自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第二話「正体不明の敵に対する自衛隊の対処法について」

未知の襲撃者

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 格納庫。技本の機材やら警備用のAMW、車両などが置かれている、だだっ広い体育館のような施設。そこに踏みいろうとする襲撃者と、それを防ぐ警備隊との間で攻防戦が行われていた。警備隊に混ざってモップなどを構えて震えている男性職員らもいる。

 この施設の大半は、そこら辺の研究施設か、あるいは工学大学のような施設である。だが、その警備のために用意されたこの格納庫は堅牢な作りだった。いざという時に研究成果や関係機材を持ち込んで、援軍が来るまで籠城できるように出来ている。

 更にその前に、バリケードのように車両を並べているのだから、襲撃者側からしたら面倒なことこの上なかった。

「どうしてあの程度の抵抗、さっさと抑え込めねぇんだ」

 イラついたように、そのバリケードを挟んで仲間達と警備隊が牽制し合っているのを見ていた男が、通信機を片手に忌々しく呟く。

 先程から、守備隊の些細な、しかし的確な抵抗に襲撃者は手をこまねいていた。
 所詮は研究施設と油断して、爆発物をあまり持って来なかったことも相まって、目的の物を持って素早く逃げ込まれた巣穴を、ちまちまと銃撃して突くしかない。

 もっとパイプ爆弾を作っておくべきだったかと、こういうことには不慣れな男が、打開策がない現状に対して呟く。それでも、男の表情に焦りはなかった。確かに時間稼ぎはされているが、それも自分達の援軍が来れば終わる。

 自衛隊の兵器など玩具と同然と化す、襲撃者達が最強だと信じて疑わないそれが、正に今、木々の上を通り姿を現した。

「来た!」

 男が歓喜の声をあげた。

 *   *   *

 格納庫内。そこに持てるだけの機材と研究資料を担ぎ込み、避難用の地下通路を通ってここまで逃げて来た研究員達は、同じくここまで後退してきた守備隊共々、ここから出られないでいた。

 周囲はすでに包囲されていて、最初にあった爆発は無いが、敵が正面入り口。先程塞いだ地下通路の入り口を除いて、唯一となった突破口を破らんと、銃撃を加えながらじわじわと迫って来ているのだ。

 守備隊の一人が、撃ち込まれた銃弾の跳弾を受け地面を転げる。別の隊員が「この野郎!」と僅かに開けた扉から銃口を出して反撃するが、撃った倍の数の銃弾が飛んで来た。慌てて下がる。

 肩を血で濡らして呻く隊員を、研究施設の職員が奥へと引っ張って手当を始めた。誰もが焦りを募らせていた。未だに死者や重傷者は出ていないが、限界は近づいて来ている。

「安久さん達はどうしたんだ……!」

 格納庫の奥、そこに座り込んだ姿勢で待機している二機のAMW。TK-7は、整備員と職員の手でいつでも動かせる状態になっている。しかし、肝心の機士がいない。

 こちらの切り札が使えない状況に、守備隊をまとめる班長は焦りと苛立ちを覚えていた。
 苛立ちを感じているのは、姿が見えない二人にではない。このような状況にも関わらず、AMWを代わりに扱うこともできない自分に対してだ。それに加えて、不甲斐なさを募らせる。

 自分に操縦資格があればと思うが、もう五十を超えた自分では、あの機動兵器を扱いきれないだろう。
 そして、守備隊で唯一操縦資格を持っていた若者は、こことは離れた所を巡回していた。数分前に通信が途切れて、繋がらない。

 彼はすでに無力化されていると判断するべきだった。班長はせめて無事でいて来れと、祈るしか無い自身が情けなくて堪らなかった。

 ここが破られるのも時間の問題だ。どうにかして職員達だけでも脱出させなければと、班長が手を考えていた所に、

「班長!  銃撃が止んで……あ、あれは!」

 どうしたと返す前に部下が入り口を少し、人一人分開ける。
 その直後に、三人の人影が滑り込んで来た。急いで閉められた扉の前、その先頭にいた人物が叫んだ。

「みんなお待たせ!  私が来たわよ!!」

 そう言った彼女、宇佐美は、抜き身の刀に血をしたらせ、自身の野戦服も返り血で真っ赤に染めていた。
 違うシュチュエーションだったら、班長は悲鳴を上げて逃げていたかもしれない。猟奇殺人犯みたいな状態だった。

 後ろから続いた安久も、所々が破れた野戦服にベルトで敵から奪った小火器と弾薬を巻き付けて、何故か顔面にドーランを塗っていた。いったいどこから調達したのか、片手で分担支援火器を持っている。
 守備隊と研究員の一部はその後ろに「デェェェェン」というテロップを幻視した。

「お二人ともご無事で……そ、その様相は?」

「うむ、道中かなり敵がいてな、降伏するとも思えんので止むを得ず無力化してきた」

「いやーしんどかったわね」

 なお、安久がもう片方の腕で抱えられていた吉田は「現代版の牛若丸とランボーが……」と呟いていて、介抱をするために安久から吉田を受け取った職員らに「可哀想に……」「よっぽど怖い目にあったんだな……」と言われたりしていた。

 実際は、宇佐美が刀で銃弾を弾いたり、安久が弾幕を掻い潜って一瞬で敵を無力化したり、その他にも色々と人間離れした戦い方をして見せて、吉田が驚愕していただけなのだが、

「今のうちにTK-7を出すわよ!  用意は?」

「こんなこともあろうかと万端です!  オプションも装着できてます!」

「非常によろしい!!」

 刀を振って刀身に着いた血を適当に払った宇佐美が叫ぶと、周囲に男性職員がいるにも関わらず、野戦服の裾を破り去るような勢いで捲り上げた。
 男性陣が「おおっ!」と色めく中、その下から覗いたのは、きめ細やく色白な肌に、細身な割に豊満で形が良いバスト……ではなく。

「AMW乗りたる者、中に着とくのは常識よ!」

「当然だな」

 真っ黒なライダースーツに大小様々なアタッチメントを取り付けたような操縦服だった。それはそれで、ボディラインが主張されていて、色っぽい。後ろで同じく野戦服を破り捨てた安久が、宇佐美の主張に同意するように、腕を組んでうんうんと頷いている。

 場違いな「ああ~……」という声を出して、男性職員と守備隊が落胆。女性職員に白い目を向けられている間に、二人は軽やかにTK-7の装甲の上をたたんと蹴り上がって、コクピットに乗り込む。
 そしてハッチが閉まり、素早く起動手順を終えた――巨人が目覚める。

『ほらそこの男性諸君、さっさと退かないと踏み潰しちゃうわよ!』

『全員奥に退避しろ、奴らを蹴散らす』

 守備隊の切り札。そして日本陸上自衛隊機士科第三師団において最強の二機が、ブレードアンテナを「ガシャン」と鳴らして、格納庫に立ち上がった。
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