人間不信になったお嬢様

園田美栞

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氷が溶けたのは一瞬のうち

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 家に帰った紗紀子は自分の部屋に入ってドレスを脱ぎ捨て、お風呂に入り今日の疲れを取ろうと大きな伸びをした。白い入浴剤を溶かして入れてはいい香りがする。体が温まり自分の部屋で濡れた髪を乾かしていると紗紀子の父親と女の人が現れた。
「お父様?」
滅多に顔を出さない人が目の前に現れたことに驚いた。それに…
「今日は家に帰らないのではなかったのですか?」
いつもこの屋敷にはいなし東京にいたことも滅多にない。そんな父がなぜ?紗紀子のその気持ちが完全に父に届いてしまった。
「今何時だと思っている」
父の低い声が部屋に響いた。ビクッと肩を揺らした紗紀子は俯いた。
(門限を破ったことを怒っていたのね)
誤らなきゃいけないって思うのに声が出ない。思い返せば父と会話するのもあまりなかった。父の長いようなお説教が続いた。
(心配していってるんだぞ)
どの口がそれを言うと思う。そんなことこれっぽちも思っていない癖に。きっと横にいる女の人の手前で言っていることね。私ったら皮肉れたのかもしれない。
「当分の間外出は禁止だな」
厳しい言いつけが聞こえてきた。ハッとして顔を上げると涙が出てきた。
(どこまで私を締め付けるの?)
私が何も言えないせいで外出さえ禁止になる。父の隣に立つ女の人は笑っていた。何も言わず私を可哀そうだという目で見ずただ笑っていた。
(何がそんなに面白いの?)
口には出せない質問が頭の中で現れては消えていく。父の話は違う話題に代わっていた。私が元婚約者に捨てられた話だった。そんな噂が父の出先の周りで流れるのだろう。それがみっともないから。世間の恥だ。恥さらしだ。今まで我慢してきて、こんな夜中までほっつき歩いて辻倉の名を汚したいのか。私のせいではないあの婚約破棄。
(私が何をしたっていうの?)
瑠奈に裏切られただけ。瑠奈は私の幸せすべてを奪っていった。葛城家の妻としてふさわしいように今まで作法も何もかも努力してきた。だけどそれも無意味だと思い知らされ私に残されたのは世間からの名も葉もない陰口だらけ。きっと今頃瑠奈は笑って楽しい生活を送っている。私の前には一切姿を見せないけれど世間からはシンデレラストーリーを見せて羨ましがられて、勝ち誇ったような顔をして圭吾さんの隣にいるはず。
 紗紀子は両手で顔を覆い涙を流した。立っているのも辛くなり膝から崩れ落ちた。そんな娘を置いて父親は愛人を連れて部屋から去って行った。
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