6 / 42
佳代子
しおりを挟む
結衣の顔を見るとなんだか腹が立つ。そのわけを知っている。簡単に言えばこの女が私の元カレを取ったのだから。しかもこれ見よがしに婚約指輪までつけて。何がしたいんだろう。あいつはあんなことを考える奴だったか?いや、違う。きっと結衣が欲しいとせがんだのだろう。それに何かを頼まれると断れないあの男はひょいひょいそのお願いに答えたに違いない。あぁ、考えるだけで気持ち悪くなる。目を合わせたくもない。同じ事務仕事をしているにも、同じ空気を吸っているのも嫌だ。しかもこんな憎ったらしい女の仕事を引き受けなきゃならないなんて。佳代子は今日も残業で帰りが遅くなった。やっと仕事を終え、「なによ、私に仕事押し付けてさ」道端に転がる小さな石を力任せに蹴り飛ばした。その石は闇にのまれ見えなくなる。
「何がデートよ、デートだから先に帰りますって?ふざけんじゃないわよ」見えなくなった小石を見つけ再び佳代子は蹴り飛ばす。ふと後ろから自分の足音とは違う音が聞こえてきた。佳代子は立ち止まり、恐る恐る後ろを向いた。高ぶっていた感情が一気に下がる。この感じ、毎日のことだ。後ろを向いても誰もいない。だけど誰かの足音が聞こえる。マンションの部屋に入っても誰かが外から見ていたこともあった。
(ストーカー?)まだ足音は消えず、こちらに向かってくるのが分かる。近づきすぎないように、かといって離れないように…そういった足ぶりだ。姿が見えないのが余計に恐怖が増す。
佳代子は走ってマンションの中に入った。部屋の前に立ち、鞄から鍵を探した。(あれ?)手がもたついて思うように動かない。気が焦ってかえって時間がかかる。誰かが階段を上ってくる音がした。
(やめて…)もう時間は22時をとっくに過ぎていた。寄り道しなきゃよかった。この時間は誰もほとんど歩いていない。だからちょっとは安心していたのに。
(もしかしてただの同じマンションの人なんじゃないの?)そう思うように考え、もたつく手を落ち着かせた。足音は5階へ上がってきている。佳代子のいる階だ。ここは佳代子しか住んでいないはず。その上は屋上だし…。チャリ…。金属音が聞こえ、ほっとして周りを見ながら扉を開けた。
(っ…!)入る前に誰かの人影が見えた。細身の男だった。
鍵をかけ、チェーンを付けて、念のため空いている椅子でガードした。被害妄想と言われるかもしれないが、念には念を入れてのことだった。
(はぁ…)全てのことが終わると佳代子はソファーに力が抜けた様にへなへなと腰を下ろした。これからお風呂に入るのだるいなぁ…。一度下ろした腰を中々上げるのは困難で、明日はお休みだしとソファーに座ったまま眠ってしまった。
目を覚ますと日は登っていた。カーテンの隙間から部屋に射しかかる光が眩しい。佳代子はソファーから起き上がり大きくのびをした。洗面台に映る自分の顔が化粧が落ち酷くみっともなくなっている。服を脱ぎ、シャワーを浴び出てきては朝食を作る。いつもの静かな朝だ。テーブルの上でけたたましく鳴るスマホがなければ。
「うるさいなぁ」
始めはただのアラームだと思った。だが、広げてみるとそうではなく何件も着信が来ていた。非通知でかかってきている電話で切れると何度も鳴りだす。昨日のことがあってから佳代子は恐怖を感じた。玄関にたけかけてある椅子はそのままだ。ホッとはしたが、嫌な推理のようなものが頭の中で流れた。
(電話が来て起きたわけではなく、私が起きた途端に鳴り出したの?)
