上 下
23 / 344
第三話「基地を襲撃された際の迎撃方法について」

未知との激突 その三

しおりを挟む
 比乃が繰るTk-9がは、両腕に搭載された六十口径滑腔砲を連射しながら、眼前の白い西洋鎧との距離を詰めて行く。
 対する西洋鎧は、薄い角膜のような物でその大口径を弾く。それでも、被弾の衝撃から仰け反って姿勢を崩す。

 防御膜で完全に防ぎ切れない攻撃の危険性を察した白い鎧は、続いた次弾を横滑りするように避けた。そのまま回避運動を始めるが、その移動先へと予知されているかのように徹甲弾が飛ぶ。数発の衝撃を受けてバランスを崩した西洋鎧が転倒、横転する。

 それでも反撃しようと、倒れた姿勢のまま構えた銃剣の穂先が数度瞬き、光弾が飛ぶ。
 通常のAMWの装甲程度であれば、何の抵抗もなく貫くであろうそれは、しかしTk-9の装甲に当たったかと思うと、毬のように跳ね飛んでいった。

 相転移装甲――圧倒的な電力供給によって金属分子を相転移させることで実用を成した、兵器工学が産み出した最高峰の装甲。
 ただでさえMBT並の重装甲を持つ上に施された最強の盾は、未知の事象で並大抵の装甲を容易く砕く破壊力を生じさせる攻撃を、若干の陥没のみで防いで見せた。

≪胸部装甲 肩部装甲被弾 損傷度C≫

「装甲の上に当たっただけだ!」

 突っ込む、とAIの損害報告を意にも介さず、倒れた敵機に止めを刺さんと更に突進させる。
 射撃しながら立ち上ろうとした西洋鎧との距離が詰まる。直後、相撲のぶちかましのように激突した。

 金属と金属がぶつかる甲高い音を上げて、二機が組み合う形になる。急所である胴体を防御しようと構えた西洋鎧の腕をTk-9が片腕の銃身で強引に跳ね上げた。そのまま、がら空きになった胴体に逆の銃口を、下から叩き付ける。

「この距離ならっ」

 妙な防御は使えまい、射撃――分厚い鉄板を巨大な金槌で思い切り叩いたような音と共に、雪のように白い装甲に弾痕が穿たれる。だが、残弾全てを叩き込んだ接射でも貫徹に至らなかった。比乃は相手の頑強さに舌を巻いた。

 仕留められなかったことに悪態を付くのももどかしく、銃剣を振り上げた西洋鎧を砲身で横殴りに打撃して距離を取り直す。

(六十口径百五十ミリが効かない……化け物め)

 AMWどころか戦車すら破壊可能な砲撃を耐えてみせた常識外れの化け物を前に、比乃は決心を固めた。
 自分は志度や心視とは違う、こんな化け物相手に出し惜しみをする余裕なんてないのだ――迷うことなく、自機に施されている枷を外すことをAIに指示する。

「フォトンドライブ制限解除、参照動作は五番」

≪PD出力規定値まで上昇 警告≫

「しなくていい」

≪了解≫

 AIが返答した次の瞬間、Tk-9の動きが、それまでの機械染みたものから変貌する。
 制御系が過剰に思考をフィードバックし、非人型の体系のTk-9が、まるで生き物の呼吸を再現するかのように上体を上下させた。
 これまでほぼ予備動力で動いていたと言える状態から、主電源に切り替わったのだ。

 しかし、やむを得ないとはいえ、比乃はこの状態になったTk-9の操作が苦手だった。いや、そもそも、Tkー9自体が、自分の得意分野とミスマッチなのだ。
 重鈍な機体構造は、得意の三次元機動が封じられる。接近戦も得意とは言えない。単純に四肢関節部やホバー推進の出力が上昇したパワーアップも、比乃からすれば操作性の劣化を生んでいるとしか言えない。
 その証拠に、少し動かすだけでも、大きすぎる機体出力と敏感すぎる制御系のせいで、自分が思った通りの位置にぴたりとこないのだ。

 今この時も、向き直った西洋鎧に対してベストの攻撃位置に付くための機動を取ったが、勢い余って攻撃ポジションから通り過ぎそうになる。

(なにより、極め付けなのは)

 比乃が一番嫌なのは、脳内に響く騒音がひと際大きくなることだった。
 誰だって、耳元どころか頭の中で「がりがりがり」と負荷起動しているハードディスクの音が反響したら不快だろう。その酷い雑音が、比乃の判断力と思考力を奪って行く。

 まるで、自分の中の得体のしれない装置が、自分と機械を融合させようとしてくるようだ。比乃は、目に見えないケーブルが、機械から伸びて自分の脳味噌に突き刺さる、嫌な想像を浮かべてしまった。それを振り切るように頭を振り、集中。
 横へと移動したこちらに対して、西洋鎧が振り向きざまに光弾を放つ。それを過剰に動く機体で大袈裟に避けると、左右に機体を揺さぶりながらもう一度突撃する。

 先ほどまでとは比べ物にならない加速が掛かるが、それでもなお直進。息がつまる。

「っ、クロー展開」

≪警告 本武装の使用はPDの安定性を著しく――≫

 何度目かの警告を挙げるAIを無視して比乃が念じる。
 すると、Tk-9の両腕。肘から先の巨大な砲身が、縦に分割するように開いて瞬く間に可変した。見る見るうちに、砲身は五指を持つ巨大なクローアームへと変貌した。そして、更なる急加速で一気に距離を詰め切る。

 その速度か腕の変貌か、もしくは両方に驚愕して、西洋鎧が一瞬、動きを止める。呆けているその白い左腕を、右のクローアームががっちりと掴み、通常のAMWであればそのまま握り刻まれるほどの圧力で握り締めた。

「こいつならどうだぁ!」

 その爪が、西洋鎧が具現化させた武器と同じ、鮮緑に輝く。

 フォトン粒子を装甲表面に纏わせて高速で周回させることで、対象を分子レベルで削ぎ落とすそれが、これまで罅一つ入らなかったその装甲に五本の切れ込みを入れた。そのまま、ギチギチと爪先をめり込ませて行く。
 慌てた敵が銃剣をこちらに向けようとする。が、比乃は反撃の隙を与えない。ホバーの出力と重量差に物を言わせて、西洋鎧を投げ飛ばした。

 地面を転がり、態勢を完全に崩した敵に、光に包まれたクローを振りかぶり、

「うおりゃああ!」

 比乃が普段出さないような叫び声をあげた。するとTkー9の右肘から先が切り離され、内蔵されたロケットモータの初期燃焼を受けながら、爪が飛んだ。

 本体と合金ワイヤーで繋がれ、有線誘導によって正確に獲物目掛けて鉤爪が飛ぶ。それがやっと起き上がった西洋鎧に激突すると、その胴体をがっちりと咥え込んだ。
 そして胴体を握り潰すかと思われた、その寸前、西洋鎧は足掻いてみせた。

 白い鎧は拘束を逃れた腕の銃剣を振るって、制御系と動力源に繋がっているワイヤーを切断してみせたのだ。この一瞬で、初見の兵器に対してよくも機転が効いたものだ。と、比乃は少し関心してしまった。

 纏わり付いていたクローを振り払った白い鎧は、猛烈な連続攻撃を受けて、胴体や腕には浅くはない傷が刻み込まれていた。それでもなお、敵は銃剣を両手で構える。
 右腕一本使ってでも仕留めきれない難敵に向けて、比乃は忌々しく叫ぶ。

「…………さっさとくたばれ、化け物め!」

 声に呼応するようにTk-9が残った左腕を振って構え直す。搭乗者の殺意を表すように爪の光が一段と増した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。 戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。 そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。 親友が起こしたキャスター強奪事件。 そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。 それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。 新たな歴史が始まる。 ************************************************ 小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。 投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

惑星保護区

ラムダムランプ
SF
この物語について 旧人類と別宇宙から来た種族との出来事にまつわる話です。 概要 かつて地球に住んでいた旧人類と別宇宙から来た種族がトラブルを引き起こし、その事が発端となり、地球が宇宙の中で【保護区】(地球で言う自然保護区)に制定され 制定後は、他の星の種族は勿論、あらゆる別宇宙の種族は地球や現人類に対し、安易に接触、交流、知能や技術供与する事を固く禁じられた。 現人類に対して、未だ地球以外の種族が接触して来ないのは、この為である。 初めて書きますので読みにくいと思いますが、何卒宜しくお願い致します。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...