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第三話「基地を襲撃された際の迎撃方法について」

未知との激突 その二

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 回避と射撃を繰り返している内に、互いの僚機から離れて行った狙撃手と射手の撃ち合いは、今のところは拮抗しているように見えた。

 互いの彼我距離は一キロもない。八メートルもある西洋鎧とAMWの場合、特に飛び道具を持っている同士では、ほとんど隣り合っているのと変わらない距離だ。

 その間を、互いの生命を消し飛ばそうと紫と青の光弾が飛び交う。

 タンザナイトはその手に具現化させた大弓で、同じく具現化させた矢を引き絞り、放ち続ける。
 銃弾にも劣るとも勝らない速度で飛ぶそれは、しかし、相手のTk-9がいた場所を飛びすぎた。

「どうして当たらないのっ」

 紫野は在学中の高校で弓道部の主将を務め、流鏑馬を経験したことも在るほど弓の名手であった。しかし、敵は自身の予想した方向とはまったく違う方向へと移動し、必殺の思いで放たれるそれらが難なく回避される。自慢の弓術が通じないことに、彼女は歯噛みしていた。

 そして、相手からお返しとばかりに飛んでくる紫電を纏った徹甲弾は、ゾッとする程の正確さと速度で撃たれる。今もまた飛来したそれを、タンザナイトは紙一重で回避した。

 西洋鎧の薄紫色の装甲は、すでに掠り傷だらけになっていた。相手の攻撃が防御膜の上からこちらを撃破できるということを、現実として嫌でも紫野に認識させる。

 直撃したら一巻の終わり、紫野は球体の内側を祈るように撫でる。

「お願いだから……もう少しだけ頑張って、タンザナイト!」

 紫野は弓を射る際、その極限の集中を求められている間の回避運動は全て、乗機であり独自の意思を持つ、タンザナイトに任せきりにしていた。自分の愛機を信頼し切っているのである。そのための特訓も一緒に積んで来た。
 緑川には「臆病者」などと言われるが、彼女は、臆病でも優しいこの子にはこの戦い方が一番合っていると考えている。

 そして今、パートナーから激励を受けたタンザナイトは、小さく咆哮をあげた。期待に応えるように、飛来した砲弾をコクピットを出来るだけ揺らさないように最低限の動きで回避する。

 射るならばベストのタイミング。次の砲撃が来る一瞬の間に紫野が思い浮かべる……何百、何千回と繰り返した型を、タンザナイトは寸分違わずに再現し、一瞬の間の後、光矢を撃ち放った。

 今度こそ必中の思いで放たれた矢は、敵の回避コースに重なるように飛んだ。直撃――しかし、当たると思われた直前に、装甲から宙へと射出された何か、板のようなものが矢に貫かれて爆発。
 標的が爆煙に包まれるが、それは機体が爆発した物ではない。煙に包まれる直前、紫野の目には、肩の先のみを穿いた矢が見えていた。

「しぶといっ!」

 次の瞬間、長大な砲を抱えたTk-9が、損傷を受けた様子もなく煙から飛び出してきた。



「二射前より……鋭かった?」

 咄嗟の判断で吐き出された誘導装甲によって、僅かに弾道を反らされなければ、直撃を貰っていただろう。それにも関わらず、心視は今の一撃の感想を簡単に述べるだけで表情一つ変えなかった。ただ冷静に、AIにセンサ系の微調整を命じる。
 その口調は、どちらが人工知能か判らない程簡潔だったが、AIは問題なく望まれた通りのセッティングを行う。

「肩、ダメコン……EAVRプラス五」

 《了解 左肩部装甲排除 敵攻撃反応感知コンマ5修正 警告 規定値以下の設定の為――》

「タイミングが判ればいい」

 《了解 完了》

 AIの「これ以上早く予想すると攻撃位置は判らなくなる」という注意に被らせるように言って遮る。
 これまでのと今ので、相手の西洋鎧が放つ攻撃の弾道、弾速、そして腕前は大体判った。
 あとは簡単だ。それに合わせて避けて、カウンターで当ててやるだけでいい。

 それを証明するかのように、煙幕から出た瞬間に飛んできた射撃を心視は難なく回避。Tk-9は腕の中の大砲を構え直す。

 心視の繰る三番機が腕に抱えている大砲は、三本の砲身を束ねた串のようで、全長十メートルあった。この奇妙な武装「試製電磁砲」は、現在においては世界最小の超電磁砲(レールガン)である。
 米軍と共同開発されていた物だが、運用において難点が多い欠陥品(射程が半端に短い、取り回しが効かないなど)として、米軍撤退時に置いていかれた置き土産の一つである。

 欠点の一つである電力不足をフォトンドライブによる発電で強引に解決することで、ようやく実戦で使用できるようになったそれを、Tk-9と心視は軽々と扱ってみせていた。

 その矛先を紫の鎧に向けて、先端を上下左右にぶらせながら調整。回避運動の中で揺れるコクピット内で行うそれは、一般的な機士であれば、極限の集中力を要する技術であった。

 しかし、心視はもはや目の前の標的のあれこれではなく、基地に帰ってからの予定を考えていた。

「弓を使った経験がないのが仇になりかける日が来るとは思わなかった」と内心思い、こいつらを始末して落ち着いたら、基地にいる自衛官……確か、猪を弓で捕るという男(レンジャー持ち、害獣駆除のプロ)がいたはずなので、お願いして教えてもらおう。
 どうせなら比乃も一緒に誘おう、二人で仲良く狩猟デートだ――

 そんなことを考えながら、牽制で一発放つ。そして、それを完全に予想通りの動きで回避した西洋鎧に、ターゲットスコープの中心軸をぴたりと重ね合わせる。
 射撃徽章を最年少で授与された彼女の技能を持ってすれば、特に難しいことでもない。
 特に感想も感慨もなく、引き金を絞り、

 ――その為にも、目の前の邪魔者はさっさと排除して、比乃を手伝って終わらせよう。志度は……ほっとけば勝手に敵を殴り殺すだろうから、放置して問題ない。

「……これで、終わり」

 弾丸が放たれた。
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