「いや、まさかね」
自分の被害妄想ぶりに笑えて来る。手に持っていたスマホは静かになった。ホッとしてそれをテーブルの上に置くと別のところから音楽が鳴り出した。
「え?」
音がする方を見ると赤く光っている個電だった。
「なんだ、お母さんかなぁ」
母は携帯を持つのが嫌だとかで、スマホに掛けるとお金が掛かるとかで私の家に個電を付けて行った。その為、この電話は親と私を繋ぐものになった。
佳代子は受話器を耳に当てた。
「…」
何も物音がせず切れた電話。しんと静かになる部屋。佳代子がずっと受話器を持ったまま固まっていた。あたりを見渡しても何も変化がない。遠くの方から秒針を刻む音が聞こえるだけだ。それが異様に大きく聞こえ、規則正しいその音が余計佳代子の心を乱した。誰にも相談ができない。だけど…
「誰?お母さんじゃないの?」
念のため母親にかけなおしたが、
「何言ってるの?」と笑われた。近況報告をして佳代子は電話を切った。怖くなった佳代子は個電の受話器を置いて、スマホの電源を切った。
「何がデートよ、デートだから先に帰りますって?ふざけんじゃないわよ」見えなくなった小石を見つけ再び佳代子は蹴り飛ばす。ふと後ろから自分の足音とは違う音が聞こえてきた。佳代子は立ち止まり、恐る恐る後ろを向いた。高ぶっていた感情が一気に下がる。この感じ、毎日のことだ。後ろを向いても誰もいない。だけど誰かの足音が聞こえる。マンションの部屋に入っても誰かが外から見ていたこともあった。
(ストーカー?)まだ足音は消えず、こちらに向かってくるのが分かる。近づきすぎないように、かといって離れないように…そういった足ぶりだ。姿が見えないのが余計に恐怖が増す。
佳代子は走ってマンションの中に入った。部屋の前に立ち、鞄から鍵を探した。(あれ?)手がもたついて思うように動かない。気が焦ってかえって時間がかかる。誰かが階段を上ってくる音がした。
(やめて…)もう時間は22時をとっくに過ぎていた。寄り道しなきゃよかった。この時間は誰もほとんど歩いていない。だからちょっとは安心していたのに。
(もしかしてただの同じマンションの人なんじゃないの?)そう思うように考え、もたつく手を落ち着かせた。足音は5階へ上がってきている。佳代子のいる階だ。ここは佳代子しか住んでいないはず。その上は屋上だし…。チャリ…。金属音が聞こえ、ほっとして周りを見ながら扉を開けた。
(っ…!)入る前に誰かの人影が見えた。細身の男だった。
鍵をかけ、チェーンを付けて、念のため空いている椅子でガードした。被害妄想と言われるかもしれないが、念には念を入れてのことだった。
(はぁ…)全てのことが終わると佳代子はソファーに力が抜けた様にへなへなと腰を下ろした。これからお風呂に入るのだるいなぁ…。一度下ろした腰を中々上げるのは困難で、明日はお休みだしとソファーに座ったまま眠ってしまった。
目を覚ますと日は登っていた。カーテンの隙間から部屋に射しかかる光が眩しい。佳代子はソファーから起き上がり大きくのびをした。洗面台に映る自分の顔が化粧が落ち酷くみっともなくなっている。服を脱ぎ、シャワーを浴び出てきては朝食を作る。いつもの静かな朝だ。テーブルの上でけたたましく鳴るスマホがなければ。
「うるさいなぁ」
始めはただのアラームだと思った。だが、広げてみるとそうではなく何件も着信が来ていた。非通知でかかってきている電話で切れると何度も鳴りだす。昨日のことがあってから佳代子は恐怖を感じた。玄関にたけかけてある椅子はそのままだ。ホッとはしたが、嫌な推理のようなものが頭の中で流れた。
(電話が来て起きたわけではなく、私が起きた途端に鳴り出したの?)
「いや、まさかね」
自分の被害妄想ぶりに笑えて来る。手に持っていたスマホは静かになった。ホッとしてそれをテーブルの上に置くと別のところから音楽が鳴り出した。
「え?」
音がする方を見ると赤く光っている個電だった。
「なんだ、お母さんかなぁ」
母は携帯を持つのが嫌だとかで、スマホに掛けるとお金が掛かるとかで私の家に個電を付けて行った。その為、この電話は親と私を繋ぐものになった。
佳代子は受話器を耳に当てた。
「…」
何も物音がせず切れた電話。しんと静かになる部屋。佳代子がずっと受話器を持ったまま固まっていた。あたりを見渡しても何も変化がない。遠くの方から秒針を刻む音が聞こえるだけだ。それが異様に大きく聞こえ、規則正しいその音が余計佳代子の心を乱した。誰にも相談ができない。だけど…
「誰?お母さんじゃないの?」
念のため母親にかけなおしたが、
「何言ってるの?」と笑われた。近況報告をして佳代子は電話を切った。怖くなった佳代子は個電の受話器を置いて、スマホの電源を切った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【R18】お父さんとエッチした日
ねんごろ
恋愛
「お、おい……」
「あっ、お、お父さん……」
私は深夜にディルドを使ってオナニーしているところを、お父さんに見られてしまう。
それから私はお父さんと秘密のエッチをしてしまうのだった。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【R18】私は婚約者のことが大嫌い
みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。
彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。
次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。
そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。
※R18回は※マーク付けます。
※二人の男と致している描写があります。
※ほんのり血の描写があります。
※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる