29 / 42
危険人物
しおりを挟む
「てめぇ…よくも裏切ったな」そう声を荒げたのは黒井だった。家に入った途端首筋に強い衝撃を感じ、意識を失っていた。目を覚ますとそこには小山が立っていた。俺の携帯で誰かと電話をしていた。受話器の向こうから聞こえる声は葵だった。小山は
「別に…」と言うとこちらを振り向き近づいてきた。うつ伏せで縄で縛られている俺方へ来た。手にはナイフが握られ、黒井は恐怖で全身の血の気が引いた。
「動くな」小山はそういうとなぜか縄を切った。黒井の口から出た言葉は
「裏切ったな」だった。それを聞いて申し訳なさそうに小山は
「裏切ったわけじゃない。だけど、葵が危険なのは確かだ」と言った。
「は?」
「お前がここに来た時と同時に板倉が立っていた。お前を気絶させたのは板倉だ。俺は何もしていない」訳の分からないセリフに黒井は眉間にしわを寄せた。小山は先日、板倉に弱みを握られ誘拐の手伝いをしてくれと頼まれたと言った。
「それに乗ったわけか。お前は」
「…違う。俺は断った。板倉は葵を探している。あの娘を誘拐した後の話は聞いていないけど、葵に殺意はあったはずだ。それを頼まれたから余計断ったんだ」小山は下を向きながらそう言った。
「葵は?さっきお前電話してたよな?」黒井は小山の胸倉掴んでそう言った。
「あぁ、してた。家にいろってニュアンスを…」
「それなってねぇよ…。恐らくこっちに向かってきてるだろうな。葵は勘がいいから。俺に何かあったと思ってるはずだ」
「マジ?」
「馬鹿かお前」
黒井は小山のリアクションを見て呆れた。そして携帯にすぐ電話をした。まだ無事だったようで葵は電話に出た。
「あ、葵か?」
電話に出た葵はほっとした声をしていた。
「よかった。仁が電話に出るからどうしたんかと思ったよ」
「悪いな、風呂入ってたわ」黒井は笑って答える。
「ねぇ、圭太たちに見せたいものがあるんだけど。今そっちに向かってる」
「見せたいもの?」
「うん。結構大きな手掛かりになると思う。今からそれを届けに行くよ」
「今周りは大丈夫か?」黒井は心配した声で言った。
「何言ってんだよ。僕だって一応…」葵の声はそこで途切れたスマホがコンクリートに叩き落される音がする。
「葵?」何回か呼び掛けても返事はない。だが電話は切れていないようだった。風の音が聞こえるだけで何も音がしない。携帯を落としたのか?それにしても拾わないのはおかしい。そんなことを考えていると小さな声で葵の声が聞こえた。耳を澄まして聞いていると、恐らく住所のようだった。
「葵、お前今そこにいるのか?」黒井が聞こえたものを復唱し、小山は検索をかけた。場所は自分のいるところに近く、1キロも無かった。恐らくそこにいるんだろう。
「ごめん」急に葵の声が聞こえ電話が切れた。
駆けつけると、そこには何もなかった。
(どこに行った?)
