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板倉亮介
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亮介は千円札をテーブルの上に置き、あの日のことを思い出していた。
別れを告げたが、あれは勢いで言ってしまったことだった。それをいつか佳代子に伝えようと、家の周りをうろついていた。
(クッソ…またもや接近することができなかった)
陰に身を隠した亮介はこぶしを打ち付けた。しかも誰かが彼女のマンションに入っていくのが見えた。(誰だ?)逆光で顔が分からない。フードを被った人物は長らく彼女の部屋の前をうろつき、彼女が部屋に入ると階段を下りてきた。慌てて物陰に隠れ、その場を通り過ぎるのを待った。
(俺だけじゃない)
そうだ、自分のほかに誰かうろついていた人物がいたはずだ。俺ばかり注意されるなんて腹が立つ。カフェを出て、ガラス越しに北川と佳代子の様子を眺めた。あの二人はすべて俺のせいにして幸せがずっと続くとでも思っているのか?それに俺たちが付き合ってることを知っていて北川が憎んでいただけじゃないのか?でっち上げもいいほどだ。
(憎い)
俺の気持ちを蔑ろにして幸せになれるとだと?壊してやる。亮介の目の色は変わった。
電車に乗って亮介は数日前のことを思い出していた。
佳代子との別れの原因を作ったのは自分であるのはわかっている。だが、
(あの女は使えるかもしれない)あれから人生が変わったと言ってもいい。あれで俺たちは別れる羽目になり、ちょうどいいタイミングで北川が取って行ってしまった。(岡崎だって、北川という男と仲良くしてたじゃねぇか。別れてから奴と付き合うスパンが短すぎる)気持ちを落ち着かせようと電車のドアの外を眺めたが、あの日のことが蘇ってきた。
「久しぶり」
黒田はそういうと俺を飲みに誘ったことがあった。黒田から葵の話を聞いた時だった。それを聞いてどうこうするつもりはなかった。
「わかってやれよ」と黒田は言う。
「そんな話を急に持ち出してきても俺たちは別れるつもりなんかねぇよ。それに、岡崎以外ありえねぇし…」酒の酔いが回ってきたのか思っていることがどんどん出てくる。
「…だよな。…別に俺は別れろって言ってるんじゃねぇよ。それを俺たちのせいされちゃ困るからな。ただ、そういうことだと伝えに来たんだ」
「…」
「あいつ、感情を表に出さないタイプだから分からねぇだろうけど案外、いろいろあるみたいだしよ」
「それを俺に言って何になる」いい加減にしろと板倉は声を上げた。
「だから、気をつけろって言いたいだけだよ。落ち着けよ」黒田は怒った顔を見せる板倉を制しながら声のトーンを下げて言った。もう聞きたくないと思っていた頃、「あれ?」女性の声が聞こえ、二人はあたりを見渡した。その声は二人の近いところから聞こえた。
「カヨちゃんの彼氏さんですよね?」
と板倉の隣に立った女性がそう言った。
「え?」と板倉は驚いた顔をしているが、黒井は眉毛をピクリと上げ
「一緒に飲まない?」と誘った。その言葉に板倉は黒井を見たが隣の席を譲った。
「え?よく来られるんですか?」と初対面のくせにかなり仲のよさそうな話しぶりの女性は眞瀬結衣と言った。聞けば岡崎と同じ職場で働いていると言っていた。
「佳代ちゃん、結構私に相談していましたよ」と結衣は言い出した。
「何か言っていたんですか?」と板倉は身を乗り出して聞いた。それに対ししんみりとした顔つきで佳代子が不満に思っていることを打ち明けた。それを聞くと二人は驚き、特に板倉は許せないと怒りを見せた。
「俺には何とも言わなかったぞ」
「あまり喧嘩をしたくないから言えないって言ってましたよ。他に何か相談事があったら聞きますよ」
板倉はその言葉に乗り、佳代子に関する不満を打ち明けた。
「それでも喧嘩のようなものが絶えないんだ。何かあるとすぐかっかするし」
黒井はさっとその場を離れても、居酒屋に残った亮介達はそれからもずっと話続けていた。それから、結衣は自分の周りにちょろちょろとつくようになった。
「板倉さんの顔を見たくないから、まだ仕事したいんですって。佳代ちゃんなんでこんないい人に怒ってるんだろう?優しくって、色々と気が利くし…こんないい人どこを探してもいないのになぁ」
と結衣は板倉と食事をしながらそう言った。
「そんなことは無いよ、俺どうしようもなくって…佳代子にいつも怒られてっし…」
その言葉に驚いた表情を見せた結衣は「かわいそう…きっと分かってないんじゃないかなぁ…板倉さんの良さが」とフフッと笑って見せた。それから二人は趣味の話があったり、佳代子には全く理解されない、自分の趣味の楽しさの会話があったりと楽しい時間を過ごした。この子となら楽しいかもしれないと佳代子と比べてしまったことが多々あった。何も気を遣わずに話せるし、何をしていても笑ってすまされる。自分が望んできたモノを見つけたような気分だったと記憶している。佳代子とは結構長い付き合いだった。どんな喧嘩をしても別れることの無い自信はあった。互いに想いを伝えなくてもわかっているもんだと思っていた。あんな喧嘩みたいなのはほとんど冗談だって分かってるもんだと思っていた。ただのいつものじゃれ合い程度にしか…それなのに彼女はあっさりと別の男に乗り換えてしまった。(最低なのはどっちだよ)あんな男さえいなければ佳代子は今でも自分の隣にいたはずなのに。傷ついた彼女をいち早く慰めたのはあの男だったのか。積み重ねてきた物を掻っ攫いやがって…
目を開け電車を降りると板倉はスマホを開き、亮介は結衣に連絡を取った。用件を伝えると
「OK!私そういうの大好き。変な趣味かもしれないけど、好きなのよ。北川って男を調べればいいのね。でも私、亮ちゃんと一緒に調べたいなぁ」とすぐに返事が来た。そのメッセージににこりと思わず表情が緩む。
別れを告げたが、あれは勢いで言ってしまったことだった。それをいつか佳代子に伝えようと、家の周りをうろついていた。
(クッソ…またもや接近することができなかった)
陰に身を隠した亮介はこぶしを打ち付けた。しかも誰かが彼女のマンションに入っていくのが見えた。(誰だ?)逆光で顔が分からない。フードを被った人物は長らく彼女の部屋の前をうろつき、彼女が部屋に入ると階段を下りてきた。慌てて物陰に隠れ、その場を通り過ぎるのを待った。
(俺だけじゃない)
そうだ、自分のほかに誰かうろついていた人物がいたはずだ。俺ばかり注意されるなんて腹が立つ。カフェを出て、ガラス越しに北川と佳代子の様子を眺めた。あの二人はすべて俺のせいにして幸せがずっと続くとでも思っているのか?それに俺たちが付き合ってることを知っていて北川が憎んでいただけじゃないのか?でっち上げもいいほどだ。
(憎い)
俺の気持ちを蔑ろにして幸せになれるとだと?壊してやる。亮介の目の色は変わった。
電車に乗って亮介は数日前のことを思い出していた。
佳代子との別れの原因を作ったのは自分であるのはわかっている。だが、
(あの女は使えるかもしれない)あれから人生が変わったと言ってもいい。あれで俺たちは別れる羽目になり、ちょうどいいタイミングで北川が取って行ってしまった。(岡崎だって、北川という男と仲良くしてたじゃねぇか。別れてから奴と付き合うスパンが短すぎる)気持ちを落ち着かせようと電車のドアの外を眺めたが、あの日のことが蘇ってきた。
「久しぶり」
黒田はそういうと俺を飲みに誘ったことがあった。黒田から葵の話を聞いた時だった。それを聞いてどうこうするつもりはなかった。
「わかってやれよ」と黒田は言う。
