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背後に忍び寄る影

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 ケホケホ…とむせ返りながら扉を開けると外に出られた。まさか出口の傍で彷徨っているとは思わなかった。

「んん…」

綺麗な空気が流れ、佳代子は目を覚ました。よかったと安心する葵を見て、自分の状況を確認して顔を赤らめた。後ろから何かまた物音が聞こえた。ビクリと佳代子は反応し小さくなって葵にしがみ付いた。

「どうした?」

キョトンとする彼に小さな声で「後ろ」と言う。下ろしてと言った彼女を立たせ、振り返ると誰かが立っていた。

「亮介」

葵がそう言った人物はガスマスクを顔にかけゆっくりとこちらに向かってきた。葵は彼女の前に立った。佳代子は彼の背中に隠れるように身を小さくしていた。亮介は手から何かを出し前に詰め寄ってくる。キラリと光るそれを見た二人はつばを飲み込み、葵は小さな声で

「あっちに屋敷の出口がある。そこまで走って行ってくれる?」

と言った。不安な目で嫌がる佳代子に目を合わせにこりと笑った。(大丈夫)と言っているようだった。

「嫌よ。何をするつもり?一緒に逃げましょうよ」

涙目で言う佳代子は葵の服の裾を引っ張った。薄手のセーターが冷たくひんやりとしている。

「おーい」

とどこからか声がした。佳代子はその声の方を向き目を見開いた。黒井だった。

「早く行きましょう」

亮介はマスクを外しニヤリと笑っている。まだ二人の話は聞こえてなさそうだった。佳代子は葵の腕を掴み走った。引っ張られるように走り鉄格子の門まで来たが、

「あかない…」

南京錠がかけられていて開かなかった。後ろを振り返れば「残念だったな」と亮介は笑った。

「だから言ったろ?佳代子。俺たちの家だと。なぜ逃げだす?」

「私は何も返事なんてしていないわ」

錆び付いた南京錠が壊れないかと葵は石で叩いた。手が悴んでうまく当たらない。できれば亮介に背中を向けるのは避けたかった。

「圭太も手伝え!」

向こうから走ってくる黒井達に大声で言った。南京錠は外側についている。彼らなら何かとできるだろう。亮介は片手を上げ、背を向けている葵にナイフを振り上げ襲い掛かった。顔を背けしゃがみ込んだ佳代子は両目を手で覆った。

「いつまでもお前は邪魔だな」

ザザっと靴で地面を擦る音が聞こえ佳代子は恐る恐る目を開けた。刃物は遠くに転がっている。

「ってーな、なにすんだよ」

よろけたのは亮介の方だった。だが、体制を立て直すとハイエナのように飛びかかり葵の首元に手をかけた。
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