誰かが目の前にいたのか?誰かと出会ったのか?だとすると電話の途中で落としたスマホがあったりするのか?黒井の頭の中に色んな考えが駆け巡った。
葵が示した場所であっているのかを確認していると小山が大声を上げた。手に持っていたのはワイヤレスイヤホンだった。その遠くの方にはスマホが落ちていた。彼がもう今は持っていないことを示していた。
(ということは、やっぱり)
葵が残した二つのものを黒井は黙って見つめた。
「葵はどこに行ったんだ…」
家に帰り、彼のスマホの電源をつけてみた。黒井は首をかしげながら彼のスマホを眺めた。渡したいものはここにあるのだろうか。
「恐らく板倉に先越されたのかもしれないな」
小山はお茶を注ぎながら言った。ならば、葵が言っていた「渡したいもの」はきっと板倉が持って行ってしまったに違いない。立ち上げたスマホを期待しないまま付けたが、パスワードが掛かっていた。やっぱりと思いながらスマホを裏っ返すと何かが入っているのを感じた。ケースとスマホの間がわずかに膨らんでいる箇所がある。外して確認すると小さな紙切れが入っていた。開くと住所が書かれていて、黒井は自分のスマホでその場所を調べてみた。
「しめた!」
頭のいい葵のすることだ。何か手掛かりをつかんだのだろう。この場所に彼の探す岡崎がいるのか、葵が連れ込まれたのかわからない。ただ行ってみるだけいいかもしれない。
「あれ?もう一つ何か入ってるぞ」
小山はスマホに隠されたからくりに気づいた。よく探さなければわからないもので、二重構造になっていた。慎重に剥がすと何かが光っていた。見れば小さな機械がある。その横には紙が挟まっていた。
「なんだこれは?」
小山はそこに書かれた文字を読んだ。「3636」
「なんだそれは?」
黒井は首を傾げた。小山の傾げ手元にあった茶を飲んだ。
「あ…以前このスマホにつけたGPSじゃ無いのか?」
小山はそう言った。確かにこのスマホにはいろんな大事なものが入っている。盗まれるわけにはいかず、黒井達の友人が作ったものだった。
「だが、調べてもスマホの位置が分かるだけで葵がどこにいるのかわからねぇだろ?」
「とりあえず葵のパソコンを見てみよう。あいつのことだから万が一のことを考えてたりするかもだし。なくしたら不味いスマホをあいつは落としていったんだ。黒井が聞いてるのを知ってって、住所まで教えて」
「ならば俺が取ってくるよ」
「カギは?」
「ある」
黒井はそう言うと部屋を飛び出していった。30分もしないうちに戻ってきた黒井の手にはパソコンのケースが握られていた。それを開けて開き、葵と黒井しか開けられないパスワードを入力し立ち上げた。
「相当厳重に管理されてんだなぁ」
小山の知らないものがたくさんあり覗き込んでは「へぇ」と声を上げた。
「もっと大事なものは葵しか知らねぇよ。俺が触れるものは少ないし」
そう言っては居場所検索を立ち上げた。
「154.451837 33.857706」
並んだ数字が表示される。
「座標か?」
黒井は自分のスマホで検索してみた。自分たちがいるのではないところを指している。葵はここにいるのか。服に元々スマホについていたものを付けたのだろう。(あいつ頭いな)こうなることを見透かしてやっているように感じる。
「行くか!」
黒井と小山は立ち上がり、車に乗り込んで向かった。
「別に…」と言うとこちらを振り向き近づいてきた。うつ伏せで縄で縛られている俺方へ来た。手にはナイフが握られ、黒井は恐怖で全身の血の気が引いた。
「動くな」小山はそういうとなぜか縄を切った。黒井の口から出た言葉は
「裏切ったな」だった。それを聞いて申し訳なさそうに小山は
「裏切ったわけじゃない。だけど、葵が危険なのは確かだ」と言った。
「は?」
「お前がここに来た時と同時に板倉が立っていた。お前を気絶させたのは板倉だ。俺は何もしていない」訳の分からないセリフに黒井は眉間にしわを寄せた。小山は先日、板倉に弱みを握られ誘拐の手伝いをしてくれと頼まれたと言った。
「それに乗ったわけか。お前は」
「…違う。俺は断った。板倉は葵を探している。あの娘を誘拐した後の話は聞いていないけど、葵に殺意はあったはずだ。それを頼まれたから余計断ったんだ」小山は下を向きながらそう言った。
「葵は?さっきお前電話してたよな?」黒井は小山の胸倉掴んでそう言った。
「あぁ、してた。家にいろってニュアンスを…」
「それなってねぇよ…。恐らくこっちに向かってきてるだろうな。葵は勘がいいから。俺に何かあったと思ってるはずだ」
「マジ?」
「馬鹿かお前」
黒井は小山のリアクションを見て呆れた。そして携帯にすぐ電話をした。まだ無事だったようで葵は電話に出た。
「あ、葵か?」
電話に出た葵はほっとした声をしていた。
「よかった。仁が電話に出るからどうしたんかと思ったよ」
「悪いな、風呂入ってたわ」黒井は笑って答える。
「ねぇ、圭太たちに見せたいものがあるんだけど。今そっちに向かってる」
「見せたいもの?」
「うん。結構大きな手掛かりになると思う。今からそれを届けに行くよ」
「今周りは大丈夫か?」黒井は心配した声で言った。
「何言ってんだよ。僕だって一応…」葵の声はそこで途切れたスマホがコンクリートに叩き落される音がする。
「葵?」何回か呼び掛けても返事はない。だが電話は切れていないようだった。風の音が聞こえるだけで何も音がしない。携帯を落としたのか?それにしても拾わないのはおかしい。そんなことを考えていると小さな声で葵の声が聞こえた。耳を澄まして聞いていると、恐らく住所のようだった。
「葵、お前今そこにいるのか?」黒井が聞こえたものを復唱し、小山は検索をかけた。場所は自分のいるところに近く、1キロも無かった。恐らくそこにいるんだろう。
「ごめん」急に葵の声が聞こえ電話が切れた。
駆けつけると、そこには何もなかった。
(どこに行った?)
