8 / 42
北川
しおりを挟む
数日後、処方された薬が切れ北川は澤須クリニックへ向かった。自動ドアが開き、中には岡崎が座っている。ハッと顔を上げた佳代子が彼に気づくとにこやかに笑った。
「こんにちは」
いつもと変わりのない挨拶だった。
「ども」
軽くそう答えながら北川は待合の椅子へ腰を下ろした。北川は入ってくるときに佳代子の曇り顔が気になっていた。(何かあったのだろうか?)そう思っていると
「ねぇ、この頃最近休んでたみたいだけど、なんかあったの?」
隣で仕事をしている女が岡崎に聞いていた。
「特に何もないですよ。ちょっと用事があって…」
そう隣の女性を見ずに答える。北川は
(この頃休んでいたのか)と心配になった。知らずのうちに彼女のことを気になっている自分に驚く。彼氏がいたらどうしようか…と散々考えたこともあった。(食事だけなら許されるかな…)
北川は会計が済むと小さな声で
「今日空いてる?」と聞いた。クールさを装いながらも心臓は破裂しそうだ。短い沈黙が長く感じる。
「いいですよ」やっと返事が来た。
「終わったら連絡します」岡崎からの嬉しい返事に北川は心の内でこぶしを握った。足元に置いたカバンを持った彼はにこりと笑って「じゃあ」と片手をあげた。
岡崎の仕事が終わったという連絡がいたのはちょうど北川の仕事が終わったのと同じころだ。一旦会社に戻り、診断書を上司に見せて自分のデスクに向かう。今日の夜は楽しみだと北川の心は踊った。憧れだった彼女とどこかへ行ける。その日の仕事は中々捗らず他の社員の目は冷たいものだったが、北川はそんなことは見向きもせずスマホばかり眺めていた。夕方になり、カバンを掴み時計を見ると17時を指していた。チャイムが鳴ったのと同時に出ていく学生のような勢いで会社を後にした。待ち合わせの時間は18時。待ち合わせをしていた場所へ向かうと先に岡崎が立っていた。彼は少し遠くの方で彼女を眺めていた。どこにいるのかと首を少し伸ばしながら待つ彼女の姿はあの頃より大人びていてかわいく見える。ほとんど仕事着のままの姿できたのか、上はブラウスで下は黒いスカートを履いている。遠くに立つ僕に気づき、手を振った。それに応じ、北川は軽く振り返しゆっくりと彼女のほうへと向かった。
「こんにちは」
いつもと変わりのない挨拶だった。
「ども」
軽くそう答えながら北川は待合の椅子へ腰を下ろした。北川は入ってくるときに佳代子の曇り顔が気になっていた。(何かあったのだろうか?)そう思っていると
「ねぇ、この頃最近休んでたみたいだけど、なんかあったの?」
隣で仕事をしている女が岡崎に聞いていた。
「特に何もないですよ。ちょっと用事があって…」
そう隣の女性を見ずに答える。北川は
(この頃休んでいたのか)と心配になった。知らずのうちに彼女のことを気になっている自分に驚く。彼氏がいたらどうしようか…と散々考えたこともあった。(食事だけなら許されるかな…)
北川は会計が済むと小さな声で
「今日空いてる?」と聞いた。クールさを装いながらも心臓は破裂しそうだ。短い沈黙が長く感じる。
「いいですよ」やっと返事が来た。
「終わったら連絡します」岡崎からの嬉しい返事に北川は心の内でこぶしを握った。足元に置いたカバンを持った彼はにこりと笑って「じゃあ」と片手をあげた。
岡崎の仕事が終わったという連絡がいたのはちょうど北川の仕事が終わったのと同じころだ。一旦会社に戻り、診断書を上司に見せて自分のデスクに向かう。今日の夜は楽しみだと北川の心は踊った。憧れだった彼女とどこかへ行ける。その日の仕事は中々捗らず他の社員の目は冷たいものだったが、北川はそんなことは見向きもせずスマホばかり眺めていた。夕方になり、カバンを掴み時計を見ると17時を指していた。チャイムが鳴ったのと同時に出ていく学生のような勢いで会社を後にした。待ち合わせの時間は18時。待ち合わせをしていた場所へ向かうと先に岡崎が立っていた。彼は少し遠くの方で彼女を眺めていた。どこにいるのかと首を少し伸ばしながら待つ彼女の姿はあの頃より大人びていてかわいく見える。ほとんど仕事着のままの姿できたのか、上はブラウスで下は黒いスカートを履いている。遠くに立つ僕に気づき、手を振った。それに応じ、北川は軽く振り返しゆっくりと彼女のほうへと向かった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる