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第三話「基地を襲撃された際の迎撃方法について」

忍び寄る者

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「ん、山口か?」

 今しがた役目を終えた通信機を胸ポケットにしまう。部隊長がそちらをを見ると、そこには機士用の搭乗服に迷彩柄のジャケットを来た男、山口がいた。

 じくりと痛む指先を振って冷やそうと試みながら、部隊長は思案する。先月から友好がある他の駐屯地から、研修の名目で送られてきた新人が、何故こんな所にいるのか。怪訝に思ったが、今は指が痛むので特に詰問などもせず、自分は自分で目的の場所へ向けて足を動かし始めた。山口の脇をスルーして「こんなとこいないでさっさと待機戻れよ」とだけ言って、その場から離れようとする。

 しかし、山口は尚も「お待ち下さい!」と追いかけてきて、部隊長の後ろをついてきた。
 絡んでこなければ、今はまだ何も聞かないでやったものを……部隊長は若干煩わしく思いながらも「一体どうした」とそちらを向かずに返事をする。

「山口、機士は全員格納庫で待機のはずだぞ。伝令の真似事なら適当なの捕まえてやらせておけばよかったものを」

「あ、いえ、整備員は手が開いてる方がいらっしゃらなくて、それに、整備班長がすることがないなら今すぐに部隊長を呼んで来るようにと、詳細は聞かされていませんが、急ぎの内容みたいで……」

「……ふむ」

 整備班長からの伝言となると、今出撃しているTkー9絡みだろうか、部隊長は少し考える素振りを見せてから、

「……しかたない、先にそっちいくか」

「では一先ず格納庫へ、自分もそのまま待機に戻りますので」

 言って、山口は早足で部隊長を追い越して、先導するように通路を進み始めた。
 その山口の背中を眺めながら、部隊長は「用事」とやらについて考える。

 通信で伝えずに直接呼び出してくるような、気密性がある内容……とすればまずTk-9と現在の状況についてだろう。

 がしかし、今あの機体について緊急で話すことがあっただろうか。先程発生したフォトンドライブの不具合については、Tkー9のカメラからモニタリングしていたから、原因はわかっている。
 相手がフォトンダイトを大量に放出したことによる、動力部への干渉。外付けの装備に出力のほとんどを回している二番機三番機と違い、一番機は内蔵兵装と機体主動力にフォトンドライブが直結している仕様だ。機体への影響がモロに出る。
 比乃が致命傷を受けたのは、まずそれが原因だ。

 そして、その欠陥については整備班長も部隊長も、とっくに承知済み――だから、どうしようもなかったとは言え、一番機を出撃させたことを後悔しているわけだが――今更、それについて報告を受けるようなことはない。

 部隊長は足を止めると、それに気づいて「どうしました?」と山口が振り返る。
 今二人がいるのは、司令室がある本棟と格納庫の間だった。周囲に人気が全くない通路だ。
 一瞬の間の後、部隊長は山口に問う。

「なぁ山口、こんな時になんだがな。お前が居た第六師団の倉山、あいつから何か言われたことはなかったか?」

「倉山一佐がですか? こんな時に何の話です部隊長、そんなことより」

「良いから、ちょっと言ってみろ」

 部隊長に促され、戸惑うように肩を揺らした山口は言い難そうに、後頭部に手をやって、歯切れが悪く答える。

「その……日野辺陸佐によろしく、と倉山陸佐は仰っていました」

「他には? もっとあるだろ」

「……あそこの師団は変人と馬鹿が多いから気をつけろと、すいません」

 見知った仲からの間接的な言葉とは言え、部下の口からストレートに自分の師団の悪口を言われた部隊長だが、そのことで不快になった様子も見せず。ただ山口をじっと観察するように見据えた。
 先程からほとんど無表情と変わらないその表情からは伺えないが、とある場所に確認を取ったことで生まれた懸念が、いや、明確な違和感の正体が、部隊長の中で形になっていた。

「それだけか」

「それだけ、です。はい」

「ふむ」

 部隊長は痛まない方の手で髭を撫でて、宙空へ視線を向けて考え込み始めてしまう。
 ちょうど直線に長い通路の真ん中。人通りもない、もしも万が一、襲われでもしても誰も助けにこないそんな場所。立ち止まってしまった部隊長に、山口が急かすように近づいて来る。

「どうかしましたか部隊長、それより、早く格納庫へ……」

 それを遮るようにして、髭を撫でながら部隊長が、指令所から出てすぐ、山口と会う前にしていたことについて話し始めた。

「……俺さ、今さっき倉山と秘匿回線で連絡取ったんだよ。ここが襲撃を受けた件でな、そしたらあいつ、可笑しなこと言っててな」

 突然そんなことを言い出した部隊長を無視して、山口はなお歩み寄る。
 そしてその右手が、さり気ない動きでジャケットのポケットへと滑り込み――

「“山口にセクハラとかしてないだろうな”って、変だよなぁ……それじゃあこっちに送った機士が女だったみたいな」

 先程までの上官に大してしどろもどろしていた様子とは打って変わった、精鋭された動作で、音も無く、ぎらりと光るそれを取り出した。そして次の瞬間、相手に向かって深く踏み込んだ。
 相手が何か反応するよりも早く、その手に握った鋭く尖った得物を、隙だらけの脇腹目掛けて一直線に突き込んだのだ。
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