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第十二章 邂逅
練習試合
しおりを挟む「メテオール嬢は英雄公を拝見したことがあるのか?」
「直接はございません。それこそ試合で拝見しただけで」
「そうか。同じ王都に暮らしていると言ってもやはり早々にお会い出来る御方ではないのだな」
いや、西区に来てくれれば会える。
フードを被って姿を隠しながらだけど警備や解体建築状況の視察を兼ねて割と頻繁にフラフラしてるから。
言えないけど。
「私が王都に暮らしているとよく分かりましたね」
「ブークリエ国の王都魔導校の制服を着て……ん?家庭教師から教わっていたのになぜ制服を?」
「これは今日の体験入学のためにお借りした制服です」
「ああ、そうだったのか」
そう言えばブークリエの魔導校の制服を着てたんだった。
なんで分かったのかと思えば。
「今英雄公がこのアルク国に参られていて普段よりも熱が高まっているとあって、その白銀色は注目を浴びるだろう」
「ええ。ですが物珍しく見られることには慣れました」
色を変えない限り元の姿でも雌性体でも目立つ。
この世界に召喚されてからずっと物珍しいもののように見られ続けてきたから。
「生来の色なのか?」
「元は金の髪と青の虹彩でした。それが変異してこの色に」
思えば変異でも嘘じゃないな。
元は金髪碧眼だったのに召喚されたタイミングでこの白銀色に固定されたんだから。
「恐らく私が思うより白銀色を持つことは気苦労も多いのだろうが、メテオール嬢が美しいことは間違いない」
「ありがとうございます」
目は試合を見ながらのそのフォローに少し笑った。
それから数十分ほど経って。
「あの、アリアネ嬢は大丈夫でしょうか」
「大丈夫?」
「思った以上にお一人で待たせてしまっているので」
俺たちの試合は最後だからまだ時間がかかる。
カフェテリアで絡んできた三人の中の一人はここに居るけど、また絡まれてないかと少し心配でレオポルトに声をかける。
「心配せずともアリアネは図太い」
「え?」
「また人の妹をそのように」
「本当のことだろう。私は嫌がっているのに虫を握って楽しそうに追いかけてくるお転婆が図太くなくてなんと言う」
「まあお転婆ということは認める」
「あれの所為で私はお前の家の果樹園に行けなくなった」
ん?図太い?お転婆?
アリアネ嬢が?
「もしや御三方は幼い頃からの知己なのですか?」
恐らく子供の頃だろうと思って聞くとレオポルトは頷く。
「その頃の恨みでカフェテリアでのあれを?」
「「恨み?」」
「カフェテリアでお会いしましたよね?」
二人から首を傾げられて首を傾げ返す。
三人の中の一人は間違いなくジェレミーだった。
「……レアンドルか」
「ああ。休憩時間にカフェテリアで会った」
「またアイツは」
どういうこと?
レアンドルって誰?
「メテオール嬢。ジェレミーはカフェテリアで会ったレアンドルとは別人だ。双子だから顔は似ているが」
「え!?」
別人!?
こんなにそっくりなのに!?
「レアンドルは魔導科の中等科。今回の合同講義は成績上位者だけが参加しているためにレアンドルはここには居ない」
シストからもそう説明されて唖然。
本当に別人らしい。
「顔は似ていても性格は全く違う。試合を申し込んできたのがレアンドルであれば私は試合を受けていないし、メテオール嬢にも断るよう言った。ジェレミーは私たち家族を下賎貴族と馬鹿にしたり女性を傷つけたりもしないがレアンドルは違う」
レオポルトから聞いてたしかにと思う。
なにせこのジェレミー、上流貴族らしく品があって紳士。
カフェテリアで会った時と印象が全く違うのも別人だからと聞けば納得。
「兄弟が迷惑をかけたようで申し訳なかった」
「いえ、ジェレミーさまに謝罪いただくようなことはなにも。言われたのはレオポルトさまご家族のことですので」
「レオポルトもすまない。父や私も今まで何度も注意しているのだが、母や祖父母が甘やかしてしまって一向に直らない」
「事情は分かっている。ジェレミーが謝る必要はない」
「本当にすまない」
……余計なことを言ってしまったらしい。
顔を伏せ大きな溜息をついたジェレミーを見て察する。
「どこの貴族家もそうだが、先代が強い影響力を持っていると何かと厄介事が起きる。うちは幸いにも祖父母が余生を楽しむと言って自由を謳歌しているお陰で問題は起きていないが」
シストもそんな話をして溜息をつく。
貴族の令息も色々と大変らしい。
「そんなにもレアンドルさまは甘えん坊なのですか?」
「甘えん坊と言われると可愛く感じてしまうな」
そう答えてジェレミーはくすりと笑う。
「私とレアンドルは双子だが、数十分前に産まれたレアンドルが長子で嫡男。レアンドルが悪さをしても家督を継ぐ長子だからと母や祖父母が甘やかす所為でやりたい放題だ。最近は裏の賭博場にも足を踏み入れていて幾度か連れには行ったがいつか捕まるだろう。それも祖父母と母が揉み消すだろうが」
思ったより深刻。
祖父母は典型的な孫バカだし母親も甘やかすだけのダメ親。
父親は唯一まともなようだけど、祖父母の影響力には敵わず甘やかすのを止められないんだろう。
「家を出れないのか?仮にレアンドルが大きな事件など起こせばジェレミーも影響を受けることになる」
「私が家を出ればレアンドルを正せる者が父一人になる。私の力など役にもたたないが、それでも父一人に任せては父の心が壊れてしまう。それでなくとも入婿で肩身が狭いのだから」
レオポルトの提案にもジェレミーは苦笑して答えた。
「せっかくの練習試合が控えていると言うのに要らぬ話までしてしまった。忘れてほしい」
無理。
もちろんジェレミーもそんなことは無理だと分かっていて言ってるだろうけど。
「メテオール嬢が心配しているようだからアリアネを連れに行こう。こちらで一緒に見学すればいい」
「ああ。メテオール嬢はここで待っていてくれ」
「はい」
気まずくなったのか立ち上がったジェレミーと一緒にレオポルトもアリアネを連れに行った。
「余計なことを聞いてしまいました」
「話したのはメテオール嬢に心を開いている証拠だろう。メテオール嬢もジェレミーを見つめていたが好意があるのか?」
「見つめて?ああ、木剣の時のことでしょうか。あの時まさしくカフェテリアでのことを考えていて、あの時この方は何をしていただろうと思い返していました。余りに印象が違って」
そう説明するとシストはククっと笑う。
「あのように見つめて勘違いされていたらどうしたんだ」
「見つめるつもりでは」
どうしたも何もごめんなさいとしか言えないけど。
本当は男だし。
ツボったらしく声を堪えながらシストは笑う。
「メテオール嬢は強く美しいが変わっている」
「変わり者とはよく言われます」
そこは認める。
地球に居る時からそれは言われ続けてるし。
「ジェレミーも難しい立場に居るようだな」
「ええ。レオポルトさまが申されたように家族を切り捨てられる冷酷さがあれば楽になれるのでしょうが」
「無理だろう。ジェレミーは心優しい。本人が言っていたように入婿で肩身が狭い父親を見捨てられない。我が子がそうすることを父親が望んでいなかったとしても」
双子だと言うのに真逆の二人。
甘ったれてヤダヤダする長男と歯を食いしばり堪える次男。
逆の立場なら上手くいったのか、甘やかされる側に回ればジェレミーもレアンドルのようにヤダヤダになっていたのか。
「家紋はお聞きしませんが、ジェレミーさまの祖父母はそんなにも影響力をお持ちの方なのですか?」
「ああ。反論できる者は多くないだろう。まさかその影響力を孫の悪事を揉み消すために使っているとは思わなかったが」
多くないってことは公爵家か?
いや、権力ではなく影響力なら権利物を扱う大商会を営む貴族家という可能性もあるけど。
「ジェレミーは優秀だ。その才能が仕様のない兄の所為で潰されてしまうのは忍びない。努力して手にした首席も兄の行動次第では家が傾き全て失ってしまうかも知れない」
爆弾を抱えた貴族家。
そのことに祖父母や母親は気付いているのか。
自分たちの影響力があればどんな悪事でも揉み消せると思っているなら甘い。
「シストさまもお優しいですね」
「優しさだけで全てを解決できるならば良かったが」
ご尤も。
さすが王宮魔導師を目指しているだけある。
優しさは時に毒にしかならず、軍人は時に国民のため心を鬼にする必要がある人たち。
「メテオール」
「お待たせして申し訳ありません」
「大丈夫です。試合を観戦していましたから」
レオポルトとジェレミーと一緒に来たアリアネ嬢は絡まれることもなかったようで、シストとは反対の俺の隣に座る。
「シストさま。此方のご令嬢がレオポルトさまの妹様です」
「アリアネと申します。よろしくお願いします」
「私は魔導科上級シスト・ボナ。よろしく頼む」
体験入学者は名前だけしか名乗らない決まりだけど、ラウロさんの弟のシストが騎士爵のアリアネ嬢たちより貴族爵が下ということはないから、シストの方が身分が上だと知っている俺が紹介することで先にアリアネ嬢の方から挨拶して貰った。
「素敵な方ですね」
え?シストのような真面目そうな男がタイプ?
それとも頼り甲斐がありそうなところがタイプ?
コソッと耳打ちしたアリアネ嬢に驚く。
「応援します」
応援?何の話?
大きく首を傾げるとアリアネ嬢はニコッと笑う。
「シストさまはどのような女性がお好きですか?」
そんなアリアネ嬢の唐突な質問にレオポルトとジェレミーと俺は吹き出しそうになる。
「アリアネ!ご無礼だろう!」
「愚妹が失礼いたしました」
慌てたジェレミーとアリアネ嬢の口を塞ぐレオポルト。
三人を見たシストは笑う。
「どうだろうか。あまり考えたことはないが、自分の意見を持っている者のことは好ましく思う」
答えてあげるのか。
意外とアリアネ嬢と上手く行くかも。
「容姿はどうですか?」
「容姿?容姿は気にならない……と受けのいいことを言いたいところだが、本音を話せばやはり美しい方がいい」
正直者。
それは男だって女だって容姿が良いに越したことは無い。
中身も良くて容姿も良ければ最高だ。
B専の人でなければ。
「それはもうメテオールです!メテオールしか居ません!」
力強く言ったアリアネ嬢にまたレオポルトとジェレミーと俺は吹き出しそうになる。
「アリアネ嬢、どうやら大きな誤解があるようです」
応援するってそういうことか!
どこをどう湾曲してそんな誤解をしたのか。
勘弁してくれとアリアネ嬢に目で訴えるとシストはまた笑う。
「そういう意図での質問だったか」
「お二人がとても親しそうに見えましたので」
向こうから俺たちの様子を見てたの?
結構距離があるのに?
「たしかに話の合うメテオール嬢との会話は楽しいが、アリアネ嬢が思うような感情ではない」
「メテオールを好きにならない男性など居るのですか?」
「随分とメテオール嬢を評価しているようだな」
「もちろんです。メテオールは綺麗で可愛らしくて優しくて楽しくて強いんです。私が男性なら今すぐ求婚しております」
自信満々に言うアリアネ嬢がツボったらしくシストは肩を震わせて笑っている。
物凄く評価してくれてることは伝わったけど、勘違いが盛大すぎて。
「私ではなく年齢の近いレオポルト君の方がいいだろう」
「兄は駄目です」
「なぜ?」
「言葉の刃が酷いですから。メテオールを傷つけます」
即答で否定したアリアネ嬢にレオポルトは眉間を押さえる。
気持ちは分かる。
「ではジェレミーはどうだ?彼は紳士だ」
「駄目です。包容力が圧倒的に足りません。メテオールをしっかり優しく包んで幸せにしてくれる年上の男性じゃないと」
可哀想なジェレミー。
好意があるとも言っていないのに一方的に包容力が圧倒的に足りないとグサグサ刺さることを言われてるんだから。
「メテオールはどのような男性が好きですか?」
「私ですか?」
性 別 問 わ ず ケ モ 耳 で す が な に か。
性 別 問 わ ず 美 形 が 好 き で す が な に か。
「私の駄目なところごと愛してくださる方がいいです」
「分かる。分かります」
拳を握って同意するアリアネ嬢に笑う。
本当は相手に自分の駄目なところを好きになって貰うより自分が駄目なところを改善した方がいいけど。
自分は努力もせず相手からは愛して貰おうなんて甘い。
「アリアネもいつか素敵な方と出会えるといいですね」
「頑張ります」
笑みを浮かべるアリアネ嬢に笑みで返した。
「最終試合の四名、準備を」
「はい」
試合の順番が回ってきたらしく講師が声をかけにくる。
周りに座っていた生徒たちは既に試合が終わっていて俺たちが最後。
「怪我をしないように気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。気をつけます」
試合に出ないアリアネ嬢はこのままここで待機。
頑張ってと手を振るアリアネ嬢に手を振り返して四人で観戦席を離れた。
「ジェレミー。メテオール嬢の木剣を預かる」
「ああ」
今まで一緒にいたけど今から陣地が分かれるから、俺の木剣を持っていてくれたジェレミーからレオポルトが受け取る。
「ジェレミーさま、ありがとうございました」
「試合を申し込んだのは私なのだから持つのは当然だ」
ほんと紳士。
お礼を言った俺にジェレミーは軽く言って微笑む。
「今から敵になるが、どれほどの腕前か楽しみにしている」
「落胆させないよう努めます」
「私も頑張ります」
先にシストとレオポルトが握手をして俺もその後握手する。
シストはもう完全に頼り甲斐のある兄の印象。
「練習試合とは言えお互いに力を尽くそう」
