装甲列車が出てくる時点で現実とは異なる組織です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

処理中です...