「そんな話を急に持ち出してきても俺たちは別れるつもりなんかねぇよ。それに、岡崎以外ありえねぇし…」酒の酔いが回ってきたのか思っていることがどんどん出てくる。
「…だよな。…別に俺は別れろって言ってるんじゃねぇよ。それを俺たちのせいされちゃ困るからな。ただ、そういうことだと伝えに来たんだ」
「…」
「あいつ、感情を表に出さないタイプだから分からねぇだろうけど案外、いろいろあるみたいだしよ」
「それを俺に言って何になる」いい加減にしろと板倉は声を上げた。
「だから、気をつけろって言いたいだけだよ。落ち着けよ」黒田は怒った顔を見せる板倉を制しながら声のトーンを下げて言った。もう聞きたくないと思っていた頃、「あれ?」女性の声が聞こえ、二人はあたりを見渡した。その声は二人の近いところから聞こえた。
「カヨちゃんの彼氏さんですよね?」
と板倉の隣に立った女性がそう言った。
「え?」と板倉は驚いた顔をしているが、黒井は眉毛をピクリと上げ
「一緒に飲まない?」と誘った。その言葉に板倉は黒井を見たが隣の席を譲った。
「え?よく来られるんですか?」と初対面のくせにかなり仲のよさそうな話しぶりの女性は眞瀬結衣と言った。聞けば岡崎と同じ職場で働いていると言っていた。
「佳代ちゃん、結構私に相談していましたよ」と結衣は言い出した。
「何か言っていたんですか?」と板倉は身を乗り出して聞いた。それに対ししんみりとした顔つきで佳代子が不満に思っていることを打ち明けた。それを聞くと二人は驚き、特に板倉は許せないと怒りを見せた。
「俺には何とも言わなかったぞ」
「あまり喧嘩をしたくないから言えないって言ってましたよ。他に何か相談事があったら聞きますよ」
板倉はその言葉に乗り、佳代子に関する不満を打ち明けた。
「それでも喧嘩のようなものが絶えないんだ。何かあるとすぐかっかするし」
黒井はさっとその場を離れても、居酒屋に残った亮介達はそれからもずっと話続けていた。それから、結衣は自分の周りにちょろちょろとつくようになった。
「板倉さんの顔を見たくないから、まだ仕事したいんですって。佳代ちゃんなんでこんないい人に怒ってるんだろう?優しくって、色々と気が利くし…こんないい人どこを探してもいないのになぁ」
と結衣は板倉と食事をしながらそう言った。
「そんなことは無いよ、俺どうしようもなくって…佳代子にいつも怒られてっし…」
その言葉に驚いた表情を見せた結衣は「かわいそう…きっと分かってないんじゃないかなぁ…板倉さんの良さが」とフフッと笑って見せた。それから二人は趣味の話があったり、佳代子には全く理解されない、自分の趣味の楽しさの会話があったりと楽しい時間を過ごした。この子となら楽しいかもしれないと佳代子と比べてしまったことが多々あった。何も気を遣わずに話せるし、何をしていても笑ってすまされる。自分が望んできたモノを見つけたような気分だったと記憶している。佳代子とは結構長い付き合いだった。どんな喧嘩をしても別れることの無い自信はあった。互いに想いを伝えなくてもわかっているもんだと思っていた。あんな喧嘩みたいなのはほとんど冗談だって分かってるもんだと思っていた。ただのいつものじゃれ合い程度にしか…それなのに彼女はあっさりと別の男に乗り換えてしまった。(最低なのはどっちだよ)あんな男さえいなければ佳代子は今でも自分の隣にいたはずなのに。傷ついた彼女をいち早く慰めたのはあの男だったのか。積み重ねてきた物を掻っ攫いやがって…
目を開け電車を降りると板倉はスマホを開き、亮介は結衣に連絡を取った。用件を伝えると
「OK!私そういうの大好き。変な趣味かもしれないけど、好きなのよ。北川って男を調べればいいのね。でも私、亮ちゃんと一緒に調べたいなぁ」とすぐに返事が来た。そのメッセージににこりと思わず表情が緩む。
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