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第十三章 進化
保健体育のお時間です
しおりを挟む魔界での祝賀晩餐が行われた日の深夜。
「ん……酒くさ」
魔王城の自分の寝室で眠っていると身体を触られてることに気付いて目が覚める。
「もう夜会終わったの?」
「ああ。解散した」
「お疲れさま」
背後から人のない胸を弄る魔王に声をかけながら手を伸ばして触れた場所をぽんぽんと叩いて労う。
「元気だなぁ」
寝ぼけながらも背後から元気な魔王の魔王があたっていることに気付いて呟く。
「見せるだけ見せて無慈悲にお預けをされたからな」
「晩餐の前だったし」
ない胸を弄っていた両手の内右手が下におりて、主人と同じく眠っていた息子を起こされる。
「見た目もだが、機能も変わっていないようだな」
「うん。俺が居た世界で知られてた半陰陽は大抵が一方なり両方なり未発達で形成手術が必要になるけど、俺の場合は元の男性型の外陰に女性型の外陰が増えた状態だから機能してる」
女性器の陰核が男性器の陰茎に。
睾丸にも見える大陰唇の間に陰核ではなく未発達な陰茎があって尿道や膣もあるというイメージだったそれに反して、俺の場合は見慣れた自分の男性器の下の会陰部に膣が増えただけ。
「いや、脱がせ方が雑」
俺の知識にあった半陰陽とは違っていたことを話すと魔王は手を離し身体を起こして躊躇なく下を脱がせる。
「真顔で開くな」
ぐいっと人の両足を持ち上げ恥ずかしい格好をさせておきながら何の反応もなく会陰部分に増えた女性器を開く魔王。
その表情にふざけた様子はなく真剣に確認していて『保健体育の時間でも始まった?』と聞きたくなる。
「俺が知る両性の生殖器とも少し違う。魔族の両性には雌性型の生殖器と同じく大陰唇があるが、お前にはない。開かなければ膣があることが分からない造りを見たのは初めてだ」
「やっぱり?」
俺のは大陰唇どころか小陰唇や尿道すらなく会陰部に入った亀裂を開いて初めて膣が見えるからパッと見では分からない。
要は会陰部が女性器のように開くようになってそこに膣だけがある状態。
「陰茎の感度に違いは?鈍くなったり敏感になったり」
「全く変わってない。男性器の方はサイズも感度も触られてる時の感触も以前のまま。本当にただ膣が増えたってだけ」
「たしかに雌性型の性器が増えたと言うより膣だけが増えたと説明した方が正しい造りをしている」
真剣な顔で観察しながらも俺の息子を弄ぶ魔王。
観察するのかするのかハッキリして欲しい。
「陰茎を刺激すればしっかり濡れもするのか」
「そりゃそうだろ。陰核を刺激してるのと同じなんだから」
「造りが膣と言うより穴の印象だからな。正常に機能することは聞いていたが、実際に見るまでは懐疑的だった」
まあ分かる。
俺が知る地球の半陰陽の外陰(片方or両方未発達)と魔族の両性の外陰(両方発達済)でも違いがあるけど、俺のはそのどちらとも違う造りをしているんだから。
「内性器も両方あると聞いたが、それは精霊族の雄性の身体にある精巣と雌性の身体にある卵巣の話か?」
「そう。子供は授からないけど子宮もあれば卵巣もある」
「雄性の部分は以前と変わらないまま、新たに精霊族の雌性の外性器と内性器が増えた状態ということか」
正しくそれ。
雄性の要素は以前の身体と全く同じ。
「精霊族の女性の造りは変身したお前の身体で実際に体験して覚えたが、今度は神の御子の両性の身体を学ばなければな」
「物凄く悪い顔してる」
「自分の半身の身体のことは全て知っておかなければ。何かあった時に半身の俺が対応できなければ困るだろう?」
楽しそうに動かす手を早める魔王。
座学の保健体育の時間は終わって今度は実際に体験してみる保健体育の時間に移行したらしい。
「言い訳がましい。ただやりたいだけだろ」
「その気がなければ寝込みを襲っていない。ただ半身の身体のことを知りたいというのも事実だ。雌性に変身した時とは違うこの身体の浅さや狭さや感度も全て自分の身体で知りたい」
人の両足を肩に乗せて身を屈め距離を近付けた魔王は俺を見下ろしながら口元を笑みで歪める。
ここにも居たな。
俺を屈服させて興奮するサディストが。
いや、サディストというより征服欲が強いのか。
強靭で血気盛んな魔族たちの長なだけあって。
「屈服させるのはベッドの中だけで満足して」
「ん?」
無意識の征服欲。
無自覚にも俺を支配しようとしている。
自分のものにしたいという醜い欲。
「手段は好きにしていいから気持ちよくして」
どう屈服させるかは過程も手段も魔王の自由。
結果が快楽ならそれでいい。
魔王は俺の半身だから。
「煽りが過ぎるだろう」
「ごめん。魔力抑えてもう少し角も引っ込めて」
「相手を選んで煽ることを学べて良かったな」
魔王さまスイッチがオンに。
寝ていた俺が気付いて起きないよう魔力を抑えて襲ってきたんだろうけど、性欲のスイッチが入ったことで身長も両側から生えた角も身体も、服を着てる今は見えないけど恐らくアレも、凶暴サイズな魔王さまに戻ってしまった。
「しっかり飲め。今日は加減してやれない」
深く重ねられた口から天然媚薬を流し込まれる。
本当に羨ましい体質をお持ちで。
自分が与えられる側に回ると危険極まりない体質だけど。
「……はあ」
口が離れた時にはもうこっちはすっかり出来上がっている。
強い毒薬や麻痺薬を飲んでも効かないのに魔王の天然媚薬だけ効くのは俺が無意識に受け入れてるということなのか、無効化を持つ身体には効かないという常識をぶっ壊してしまうほど魔王の天然媚薬が強いのか。
「やはり狭いな。この身体で誰かとやったか?」
「ううん……フラウエルが初めて」
正確に言えば神界で精霊神や魔神とはやったけど、あれは精霊神曰く『入ってるけど入ってない状態』という謎の性行為(再生行為)だったから、実体が中に入るのは魔王が初めて。
「そうか。では一度目は優しくしてやろう」
そう言いながら指の本数を増やされる。
あれ?優しいって何だっけ。
この場合は優しく(加減を)してやるってことじゃないの?
魔力を抑えていない本来の姿の時の魔王の手(指)は精霊族の指より太いのに増やしたら逆に優しくないと思うけど?
「姿は雄性の半身なのに子宮があるのが奇妙な気分だ」
「両方あるって言っただろ……って言うか子宮口に触るな」
「開いていないまま入れて良いのか?」
「入れていい場所じゃないのに」
「今更だろう」
魔族は身体が大きいから当然アレも精霊族より大きい。
子宮のある精霊族の造りだと浅すぎてお遊び程度にしか入れられないから子宮の中まで突き進まれることになる。
「今日に限ってなぜ言う。雌性の姿で何度も入れられているのにそんなことは言ったことがなかっただろう?」
「分からないけど何か感覚が違う」
子宮(口)という部分なのは同じなはずなのに、雌性に変身した時に触られる感覚と今感じている感覚が違う。
「集中できないのか」
快楽と思考でぐるぐるしてる俺に気付いたらしく魔王はまたキスをして天然媚薬を飲ませてくる。
その間も変わらず手の動きは続いていて、時間をかけながらも徐々に快楽の方が上回っていった。
「…………」
口を離した魔王は俺を見て口元を笑みで歪ませる。
「雄性だろうと雌性だろうと両性だろうと煩悩まみれで快楽に弱いのが俺の半身だろう?今のようにだらしない顔をしている半身を見るのが好きな俺の趣味を奪うな」
狭い中を押し分けるように入ってくるモノの感覚。
そうやって入れられて初めて精霊神が『入ってるけど入ってない』と言ったそれが理解できた気がする。
あの時は『何で入るの?』と思うサイズの物が入っても『入ってる』というだけの感覚だったけど、魔王のソレは天然媚薬のお蔭で痛みはないと言うだけで押し広げられる感が強い。
人型の何かと実体は違う。
精霊神も魔神もあえて実体にまではならず、俺が快楽だけに集中できるよう配慮してくれてたんだと分かった。
「痛いか?」
「……ここに居る」
下腹部に手を添えて答える。
痛みは全くないけど魔王の凶暴なソレの存在感が凄い。
それでもまだ子宮の手前までしか入れてないんだけど。
「中、どう?……雌性の時と違う?」
肩で息をしながらも気になっていたことを聞く。
まだ全て入ってなくて動きも止まっている今しか質問できる余裕がなさそうだから。
「身体の小さな雌性の時よりは広い。微々たる違いだが」
それは体格差の違いだな。
雌性だから両性だからの違いじゃなくて。
「滑りは?」
「変わらない。穴ではなく膣だった」
「女性を穴扱いしてるゲス野郎みたいな発言するな」
人の初物に突っ込んでおいて失礼な奴だ。
そういう意味で言ったんじゃないと分かってるけど。
「口も中もよく動く」
くつくつと笑った魔王はそれだけ言うと『もう質問は終わり』と訴えるように再び動き始めた。
容赦という言葉を忘れたらしい魔王の動きと凶暴なソレで体内を荒らされていると感じる。
同じ膣でも雌性に変身した時の感覚とはまた違う。
「感度は両性の時の方がいいようだな」
魔王の言う通り、女性器の方は雌性に変身した時よりも両性の今の方がダイレクトに感触が伝わって感度がいい。
その違いはきっと以前の身体が精霊神と魔神が作ってくれた代替えの肉体だったことプラス、二人が似せて作ってくれた実の姿とも違う完全偽物の雌性体だったからだろう。
両性のこの身体は俺の本物の身体。
本物の身体を魔王の凶暴なソレで荒らされている。
最古の縁で繋がった魔王から。
「半身?」
・
・
・
ベッドで目覚めて気怠い身体を起こす。
「…………」
隣を見ると眠っている魔王の姿。
記憶がないけどまた最中に力尽きてしまったんだろうか。
まだ始めたばかりだった気がするんだけど。
「いや、しっかりやってるな」
少し動くと中から出てきたことで、記憶はなくともしっかり最後まで致したことは分かった。
「半身」
布団を捲って確認したから起こしてしまったようで、魔王は寝起きの少し掠れた声で俺を呼んで腰に腕を回す。
「おはよ。起こしてごめん」
謝りながら頭を撫でると魔王は顔を上げて俺を見る。
「元に戻ったようだな」
「元に戻った?」
「散々俺を貪り喰っただろうに」
「は?」
何の話か分からず首を傾げる俺に魔王はニヤリと笑う。
「両性でも雌性でも雄性でも俺を喰っておいてすっかり忘れてるとは、お前の方こそ俺を棒扱いしてるんじゃないか?」
「え、はい?俺が?」
「紛れもなくお前だったが?魂色が半身だったのだから」
じゃあ俺だな(確信)。
でも途中からの記憶が一切ない。
「神族はみんな性欲が強いのか、半身が特別なのか」
「ま、待った。神族って」
「自分で言っていたぞ?覚醒して神族に戻ったと」
全然覚えがない。
半身の魔王にも話そうと思っていたから知られたことは問題ないけど、言った記憶がないことは大問題。
「中から出てきたのか」
「うん。そうなんだけど、ちょっと今思い出してる最中で」
「途中で幾度か掻き出したんだが」
「いま思い出してる最中って言ってるのに、無視して触りながら卑猥なワードをぶち込んでくるの辞めてくれる!?」
「俺のモノならこの中に幾度もぶち込んだが?」
クッソ……完全に面白がってる。
その記憶がないから必死に思い出してるのに。
「触るなって」
「触れと言っていた口で今度は触るなと言うのか」
「違いがあるか聞いた後からの記憶がないんだよ」
「だろうな。いつものお前ではなかった」
「……え?」
指を入れながらケロっと言った魔王。
衝撃的なことを指を入れながら言わないで欲しい。
「お前は普段から快楽に弱いが、あの時はそれ以上だった。何度イかせても満足せずに雄性になったり雌性になったり両性に戻ったりしてはもっとしたいと強請られて、生まれて初めて自分の体力が最後まで持つか少し不安になった」
「……なにしてんの俺……」
体力おばけの魔王が持つか不安になるなんて相当のこと。
全く覚えてないけどその時の俺が怖い。
頭を抱えていると起こしていた身体をベッドに寝かされる。
「俺としては貴重な経験だったがな。身体もモノも離してくれないところも、もっとと開いて強請る姿も、上に乗って動きながら快楽に夢中になっている姿も堪らなく唆られた」
「クソ恥ずッッ!」
もう殺してくれ。
これ以上の黒歴史を知る前に殺してくれ。
両手で顔を覆って悶える俺に魔王は笑い声をあげる。
「毎回そうなるのか、特別だったのか、試させろ」
「試さな」
お断りする暇も与えられず入れられて声が詰まる。
「ま、待った、なんか違う」
「何が違う」
「もう気持ちいい」
知らない(記憶がない)間にあんなに固かった場所にスムーズに入るようになっていることにも驚くけど、ただ入れただけでイきそうになるほど気持ちいいことに何より驚く。
「唾液よりも催淫効果の高い体液が中にたっぷり溜まっているんだから当然だろう?自分が出せと強請って幾度も搾り取った成果なのだから正気に戻った状態でも遠慮せず享受しろ」
知らない。
そんなお強請りをしたなんて知らない。
でもそれが理由だとは納得できる。
少し身体を動かしたら溢れるくらいだったんだから。
強すぎる快楽と早すぎる絶頂。
何度果ててもまた果てられる状況。
魔王も辞めることなく繰り返しながら俺を眺めて楽しむ。
本物のこの身体がヤバ過ぎるのか相手が魔王だからか。
このままではマズイと感じて最中に行為後の負担が少ない雌性に変身してみたけど、以前の身体で雌性になった時よりも快楽が強い。
逃げようとしても背後から捕まえられて容赦なく動かれる。
もう何度果てたのか自分でも分からない。
元から雄性の時より快楽の強かった雌性の身体を無慈悲に荒らされて身体もベッドも無惨な状態。
それでも体力は尽きないし、果てるのも止まらない。
代替えの身体と本物の身体はこんなにも感度が違うんだと嫌というほどに思い知らされた。
「半身」
背面で膝に座らされている身体から抜かれ溢れ出る感触に少し身震いした俺の頭に手を添えて何度も口付ける魔王。
掴んだり押さえられたりした所為で雌性の身体のあらゆるところは赤くなっていて、中には歯型も残っていた。
「……乱暴にし過ぎ」
汗やその他諸々で汚れた俺の胸を背後から前に回した手で弄びながら、反対の手では中に指を入れて効果の強い天然媚薬を掻き出す魔王に苦情を訴える。
「人のモノを棒扱いした正気ではなかった時の自分に文句を言え。俺は動くな触るなと動けないよう腕を押さえ上に乗られて動かれたりもしたのだから主導権を取られた鬱憤も溜まる」
たしかにそれだと棒扱いと言われるのも納得。
その時の鬱憤を晴らされたのなら仕方ないか。
「少しさせてすぐに逆転したがな」
「しっかり主導権握ってたんじゃん」
途中でそんな時もあっただけでずっとそうだった訳じゃないのなら、散々ぐしゃぐしゃにされた今の俺って。
「もう掻き出してるだけでも潮を吹くな。気持ちいいか?」
「イクほどじゃないけど気持ちいい」
完全に身体(感度)がバグっていてダダ漏れ状態。
それこそオマケのように触っている胸でさえも少し本気を出されたらイケてしまいそうなほど感度のよさが異常。
「もうこれ風呂に行って自分で出す」
「最後まで出してやるのに」
「無限ループになって終わらないだろ」
掻き出してもまた出されてで終わらない予感。
効果が強い天然媚薬を早く出した方がいいのは間違いないから自分でやると話して魔王を止めた。
「……脚に力が入らない」
体力は大丈夫なのに脚は疲れているらしく、このまま立ったら産まれたての小鹿になってプルプルするだろうと分かる。
「雌性の姿の時は行為後も何もなかったかのように立ち上がれていたが、両性の身体になったら弱くなったのだろうか」
「フラウエルがやり過ぎて限界を超えただけって一番の可能性はわざと除外してる?」
記憶にない間も含めたら何回果てたのか。
目が覚めてからだけでも汗やら何やらでドロドロになるほどにやったんだから、どう考えてもそれが一番の理由。
「では責任をとって世話してやろう」
俺を抱きあげた魔王はベッドから降りて浴室に向かう。
「待って、垂れてくる」
「後で片付けさせる」
「俺が浄化するし。ベッドも」
あの無惨なベッドも床に垂れた天然媚薬も使用人に掃除させるには申し訳なさ過ぎるから、浄化を使って自分で。
と言うよりさすがにそうさせて欲しい。
図太い俺にもノミの心臓程度の恥じらいはあるから。
「あれ?……自分でも駄目かも」
浴室に行って床に膝を付きシャワーで流し洗いながら中から出すために指を入れると、魔王が掻き出していた時ほどじゃないものの気持ちがいい。
「俺がやるか?」
「自分でも駄目なのにやって貰ったらもっと駄目だろ」
魔王の手じゃ感度が良すぎて駄目だったから自分でやると言ったのに頼むはずもなく、堪えながら掻き出す。
「……おい。また元気になるな」
様子を眺めていた魔王の魔王がまた元気になっていることに気付いて苦情を訴える。
「お前が発情した匂いをさせているのが悪い」
「発情した匂い?」
「魔族は匂いに惹かれると知っているだろう?今日は来た時から精霊神と魔神が思い浮かぶ香りを纏っていたが、寝込みを襲って目覚めてからは誘われるような香りが強くなった」
精霊神と魔神が思い浮かぶ香りと聞いて身に覚えが。
本物の身体を再生させるためにこの星時間で数百年(神界時間では数時間)も目交いをしていたあれが原因ではないかと。
「「…………」」
「身に覚えが?」
「ないけど……危険な状況かなって」
本当はあり過ぎなくらいありますけど。
魔族はそもそも精霊族より香りに敏感な上に半身の香りには特に敏感で惹かれるらしいから、いつもよりも強くなっている精霊神と魔神の香りで盛りがついてしまったんだろう。
「お前に身に覚えはなくとも事実だ。これでも堪えている」
「体力が持つか不安になったのに?」
「体力が持つかどうかと性欲は別だろう」
別なの?
うん、別か。
疲れて動きたくない時でも性欲はあるし。
結局は体力がないと出来ないけど。
「俺が一方的に悪いように言っているが、お前自身が発情していなければその香りも出ない。自分の半身が発情していればこちらもその気になるのは当然だ。精霊族とは種を残す手段が違うとは言え、魔族にも子を遺したいという本能がある」
魔族にも子孫を遺したい本能があるのは分かる。
ただ魔族の性行為は子孫を遺すために行うものじゃないから、発情した半身にその本能が働くのが分からないけど。
「もしかして発情してる時に魔力で子供を作る?」
「大抵はそうだ。発情時でなくとも作れるが、その時が最も子を遺したい本能が強いということと、魔力の少ない者に魔力が多い者が体液を送り魔力量を補ってやることが出来る」
「なるほど。そういう理由もあるのか」
子供が欲しい!と思う一番のタイミングが互いに発情時だってことと、行為をして体液を与えることで魔力を補えると。
そう聞くと理にかなってると思う。
「魔族の子作りは命がけだ。子の形になるまでは何時間でも何日間でも二人の魔力を注ぎ続ける必要がある。どんなに魔力量が多い者でも相手の魔力量が少なければその分も自分が注がなければならず死ぬ可能性があるし、魔力の少ない方の半身も同じく途中で魔力が尽きて死んでしまうかも知れない。だからこそ魔族は半身に選ぶ者に自分と同等の魔力量と質を求める」
「……怖っ」
人間(精霊族)の男性は種を残した以降にも身体に変化はないから死ぬことはないけど、女性は身体が変化した上に命がけで子供を産んでくれるという大きな違いがある。
男性(精子)と女性(卵子)が揃わないと生命にはならないんだからどちらか片方の性だけでは世界が成り立たないけど、命がけかどうかという一点だけで見れば男性の身に危険はない。
でも魔力で子供を作る魔族はどちらも命がけ。
魔神が言っていたけど、出生率が低いから寿命を長くしたというあれは大袈裟でも何でもない事実だということ。
自分たちが途中で死ねば子供にはならないし、どちらかなり両方なりが死んでむしろ人口を減らすことになる。
「気が逸れて落ち着いたようだな。少し香りが弱まった」
「え?そのためにわざと怖い話をした?」
「命がけというのは事実だがな」
最高潮だった昂りが下降したことは間違いないけど。
香りが弱くなったことで魔王の魔王も落ち着いたようだし、結果的には良かったと思おう。
「「…………」」
少し落ち着いた今の内にと思って再び指を動かすと自分の意志など関係なくまた身体が反応する。
「……わざとじゃない」
本当にわざとじゃない。
むしろ自分でも感度が良すぎて困ってる。
効果の高い体液を出し過ぎ。
記憶にない間に強請ったらしい俺が悪いんだけど。
「やはり俺が出してやる。その方が早い」
「駄目だって」
「大人しく身体の力を抜け」
「また気持ち良くなっての繰り返しになるだろ」
「俺がしていなくてもなってるだろうに」
「フラウエルにされた方が刺激が強いんだって」
と訴えても無駄。
腰に腕を回して抱え込まれて掻き出される。
その間しがみつくように魔王の頭を抱え込んでまた何度も果てさせられることしか出来なかった。
・
・
・
「魔王さまの保健体育の時間の長さは異常」
「保健体育?」
「身体や性について学ぶ授業。長過ぎてプルプルする」
一日の授業が全て保健体育だったかのように長過ぎたそれで腕も脚もすっかり生まれたての子鹿に。
魔王が魔法で時間を戻して綺麗にしたベッドの上に降ろされヨボヨボしながら横になって、少し力を入れただけでもプルプルする両腕で大きなクッションを抱えてメソメソする。
「今日は加減してやれないと先に断りを入れただろう?」
「……言ってた」
たしかに天然媚薬を飲まされる前に言ってた。
来た時から香りに敏感になってたみたいだから、もうあの時点で加減できそうにないと自分で分かってたんだろう。
隣で横になって温風で髪を乾かしてくれる魔王は普通。
俺が生まれたての子鹿になっているのに平然としてる魔王の頑丈さが羨ましい。
「考えてみたんだが、以前からしていた精霊神と魔神を本能で感じる特殊な香りが強くなったのは、覚醒して精霊神と魔神から誕生した神族に戻ったことが関係してるんじゃないか?」
「……言われてみれば」
神族は精霊神と魔神の魔力で創られた存在。
覚えはなくとも神族らしい俺も当然二人の魔力で創られたんだろうから、魔王が言うようにそれも原因の一つなのかも。
元から精霊神と魔神の魔力で誕生した神族の身体だった上に精霊神と魔神が再生してくれた身体だからなおさら二人の香りが強くなったと考えると納得がいく。
「下手な魔族の前には出せなくなったな」
「ん?」
「以前のままでもお前の香りで我を忘れる者が居てもおかしくなかったが、それがますます強くなったのだから」
つまり我を忘れた魔族から襲われる可能性が高くなったと。
晩餐に参加した軍官たちや四天魔やラーシュやエディが平気だったのは本人たちの精神力が高いという理由と、支配香という香り(特性)を持つ魔王が一緒に居たからだろう。
「……臭い匂いの物でも持ち歩けば良いのかな」
「生まれ持った特性の香りは外からどんな匂いをつけようともごまかせない。異臭の中の特性の香りを嗅ぎつけられる」
魔族はアニマルか。
最も嗅覚が優れたゾウか。
いや、特性を嗅ぎ分けるんだから単純に嗅覚がいい訳じゃなくて感覚的なものも関係してるんだろうけど。
「覚醒して能力が高くなったことで安全になるどころか危険さが増すとは、騒動事に愛されたお前らしいというか」
「狙って騒動に巻き込まれてる訳じゃない」
引き寄せの法則のようにソイツが現れる所でむしろ事件が起きる某キャラのように言うな。
不思議と騒動事に巻き込まれるのは事実だけど。
メソメソする俺の髪を乾かし終えた魔王は頭にキスをする。
「明日は獣人娘たちに魔界を案内するんだろう?」
「あ、うん」
「そろそろ眠れ。寝過ごしてしまうぞ?」
「そうする」
明日はエドとベルが初めて魔界に来る。
二人も観光できるのを楽しみにしていたし、魔王と俺と四天魔で案内する予定になってるから寝過ごす訳にはいかない。
「ちゃんと魔層を通れるかな」
「魔神が創造した物が誤作動は起こさないだろう」
「まあたしかに。創造神ってくらいだからな」
俺の身体に布団をかけてくれながら魔王は笑う。
言われてみればその通りで、世界というとんでもない規模のものを創造した神が創った魔層が誤作動したりしないだろう。
「ああ、そうだ」
「ん?」
魔法を使って灯りを弱めたタイミングで何か思い出したらしい魔王に『なに?』と聞く意味で首を傾げる。
「正気ではなかった時にも言ったが、覚えていないようだから改めて伝えておく。お前が雄性でも雌性でも両性でも愛おしく思うのは変わらない。精霊族でも魔族でも神魔族でも神族でも俺のたった一人の大切な半身だということも変わらない。神になったお前の寿命がどうなるのか分からないが、いつかこの命が尽きる日までお前と共に居ると約束する」
そんな言葉に胸がギュッと締め付けられる。
俺がどんな姿になっても魔王には分かるだろうし愛してくれるだろうとは思ってたけど、安心させるためなのか言葉にしてくれたことで確信を持つことが出来た。
「ありがとう、フラウエル」
魔王を見てそれだけ伝える。
今のこの感情をどんな言葉で伝えたら良いのか馬鹿な俺には分からないから。
精霊族にとっては敵でも俺にとっては大切な半身。
魂で繋がった、たった一人の存在。
最初は不本意だった腕の中も今は安心するし落ち着く。
「おやすみ」
「ああ。おやすみ」
お互いの体温と香りを感じながら眠りにつく。
お互いがお互いの眠剤のように心地好く、うとうとと。
古の縁で結ばれた魔王と俺の運命はこれまでもこれからも交わり続けるんだろう。
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