人間不信になったお嬢様

園田美栞

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彰宏の記憶

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 身なりを普通の庶民に合わせ簡単な服装で街に出るのが彰宏の最近の趣味となった。日に日に変わる街の様子を見たり買いもしないのに様々なところへ出歩いたりと楽しんでいた。いつか紗紀子と見て回りたい場所を探したりするのも彼の楽しみでもあった。その時変な視線を感じたのだった。何か鋭いもので刺された様な視線を。チラとその方を見ると見たことあるような男が彼を見ていた。ポケットに手を入れ壁を背にしながら物陰に隠れるようにして立っていた。気づかないフリをしようと初めは思い歩みを進めていると、行く場行く場にその視線は感じ、そいつはついてきた。少し小走りで逃げてみるとそいつも走ってくる。街中でかなり目立つ様になり、さっと路地裏に入り立ち止まった。そいつも入ってくるなり、彰宏が立っていることに驚いた顔をした。だが、そんな顔もすぐに変わった。
「久しぶりだな」
圭吾は俺の顔を見るなりにやりと笑った。その表情に変な寒気を感じた。その寒気は頭に「危険だ」と訴えかけてるようだった。だが、平静を装い
「なんか用か?」
と尋ねれば圭吾は片手を首元にやりながら
「この間の礼を言いたくてな」
と言った。
「それを言う為だけにわざわざここまで追いかけてきたのか?」
「お前が逃げるからだろう?」
「…急ぎの様があっただけだ。なんなら手短に話してほしいね」
「お前さ、前は社交場に出ないと言ってたが何の風の吹き回しだ?それが気になって調べてんだよ」
「ほう…それで何かわかったのか?」
「まだ始めたばかりでよ、ただ、お前の口からも聞いてみたいってだけだ」
「そうか」
俺は呆れてため息が思わず出てしまった。自分が調べてる内容を調査対象に話すこの馬鹿をどうしてくれようかと思った。この調子ではこいつは何もわからないだろう。自分自身が後ろめたいことは何もないが、それでこいつがどう出るかが疑問だ。向こうが情報を提示してくれたからには身を固める必要がある。
彰宏はぽっけに手を入れると立ち去り際に
「そういえば言い忘れてたな、結婚おめでとうよ」と言った。


後ろを振り返り彼がついてこないことがわかり、喫茶店に入った。いつも何か一人になって考えるのに使う場所だった。自分のいつもの席に座りコーヒーを頼むのも彼のいつものパターンだった。
「何かまた考え事?」
女給がにこりと笑って聞いた。
「あぁ、少しな」
今日はこの人に構ってる暇はない。
(急ぐしかない。なぜ俺の情報を急に調べようと思ったのか)
疑問に思うことはそれだった。それに自分自身も紗紀子の事で圭吾たちを調べていた。そこで裏事情が分かったのだった。
(自分が倒れそうになった時に…人は他人を巻き添えにさせるのか?)
もしそうだとすれば紗紀子にも伝えなければならないのか?
「…さん?」
誰かの声がしハッと顔を上げると先ほどの女給が声をかけていた。この人はこの店に働く人で、名前は駒井和子といった。俺の顔に笑っている駒井は
「全く、正一郎さんは…。いつもより難問を抱えているの?コーヒーが覚めてしまいますよ」
といった。ここでは名を偽っている。下手に自分の本名を知られたくないのだった。「あぁ」と答えると駒井は手を口に当てて笑った。
「その問題一緒に考えましょうか?」
と今日はやけに積極的な彼女を無視して考えの続きをした。
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