「ああ。どれだけ強くなったのか見せてくれ」
「レオポルトも」
ジェレミーもレオポルトと握手をしてニコッと笑う。
「改めて試合を受けてくれたことに感謝する」
「こちらこそお誘いいただきありがとうございます」
女性の俺(男だけど)には胸に手を当て頭を下げたジェレミーに軽くスカートを摘んで略式のカーテシーで応える。
ジェレミーが申し込んでくれなかったら観戦するだけで終わってただろうから俺も感謝してる。
学生の練習試合に参加する機会はなかなかないだろうし。
では。と話して二名居る講師の一人の方に向かう。
選手登録をする時に名前を聞いてきたガタイのいい講師。
「改めて名前を確認する」
「レオポルトです」
「メテオールです」
行ってすぐに名前を確認されて答えるとまたチラっと俺を見た講師に笑みで返しておいた。
「練習試合のルールを説明する」
試合は十分間の加点方式。
時間内に有効打を多く取れた方が勝ち。
致命傷になり兼ねない頭部と胸部(心臓)を狙った攻撃は禁止。
講師の判断で危険だと判断した時には試合を止める。
あくまで学生の練習試合で命の奪い合いではないから、急所を執拗に狙うようなことはしないようにとのこと。
「君たちは体験入学者だから練習試合の内容で講義の点数が左右することはないが、大きな怪我のないよう注意は怠らず、自分の持つ力を駆使して試合に挑んでほしい」
「「はい」」
説明を受けて試合を行う白線内に入ると物魔障壁がかかる。
中級科の生徒の中には魔法をあらぬ方向に飛ばしてる子も居たけど、この障壁のお蔭で見学者の方に飛んで行ってしまうということもなかった。
「強化魔法をかけましたので木剣を受け取ります」
「ああ」
先に全身に強化魔法をかけてから木剣を受け取る。
「重くないか?」
「はい。問題ありません」
ついさっき持ち上がらないところを見たからか、少しだけ手を離して確認してきたレオポルトにくすりとする。
「試合の形式上最初は木剣を握る事になるが、魔法を使える生徒は剣技で戦う必要はない。メテオール嬢が魔法に長けていることは知っているが、無理に前に出て怪我をしないように」
「はい。ありがとうございます」
率先して前に出るつもりはない。
この練習試合は訓練校の生徒たちが戦い方を学ぶために行われている大切な授業の一つだから。
俺はレオポルトのサポート役。
「最終試合を開始する」
審判の講師の声でレオポルトが前衛、俺が後衛につく。
相手チームはジェレミーが前衛、シストが後衛。
首席二人の練習試合とあって観戦する生徒たちも興味津々。
人気もあるらしく二人に対する女子生徒の声援も大きい。
アウェーな状況のレオポルトも気後れしないよう願いたい。
「開始!」
講師の合図で迷いなく前に出たレオポルトとジェレミー。
うん、余計な心配だったらしい。
二人とも試合に集中していて周りの声など気にしていない。
シストは俺の出方待ちか。
いつでもジェレミーをサポートできるようにしつつ俺のことも警戒してる。
練習試合は武闘大会のようにペナルティはない。
だから極端な話ただ立っているだけでも試合の点数にマイナスはつかないけど、成績には響くだろう。
レオポルトや俺は体験入学者だから関係ないけど。
今までの数試合を観てきたけど、魔導科の生徒は前半、訓練科の生徒のサポートに回る子が多かった。
訓練科の生徒が疲れたら魔導科の生徒が戦うというように。
単純にそれが練習試合のセオリーなのか、前に人が居ると気になって魔法を使い難いのか、十分間魔法の撃ち合いを続けられる魔力量がないのか理由は分からないけど、三人の実力を見ることが目的の俺もシストに合わせよう。
そう決めてレオポルトとジェレミーを眺める。
レオポルトは火属性、ジェレミーは雷属性の強化魔法を自分でかけて戦っている。
ちなみに強化魔法はどの属性を使ってもかけられるけど、他人にかけられるのは光属性と闇属性の二属性だけで、強化力が一番高いのは闇属性。
ただ基本四属性の何かを極め教わる闇属性を使える生徒はほぼ居ないと予想できるから、俺もレオポルトにかけていない。
だから今の戦いはレオポルトとジェレミーの実力勝負。
現状で優位なのはジェレミー。
中等科の生徒とはいえ首席とあって強い。
単純な力勝負ならレオポルトに軍配が上がるけど、ジェレミーは対人戦に慣れてるようで躱すのも隙をつくのも上手い。
魔物戦に慣れてる人と対人戦に慣れてる人の違い。
観戦している生徒たちも二人の戦いで盛り上がっている。
二人が真剣に取り組んでいるからこその歓声。
シストが武闘本大会をきっかけに真剣に取り組む生徒が増えたと話していたけど、未来を担う若者たちの意識が変わってくれたことが武闘大会の一番の収穫だったのかも知れない。
「メテオール嬢!」
親になった気分でしみじみしていると、レオポルトの隙をついたジェレミーが俺の方に突っ込んで来て咄嗟に木剣で防ぐ。
「私はシストさまと戦いになるものと思っていたのですが」
「メテオール嬢に試合を申し込んだのは私だ」
「たしかに」
開始前から話し合って決めていたのか、ジェレミーが動いたらすぐにシストはレオポルトに照準を定めて魔法を使った。
レオポルトが俺を助けに行けないように。
連携のとれたいいチームだ。
「胸をお借りする」
「慎ましい胸でもよろしければ」
小声で言ってムニュっとするとジェレミーは赤くなる。
うん、ハニトラに引っかかって寝首をかかれないよう平常心を保つための精神力を鍛えような。
とは言え気持ちの切り替えは早く、切り込んでくる。
その表情は真剣で女性だから甘く見てるということもない。
「少しお時間をいただきます」
フェイントを入れジェレミーの体勢が崩れた隙に隣をすり抜け前に出てレオポルトに聖属性の魔障壁をかける。
「すまない。助かった」
「どういたしまして」
魔導科首席のシストとの魔法対決はレオポルトの分が悪い。
礼を言いながらシストに突っ込んで行くレオポルトを確認しながらジェレミーの攻撃を木剣で受け止めた。
「木剣が持ち上がらなかった人の動きとは思えないな」
「持ち上がらなかったのは本当ですよ?」
「ああ。別人のように身体強化されるほどメテオール嬢の聖魔レベルや魔力値が高いということなんだろう」
どの属性強化を使っても魔法には違いないから強化の度合いは魔力値(属性レベル+魔力値)の高さで差が出る。
本当は一番強化力の高い闇属性も使えるけど、魔導科の実技で聖魔法を使ったから強化や魔障壁にも聖魔法を使っている。
「しかも人と戦い慣れている」
剣を押し込み力任せに突き飛ばし距離をとったジェレミー。
単純な力ではレオポルトの方が強いように見えたけど、強化魔法を使った属性レベルや魔力値もそれなりなのか、パワーもなかなかのもの。
「女性を突き飛ばすなんて酷いですわ」
「今この時はメテオール嬢を女性だと思わない。本気で胸を借りるつもりで試合を申し込んだのだから」
そう話すジェレミーの表情は真剣。
普段は紳士でも勝負に性別を持ち込まないことは立派。
練習試合でも負けたくない強い意志を感じる。
「では私も性別での言い訳はできませんね」
聖属性の剣を数本作ってジェレミーの足元目掛けて撃つと同時に前に出て取られた距離を縮める。
「ジェレミーさまの弱点は左側からの攻撃」
剣筋を木剣で逸らして左肩ギリギリを狙って攻撃を止める。
「遠慮なく打ち込んできてください」
ジェレミーの攻撃を全て受け流して全て左側を狙う。
ただ狙うだけで実際には一度も当てていないけど。
「右利きの方は無意識に右側に重心がかかって左側から来る攻撃に遅れがちです。一度左手だけで木剣を握って身体の中心から左側に重心をかけるよう意識をしてみてください」
説明しながら俺も左手に木剣を握るとジェレミーも左手に木剣を握って一度深呼吸をする。
「ジェレミーさまは今右半身に麻痺をかけられて動かせなくなりました。自分の命を狙う目の前の敵に勝利するためには麻痺していない左半身で戦うしかありません。左耳、左目、左腕、左脚、左手。生き残る術はそれを駆使して戦うこと」
ジェレミーに聖属性の物理障壁をかけてから左半身だけを狙って木剣で攻撃し続ける。
「左手首を意識して動きを柔らかく。返しが遅れてます」
打ち込んで来るたびに剣先を逸らして左半身を狙う。
右側からの攻撃にはすぐ反応して返せていたのに右半身を使わないよう言っただけで途端に弱くなってしまった。
「目の前の私はジェレミーさまを狙う魔物です。生きたければ残された左半身を駆使して戦ってください。しっかり左脚で地面を踏みしめて、魔物目掛けて左手の剣を振り降ろして」
今までと違ってぐっと左脚に重心がかかったのを見て木剣で受け止めつつ物理障壁をかけると、案の定お互いが握っている木剣はミシリと鳴ったあとボキッと折れた。
「大丈夫か!?怪我は!」
「障壁をかけましたから大丈夫です」
焦って俺を確認するジェレミーに笑う。
「今のは素晴らしい一撃でした。普段から鍛えておられるようですから、癖がついたままの戦い方に慣れてしまう前に学生の今から弱点となる左側も鍛えることをおすすめします」
まだ実戦経験の少ない学生と言えスピードもパワーもある。
さすが首席と思わされたからこそ現状で満足せず弱点を克服して高みを目指して欲しい。
そう話している間にも制限時間になって講師が笛を吹く。
「二人とも怪我はないか?」
「私は問題ありません」
「同じく。メテオール嬢が私にも障壁をかけてくれたので」
シストから聞かれてジェレミーと答える。
折れると予想して先に障壁をかけたから、木剣自体は砕けたものの俺たちには当たっていない。
「話の前に挨拶を済ませよう」
「はい」
他のチームと同じく最後は審判の講師が待っている白線のところに行って向かい合わせに立つ。
「諸君の試合は引き分けとする」
試合結果は引き分け。
その結果を聞いて観戦していた生徒はザワつく。
「手数では在校生のシストとジェレミーと体験入学のレオポルトが多かったが、それが有効打にはなっていなかった。反対に体験入学のメテオールは手数が少なかったものの、学生が太刀打ちできる範囲の実力を超えていて当てないという選択をした試合となってしまった。よって引き分けと判定させて貰う」
まあ攻撃が有効打になっていなかったことは確か。
ジェレミーとレオポルトがあのまま戦っていたらどちらかが有効打と判定できる攻撃を当てられてたかも知れないけど、ジェレミーは途中で切り替えて俺と戦うことを選んだから。
シストとレオポルトの戦いでは俺がレオポルトに物魔防御をかけたからシストの魔法や剣が有効打にならず、レオポルトも物魔防御をかけていたシストに有効打は当てられなかった。
だから有効打が加点のポイントになる試合では講師が引き分けと判断するのも致し方ない。
「試合の結果は引き分けとなったが、それぞれ実力があったからこその結果でもある。今回の結果を糧に邁進するよう」
『はい』
「では互いに挨拶を」
『ありがとうございました』
互いに握手すると生徒たちからパチパチと拍手が起こった。
「メテオール!怪我はありませんか!?」
「はい。大丈夫です」
「良かった。吃驚しました」
「ご心配をおかけしました」
走ってきたアリアネ嬢からも心配そうな表情で聞かれる。
派手に砕けたからそのぶん驚かせてしまったようだ。
「魔法だけでなく剣も得意だったとは」
「それはシストさまもかと」
「私は得意とは言えない。魔力が尽きた魔法士は役立たないという認識があってそうならないよう武器も練習しているが、実際に武器を得意とする者に太刀打ち出来るレベルにはない」
さすが王宮魔導師を目指してるだけある。
ラウロさんという高い能力を持つ兄が傍に居るからこそ『武器も使える』程度では満足出来ないんだろう。
「私は上級科のシストさんはもちろん同い年のジェレミーにも敵わなかった。普段から魔物と戦って多少は動けるつもりで居たが、努力が足りてないと痛感した。もっと鍛えなくては」
そう話したのはレオポルト。
苦手といいつつ剣だけでなく魔法も使ってジェレミーやシストと戦ってたけど、二人の実力を体感してもっと鍛えようと新たな目標ができたようだ。
「改めてメテオール嬢には感謝する。利き手や利き足を封じると途端にあんなにも酷い戦いになることを体験できた。ご指導いただいたことを忘れず鍛錬するとお約束する」
手を差し出したジェレミーにくすりとする。
今の時点で中等科の学生という以上の実力はあるけど、苦手を克服すればジェレミーはもっと強くなれる。
そう思う相手じゃなければ正体を隠している今のこの姿でレオポルトをサポートする以上のことはしていない。
「頑張ってください」
「ありがとう」
差し出されている手を握って握手を交わした。
俺たちが最終試合だったとあって講師が在校生を集合させて話をしていると講義の終わりを報せるチャイムが鳴る。
「レオポルトさま、アリアネ。私はこれで失礼します」
「え?お一人で行きたいところが?」
「いえ。帰ります」
解散になってすぐ二人に帰ることを話す。
本当は帰るんじゃなくて英雄のお仕事をするんだけど。
「最初から数時間だけの予定で来ていたので」
「そうなんですか」
目に見えてしゅんとするアリアネ嬢に罪悪感が凄い。
一緒に見学しようと誘われた時は『行く先は同じだし』と軽い気持ちで誘いに乗ったけど、思っていた以上に親しくなって姿を偽っていることに罪悪感が芽生えてしまった。
「メテオール嬢もこの訓練校に入学するなら再会できる」
いや、俺は入学しない。
だから同じ学生として会うのはこれが最初で最後。
しゅんとする妹を慰めるレオポルトの言葉にそう思う。
「またお会いできます」
アリアネ嬢にそう話すと両手を握られる。
「そうですよね。私の家族はブークリエ国でも果物を販売する目標がありますし、もし訓練校は別々の場所になったとしてもきっとまた王都で会えますよね?」
「ええ」
笑顔で言ったアリアネ嬢に頷いた。
「レオポルトさまもありがとうございました。お二人と見学が出来て有意義な楽しい時間を過ごすことができました」
「こちらこそ。人族の好む果物も聞けて為になった」
最初に誘ってくれたレオポルトとも握手をしながら話す。
「果物は一般向けにも販売しておられるのですか?」
「もちろんしている。今はアルク国内だけだが」
「どちらで購入できますか?」
「うちの商会で。ランコントルという名前だ」
「出会い。いいお名前ですね」
縁起の良さそうな名前。
俺たちもいい出会いになると良いけど。
「では調べて購入させていただきますね」
「それなら家に来てください。もぎたてをお渡ししますから。王都から近いアルシュ領のヴェールという街にあります」
「よろしいのですか?」
「もちろん!また会えるということですし!」
ニコニコと笑うアリアネ嬢。
つい今の今までしゅんとしてたのに。
勝手に決めて大丈夫なのかとレオポルトを見ると目が合う。
「王都でも販売しているが、販売数や種類は減らしている。うちで販売している果物の方が種類も多いのは間違いない」
「ご自宅でも販売しているのですか」
「正確には自宅の隣に商会を建ててそこで販売している」
なるほど。
そちらでは収穫したものをすぐに販売しているんだろう。
「ではそちらへ伺います」
「ああ。朝の八時から夜は六時まで開いている。またアルク国に来る機会があれば是非足を運んでくれ」
「はい」
機会があれば。
と言ったということは本当に来るとは思ってないんだろう。
まあ建前で言うことも少なくないし。
アリアネ嬢は信じているのかニッコニコだけど。
「ではまたお会いしましょう」
「また」
「楽しみにしてます」
最後はしっかりとカーテシーとボウアンドスクレープで挨拶をして、レオポルトと隣で手を振るアリアネ嬢と別れる。
「またな。お人好し兄妹」
俺が言ったのは建前じゃない。
ただしその時はもうメテオールじゃないけど。
最後の最後まで親切で人のいい兄妹だったと思いながらグラウンドを後にした。
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そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
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クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
月が導く異世界道中
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月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
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これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

無能なので辞めさせていただきます!
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
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えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
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一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
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