誰かが目の前にいたのか?誰かと出会ったのか?だとすると電話の途中で落としたスマホがあったりするのか?黒井の頭の中に色んな考えが駆け巡った。
葵が示した場所であっているのかを確認していると小山が大声を上げた。手に持っていたのはワイヤレスイヤホンだった。その遠くの方にはスマホが落ちていた。彼がもう今は持っていないことを示していた。
(ということは、やっぱり)
葵が残した二つのものを黒井は黙って見つめた。
「葵はどこに行ったんだ…」
家に帰り、彼のスマホの電源をつけてみた。黒井は首をかしげながら彼のスマホを眺めた。渡したいものはここにあるのだろうか。
「恐らく板倉に先越されたのかもしれないな」
小山はお茶を注ぎながら言った。ならば、葵が言っていた「渡したいもの」はきっと板倉が持って行ってしまったに違いない。立ち上げたスマホを期待しないまま付けたが、パスワードが掛かっていた。やっぱりと思いながらスマホを裏っ返すと何かが入っているのを感じた。ケースとスマホの間がわずかに膨らんでいる箇所がある。外して確認すると小さな紙切れが入っていた。開くと住所が書かれていて、黒井は自分のスマホでその場所を調べてみた。
「しめた!」
頭のいい葵のすることだ。何か手掛かりをつかんだのだろう。この場所に彼の探す岡崎がいるのか、葵が連れ込まれたのかわからない。ただ行ってみるだけいいかもしれない。
「あれ?もう一つ何か入ってるぞ」
小山はスマホに隠されたからくりに気づいた。よく探さなければわからないもので、二重構造になっていた。慎重に剥がすと何かが光っていた。見れば小さな機械がある。その横には紙が挟まっていた。
「なんだこれは?」
小山はそこに書かれた文字を読んだ。「3636」
「なんだそれは?」
黒井は首を傾げた。小山の傾げ手元にあった茶を飲んだ。
「あ…以前このスマホにつけたGPSじゃ無いのか?」
小山はそう言った。確かにこのスマホにはいろんな大事なものが入っている。盗まれるわけにはいかず、黒井達の友人が作ったものだった。
「だが、調べてもスマホの位置が分かるだけで葵がどこにいるのかわからねぇだろ?」
「とりあえず葵のパソコンを見てみよう。あいつのことだから万が一のことを考えてたりするかもだし。なくしたら不味いスマホをあいつは落としていったんだ。黒井が聞いてるのを知ってって、住所まで教えて」
「ならば俺が取ってくるよ」
「カギは?」
「ある」
黒井はそう言うと部屋を飛び出していった。30分もしないうちに戻ってきた黒井の手にはパソコンのケースが握られていた。それを開けて開き、葵と黒井しか開けられないパスワードを入力し立ち上げた。
「相当厳重に管理されてんだなぁ」
小山の知らないものがたくさんあり覗き込んでは「へぇ」と声を上げた。
「もっと大事なものは葵しか知らねぇよ。俺が触れるものは少ないし」
そう言っては居場所検索を立ち上げた。
「154.451837 33.857706」
並んだ数字が表示される。
「座標か?」
黒井は自分のスマホで検索してみた。自分たちがいるのではないところを指している。葵はここにいるのか。服に元々スマホについていたものを付けたのだろう。(あいつ頭いな)こうなることを見透かしてやっているように感じる。
「行くか!」
黒井と小山は立ち上がり、車に乗り込んで向かった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる